日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
選択された号の論文の137件中101~137を表示しています
地域在住高齢者
  • 濵地 望, 高野 吉朗, 松田 憲亮, 森田 義満, 井上 健, 森田 由佳
    p. 101
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    わが国における非感染性疾病による死亡リスクの要因は,喫煙に次いで高血圧と運動不足が占めており,身体活動量が多いほど,死亡リスクを低下させる。近年,健常高齢者において,低強度の身体活動であっても健康に有益であるとの知見が蓄積されているが,強度別身体活動量とメタボリックシンドロームの主たる原因となる動脈硬化との関係についての報告はまだ少ない。そこで,本研究では,健常高齢女性を対象に強度別の身体活動量と血管機能の関係を検討した。

    【方法】

    対象は,Asian Working Group for Sarcopenia 2019 による診断基準に該当しない地域在住の健常高齢女性12名(平均年齢77.2±3.4歳)とした。身体活動量の測定は,3軸加速度計(HJA-750CActive style Pro,オムロンヘルスケア社製)を用い,得られたデータから,歩数,身体活動量(低強度(LPA):1.0~2.9 METs,中強度(MPA):3.0~5.9 METs,高強度(VPA):6 METs以上)の1日当たりの平均値を算出した。血圧は収縮期/拡張期血圧(SBP/DBP),血管機能は心臓足首血管指数(CAVI),足関節上腕血圧比(ABI)を測定した。強度別身体活動量と血圧および血管機能の関係は,Pearsonの積率相関係数を用いて分析し,統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】

    健常高齢女性の身体活動量は,歩数 4980.6±1862.9歩/日,LPA669.6±89.9分/日,MPA 76.5±22.2分/日,VPA 0.8±0.6分/日であった。また,血圧および血管機能は,SBP 140.2±18.5 mmHg,DBP 82.6±9.4 mmHg,CAVI 9.2±1.0,動脈硬化予備群(9.0≦CAVI)は7名,ABI 1.07±0.07,下肢動脈狭窄予備群(1.41≦ABI ≦0.90)は存在しなかった。歩数はDBP(r=-0.639)と,LPAはCAVI(r=-0.668)と,MPAはSBP(r=-0.619)およびDBP(r=-0.640)と有意な負の相関を認めた。VPAは血圧および血管機能と有意な関係は認められなかった。

    【結論】

    低強度の身体活動時間が長い健常女性高齢者は,しなやかな血管であることが示唆された。また,健常高齢女性の動脈硬化性疾患の予防には,中強度の歩行を中心とした身体活動を維持し血圧の上昇を防ぐ必要性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき計画され,所属機関の倫理審査委員会にて承認後(承認番号:19-Ifh-088),対象者には,研究の内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中止による不利益を被らないことを十分に説明し,書面にて同意を得て実施した。

  • 伊藤 久美子, 河合 恒, 江尻 愛美, 今村 慶吾, 平野 浩彦, 藤原 佳典, 井原 一成, 大渕 修一
    p. 102
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    新型コロナウィルス感染症の拡大により、我が国においても緊急事態宣言等が発出され活動制限が行われた。活動制限は感染を防ぐことに効果的である一方、高齢者の心身機能の低下が懸念されている。生活機能低下はフレイルや要介護の発生リスクを高めるため、長期化する活動制限下においても生活機能を維持することが重要であるが、コロナ禍において高齢者の生活機能がどのように変化したかは明らかになっていない。そこで本研究は、コロナ禍以前からの2年間の縦断データから高齢者の生活機能の変化パターンを同定し、その関連要因を検討することを目的とした。

    【方法】

    地域在住高齢者のコホート「板橋お達者健診2011」の受診者を対象として、2019年10月(T0)調査をベースラインとし、2020年10月(T1)、2021年10月(T2)に追跡調査を行い、T0といずれかの追跡調査で基本チェックリストに回答があった520名(男性210名、女性310名)、平均年齢73.2(標準偏差 6.3)歳を分析対象とした。生活機能は基本チェックリスト全25項目を用い、合計得点の変化パターンおよびT0からの合計得点の差分の変化パターンを混合軌跡モデリングによって同定した。さらに、T0時の治療中の病気、運動習慣、社会参加、就労状況、社会的ネットワーク(LSNS-6)を 独立変数、合計得点の差分の変化パターンを従属変数として、性・年齢とT0時の基本チェックリストの得点を調整した多項ロジスティック回帰分析を行った。

    【結果】

    合計得点の変化パターンは、T0時の得点が11点の高群(8.4%)、5 点の中群(31.3%)、2点の低群(60.3%)の3パターンに分かれ、2年後の得点の増加は中群では約2点であったが、その他の群では1点未満であった。合計得点の差分の変化パターンは、2年後に約3点下がった改善群(12.1%)、得点に変化がなかった維持群(67.1%)、2 年後に約4点上がった悪化群(20.8%)の3パターンに分かれた。維持群と比較して、悪化群、改善群との間に有意な関連項目は認められなかった。

    【結論】

    合計得点の変化パターンはいずれの群においても2年間で得点の大きな変化は見られず、差分の変化パターンにおいても維持群が約7 割であったため、お達者健診受診者ではコロナ禍による活動制限下でも生活機能を維持していた者が多かったことが考えられた。一方、一部の高齢者では活動制限が長期化することにより生活機能低下が進む可能性も考えられた。本研究では、生活機能の変化と関連する要因を明らかにすることができなかったため、今後コロナ禍でのコーピング行動等に着目した更なる研究が必要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、東京都健康長寿医療センター倫理委員会の承認を得た(承認番号:R21-033)。参加者には口頭および文書にて研究目的や研究内容を説明し、書面での同意を得た。

  • 田山 昌紀, 大野 元己, 石川 智将, 高橋 弓佳
    p. 103
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに】

    理学療法ガイドライン第2版によると身体活動によるMCI者の認知機能向上効果・活動種類による効果の違い・活動量による効果の違いに対し重要臨床課題とされている.今回われわれは「最近短期記憶が悪くなってきた」と訴えるHDS-R28点の比較的認知機能の高い90歳代女性に対し立ち上がり運動課題を実施し即自的に短期記憶が向上した症例を経験したので報告する.

    【症例紹介】

    訪問看護ステーションから訪問リハビリ介入中.介護度は要支援Ⅱ.現疾患は両変形性膝関節症.年齢は90歳代.性別は女性.認知機能は.HDS-R28点.

    【方法】

    立ち上がり運動課題実施前に復唱と逆唱課題のスクリーニング検査を行い.立ち上がり運動課題実施後に再度復唱と逆唱をスクリーニング検査しその効果と持続時間を検討した.介入時はパルスオキシメーターを使用し脈拍を測定しカルボーネンの式に従い運動負荷量を測定した.立ち上がり課題は介護用ベッドを使用し高さを変更し行った.

    【結果】

    介入1週目,運動課題前復唱5桁,逆唱4桁.脈拍90回/分.座面40cm立ち上がり運動課題14回後復唱5桁,逆唱4桁.脈拍90回/分.30cm14回立ち上がり後,脈拍90回/分→109回/分カルボーネン法運動負荷52%,復唱5桁逆唱4桁.40cm2分間立ち上がり後,脈拍90回/分→105回/分.カルボーネン法運動負荷41%,復唱5桁逆唱4桁.介入2週目運動前脈拍82回/分,復唱5桁,逆唱4桁.立ち上がり運動課題座面30cm30回2回実施後,脈拍123回/分(カルボーネン法運動負荷91%)復唱5桁,逆唱5桁,脈拍が82回/分まで減少したところで再度立ち上がり運動課題座面30cm30回実施後,脈拍107回/分(カルボーネン法運動負荷57%)復唱6桁,逆唱5桁.

    その後端坐位で休息後脈拍82回/分以下となり10分後に再度測定し復唱5桁,逆唱4桁.

    【考察】

    立ち上がり課題は低負荷および中等度負荷では短期記憶に変化は認めなかった.しかし高負荷立ち上がり運動課題実施後は短期記憶の軽度改善を認めた.また高負荷立ち上がり運動課題後に中等度負荷立ち上がり運動課題実施後に短期記憶の向上を認めた.しかし短期記憶が向上した持続時間は10分後は持続していなかった.今回の介入では,さまざまな疾患や症状,年齢の症例に同様の効果が期待できるか不明である.また別の運動課題との比較検討もしていない.本症例の認知機能のスクリーニング検査はHDS-Rのみである.HDS-RとMMSEは優位な相関関係にあるとされている.MMSEで23点以上27点以下でMCIが疑われるとされている.本症例はHDS-Rのみしか実施しておらずMCI症例とは言い難い.

    【結語】

    本症例への介入により短時間ながら短期記憶が向上したことは高負荷立ち上がり運動課題が短期記憶に影響を与えることが示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言基づき説明し同意をいただき著名をいただいた。

  • 代田 武大, 安藤 雅峻, 坂本 美喜, 上出 直人, 佐藤 春彦, 柴 喜崇
    p. 104
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    急速な高齢化が進む我が国では、高齢者における生活機能の維持・向上が喫緊の課題である。生活機能低下の危険因子として、サルコペニアがある。先行研究では、サルコペニアの診断基準の一つである筋肉量に対し、個人の健康状態や健康関連行動のみでなく、外的要因である近隣環境も関連することが報告されている。一般的に、筋肉量は加齢と共に低下するが、生活機能低下や死亡リスクが上昇すると考えられる、痩せた状態にある高齢者の筋肉量に対しても近隣環境が影響するかは明らかではない。本研究の目的は、痩せに該当する地域在住高齢者において、近隣環境と筋肉量が関連するかを検証することとした。

    【方法】

    対象は、要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者624名であった。除外基準は、データ欠損のある者、認知機能低下者とした。近隣環境の評価には、国際標準化身体活動質問紙環境尺度日本語版(IPAQ-E)を用いた。筋肉量は、生体電気インピーダンス法による測定結果をもとに骨格筋量指数(SMI)を算出し、Asian Working Group Sarcopenia 2019の基準(男性:7.0kg/m2未満、女性:5.7kg/m2未満)に基づき低下群と正常群に分類した。痩せの定義は、厚生労働省の日本人の食事摂取基準に基づきBMI21.5未満とした。その他の調査項目として、年齢、性別、既往歴、疼痛、運動習慣、抑うつ状態を調査した。

    【結果】

    全対象者/痩せ群の年齢中央値は71/73歳(四分位範囲:68-75/68-77歳)、女性は450/142名(72.1/78.8%)、筋肉量低下者は167/107名(26.7/59.4%)であった。調整済みのロジスティック回帰分析では、痩せ群を対象とする解析においてのみ、近隣に自転車レーンがあることが、筋肉量を正常に保つことと関連した(オッズ比:2.27、95%信頼区間:1.12-4.25)。

    【結論】

    近隣に自転車レーンがあることは、痩せに該当する地域在住高齢者の筋肉量を保つことと関連した。自転車レーンが整備され歩車分離が図られていることで、特に脆弱性の増した歩行者及び自転車利用者において安心感が増し、両者の身体活動を促進している可能性がある。国土交通省は、歩行者と分離された自転車専用道路の整備や自転車の活用による健康保持増進を推進しており、本研究の結果はこれらの施策を科学的に支持するものと考える。

