不安症研究
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11 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 仁田 雄介, 髙橋 徹, 熊野 宏昭
    2019 年 11 巻 1 号 p. 2-12
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    【背景】イメージ書き直しとは,恐怖記憶のイメージをより安全なイメージに書き直す技法である。メカニズムには未だ不明な点が多いが,再固定化を利用して恐怖記憶を減弱すると考えられている。【方法】Web of Science, Science Directにて“imagery rescripting” and “reconsolidation”というタームを用いて検索した。【結果】現時点ではイメージ書き直しと再固定化の関係を示す研究は存在しない。【結論】今後の研究では(1)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーの再発率の比較,(2)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーに関与する脳部位の比較,(3)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーによるトラウマの陳述内容の変化の比較,(4)記憶想起直後にイメージを挿入する条件と記憶想起10分後にイメージを挿入する条件の比較,が行われる必要がある。

  • 二瓶 正登, 田中 恒彦, 澤 幸祐
    2019 年 11 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    古典的条件づけは不安と関連する障害の形成と維持に重要な役割を担っている。しかし学習心理学的知見と臨床心理実践との乖離は未だ大きい。そこで本論文ではヒトおよび動物を対象に行われた古典的条件づけおよび連合学習理論に関する実験の諸知見を臨床心理実践へ応用する方法について検討することを目的とした。初めに古典的条件づけ手続きに関する諸現象を「条件反応(conditioned response; CR)に影響を及ぼす条件づけ試行以外の要因」と「消去後に生じるCRの再発をもたらす要因」の2つの観点から述べ,それらの現象が臨床場面で生じる可能性を概説した。次にRescorla–WagnerモデルおよびBoutonのモデルという2つの連合学習理論の概説を行い,それらの理論が臨床心理実践へどのように活用できるかを論じた。最後に学習心理学で得られた知見を認知行動療法に活用する意義について論じた。

  • 永田 利彦
    2019 年 11 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    双極性障害での不安症の併存率は高いが,地域,対象の差より研究間の差の方が大きく(異質性が高い),治療研究は皆無に近く治療指針は定まっていない。それは双極性障害,不安症という2者関係では解決できないからと考えられる。そこで主診断が境界性パーソナリティ障害,自閉スペクトラム症である場合について論じた。境界性パーソナリティ障害と双極性障害は症候学的類似点があるが,境界性パーソナリティ障害が主診断の場合,それへの特異的な精神療法が必須である。自閉スペクトラム症では,早期介入されないまま成人に達し,双極性障害・不安症といった2次障害を生じて初めて受診することが課題となっている。そこで試論としての精神医学的介入アプローチを紹介した。この臨床課題の解決には,旧来の精神病圏,神経症圏のみならず,パーソナリティ障害,神経発達症をも含んだより広い視点と,より専門的な治療が必要である。

  • 塩入 俊樹
    2019 年 11 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    本稿では,不安症群の代表的疾患の1つであるパニック症(PD)の生物学的仮説について,我々が以前より提唱している“Stress-induced fear circuitry disorders(SIFCD)”という疾患概念を中心に述べた。SIFCDとは,「ストレスによって,恐怖反応を司る神経回路に障害が生じたことでさまざまな症状を呈する疾患群」であり,その病態・成因モデルを端的に表すと,扁桃体(Bottom-up)の病的な活性化と前部帯状回等の前頭前皮質(PFC)(Top-down)の機能低下と言える。つまり,PDでは,扁桃体が過剰に反応し,PFCはそれにブレーキがかけられない,といった状態を呈している可能性がある。つまり,恐怖を司る神経回路(fear circuit: FC)の扁桃体を中心とした「Bottom-up」システムが強化され,PFCが司る「Top-down」システムが障害され,そのためにFCが正常に働かず,機能障害・不均衡を呈しているのがPDと言えよう。

  • 原田 誠一
    2019 年 11 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    筆者は,複雑性PTSDの病態理解や治療法に関する臨床研究を行う中で,貝谷が独自に臨床研究を進めている不安・抑うつ発作は複雑性PTSDとの共通性が高い病態ではないか,という印象を抱いてきた。本稿では,複雑性PTSDと不安・抑うつ発作に認められる本質的な重なりを示した上で,複雑性PTSDと不安・抑うつ発作の臨床研究が交流する必要性と有効性について述べる。その中で,複雑性PTSDにおける治療論(神田橋による漢方処方,整体~気功,原田による心理教育・認知行動療法)と,不安・抑うつ発作における治療論(貝谷による精神薬理学・薬物療法)が異なる基盤に立っており,我が国独自の治療的アプローチである3者が互いに補完し合うことによって相乗効果を期待しうる点を指摘した。

  • 貝谷 久宣
    2019 年 11 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    ADAは,明白な心理的原因なしで突然激しい陰性情動が生じ,それに引き続き主に過去の無念な思いが侵入反芻する発作である。ADAでも,CPTSDの症状である再体験症状,認知面の変化(無力感など),パーソナリティの変化(孤立など),感情制御上の困難(自傷行為など)が程度の差はあるが認められる。ただ,後三者の状態はADAの根底にある社交不安と拒絶過敏性により説明される。また,以下の点でADAはCPTSDから区別される:発症から終末まで一定の経過を取る;過去の不幸な出来事は心的外傷というほど激しくなく,その記憶のテーマは多岐にわたる;パニック症ではパニック発作と不安・抑うつ発作が交互に出現する;不安・抑うつ発作の不安・焦燥は侵入思考の内容への反応以上の激しさ(不安発作)が認められる。以上より,ADAはCPTSDに近似ではあるが区別されうる病態と考えられる。

原著
  • 董 潔, 松原 耕平, 佐藤 寛
    2019 年 11 巻 1 号 p. 59-69
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2020/01/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,日本の大学生の就職活動不安に影響を与える認知行動的要因を検討することであった。関西圏の大学生181名(男性55名,女性125名,平均=20.95歳,SD=0.74歳)を対象に自動思考,問題解決能力,社会スキル,就職活動不安が測定された。パス解析の結果,ネガティブな自動思考は就職活動不安合計点およびすべての下位尺度に対して正の関連がみられた。また,問題解決能力と社会的スキルは就職活動不安の下位尺度と部分的に負の関連性があった。一方で,ポジティブな自動思考と就職活動不安に有意な関連はみられなかった。以上の結果から,ネガティブな自動思考の緩和をねらう認知再構成法,社会的スキル訓練,問題解決訓練が日本の大学生の就職活動不安の低減に利用できることが示唆された。一方で,ポジティブな自動思考を増加させる介入は就職活動不安に効果的でない可能性が示された。

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