日本プロテオーム学会誌
Online ISSN : 2432-2776
ISSN-L : 2432-2776
6 巻, 2 号
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総説
  • 小松 節子
    2021 年 6 巻 2 号 p. 29-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    今世紀における地球温暖化や人口増加は,国際的に食糧危機をもたらす深刻な問題である.特に,温室効果ガスの排出による異常気象は,降水量や降雨パターンを大きく変動させ,作物の収量低下を招いている.つまり,環境ストレス耐性作物の作出を目指した耐性機構の解明は,重要な課題である.そのためには,生命現象をシステムとして理解し,複雑なタンパク質ネットワークを正確に解析することが必要である.ゲノム上遺伝子重複が多い作物においては,環境ストレス耐性機構を遺伝子レベルから明らかにすることは容易ではないので,プロテオミクス技術を農学分野へ展開することに着目した.特に,日本ではダイズを用いた食品の消費が多いにも関わらず,湿潤な気候のためダイズの生産が極めて限られている.そこで,耐湿性ダイズの作出を目的として,プロテオミクス技術により包括的に解析し,さらに分子生物学的検証実験により,湿害耐性機構を解明したので概説する.プロテオミクス技術で同定された鍵となるタンパク質をマーカーとして作物品種選抜へ利用することにより,ストレス耐性作物の作出が可能となることが期待される.

総合論文
  • 阿部 雄一, 足立 淳, 朝長 毅
    2021 年 6 巻 2 号 p. 39-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    多数のリン酸化修飾酵素(キナーゼ)は,癌組織で異常な活性化を示しており,分子標的としての研究が進んできた.キナーゼ阻害剤による癌治療を最適化するため,リン酸化プロテオミクスによる癌組織のリン酸化シグナル状態の計測への応用が進んでいる.癌組織では,阻血の影響や癌組織切除後,検体を回収するまでのタイムラグが癌リン酸化シグナル状態の正確な理解の妨げとなるため,我々は,回収後20秒以内の急速凍結が可能である内視鏡生検に着目した.

    内視鏡検体は2 mm立方程度と微小であり,従来のリン酸化プロテオミクスの手法ではこれまでと同等のリン酸化修飾の同定数を得ることが困難なため,より高感度なプロトコルを開発した.その結果,胃癌内視鏡生検から10,000部位以上のClass 1リン酸化修飾が同定され,癌組織と正常粘膜との比較から,DNA損傷シグナルの癌特異的な活性化などの違いが明らかとなった.今後,様々な疾患におけるキナーゼ活性モニタリングへの応用が期待される.

  • 松本 俊英, 川島 祐介, 小寺 義男, 三枝 信
    2021 年 6 巻 2 号 p. 51-59
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    卵巣明細胞癌(OCCCa)は抗癌剤療法に低感受性であるため,進行癌における予後は極めて不良である.そこで,我々はホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)病理検体を用いたショットガンプロテオミクス法により,OCCCaの診断や分子標的となるタンパク質を網羅的に解析し,その結果Lefty-right determinant factor(LEFTY)の同定に至った.臨床検体による検索より,LEFTY発現はタンパク質レベル・mRNAレベルともに他の組織型に比してOCCCaで有意に高発現であった.また,OCCCa培養細胞を用いた機能解析の結果,LEFTYはTGF-β/Akt/Snailシグナルを介して上皮間葉転換(EMT)や癌幹細胞(CSC)化を誘導することにより,OCCCaの化学療法抵抗性といった生物学的特性を有する役割を担っている可能性を見出だした.以上,我々はOCCCaにおいてLEFTYが新規バイオマーカーとして有用である可能性とその発現意義を初めて報告した.

総説
  • 岩崎 未央
    2021 年 6 巻 2 号 p. 61-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    ナノ液体クロマトグラフィー-質量分析を用いるプロテオーム解析手法は,タンパク質の種類・量を網羅的に解析する有効な手法であるが,特定の細胞のタンパク質を1回の分析で網羅的に同定・定量することは試料の複雑さ故に困難であった.我々はこの問題を解決する基盤技術開発に取り組んできた.特に,カラム圧が低いモノリスカラムに注目し,メートル長カラムと緩勾配グラジエント溶出を用いることにより高分離・高感度化を実現し,さらに同重体標識法を組み合わせることで定量確度を向上させるRiMS(removal of interference mixture spectra)法を開発した.この手法を多能性幹細胞解析に応用したところ,細胞種類特異的なタンパク質の定量確度を向上させることが明らかとなった.本稿では,今までの定量的プロテオーム解析を実現させるための方法を俯瞰しつつ,RiMS法について紹介する.

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