    近隣の自転車レーンを整備することは、痩せに該当する地域在住高齢者の筋肉量低下の予防に貢献する可能性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号2018-008B-2)。また、全対象者に対して書面にて研究参加に関する同意を得た。

再発予防
  • 宇都宮 圭佑, 久保田 賢治, 竹村 哲, 大島 由依, 立部 将, 藤井 弘通
    p. 105
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    近年、急性期における血栓回収療法など治療技術は著しく進歩している。当院でも血栓回収療法施行件数が増加しており、リハビリテーションも早期に実施しているが重症度の相違や残存症状に多くの違いがあり、転帰等の予後予測因子に一貫性がないのが現状である。また、血栓回収療法後の開通率の違いが及ぼす影響について述べている報告も少ない。そこで当院における血栓回収療法後の臨床転帰を軸に関連因子を調査し、今後の予後予測因子を調査した。

    【方法】

    2018年1月から2021年9月に当院で脳梗塞診断を受け入院した853症例を対象とし、入院中、医師の判断のもと血栓回収療法を行っ た患者154例の内、病前施設群、リハビリテーション未介入、死亡退院51症例を除外とし病前自宅群103症例を抽出し、転帰良好群 及び転帰不良群の2群間を先行文献に基づき年齢、性別、塞栓源、基礎疾患、TICI、閉塞部位、左右病変、入退院時mRs(modified Ranking Scale)、Br.s(Brunnstrom stage)、MMSE(MiniMental State Examination)、FIM(Functional Independence Measure)、高次脳機能障害、失語症の有無に分類した。統計解析は対応のないt検定、Mann-Whitney検定、χ2検定を用いた。なお、全ての統計解析はStat Flex Ver.6を用い、有意水準αは5%とした。

    【結果】

    入退院時MMSE(p=0.01)、入退院時運動・認知FIM(p=0.01)、入退院時Br-stage上肢・手指・下肢(p=0.01)、退院時mRs(p=0.01)に有意差を認めたが年齢(p=0.10)、性別(p=0.24)、塞栓源(p=0.83)、基礎疾患の有無(p=0.29)、内服状況(p=0.20)、TICI(p=0.44)、閉塞部位(p=0.98)、左右病変(p=0.11)、入院時mRs(p=0.11)、失語症(p=0.06)、高次脳障害(p=0.16)には差を認めなかった。

    【結論】

    今回の研究では、治療後身体、認知機能が保たれている症例は予後良好という結果となった。しかし、失語症、左右病変、家族構成において、有意差は認められなかったものの関連因子となりうる結果となった。失語症合併は円滑な意思疎通が困難でリハビリテーション介入や進行に影響が生じる可能性があると推察される。同じく左右病変での差違は言語中枢に基づく結果ではないかと思われる。治療までの時間に関する統計解析は出来ていないが、発症から治療までの時間はガイドライン上および各論文においても重要視されているため、同居人の存在は治療までの時間短縮に有効である可能性があると考えられる。その為、今後は症例数を増やし発症から治療までの時間を把握、再開通率との関連を検討する必要がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    今研究を行うにあたり、個人を特定するような情報を開示しないようナンバリングを行うことで、対象者を匿名化し、プライバシーの保護に努めた。

  • 藤田 直弘
    p. 106
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに・目的】

    回復期リハビリテーション病棟の使命はADLの向上であり、歩行を獲得し自宅退院することは多くの方で目指すべきゴールとなる。しかしゴールを達成した患者が退院後早期にどの程度の参加のレベルでいるのか、またその参加レベルにどのような因子が関わっているのかを検討した報告は少ない。今回歩行自立し、自宅退院となった脳卒中患者の参加(外出・役割)に関わる因子を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は2020年9月~2022年3月に当院回復期リハビリテーション病棟を退院となり、自宅にて歩行生活を送る予定の脳卒中患者とした。退院前2週間以内にFugl Meyer Assessment score(FMA)、握力、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Berg Balance Scale(BBS)、歩行速度、Timed Up & Go Test(TUG)、6分間歩行距離(6MD)、Functional Independence Measure(FIM)、Falls Efficacy Scale-International(FES-I)、The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)、を評価した。退院後3ヶ月に当院から送られる退院後アンケートに返送のなかった患者を除外し、最終的に28名を対象とした。

    退院後アンケートの答えから参加に関わる内容として「外出の頻度(通院や通所サービスを除く)」、「役割の数」を抽出し群分けを行なった。外出の頻度においては①外出が少ない群(月に0~3回)と②外出の多い群(月に4回以上)に分けた。また役割の数においては①役割の少ない群(0~1つ)と②役割の多い群(2つ以上)に分けた。それぞれの群間において各評価項目に正規性を認めたものにはt検定、それ以外にはマンホイットニーのU検定で比較した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    外出について分けた2群間の比較では握力、BBS、6MD、FES-Iにおいて有意差がみられた(p<0.05)。役割について分けた2群間の比較では有意差のみられる項目はなかった。外出頻度には非麻痺側の筋力や立位バランス・運動耐容能に加えて転倒恐怖感も影響していることが示唆された。役割の数に関しては、数が少なくても内容が仕事であったり、複数持っている方であっても自宅内でそれほどリスクなく行える作業であったりしたため、一定の傾向がみられなかったものと考えられる。

    【結論】

    回復期病棟退院後早期の脳卒中患者の外出には非麻痺側の筋力・立位バランス・運動耐容能・転倒恐怖感が影響を与えることが示唆された。役割に関しては身体機能・認知機能等の強い影響はみられず、歩行可能な方は工夫次第で役割を複数持つことが可能であることが示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    抄録の登録にあたり公益社団法人群馬リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得た。

  • 竹歳 竜治, 樋口 基明
    p. 107
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【症例紹介】

    65歳男性.既往歴に小児麻痺と糖尿病があり,自宅内は杖歩行自立,屋外は車椅子移動介助であった.熱傷を契機に左母趾に壊死が出現し,重症下肢虚血の診断で入院となった.血行再建術を施行した後,左リスフラン切断術を施行した.

    【評価結果と問題点】

    糖尿病性神経障害による足底表在覚鈍麻,振動覚低下,アキレス腱反射消失を認めた.左下肢は切断創部に加えて踵部潰瘍が残存し,また,右下肢は小児麻痺による運動麻痺(Brunnstrom Recovery StageⅡ)と尖足変形を伴っていた.

    自宅退院を希望しており,入院および術後の影響によるADLの低下を防ぐ必要があった.右下肢は機能低下があり,支持脚として重要である左下肢も切断創部と皮膚潰瘍が残存し,かつ糖尿病性神経障害を伴っていたことから,創傷治癒を配慮しつつ歩行練習の両立が重要であった.

    【介入内容と結果】

    創部の観察と洗浄を踏まえて着脱が容易であり,かつ全足底免荷が可能な膝下までの免荷歩行用装具であるRemovable cast walker 装具を選定し,早期から歩行練習を開始・継続した.その結果,入院前の歩行能力を維持しつつ,創傷治癒も良好であった.退院時には免荷歩行用装具を外すことが可能であったが,切断術後の足部アライメントの変化や糖尿病性神経障害により左足部の創傷部の再発リスクが考えられた.

    Removable cast walker装具は確実な免荷が可能である一方,装具の重量や大きさを伴うため,退院後の装具の継続使用が不良となる場合がある.退院後も装具使用のアドヒアランス獲得のため,自宅生活でも継続できるように患者本人を交えて義肢装具士と連携し,創傷部や足部の形状に合わせた室内用フットウェアを新たに作製し使用した.その結果,退院後もフットウェアを継続使用することで足部創傷の再発なく経過した.

    【結論】

    足潰瘍の治療として,感染・虚血の治療と並んで創傷部の免荷が重要であるとされており,今回早期から膝下までの免荷歩行用装具使用下でのリハビリテーションにより創傷治癒を妨げることなく,歩行能力の再獲得に至った.足部切断術後や糖尿病の合併がある場合,創傷治癒後も創傷の再発リスクが高いため,退院後も装具の継続使用を考慮する必要があった.装具の治療効果は患者の装具使用のアドヒアランスが関与するため,創傷保護効果と自宅で容易に使用可能な装具を選定することで,退院後も足部創傷の再発なく経過した.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表は患者に発表内容や目的,匿名化について文書と口頭で説明を行い,書面にて同意を得た.

  • 坪内 優太, 高瀬 良太, 片岡 高志, 児玉 浩志, 片岡 晶志, 津村 弘
    p. 108
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【目的】

    Sclerostin(SOST)はWnt/β-catenin経路を阻害することにより骨形成を負に制御している.Romosozumab(ROMO)はヒト化抗SOST抗体であり,その働きを阻害することで骨形成を促進させる.骨折に対するROMOの効果について,いくつか報告されているものの,依然として一定の見解は得られていない.我々は骨癒合過程におけるSOST阻害の適切な時期を探索することで,より強い骨癒合促進効果が得られるのではないかと考えた.そこで本研究では,卵巣摘出ラット用いて難治性骨折の骨癒合に対するROMO の最適な投与時期の検討をした.

    【方法】

    24週齢の雌SDラット33匹に対してOVXを施行した.8週後に右大腿骨骨幹部の骨膜剥離と横骨折をした後,髄内釘による骨接合術を施行した難治性骨折モデルを作成した.その後,Control群と骨折直後よりROMO(25mg/kg)1回/月を3回投与した群(R群),骨折直後よりROMO(25mg/kg)1回/2週を3回投与した群(earlyR群),骨折後4週時よりROMO(25mg/kg)1回/2週を3回投与した群(lateR 群)を各10匹に振り分けた.また,偽手術を施行したSham群を 準備した.骨折後10週時に屠屠,屠大腿骨を摘出し,屠X線画像(SOFTEX, Japan)による骨癒合評価と,µCT(SkyScan1172, Kontich, Belgium)による骨形態計測を行った.骨癒合評価には,4-point scaleとRadiographic Union Score for Tibial Fractures(RUST)を用いた.統計解析にはGraph Pad Prism ver.9.3を使用し,一元配置分散分析をした後,Post hoc tsetとしてTukey検定を用い,各群間の比較を実施した.

    【結果】

    屠X線画像による骨癒合評価では,4-point scaleおよびRUSTともに各群間での有意な差は認めなかった.µCTによる骨形態計測では,Sham群の仮骨量(BV)と比較しControl群,R群,earlyR群で有意に低値を認めたが,lateR群とは有意差を認めなかった.骨梁間距離(Tb.Sp)はSham群と比較しControl群で有意に高値を認めた.骨梁数(Tb.N)と骨梁幅(Tb.Th)においては各群間で有意な差を認めなかった.

