不安症研究
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10 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
巻頭言
総説
  • 関口 正幸
    2018 年 10 巻 1 号 p. 2-9
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    近年,条件付けにより獲得される連合学習型の恐怖記憶(条件性恐怖記憶)に関する神経科学的研究が盛んであり,その結果として,いわゆる「恐怖神経回路(Fear circuit)」について理解が進みつつある。Fear circuitの制御不全は不安症に関係している可能性が考えられており,この観点から,このcircuitとこれを制御する生体システムの理解についての重要性は高まりつつある。本稿では,Fear circuit研究に関する最近の進歩を紹介した後,我々が最近見出したFear circuitを修飾する生体システムである栄養素脂肪酸についてその概要を紹介したい。

  • 塩入 俊樹
    2018 年 10 巻 1 号 p. 10-19
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,「DSM診断基準における不安症の変遷」と題して,米国精神医学会の公式診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最初の版であるDSM-Iが世に出た1952年から,現在使われている最新のDSM-5が出版された2013年まで,約60年にわたる不安症(AD)の概念・分類の変遷について,述べる。ADはDSM-I(1952)やDSM-II(1968)までは,それぞれ「精神神経症反応」,「神経症」として分類されていた疾患群の一部で,DSM-III(1980)に初めて用いられた疾患名である。当時は,強迫症(OCD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)なども不安症に含まれていたが,様々な紆余曲折を経て,両者はDSM-5(2013)において,ADとは別の独立した疾患群となり,現在のADの形に落ち着いたと言ってよい。その変遷には,各疾患の病態メカニズムの相違等も関連しているため,最後に,AD, OCD, PTSDについての生物学的病態についても筆者の考えを述べてみたい。

  • 井上 猛
    2018 年 10 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    1999年に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が本邦臨床に導入されて,不安症の治療および病態の理解は大きく進歩した。選択性が強く,セロトニン再取り込み阻害作用以外の作用機序をもたないSSRIが不安症治療に有効であることから,脳内で細胞外セロトニン濃度を増やすことが,直接不安症の症状を改善させるということができる。さらに,不安・恐怖の神経回路が1993年以降に詳細に解明されたことを契機に,SSRIが扁桃体に作用し,その神経機能を抑制することにより抗不安作用をもたらすこと,その作用は5-HT1A受容体への刺激を介していることが動物実験で明らかになった。これらの動物実験から得られた仮説はfMRIを使ったヒトの画像研究でも支持されている。SSRIの作用機序解明により,不安症の病態と治療を神経回路,神経伝達物質の観点から不安症の病態を理解し,新規治療法を開発することが将来可能になることが期待される。

原著
  • Akiko Kawaguchi, Tomoyo Morita, Yasumasa Okamoto, Shutaro Nakaaki, Tak ...
    2018 年 10 巻 1 号 p. 29-44
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    Background: Patients with social anxiety disorder (SAD) have heightened self-reflection. In the self-focused cognition, they ruminate negative self-image or evaluation both by themselves and others. It leads to self-conscious emotions, such as embarrassment. Previous functional magnetic resonance imaging (fMRI) studies with healthy subjects revealed that anterior rostral medial prefrontal cortex (arMPFC) plays a key role in self-reflection. However, neural basis of self-reflection in patients with SAD has not been studied in detail. This study aimed to investigate the neural basis of self-reflection in patients with SAD using self-face images. We hypothesized that patients with SAD would show excessive embarrassment and it would cause aberrant neural hyperactivity in arMPFC as compared to controls (CTL).

    Methods: Thirteen outpatients with SAD and 17 CTLs enrolled in this study. fMRI was acquired while participants reported the degree of their embarrassment by the visually presented their self-face image and images of others' with and without an observer.

    Results: The SAD group reported significantly greater embarrassment for self-face images than the CTL regardless of observation. The SAD group showed enhanced self-related activation in the left arMPFC as compared with the CTL. Furthermore, positive correlation between the self-related activity and Liebowitz Social Anxiety Scale was observed only in the arMPFC.

    Conclusion: We suggest that the arMPFC takes charge of their elevated-level of self-reflection in patients with SAD, and the level of the neural activity was correlated to the severity of the symptom.

  • 山口 智史, 西田 明日香, 小川 佐代子, 東郷 史治, 佐々木 司
    2018 年 10 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    精神疾患の発症は思春期に急増する。精神不調を抱える若者は援助を求めにくく,周りの大人がそれに気づき適切に援助する必要がある。若者は多くの時間を学校で過ごすため,教員はこの役割を担うのに適した立場にある。本研究は,教員が生徒の精神不調,特に不安・抑うつ症状に気づく力をどれ位有するかを明らかにすることを目的に,生徒の不安・抑うつ症状についての生徒本人と教員による報告の一致率を調べた研究の系統的レビューを行った。PubMed, ERIC, CINAHL, PsycInfo, Web of Science, CiNii, 医中誌で検索しヒットした13,442件のうち,上記一致率を調べた8件の論文を検討した。教員は抑うつ症状のある生徒の38~75%に気づいたのに対し,不安症状のある生徒への気づきは19%と41%であった。教員研修では不安症状についてもきちんと教育する必要があると考えられる。

資料
  • 二瓶 正登, 荒井 穂菜美, 前田 香, 青木 俊太郎, 土屋垣内 晶, 岩野 卓, 冨岡 奈津代, 岡村 尚昌, 三原 健吾, 城月 健太 ...
    2018 年 10 巻 1 号 p. 54-63
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    Fear of Negative Evaluation Scale日本語短縮版(SFNE)はFNEを測定する1因子構造の尺度である。しかし近年の研究においてSFNEが順向項目因子と逆転項目因子の2因子から構成される尺度である可能性が報告された。本研究ではWeb調査を通して参加した一般成人500名と大学生・専門学校生82名を対象に,SFNEの因子構造,信頼性および妥当性を検討した。探索的因子分析の結果,8項目からなる順向項目因子と4項目からなる逆転項目因子の2因子が抽出された。各因子の内的整合性と再検査信頼性は十分に高かった。逆転項目因子と比較して,順向項目因子の方が高い妥当性を有していた。本結果は逆転項目因子に比べ順向項目因子の方がFNEを正確に測定していることを示しており,FNEの測定においてはSFNEの順向項目因子を使用することが推奨される。本結果の意義と本研究の課題について検討した。

  • 石川 信一, 石井 僚, 福住 紀明, 村山 航, 大谷 和大, 榊 美知子, 鈴木 高志, 田中 あゆみ
    2018 年 10 巻 1 号 p. 64-73
    発行日: 2018/10/31
    公開日: 2018/12/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,スペンス児童用不安尺度(SCAS)を基に開発された,より簡便な8項目の自己報告式尺度である短縮版児童用不安尺度(Short-CAS)の日本語版の信頼性と妥当性を検討することであった。対象者は,中学生200名(男子95名,女子105名;平均年齢14.01, SD=0.87歳)とその保護者200名であった。因子分析の結果,Short-CASは1因子構造であることが確認された。項目反応理論(IRT)による分析の結果,Short-CASは平均より高い不安症状を有する被検者に対して安定した測定精度を有することが示された。また,Short-CASで測定される不安症状は抑うつ気分と回避気質やテスト不安との間で正の相関関係があることが示された。さらに,保護者評定による抑うつ気分とテスト不安との間でも関連がみられた。最後に,Short-CASの活用について議論がなされた。

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