    【結論】

    骨折治癒過程におけるSOSTの働きはいまだ不明瞭な点が多い.今回,ROMOの投与を遅延させることで骨癒合の促進効果は得られなかったものの,仮骨量の増加効果を認めた.先行研究には,骨 折直後よりSOSTの発現量が上昇するといった報告もある.骨折早期にROMOを投与しSOSTの働きを抑制することは,正常な骨癒合過程を阻害する可能性も考えられる.今後はSOSTの働きを調査しつつ,ROMOの骨折治癒促進効果と適切な投与時期を探索していく.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    動物の愛護及び管理に関する法律を遵守し,学内規程の「大分大学医学部動物実験指針」に基づき,動物実験計画書を動物実験委員会に提出し,同委員会の承認を得て適正な動物実験等の方法を選択して実施した.

  • 中﨑 秀徳, 大坂 佑樹, 鈴木 啓太, 島根 幸依, 栗原 慎奈実, 深井 拓真, 吉井 彩乃, 田中 友也
    p. 109
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    当法人では,民間のカルチャースクールと連携して,膝痛予防教室を開催している.疾病の予防や健康の維持増進の観点から,教室終了後においても継続して運動を実施することは重要である.以前,我々は,当教室において痛みや身体機能の改善に効果があったことを報告したが,教室終了後の長期的な効果は不透明であった.また,先行研究では,このような教室の終了後は運動頻度が低下すると報告されている.そこで本研究の目的は,膝痛予防教室終了6か月後の膝痛と運動習慣の変化および、運動の定着を検証することである.

    【方法】

    対象者は56名(女性89.2%,年齢69.2±8.4歳,BMI23.5±3.5kg/m2)であった.教室は1回1時間を隔週で計5回行った.介入内容は,講義による患者教育と集団での運動指導とした.患者教育は,行動変容理論および技法を用いて行った.指導した運動はホームエクササイズとして行わせた.また,自宅での運動実施の有無を記録させ,教室参加時に振り返らせた.評価項目は,運動習慣を5段階(無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期)に分類した行動変容ステージ,膝痛(NRS),自宅での運動頻度とし,評価は教室初日と最終日に行った.また,教室終了6か月後に電話調査を行った.電話調査の項目は,膝痛(NRS),行動変容ステージ,指導した運動の実施頻度,他の運動も含めた運動の実施頻度とした.統計解析は教室初日と最終日,6か月後の評価項目について,差の検定を行った.また,行動変容ステージに関しては,無関心期・関心期・準備期・実行期を運動習慣なし群,維持期を運動習慣あり群に分類し,各時期でコクランのQ検定を行った.

    【結果】

    教室参加者56名のうち,教室最終日の評価を実施できた参加者は39名(追跡率69.6%)であり,さらに6か月後の電話調査を行えた29名が解析対象となった(女性87.5%,年齢69.0±8.7歳,BMI23.1±3.2kg/m2).NRSにおいて,教室初日(3.4±2.0)と比較し,教室最終日(1.7±1.9)と6か月後(1.1±1.5)に有意差を認めた(P<0.05).行動変容ステージについては,最終(運動習慣あり13名:44.8%)と6か月後(運動習慣あり23名:79.3%)において,有意差を認めた(P<0.05).指導した運動の実施頻度は最終日と6ヶ月後(教室最終日5.0±1.7日/週,6か月後2.8±2.6日/週)において,有意差を認めたが(P<0.05),他の運動を含めた実施頻度(4.2±2.5日/週)の比較では有意差を認めなかった.

    【結論】

    本研究の結果,教室終了6か月後においても膝痛軽減の維持を認めたが,運動の実施頻度は有意に減少していた.しかし,他の運動を含めた運動の実施頻度は維持していた.当教室での膝痛軽減効果が,参加者の6か月後の行動変容を促し,運動習慣の定着に繋がったことが示唆された.今後は,教室参加者の出席率を向上させて,多くの参加者の運動習慣定着を図っていきたい.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮を行い実施した.対象者には,研究の目的,研究の方法などについて十分な説明を行い,書面にて同意を得て実施した.

  • 宇野 勲, 坂本 興美
    p. 110
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    高齢者ではCOVID-19肺炎に罹患すると重症化しやすく、予後不良となりやすい。特に、腎不全など慢性疾患を併存している場合には、予後はより悪化しやすい。今回、転倒による入院中にCOVID-19肺炎発症したが、包括的な介入により在宅復帰を果たした症例を経験したため報告する。

    【症例紹介】

    90歳代前半の男性。自宅で妻と二人暮らしをされており、尿毒症で入退院を繰り返されていた。X日に庭先で転倒しているところを妻が発見し、当院外来を受診。全身、特に両側手指の痛みが強く、妻の介護では在宅生活困難となったため当院地域包括ケア病棟に入院となる。

    【評価結果と問題点】

    両側前腕外側から小指にかけてNRS:8/10の痛みがあり、手指巧緻動作は困難。FIMは運動項目58点、認知項目24点、MMSEは18点で、ADL全般に声かけや身体介助が必要な状態であった。下腿最大径は26.5cm、握力は痛みのため測定不可、5回椅子立ち上がりテストは16.3秒、歩行速度は0.7m/秒とサルコペニアの可能性あり状態。BMIは20.7kg/m2、FOISは7点、食事は全量摂取できており、栄養状態、嚥下機能は保たれていた。血液データではクレア チニンが9.39mg/dl、推定GFRは5、血色素量は10.2 g/dLと腎不全ステージ5で腎性貧血を認めていたが、本人および家族は透析導入を望まず、自然経過にまかせる判断をされた。本人が自宅生活を 強く希望され、ご家族も本人の意向に沿った対応を望まれた。主治医からも、今回が自宅で生活できる最期の機会になるかもしれないと説明をされ、本人、ご家族と合意の上で自宅退院を目標に設定した。

    【介入内容と結果】

    自宅退院の課題として、身体機能低下、両上肢痛を挙げて介入を開始した。身体機能に対しては筋力トレーニングとバランス練習を中心に、痛みに対しては自動介助運動を中心に介入を開始した。上肢痛は開始後1週間程度で軽減し、日常生活上では増強しなくなった。その後は経過とともに身体機能が改善していったが、第9病日にCOVID-19陽性となり、隔離管理となった。隔離期間中にリハは中断となったが、肺炎症状は軽かったため、看護師と連携し間接的に介入を継続した。第20病日に隔離解除となりリハが再開となったが、隔離期間の活動量および食事摂取量減少により身体機能が低下していた。多職種で再度自宅退院に向けての計画を立て直し、介入の方向性の統一を図った。その後はBMIが23kg/m2、下腿最大径32-35cmと体液貯留状態で推定GFRは4~5で推移したが、食事は全量摂取できており、ADLも経過とともに改善した。最終的にFIM運動項目80点、認知項目25点と改善し、介護保険サービスの調整を行い第60病日に自宅退院となった。

    【結論】

    超高齢、末期腎不全、COVID-19罹患と予後不良因子を複数抱えていたが、多職種で運動、栄養、薬剤など包括的な介入を行ったことで状態悪化を予防でき、在宅復帰を果たすことができた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    症例報告を行うにあたり、患者本人およびご家族に書面にて説明を行い同意を得た。

その他2
  • 風間 碧璃, 太田 恵, 佐伯 純弥, 建内 宏重, 市橋 則明
    p. 111
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    内側半月板の逸脱(medial meniscal extrusion; MME)は変形性膝関節症の発症を予測する因子になるといわれており、健常者においても加齢に伴いMMEが増大するという報告がある。しかしMMEの増大が顕著となる年代は明らかになっていない。健常者においてMMEが増大する年代を特定することは、変形性膝関節症予防のための介入時期の指標になると考える。そこで本研究では、変形性膝関節症が女性に多いことを考慮し、20代から60代までの健常女性を対象としてMMEの増大する年代を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    健常女性95名(平均年齢 50.3±11.4歳,身長157.8±4.9cm,体重54.1±8.8kg)を対象とし、画像が不鮮明でMMEを計測不能だった3名を除外し、92名のデータを分析に用いた。被験者を20・30代群(平均年齢33.8±5.3歳,身長158.9±5.3cm,体重55.3±8.3kg)19名、40代群(平均年齢45.5±2.6歳,身長159.3±4.9cm,体重55.8±10.2kg)25名、50代群(平均年齢54.8±3.0歳,身長157.2±4.3cm,体重54.6±8.8kg)25名、60代群(平均年齢64.3±2.6歳,身長155.8±4.1cm,体重51.8±7.1kg)23名の4群に分けた。各群の身長、体重、BMIについて群間差を認めなかった。測定には超音波診断装置(GE Healthcare社製)を使用し、仰臥位および立位にて各被験者の右膝関節の内側関節裂隙に10MHzの超音波プローブを長軸方向に当て、内側半月板を撮像した。仰臥位では膝関節屈曲0° 位、立位では両脚に均等に荷重するように指示した。撮像した超音波画像において、脛骨の皮質骨から近位方向に水平に見通し線を引き、内側半月板の関節包側の最外縁と見通し線の距離をMMEとして計測した。年齢とMMEの相関を検討するためにSpearmanの順位相関係数、肢位間の比較のために対応のあるt検定、年代間の比較のために一元配置分散分析および多重比較検定を実施した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    年齢と各肢位のMMEとの相関について、いずれの肢位においても有意な正の相関を認めた(臥位:ρ=0.41,立位:ρ=0.39; p<0.01)。肢位間の比較では、20・30代群において仰臥位と比較して立位におけるMMEが有意に高値であった(p<0.05)。年代群間の比較では、仰臥位においては20・30代群と比較して50代群および60代群のMMEが有意に高値であり、立位においては20・30代群と比較して60代群でMMEが有意に高値であった(p<0.05)。

    【結論】

    立位・臥位のいずれにおいてもMMEは年齢とともに増大しており、20・30代群と比較して仰臥位では50代群、60代群、立位では60代群で有意にMMEが増大することが明確となった。また20・30代群では仰臥位と比較し立位におけるMMEが有意に高値であり、40代群以降では有意差が認められなかった。これは内側半月板の弾力性が低下し、荷重量の変化に合わせた柔軟な変形が困難になったことが原因と考えられる。内側半月板の変性は40代以降で生じ、内側半月板の逸脱は50代から顕著であることが示唆された。

    【倫理的配慮と同意】

    事前に本学倫理委員会の承認を受け、対象者には十分に説明し同意を得た(承認番号R1674)。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    事前に京都大学倫理委員会の承認を受け、対象者には十分に説明し同意を得た(承認番号R1674)。

  • 荒尾 賢, 斎 昌夫
    p. 112
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに】

    近年、強震度の地震、長期間の豪雨、大型台風などの自然災害による被害が後を絶たない。今後、南海トラフ地震の発生確率も高く、広域災害時には医療資源が不足し、当院のようなリハビリテーションスタッフ(以下リハスタッフ)を多く抱える施設からの支援活動はより重要性を増している。今回、本人もしくは身近な方の被災経験が災害支援活動への意識と行動にどのような影響を及ぼすか当院リハスタッフを対象に調査した。

    【方法】

    当院リハスタッフ86名を対象に職種、性別、経験年数、本人もしくは身近な方の被災経験の有無と意識面に関して災害・災害リハビリテーションへの関心、災害リハビリテーション支援活動(以下災害リハ支援活動)への興味・抵抗感・参加意欲、行動面に関して災害に関する情報収集・災害対策・災害研修受講・災害支援経験の有無、災害リハ支援活動参加の可否について質問紙を用いて調査した。なお、意識面に関しては、非常にない・かなりない・どちらかというとない・どちらともいえない・どちらかというとある・かなりある・非常にあるの7件法で調査した。被災経験の有無の2群において上記の項目を比較し、統計学的解析を行った。各項目の2群間比較にはMann-Whitney U検定もしくはFisherの正確検定を用いて解析し、2群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティクス回帰分析を行った。

    【結果】

    質問紙の回収率は89.5%で、有効回答率は93.5%であった。対象者は72名で、内訳は男性25名、女性47名、職種は理学療法士36名、作業療法士24名、言語聴覚士12名、経験年数は4年目以内が25名、5~10年目が25名、11年目以上が22名、本人もしくは身近な方の被災経験があるスタッフが27名、ないスタッフが45名だった。2群間の単変量解析の結果、本人もしくは身近な方の被災経験のある群が、災害リハ支援活動への抵抗感が有意に低かった。また、災害支援活動経験に関しても有意な差が認められた。それ以外の項目に関しては有意差は認められなかった。次に単変量解析で有意差が認められた上記の2項目を独立変数、被災経験の有無を従属変数としてロジステック回帰分析を行った。その結果、災害リハ支援活動への抵抗感(オッズ比:0.656、95%信頼区間:0.437-0.948)と災害支援経験の有無(オッズ比:0.297、95%信頼区間:0.105-0.842)が有意な関連のある項目として選択された。

    【結論】

    本人もしくは身近な方の被災経験がある群がない群に比べ、災害リハ支援活動に対する抵抗感が少なく、何らかの災害支援活動を経験していた事が示された。一方で、被災経験のない群は、災害リハ支援活動に対して抵抗感がありながらも興味、参加意欲、参加への可否に関して、被災経験のある群と比較して差がないため影響は少ないと考えられる。今回は単一組織内での調査であったため、他施設でも同様の結果が示されるとは限らず、本研究の限界があると考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究に関して参加者には、調査データを研究目的以外に使用しないことを書面で説明し同意を得て、質問紙は無記名とし、回収ボックスにより回収した。本研究は岡山リハビリテーション病院倫理員会にて承認を得た(承認番号:岡リハR2-2)。

  • 鈴得 俊, 木村 優子, 平石 博己, 柳 裕介, 清塚 崇嘉, 小峰 健児, 足立 由香
    p. 113
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    Covid-19(以下新型コロナ)の流行により全国の医療介護機関において院内感染が確認をされた。当院においても2021年1月に院内にて初めて発症が確認され、院内感染へと拡大し2021年3月まで院内感染を経験した。院内感染の教訓を活かし今後の感染予防の一助になればと思い、コロナ禍における当院リハビリテーション室職員(以下リハ職員)と感染症対策チーム(以下ICT)の取り組みについて報告する。

    【方法】

    ICTと協力しリハ職員向けの感染対策マニュアルを再整備しルールの統一を図った。また、元々速乾性アルコール手指消毒剤を個人携帯用に配布を行なっていたが、医師、事務職を含む全職員に配布を徹底し、標準予防策の再確認、日々の個人消費量、月間消費量の管理を再構築した。

    リハビリテーションは患者様と職員が近距離で長時間密に接触するため、非常に感染及び感染媒介の危険性が高い特殊な環境になる。そのため、感染予防としてリハビリ室入退出時の患者様の手指消毒の徹底、患者様への直接接触前後、環境表面接触前後のリハ職員の手指消毒の徹底、ベッドやマット等の高頻度使用器具の始業前消毒清掃、使用毎の消毒清掃の徹底、部署内会議での感染予防勉強会を行ない感染予防に務めた。

    さらに、病院と協議し午前午後ともに実施していた外来リハビリテーションを午前のみとし、リハビリ室の利用時に入院・外来患者様の交差が生じないようにした。

    【結果】

    リハビリ職員の速乾性アルコール手指消毒剤の日々の使用量は取り組み前と比較し倍増し、感染症予防に対する意識がリハビリ職員に根付き始めた。また病院全体として新型コロナ受け入れ病床を稼働させたが、2021年3月以降院内感染の予防することを継続出来ており一定の結果が現れている。しかし、WHOは医療現場における使用量の目標としている20ml/患者には達することができず課題も残した。

    【結論】

    2021年の初頭から経験したコロナ禍により感染症に対する意識が高まり感染予防の重要性が各職員まで浸透した。幸いにも全国的にコロナ感染症は減少傾向であり、明るい兆しが見え始めているが、感染症予防策を緩めてすぎることで重大な感染拡大を引き起こす危険性があることを忘れずに今後も適切な感染予防対策を講じていきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表は、行動調査の結果から匿名化された情報のみを分析して報告するものである。

  • 井上 智之, 豊田 笑子, 小若女 純, 山本 聡美, 熊谷 季美絵, 前田 悠介
    p. 114
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    血液腫瘍疾患において化学療法は長期間施行することが多く、化学療法に伴う倦怠感、嘔気、血球減少に伴う有害事象等により活動性が低下し骨格筋量の低下、体重減少、ADL能力低下が報告されている。2018年にがん患者のロコモティブシンドローム(以下がんロコモ)が提唱されているが、血液腫瘍患者におけるがんロコモの研究はない。今回、血液腫瘍疾患における化学療法前後の身体機能変化を、がんロコモの視点から調査することとした。

    【方法】

    研究対象者は、2019年5月~2020年7月に当院に入院し化学療法治療を受け化学療法を完遂できた血液腫瘍内科患者20名とした。除外基準として、ロコモ度テストが実施困難もしくは支障となる疾患がある方、治療を中断した方、再発例、同意が得られない方とした。評価方法は、初回化学療法実施前(実施前)と最終化学療法完遂後(完遂後)のロコモ度テスト(ロコモ度、立ち上がりテスト、2 ステップテスト)、四肢骨格筋量(BIA法)、握力を測定した。統計処理は統計ソフトIBM SPSSを使用し、実施前と完遂後をtー検定にて比較した。

    【結果】

    平均年齢66.1±12.7、男性11名、女性9名で、化学療法完遂までの期間は111日±45.9であった。実施前と完遂後の比較では、体幹筋肉量(24.7±5.4kg vs 23.0±5.2kg)、立ち上がりテストに有意な低下を認めた。ロコモ度(0/1/2/3:11/4/4/1 vs 9/6/3/1)は有意差は認めなかった。また、BIA法による筋肉量においては有意差は認めなかったものの、下肢筋肉量が増加する傾向であった。

    【結論】

    長期間の化学療法により活動性低下、筋力量低下を伴うが、今回ロコモの視点からの調査では、立ち上がりテストのみ低下を認めた。立ち上がりテストでは下肢筋力の影響が強いため、下肢筋力低下が有意に低下した結果と考えられる。下肢筋力量に関しては、BIA 法にて筋肉量が増加する傾向であったが、これは、化学療法による下肢浮腫の影響が考えられる。今回の研究では、長期の化学療法はロコモ度までの影響はみられないが、体幹筋肉量と下肢筋力が低下する可能性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究参加者には、研究目的、方法、参加は自由意志で拒否による 不利益はないこと、及び、個人情報の保護について、説明を行い同意を得た。 また、発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、患者が特定されないよう配慮した。

  • 小牧 隼人, 小牧 美歌子, 原野 信人
    p. 115
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、学校保健安全法の一部改正に伴う運動器検診の実施や、子どもロコモなど子どもの運動器に関する検査や指導が実施されている。また、健康教育においてはヘルスリテラシーを高め、健康行動を実践できるよう学習や環境に対する援助が必要である。今回、運動器に関する検査を実施しながら、身体について理解を深めることを目的とした授業を児童および教員に対し実施した。また、授業参観の予定が新型コロナウイルス感染症拡大予防により保護者の参加が困難となったため、授業内容をまとめた小冊子を作成し授業後に児童を通じて保護者へ授業内容を伝達する形で実践したため報告する。

    【方法】

    対象は小学5年生12名、授業は小学校体育館において45分間で実施した。理学療法士2名と担任教員1名の計3名で児童4名のグループ毎に運動器検査を実施した。検査項目は、①立位体前屈(指先が床につくか)、②上肢挙上(180°可能か)、③手関節背屈(70°可能か)、④片脚立位(開眼で30秒可能か)、⑤しゃがみ込み(後方へ倒れず可能か)とした。検査の合間では模型を利用した前屈の動きの説明や児童のタブレットを用いたポーズ撮影、大きさの違う椅子での姿勢観察などとともに、ケンケンでの風船飛ばし、モノマネだるまさんがころんだでのバランス運動なども実施した。授業終了時に事前に作成していた小冊子を児童へ提供し、自宅で保護者へ授業内容を伝達するよう促した。

    【結果】

    運動器検査の結果は、①立位体前屈:できる10名、できない2名、②上肢挙上:できる12名、できない0名、③手関節背屈:できる12名、できない0名、④片脚立位:できる12名、できない0名、⑤しゃがみ込み:できる12名、できない0名であった。授業後の感想文では「股関節から曲げた方がグイグイと曲がりました」「風船が楽しかった」「お父さんやお母さんに冊子を見せた」「家族で体操してみたい」といった意見が書かれていた。授業の終わりに担任教員よりオスグッド病で膝に痛みのある児童の相談もあり、小冊子を参照しストレッチを説明した。当該児童の感想文では「バレーの練習がすごく楽になりました」と書かれていた。

    【結論】

    児童の個別性を意識し、運動器検査を主題とした授業を実施した。多くの児童で運動器の問題は認めず、担任教員からは「以前の授業に参加し体つくりの重要性を感じていたため、クラスで1年間柔軟体操や運動に取り組んできた賜物です」との感想が聞かれた。一方で、個別には柔軟性の低下やオスグッド病を抱える児童もおり、具体的対処法の助言が予防活動に繋がるのではないかと思われた。今回の授業では、運動器検査は児童への直接的なハイリスクアプローチとなるとともに、検査に関する説明や小冊子による身体への理解が教員・保護者への能力付与となることで間接的なポピュレーションアプローチにも繋がると思われた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    授業依頼を頂いた教員及び学校長へ口頭、書面にて報告し、検査結果を扱い発表を行うことに承諾を得ている。

  • 講内 源太, 新井 大志
    p. 116
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    近年、子どもにおけるロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)予防に代表されるように、運動機能の低下の若年化が指摘されている。背景には、スマートフォン(以下、スマホ)やゲーム機の普及に伴う外遊びの減少などがあり、運動不足に伴う学習機会における影響も懸念されている。しかし、先行研究において、体力と学力の関連性は示唆されているものの、個別機能評価における関連性は少ない。本研究の目的は学生におけるロコモの割合と学習に関しての効力感や座位時間、ストレスチェックとの関連性を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は令和2年度、3年度におけるA専門学校の理学・作業療法学科2年生131名(男性55名、女性76名)である。調査内容は質問紙調査として、日中の座位時間、自身の学習に対する効力感(以下、学習効力感)、ストレスチェックを調査した。学習効力感は授業理解度と知識・技術に対する自信をそれぞれ聴取した。身体機能評価は日本整形外科学会が推奨をするロコモチェック(以下、ロコチェック)に使用をする台立ち上がりテスト、2Stepテストを測定した。ストレスチェックは厚生労働省ストレスチェックを用いた。解析方法はロコモ判定の有無による2群間に対して、正規分布を確認後、Mann-Whitney のU検定を行った。統計処理はIBM社製SPSS Statistics.ver.28を使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】

    ロコチェックによるロコモ判定の該当者(以下、ロコモ群)は27名(21%)、非該当者(非該当群)は104名(79%)であった。記述統計結果(mean±SD、median)は、学習の理解度:ロコモ群5.78±1.68、

    6.0、非該当群5.75±1.82、6.0、知識に対しての自信:ロコモ群4.22±1.76、4.0、非該当群4.85±1.74、5.0、技術に対しての自信:、ロコモ群4.48±2.09、5.0、非該当群4.77±1.83、5.0、座位時間:ロコモ群8.67±1.56、9.0、非該当群8.70±2.36、8.0、ストレスチェック:ロコモ群21.48±7.20、19.0、非該当群22.37±6.51、22.0、であった。2群比較ではすべての項目で有意差は見られなかった。

    【結論】

    ロコモ予防を推進する立場である本職の学生において、5人に1人がロコモに該当をしていた。ロコモの進行は自立した生活を営むことが困難になるとともに、痛みを伴う運動器症候群を引き起こす可能性が高まる。ロコモが進行をした場合においては、学習機会における進行に影響を及ぼすことが推測されることから、10代後半においても予防に取り組むことが重要であることが示唆された。

    また、日本人における座位時間の延長は国際比較をしても指摘されている。骨盤の後傾に始まる姿勢の崩れがよりロコモを促進することへ繋がる。そのことから、学校教育における取り組みを導入することも予防的観点から検討課題の1つとなることが考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    上尾中央医療専門学校の倫理委員会の承認を得た(19-0004)。また、アンケート実施に際してはヘルシンキ宣言に基づき、協力は対象者の自由意志であること、対象者に不利益がないことなどを説明して同意を得た。また、本研究に際し、無記名にて行うことで、個人の特定が行われないよう努めた。なお、本研究における利益相反はない。

口述発表
産業理学セレクション
  • 平野 健太, 網代 広宣, 伊牟田 真樹, 仲島 佑紀
    p. 117
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    本邦における頚部痛有愁訴者は多く,労働衛生上の問題が指摘されているが,デスクワークに従事している慢性非特異的頚部痛(Chronic non–specific neck pain ; CNSNP)による能力障害に関連する因子は検討されていない。さらに,CNSNPは機能障害だけではなく,心理社会的要因により病態を複雑化させていることから,器質的・機能的因子だけでなく多角的な評価・介入が必要で ある。

    そこで本研究では,Neck Disability Index(NDI)を用いて,デスクワークに従事しているCNSNP患者の能力障害に関連する疼痛関連スコアと頚部機能を調査し,理学療法介入の一助とすることとした。

    【方法】

    本研究は,当院において頸椎疾患の診断を受け理学療法適応となったCNSNP患者50名(40.6±10.4歳)の横断研究とし,CNSNP 患者の取り込み基準は,発症機転が無く,3ヶ月以上頚部痛を呈しているものとした。初回理学療法施行時に,基本情報として罹患期間(月),運動習慣,デスクワーク時間,仕事のやりがいの程度を聴取した。さらに,能力障害としてNDI,疼痛関連スコアとして破局的思考(Pain Catastrophizing Scale ; PCS),運動恐怖感(短縮版Tampa Scale for Kinesiophobia;TSK),疼痛自己効力感(Pain Self Efficacy Questionnaire;PSEQ),抑うつ状態(短縮版Patient Health Questionnaire;PHQ),中枢性感作(Central Sensitization Inventory ; CSI)を,質問紙票にて評価した。頚部機能は,頚椎関節可動域(CROM)を測定した。尚,CROMは3名が測定し,事前に検討した信頼性はICC(1,1)とICC(2,1)は0.70以上であった。統計解析は,CNSNP患者の能力障害に関連する疼痛関連スコアと頚部機能を分析するため,重回帰分析を実施した。モデル1としてNDIを従属変数とし,疼痛関連スコア(PCS,CSI,TSK,PSEQ,PHQ)と頚部機能(CROM)を目的変数とした重回帰分析を実施した。モデル2はモデル1で有意な関連を示した項目に交絡因子(年齢,性別,罹病期間)を,モデル3では調整因子(デスクワーク時間,仕事のやりがいの程度,運動習慣の有無)を,段階的に強制投入し,影響力を検討した。さらに統計解析後にG*powerを使用し,統計モデルの検出力分析を実施した。

    【結果】

    モデル1(自由調整済R2 =0.51)でNDIと有意な関連性を認めた項目は,PSEQ(p =0.01,標準回帰係数 =-0.36),CSI(p =0.03,標準回帰係数 =0.30)であった。モデル1より有意な関連性を認めたPSEQ,CSIに交絡因子で調整したモデル2,さらに調整因子を加えたモデル3と段階的に統計解析した結果,有意な関連性が維持された。サンプルサイズの検出力分析の結果,P=0.99と十分な検定力が得られた。

    【結論】

    デスクワークに従事しているCNSNP患者の能力障害にPSEQとCSIが関連していたことから,CNSNP患者の能力障害を理解する上で疼痛自己効力感などの認知的側面,中枢性感作などの生理学的側面の影響を考慮する必要性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は医療法人社団紺整会船橋整形外科病院の倫理委員会で承認(承認番号2020038)を得て行った。また,全対象者に研究内容の説明を行い,書面で研究への参加の同意を得たうえで実施した。

  • 和中 秀行, 岡原 聡, 川村 有希子, 川又 華代
    p. 118
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、様々な業種において転倒や腰痛といった行動災害による労働災害が増加傾向にある。その中で、日頃、転倒予防や腰痛対策に取り組むことの多い理学療法士はこのような労働災害の防止に寄与できるのではないかと考えた。そこで、我々は理学療法士を対象に所属施設における転倒発生状況のアンケート調査と好事例施設への聞き取りを行い、理学療法士が所属施設の転倒災害を認知できる機会が限られている背景があると推察されると昨年報告をした。本研究は、アンケート調査と好事例施設への聞き取りから、理学療法士の安全衛生対策への関心の程度や安全衛生対策に関わるための課題、解決策を検討した。

    【方法】

    公益社団法人日本理学療法士協会に登録している理学療法士施設の代表者15,185名へアンケート調査の協力依頼メールを送付した。分析項目は、安全衛生対策への関心の有無、実際の関わりの有無、転倒災害対策状況とした。また、理学療法士による転倒災害対策実施施設の中から、好事例として施設5件に聞き取り調査を行った。

    【結果】

    937名から回答を得た。「職場の安全衛生対策に関わりたい」との回答は691名(74%)であった。その中で現在関わりを持てていない人は325名(47%)であった。理由は「業務として認められていない」、「必要とされていない」、「やり方がわからない」が多かった。一方、安全衛生対策実施施設での転倒災害予防策は「通路の整理」や「照明の整備」が多かった。好事例施設では安全衛生対策担当部署からの要望により取り組みを開始し、取り組み前後の効果を数値で示すことで、必要性が認識されてきたとの回答も得られた。

    【結論】

    本調査の結果、安全衛生対策に関わりたい理学療法士は一定数いるが、ニーズがない、やり方がわからない等により関われていない現状も明らかとなった。一方、安全衛生対策実施施設における実施内容は、すぐにでも取り組める内容も多く、好事例施設では安全衛生対策担当部署からの要望で関わり始めた施設が多かった。以上のことから、まずは自部署だけでもできる取り組みから行い、安全衛生対策担当部署と連携を図り、自施設の労災の有無などの情報収集を行うことで、理学療法士の存在を認識してもらう。また、取り組み前後の効果を客観的に示すことで業務として認めてもらうよう働きかけていくことの必要性が示唆された。

    なお、これらへの対策として、日本産業理学療法研究会では、本調査結果や好事例集をホームページで公開した。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は大阪急性期・総合医療センターの倫理委員会にて承認を得て実施した(番号:2020-072)。対象者には、研究の説明、同意書、倫理委員会の承認などを含むアンケート調査の協力依頼についてメールを送付し、回答による同意を得た上で実施した。

  • 岸本 俊樹, 山本 泰弘, 北畠 義典, 石橋 英明
    p. 119
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    高齢者の健康寿命延伸を目的としてロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)の改善や予防の対策は重要な課題である。しかし、近年では若年成人から労働者まで幅広くロコモ該当者の存在が判明し、その世代に応じた対策が求められている。また、労働者が健康障害を抱えたまま就業している状況を示すプレゼンティズムの改善は企業経営の重要な課題となっている。労働者において、運動機能低下を示すロコモの存在はプレゼンティズムを悪化させる要因の一つと推測され、身体運動負荷量が多く職責の大きい医療従事者においては、その影響の強さが予想される。本研究では、病院職員におけるロコモとプレゼンティズムとの関係について検討することを目的とした。

    【方法】

    本研究に同意を得た一般急性期病院職員329名(男性67名・女性262名)を対象とした。ロコモ評価は、立ち上がりテスト(ロコモ 陽性:40cm台からの片脚起立困難)、2ステップテスト(ロコモ陽性:2ステップ値[2歩幅cm÷身長cm]1.3未満)を実施し、自記式質問紙にて疼痛や身体活動性、心理的不安を評価するロコモ25(0-100点、加点にて不良。ロコモ陽性:7点以上)を用いて評価した。プレゼンティズムの評価は労働機能障害の程度を測定するWork Functioning Impairment Scale: Wfun(7-35点、加点にて不良。プレゼンティズム判定:14点以上)を用いた。統計解析は3つのテストにて1つでも陽性であればロコモとされる標準的判定に加え、各テストでの陽性の有無とプレゼンティズムの有無に対してχ2検定を実施した。また、説明変数にロコモ度に関する指標、目的変数にプレゼンティズムの有無、調整変数に性別、年齢、職種としたロジスティック回帰分析を実施した。統計処理はR ver.2.8.1を使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】

    ロコモ陽性者数について、標準的判定は103名(31.3%)、2ステップテストは14名(4.3%)、立ち上がりテストは52名(15.8%)、ロコモ25は66名(20.1%)であった。プレゼンティズム該当者は103名(39.5%)であった。χ2検定の結果、ロコモ25(χ2(1)=11.27, p<.001)のロコモ判定者は有意にプレゼンティズムと判定されていた。ロジスティック回帰分析の結果、ロコモ25(オッズ比:3.81,95%CI: 2.64-7.22)であった。

    【結論】

    対象者に医療専門職が多く含まれ、立位作業の多さにより労働生産性に影響を与える程度の運動機能低下は無く、日常的な疼痛や生活活動性に関連した不安が労働生産性に影響を与えていた可能性が考えられる。ロコモに該当する病院職員のプレゼンティズムへの対策には、単純な運動機能の向上を図るだけではなく、心理的不安などの心理・社会的要因も含めた包括的な対策が必要であると考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に則り、伊奈病院倫理審査委員会(No.75)の承認を得た。全対象者に個人情報は保護されることを口頭と紙面で説明し、調査実施の同意を得た。

  • 川村 有希子, 大谷 遼子, 長田 直記, 鈴木 芳恵, 小林 寿之
    p. 120
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、新型コロナウイルス感染症の影響により、企業は「働き方」の変化を余儀なくされ、リモートワークによる通勤機会の減少や活動自粛から、健康被害やコロナ太り等のリスクが懸念されてきた。このような中で、スマートフォンアプリのようなICTを利用した健康施策は、集団・密を避け、企業の労働者に遠隔から介入を促すことができるツールとして、よりその注目度が増している。ICT 機器の活用は、企業の産業保健担当者や、産業保健現場での支援を目指す理学療法士にとっても、1対1ではなく多くの人々に効率的に働きかけられるツールであり、かつ蓄積されたデータを用いることで客観的な効果検証が行えるという、大きな利点がある。株式会社FiNC Technologiesでは、産業保健と健康経営を支援するクラウド型ソフト「FiNC for BUSINESS」を提供しており、そのトライアルパッケージは、アプリと連携し体重が簡易に測定できる体組成計配布と、理学療法士・管理栄養士等が作成した専用アプリを用いた健康増進プログラムの利用が組み込まれた60日間のサービスである。本研究では、このような専門職が作成したプログラムを用いた健康介入が、コロナ禍における体重管理に与える効果を検討することを目的とした。

    【方法】

    対象者は、2020年4月~2022年3月の期間に上記トライアルパッケージに参加した企業の匿名化データにおいて、トライアル期間開始前と終了後の10日間中にいずれも1回以上の体重記録があり、年齢・性別の入力があった、男性121名とした。開始前体重と終了後体重をメインアウトカムとし、統計解析は標本の正規分布を確認し、対応のあるt検定にて有意確率5%未満とした。

    【結果】

    対象者は平均年齢46.0±11.2歳であり、トライアル開始前平均体重は74.3±9.7kgであった。60日間のトライアル終了後は、開始前と比べ‐0.5±1.6kgの有意な体重の変化が確認された。(p=0.01)体重変化の値から、「0.5kg以上:増加」、「‐0.5~0.5kgの範囲内:維持」、「‐0.5kg以下:減少」として分類すると、増加:21.5%、維持:33.9%、減少:44.6%であった。

    【結論】

    理学療法士等の専門職が作成に加わったスマートフォンアプリの健康プログラム介入による、コロナ禍での労働者の体重管理効果について検討し、有意な結果を確認した。対象者は活動控えが懸念されていたコロナ禍においても、トライアルパッケージへの参加により、約8割近くが体重の維持・減少につながった。対面・集団での労働者健康管理が制限されるコロナ禍において、専門職の知識を手軽に届けながら、企業の担当者がロジカルに健康施策を実施できる手段の一つとして、有用であることが示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、個人・企業が特定されない匿名化情報としての学術的データ利用に関する同意を得た企業のデータを用い、ヘルシンキ宣言に基づき、取り扱いに十分配慮して分析を行いました。開示するCOIはありません。

オンデマンド発表
産業理学オンデマンド1
  • 杉田 慎之介, 髙田 一史
    p. 121
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    近年、健康教育においてヘルスリテラシーの重要性が示されており、ヘルスリテラシーが高いことは健康的な生活習慣をもち、適応的なストレス対処行動をとっていることが報告されている。しかし、ヘルスリテラシーは機能的、伝達的、批判的側面があり、どの段階に特に課題があるかについての報告は少ない。また、労働者の業務上疾病では約6割が腰痛を占めており、腰痛予防は労働者の健康増進において重要である。しかし、ヘルスリテラシーと腰痛の関係については十分な検討がされていない。

    本研究の目的はヘルスリテラシーにおける課題の把握と腰痛経験の有無によってヘルスリテラシーに違いがあるのかを調査することとした。

    【方法】

    対象は回復期リハビリテーション病棟専従の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士50名とし、腰椎疾患の既往がある者は除外とした。調査内容は基本情報(年齢、性別、経験年数、運動習慣)、腰痛経験の有無、ヘルスルテラシー(CCHL:Ishikawa 2008)とした。CCHLは「情報収集」から「情報の活用」までの伝達的・批判的リテラシー全5項目、5件法で構成されている。5項目の平均値である尺度スコア設問にたいして「そう思う」「強くそう思う」と回答した者の人数と割合を各項目にて算出した。統計学的解析では腰痛経験の有無にて2群に分類し、基本情報、CCHLを2標本t検定、Mann WhitneyのU検定、χ2検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    腰椎疾患の既往のある5名を除外した45名が分析対象となった。平均年齢は27.4±4.3歳、男性21名、女性24名であった。対象者の経験年数は中央値で5年、運動習慣を有する者は11名であり全体の24.4%であった。腰痛経験のある者は35名であり、全体の約78%を占めた。CCHLの尺度スコアは3.56±0.08であった。CCHLで「そう思う」「強くそう思う」と回答した者の割合は「情報収集」97.7%、「情報を選び出す」72.7%、「情報を伝達する」40.9%、「情報が信頼できるか判断する」43.2%、「情報をもとに行動に移す」63.6%であった。腰痛経験の有無で各項目比較したところ、基本情報とCCHL尺度スコアは2群間で有意差は認められなかった。

    【結論】

    ヘルスリテラシーの結果より健康教育において情報を発信する側は一方的に提供するだけでなく、受け手のヘルスリテラシーに合わせた情報提供やコミュニケーションの必要性が示唆された。情報の受け取る側も十分に情報を吟味してから活用していく必要があると考えられる。また、腰痛経験の有無によるヘルスリテラシーの違いは認められなかった。本研究の対象者は比較的若いことや腰痛の程度は聴取していないことから、年齢や腰痛の重症度の影響を考慮する必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画され、札幌西円山病院倫理審査委員会による承認を得たうえで実施された(承認番号2021-24)。また、対象者に対して研究内容、個人情報保護、研究への同意と撤回について説明し、同意を得たうえで実施した。

  • 田上 裕記
    p. 122
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    産業保健領域において、看護師の腰痛を含めた身体愁訴は心理的不健康による影響が指摘されている。腰痛有訴率が高い看護師は、腰痛対策に加えメンタルヘルス対策を講じることが有効であり、身体的及び精神的な健康を改善させることで労働生産性を向上させることが期待される。今回我々は、病棟看護師に対しメンタルヘルス及び腰痛対策を実践することでメンタルヘルスの改善や腰痛の減少を促進し、労働生産性を高める効果を検証することを目的とした。

    【方法】

    対象は、腰痛有訴者である常勤勤務の病棟女性看護師(整形外科、内科混合病棟)18名とした。方法は、病棟看護師をランダムに3群(A群:メンタルヘルス対策+腰痛対策群、B群:腰痛対策群、C群:コントロール群)に分類した。指導的役割は、看護師(2名)と理学療法士(1名)が行い、メンタルヘルス対策は看護師、腰痛対策は理学療法士が実践した。介入期間は3ヶ月間とした。

    メンタルヘルス対策:①職場環境へのポジティブアプローチ(参加型討議、島津ら、労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究、2019)、②上司のサポート強化(個別面談の実施頻度の増加)

    腰痛対策:①腰痛研修会の開催、②腰痛予防体操(午前始業前、午後始業前)の導入

    調査項目は、基本属性、労働状況、労働生産性(WHO Health and Work Performance Questionnaire Japanese edition: WHO HPQ)、腰痛評価(腰痛VAS、介入前後の腰痛の変化)、精神的健康評価(Kessler10)とした。介入前後の腰痛改善率及びKessler10スコア、WHO-HPQスコアを比較検討した。

    【結果】

    介入期間3ヶ月の間にA群の1名が離脱(部署異動)したため、A群5 名、B群6名、C群6名となった。介入前後の腰痛改善率は、B群:67%、A群:60%、C群:11%の順に高かった。精神的健康度は介入前後で比較し、A群(-3.0点)で減少し、B群(+0.7点)及びC群(+0.1点)では増加し、A群において精神的健康度の改善が認められた。労働生産性の介入前後の変化において、A群(+0.4点)は増加し、B群(-0.8点)及びC群(-0.3点)は減少した。

    【結論】

    腰痛対策のみを実践したグループは、介入前後において腰痛は改善したが、精神的健康度の改善と労働生産性の向上は認められなかった。一方、腰痛対策とメンタルヘルス対策を併用して実践したグループは、腰痛改善率、精神的健康、労働生産性のいずれの項目も向上した。労働損失であるAbsenteeismやPresenteeismには心理的要因や筋骨格系障害が影響しているため、心身の健康問題の予防、改善を促進することによって、労働生産性の改善につながったことが考えられた。また、腰痛の慢性化は心理社会的要因と密接に関わっており、腰痛対策に対してもメンタルヘルスへのアプローチの必要性が考えられる。今回の結果より、労働生産性の向上のためには、腰痛対策とメンタルヘルス対策を併用して行うこと有効性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、JA愛知厚生連足助病院倫理委員会の承認を得た(承認番号T21-003)

    本研究の趣旨、内容、個人情報の保護や潜在するリスクなどを書面にて十分に説明し、署名による同意書の承諾を得て研究を行った。

  • 濵田 啓介, 齊藤 竜太, 岩﨑 和樹, 久保 一樹, 須藤 祐太, 小林 凌, 中川 和昌
    p. 123
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    職業性腰痛は医療・社会福祉施設を含む保健衛生業で多く発生しており、労働生産性低下(プレゼンティーイズム)の主要因の1つとなっている。今日まで多くの職種に対する腰痛の調査や介入結果が報告されているが、理学療法士を対象とした報告は少なく、予防に繋がる要因についても明らかでない。本研究は理学療法士の過去の腰痛発生状況を調査し、腰痛発症とプレゼンティーイズムに関連する作業要因・環境要因について検討する事を目的とした。

    【方法】

    本研究の対象はA大学理学療法学科同窓会会員290名とし、2021年12月から2022年1月にかけて自記式アンケートフォームによるオンライン調査を実施した。腰痛有病率を把握するために過去の腰痛発生の有無(過去1週間、過去1ヶ月間、入職から現在まで)を 回答項目に設定した。腰痛によるプレゼンティーイズムはWork Productivity and Activity Impairment Questionnaire(WPAI)を用い、0点(仕事への影響なし)~10点(完全な仕事の妨げ)の11段階で評価した。基本属性(年齢、性別、勤続年数)、過去1週間に発生した腰痛の程度(Numerical Rating Scale;NRS)、患者の起居動作、移乗動作、移動動作における1日あたりの介助業務回数(軽度介助、中等度介助、重度介助)、職場環境(臨床業務/間接業務の平均時間)、運動習慣、業務に対するストレスについても情報収集を行った。過去1週間の腰痛あり群におけるWPAIと介助業務回数、腰痛の程度との関連についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討を行った。過去1週間の腰痛発生と基本属性、職場環境、運動習慣、業務に対するストレスとの関連についてカイ二乗検定を用いて検討した。過去1週間の腰痛あり群/なし群における各動作の介助業務回数についてMann-WhitneyのU検定を用いて群間比較を行った。

    【結果】

    95名からの回答が得られ(回答率:32.8%)、うち欠損のない84名(年齢:中央値27歳、四分位範囲24-29歳、性別:女性60%)のデータを解析対象とした。過去1週間、過去1ヶ月間、入職してから現在までの腰痛有病率はそれぞれ38%、42%、81%となった。過去1週間の腰痛あり群32名のWPAIは中央値2、四分位範囲1-3となり、うち26名(81%)にプレゼンティーイズムを認めた。また同群において起居動作軽度介助(r=0.354)と中等度介助(r=0.372)、移乗動作中等度介助(r=0.445)、移動動作重度介助(r=0.448)の介助業務回数とWPAIとの間に有意な相関関係を認めた。過去1週間の腰痛発生の有無とその他全項目との間に有意な関連は認められなかった。

    【結論】

    過去1ヶ月間の腰痛有病率は過去に報告された看護師(30%)や運送業(31%)の割合より高く、理学療法士への腰痛予防対策が必要である可能性が示唆された。腰痛発生の有無に関連する作業要因・環境要因の有意な傾向は見られなかったが、日常業務においてWPAI と相関関係の見られた介助業務の回数が増えるほど、腰痛を持つ理学療法士にとってはより多くの労働生産性低下を生じる可能性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、ヘルシンキ宣言および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき、対象者のプライバシーおよび個人情報の保護、研究内容について十分に説明し対象者から同意を得た。また、高崎健康福祉大学倫理審査委員会から承認を得て実施した。(承認番号:2145)

  • Hiroaki TERAMATSU, Masako NAGATA, Akiko HACHISUKA, Akio TAKEMOTO, Sato ...
    p. 124
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    Background:

    Although the number of cancer survivors has increased, the return to work (RTW) status among employed cancer patients and effectiveness of promoting health and employment support remains unclear.

    Cases:

    The patient was a 50-year-old male with a diagnosis of cholangiocarcinoma. He worked as a liquefied petroleum gas station filler. He underwent pancreaticoduodenectomy for the cholangiocarcinoma. A postoperative pancreatic fistula was treated by drainage for 41 days. The skeletal muscle index (8.7→7.7), 6-minute walk distance (518→460 m), and work ability index (WAI: 37→20 points) were lower postoperatively than preoperatively. Because the patient was anxious about RTW, an intervention by the Department of Occupational Medicine (DOM) was initiated. In the RTW project by the DOM, a team approach was used, and the primary physician, occupational physician, and company cooperated to support the patient. His physical therapist reported declining physical performance and WAI at the RTW meeting. The team recommended resuming work in steps. The patient resumed work partly for two months and completely three months after surgery while undergoing oral adjuvant chemotherapy. The WAI improved to 35 points.

    Conclusion:

    Perioperative rehabilitation in collaboration with the DOM may contribute to a smooth RTW for cancer patients with decreased work ability after surgery.

    Ethical consideration:

    In accordance with the Declaration of Helsinki and the Ethical Guidelines for Medical and Health Research Involving Human Subjects, the case reports were explained to the subjects, and their consent was obtained, taking into consideration the protection of personal information.

  • 岡原 聡, 高尾 弘志, 花木 一生, 上田 剛裕
    p. 125
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    政府は生涯現役社会の構築に向けて,健康投資を促進し就労世代の活力向上や健康寿命の延伸等の実現が重要であると示している.経済産業省の令和3年度健康経営度調査では,労働生産性に関するプレゼンティーイズムの測定尺度を尋ねる設問が新たに加わり,業務パフォーマンスをいかに向上させるかに注目が集まっている.しかし,コロナ禍における医療職の身体的・心理的な状況や労働生産性は十分に把握されておらず,業務パフォーマンスを向上させる取り組みも明らかになっていない.今回,コロナ禍における医療職の労働生産性を把握すること,および1週間の体操プログラム提供前後の労働生産性の変化を検討したので報告する.

    【方法】

    対象は本研究に同意の得られた療法士20名とした.基礎情報のアンケート項目は,年齢,性別,医療職の経験年数,1年間の病気による休暇日数,腰痛歴の有無,転倒歴の有無とした.日本理学療 法士協会産業領域推進部会が作成した職業別体操リーフレットを利用し,医療職で問題になりやすい筋群の柔軟・トレーニング・ 体の動かし方を踏まえ3種類の体操を選出して「3分間体操」を作 成し,用紙を対象に配布した.体操は終業前,終業後の計2回を1週間に5日間実施した.体操1週間前後の変化として,質問紙で主観 的健康感,柔軟性,筋力,運動習慣,体の痛み,体の不安,睡眠 の休養を5段階のリッカート尺度で自己採点を行い,筋力は握力計,片脚立ち上がり,柔軟性は立位体前屈で体力測定した.また,労働生産性関連の評価項目として,プレゼンティーイズムはSPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)及びWHOHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire),ワークエンゲイジメントはUWES(Utrecht Work Engagement Scale)を用いて値を算出した.統計解析は,対応のあるt検定またはWilcoxon符号付順位検定を用い有意水準は5%とした.

    【結果】

    対象は平均年齢34.1歳,男性17名・女性3名,経験年数11.9年,1 年間の病気による休暇日数2.8日,腰痛歴有り9名,転倒歴有り1名であった.体操1週間実施前後で有意な差を認めた項目[中央値]・(平均値)は,運動習慣[3点 vs 4点],立位体前屈(3.8cm vs 7.2cm),絶対的プレゼンティーズム[60% vs 70%],UWES3項目平均値(3.8点 vs 3.5点)であった.質問紙による主観的運動習慣の点数,体力測定による立位体前屈,労働生産性の絶対的プレゼンティーズム値は有意に増加し,ワークエンゲイジメントのUWES3項目平均値は有意に低下した(p<0.05).

    【結論】

    本研究によりコロナ禍における医療職の労働生産性の一指標が得られた.職種に合わせて作成した体操プログラムは,1週間の提供前後で労働生産性の絶対的プレゼンティーズムが変化し,短期間においての業務パフォーマンスの向上が期待される.今後,健康リスク層別化した群別のプレゼンテーズムやワークエンゲイジメントへの影響などを詳細に検討し,理学療法士による業務パフォーマンス向上に資する介入方法を検討していく.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨を口頭および書面にて十分に説明し,個人情報の保護等を明記した同意書に署名を得て実施した.

産業理学オンデマンド2
  • 藤井 廉, 今井 亮太, 重藤 隼人, 田中 慎一郎, 森岡 周
    p. 126
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【症例紹介】

    症例は慢性腰痛を有する20歳代の男性介護士である.就労状況は腰痛を有しながらも就労を継続可能な状態であり,腰痛による欠勤は認めていなかった.実際の就労場面において症例は,重量物の取り扱いといった重労働への困難感を感じており,「重い物を持ち上げる際,痛みはあまり感じないが,腰を動かすことに怖さがある」といった訴えを認めた.

    【評価結果と問題点】

    就労場面における運動恐怖の影響を分析するために,作業動作時の体幹の運動パターンと運動恐怖に着目した評価を実施した.動作課題は重量物持ち上げ動作であり,三次元動作解析装置を用いて,体幹の運動パターンを定量的に分析した.その結果,体幹運動の緩慢さとともに,上部-下部体幹運動を過度に一致させる様相を示した.また,動作課題中に生じた運動恐怖(課題特異的な運動恐怖)の程度をNRSで聴取したところ,NRS:7と高値であった.加えて,TSK-11による日常生活等で全般的に生じる運動恐怖(全般的な運動恐怖)の評価は,合計点:43点,下位項目の活動回避(痛みと身体的な活動に関する思考):18点,身体への焦点化(痛みと身体への有害さに関する思考):13点であり,いずれの項目も参考値より高値であった(Roelofs, 2011).一連の評価結果から,本症例は過去の腰痛経験に基づき,「重い物を持ち上げることで,腰に痛みが出現するのでは?」といった課題特異的な恐怖心が生じており,それが全般的な運動恐怖へと波及するとともに,体幹の運動パターンの変調に関与していると推察した.

    【介入内容と結果】

    研究デザインはABAデザインを適用し,A1期はベースライン期,B期は介入期,A2期はフォローアップ期とした.B期における介入内容は,運動恐怖の改善を目的に,患者教育とセルフエクササイズ指導,面談を個別にて実施した.介入の結果,B期以降で体幹運動の緩慢さが改善した.同様に,課題特異的な運動恐怖,TSK-11の合計点,活動回避の減少とともに,腰痛症状(痛み強度や能力障害)に改善を認めた.一方,体幹の協調運動パターンと身体への焦点化は不変なままであった.身体への焦点化の各質問項目の回答から,“痛みによる自己効力感の低下”や,“再び労働障害に陥ることへの不安”が顕著であることが確認された.さらに,A2期以降においても,これら全ての指標は同様の経過を示し,最終的には腰痛症状の悪化を認めた.

    【結論】

    一連の産業理学療法アプローチによっても,“自己効力感の低下”や“再び労働障害に陥ることへの不安”は変容が生じづらく,これらが残存した場合,運動制御障害と相まって腰痛症状の再燃に影響する可能性が示された.今後の課題として,腰痛有訴者の運動恐怖を個別的に分析し,体幹の協調運動障害との関係性を明確にするための縦断調査へと展開する必要がある.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,畿央大学の倫理委員会の承認(R2-01)を受け,ヘルシンキ宣言を遵守して行った.

  • 太田 直樹
    p. 127
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    本邦において、腰痛は国民生活基礎調査(2019)によると有訴者率が男性では1位、女性では2位の代表的な健康課題の1つである。日本理学療法士協会が「職場における腰痛予防宣言」のキャンペーンを実施するなど、腰痛対策への理学療法士の参画について関心が高まっている。今回、身近な産業理学療法として職場の腰痛対策に協力したので、活動内容を報告する。

    【背景】

    千葉県千葉リハビリテーションセンターは、110床のリハビリテーション医療施設、定員125名の医療型障害児入所施設、その他外来診療などを行う総合リハビリテーションセンターである。職員は、医師、看護師、理学療法士の他、保育士や社会福祉士など多職種が勤務している。職場における腰痛対策は、総務部の健康管理部署(以下、担当)が担っており、毎年1回の腰痛頸肩腕痛検診(1次検診:検診表、2次検診:医師の診察)と職場巡視等を実施している。今回、担当スタッフから腰痛対策の見直しについて協力要請があった。

    【取り組み】

    まず、担当スタッフと産業医、筆者で対策の現状の確認、課題抽 出を行った。明らかになった課題は①現在の検診表では腰痛発生の状況把握はできるが、腰痛リスク評価をすることが難しいこと②1次検診データを元にした腰痛対策の設定があがった。特に① について検診表の設問をどのようにするか、産業医から意見を求められた。次に、検診表の改訂に着手した。既存の検診表は腰痛 の有無、痛みの程度、腰痛が発生する場面などの項目がある。新 たにSTarT Back Screening Tool、生活習慣、Somatic Symptom Scale-8(SSS-8)を追加した。また、1次検診実施後のデータ分析に協力し、職場全体の課題抽出のアドバイスを行なった。

    1次検診は全職員(産休、育休、療休を除く538名)を対象に職場内のポータルサイトで実施し、404件の回答を得た(回収率75%)。回収データのうち、データの利用について同意があった378件を分析対象とした。腰痛の有訴者は49%であり、有訴率の高い職種は生活援助員、保育士、理学療法士・作業療法士の順であった。また、腰痛が生じる業務は移乗介助、重量物の運搬、事務作業(デスクワーク)の順で多かった。本結果を職場内の産業保健を統括している委員会へ報告し、職場内への浸透を図った。現在、職場巡視の実施方法の見直しを含めた対策を検討している。

    【考察・所感】

    今回の取り組みを通じて、身近な場所・仲間の健康を守ることは理学療法士にとって重要な役割と考えた。身近な職場に関わることは、職場内の関係者と顔の見える関係があらかじめ構築されているため、外部の企業へ関わることに比べると、取り掛かりのハードルが低いように思える。今後、各部署の業務特性に応じた対策をハード・ソフトの両面から提案していきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本報告で使用した検診表のデータについては、検診表にデータの公表の可否について回答を得る設問をし、同意を得たデータのみを使用した。

  • 加藤 芳司, 古田 博之
    p. 128
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    演者は産業理学療法部門(現連合研究会)発足当初より活動に参画し,同時に県士会専門領域研究部での活動を並行するなかで,協会と県士会活動との連携はそれぞれが独立した団体であるが故,産業理学療法領域の活動を地域に落とし込む事が簡単でないことを実感していた。連携を模索する中で,2018年より協会理学療法士講習会企画に携わる機会を得,22年度開催予定分も含め5年連続5 回の愛知県における産業理学療法講習会に携わることが出来た。合わせて22年度には県士会に「産業保健事業部」の発足に至り,組織としての活動を開始したところである。

    本発表は,このような旬を迎え,これまでの活動について報告を 行い,協会(連合研究会)と都道府県士会の連携を深め,産業理学療法の啓蒙とともに学術活動に向けた指針を見出すことを目的とした。

    【方法】

    2018年より続く県士会主催「産業保健理学療法基礎講座」(以下基礎講座)5回の開催内容について報告および,県士会「産業保健事 業部」の活動報告と今後の県内における活動計画についての紹介を行う。

    【結果】

    基礎講座の内容は産業医,産業保健師の特別講義,起業等の立場から先駆的に産業保健領域で活躍する理学療法士の実際の様子,労働災害のモデルケースをもとにグループディスカッション等の参加型講習会を5年間に渡り開催し,受講者数は200名を超えている。県士会職能局に22年度「産業保健事業部」が立ち上がった。全国において「産業保健」または「産業理学療法」の名称で活動する組織は47都道府県中,他には確認できなかった。

    22年度は県内新聞社主催の「健康経営」セミナーでの産業理学療法をテーマとした公開講座を行い,参加者アンケートでは「大変満足」52.1%,「満足」47.1%の結果を得た。その他,県士会独自の産業療法啓蒙ポスター,チラシ作成等,活発な活動が始まっている。

    【結論】

    産業理学療法とは様々な労働者の疾患,労働災害に対する領域名であり,職能的な意味合いが強く,県士会の部局の立ち上げ趣旨も職能的視点での職域拡大にある。今後産業保健領域に理学療法士が参入するためには,理学療法の効果を,科学的根拠を持って企業に示す必要がある。

    これまで県内において啓蒙活動を継続し,ある程度の実績を重ねているが,今後はさらに都道府県レベルにおいても職能推進に加えて学術面の取り組みを行なっていく必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    活動内容およびアンケート調査結果を研究発表として報告する旨を説明し,発表の際に個人名が特定されることがないことを説明し,同意を得た。

  • 山部 拓也, 川村 有希子
    p. 129
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    産業理学療法の発展のためには,他国の介入事例や技術だけでなく,普及を促進させる人口動態・文化・政治・理学療法士の地位等の外部要因が影響することが考えられ,それらの状況について,他国と日本の比較が重要である.本調査は,これらの把握を目的とした日本産業理学療法研究会の2021年度産業理学療法国際調査事業の一環で,日本における産業理学療法の現状として腰痛に着目し,調査した内容について報告する.

    【方法】

    調査方法は,インターネットを用いて検索し,厚生労働省の電子ベータベースを用いて,調査を行った.検索式は,「転倒災害」,「労働災害」,「腰痛予防」,「産業保健」,「産業理学療法」とした.

    【結果】

    我が国の総人口(2021年9月推計)は,前年に比べ,51万人減少している一方,65歳以上の高齢人口は,3460万人と,前年に比べ,22万人増加し,過去最多となった.今後の人口の変化を踏まえると,就業者数の減少は不可避と考えられており,女性や高齢者の労働参加が不可欠で,労働力確保が重要と考えられる.しかし,現在産業保健分野で,産業医,歯科医師,看護師,衛生管理者などと連携し,活動を広げている理学療法士は存在しているが,病院に勤務しつつ,多くの人の健康問題や職場環境改善に対する指導ができる環境にある理学療法士は,極めて稀である.労働安全衛生法の中で,産業医と衛生管理者は,明記されているが,理学療法士は明記されておらず,この分野での理学療法士に何ができるのかが認知されていない.また,産業理学療法の発展については,他国の理学療法士と比較して,日本は理学療法士へのダイレクトアクセスができないことも理由の一つとして考えられる.

    厚生労働省では,休業4日以上の死傷災害のうち最も件数が多い転倒災害の減少を図るため,2015年から「STOP! 転倒災害プロジェクト」を実施している.また,職場における腰痛は,労働災害の6 割が腰痛による原因であることや,介護や看護など社会福祉施設をはじめとする保健衛生産業では,最近の10年間で腰痛発生件数が2.7倍にも増加していることから,腰痛の予防対策として,「職場における腰痛予防対策指針」(2013)を改訂し,労働者の健康保持増進に努めている.2021年には労働災害が増加傾向にある業界団体への協力要請を行い,さらなる周知と啓発を行い,労働者の健康管理に関する対策が整備されている.

    【結論】

    日本における産業保健分野の現状は,厚生労働省による周知や啓発を行っているが,産業保健分野の専門職と活動したことのある理学療法士が少ない.そのためにも,産業保健分野での介入成果を報告することや労働者や専門職に,理学療法士の認知度を調査する必要があると考える.今後は,さらなる産業保健分野に向けた発信が重要と考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本調査は,日本産業理学療法研究会の2021年度産業理学療法国際調査事業の一環で実施した.電子ベータベースを用いた,調査であるが,ヘルシンキ宣言に基づき実施し,情報収集の際,内容が損なわれないように十分配慮した.開示すべきCOIはありません.

口述発表
栄養・嚥下セレクション
  • 植田 浩章, 佐々木 遼, 山口 晃樹, 小泉 徹児, 井口 茂
    p. 130
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに・目的】

    高齢期の嚥下障害は低栄養状態やサルコペニアの発症リスクを高め,身体機能やADLの低下に悪影響をおよぼすことが知られている.しかし,これまでの報告は地域や回復期の患者を対象とした報告が多く,昨年度の本学術大会において我々は,急性期病院に入院した高齢患者を対象とした実態調査を行った.その結果,急性期病院入院患者においても嚥下障害と身体機能やADLとの間に負の相関が認められた.そこで今回,理学療法を実施した入院患者を対象に嚥下障害の有無による身体機能及びADLの変化を検証したので報告する.

    【方法】

    対象は令和3年12月1日から令和4年4月31日までに一般急性期病院に入院し,嚥下評価と理学療法を実施した65歳以上の患者98名とし,摂食嚥下障害臨床的重症度分類(DSS)の結果を基に,嚥下障害有り群(DSS6以下;36名),嚥下障害無し群(DSS7;62名)に振り分けた.調査項目は基本属性(年齢,性別,入院前の栄養方法,入院前の身体的フレイル(clinical frailty scale;CFS),疾患名,在院日数,栄養(Alb,GNRI)),身体機能(下腿最大周径,握力,歩行速度),ADL(mFIM)とし,それぞれカルテよりデータを収集した.なお,身体機能とADLは入院時と退院時のデータを収集した.基本属性の統計解析にはχ2検定ならびに対応の無いt検定を用いた.また,身体機能とADLの変化については二元配置分散分析を用い,事後検定にはBonferroni法を採用した.なお,有意水準は5%未満とした.

    【結果】

    対象者の平均年齢は82.5±7.8歳,女性が61名(62.2%)であり,平均在院日数は29.8±12.3日であった.無し群の疾患属性は運動器疾患が最も多く,有り群では内科疾患が多かった.2群間の基本属性を比較した結果,入院前のCFSと入院時のAlb,GNRIにおいて,有り群が有意に低値を示した.次に,2群間の入院時と退院時の身体機能やADLを比較すると,全項目で有り群は無し群より有意に低値を示した.一方,群内比較では有り群のみ歩行速度に有意な改善を認めた(有り群:入院時0.5±0.2,退院時0.7±0.3,無し群:入院時0.6±0.4,退院時0.8±0.4(m/s)).なお,mFIMについては,両群ともに群内比較で有意な改善を示した(有り群:入院時39.4±22.3,退院時51.4±24.8,無し群:入院時62.3±22.5,退院時82.5±12.0(点)).

    【結論】

    嚥下障害有り群の身体機能とADLは,入院時と退院時の両方で無し群より低値であった.つまり,本研究の結果は先行研究の結果を支持し,嚥下障害が身体機能に悪影響を及ぼすことが示唆された.一方で,嚥下障害有り群は歩行能力やADLにおいて退院時に改善を示した.つまり,嚥下障害が生じていても理学療法を行うことで身体機能やADLの改善が図れることが示唆された.今後は嚥下障害患者の身体機能やADL改善に効果的な理学療法介入を検証していきたい.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した.データは匿名化処理を行い,個人情報保護に十分配慮して管理した.

  • 津本 要, 小出水 和也, 大山 史洋, 財津 美紀, 二見 栞, 坂口 愛純, 平川 善之
    p. 131
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    頚部の角度や姿勢の違いが嚥下機能に及ぼす影響についての報告は多く見られるが、骨盤肢位の違いが嚥下機能に及ぼす影響についての報告は少ない。今回、骨盤肢位の違いによる嚥下機能への影響を嚥下造影検査(以下:VF検査)および筋電図学的に調査した。

    【方法】

    対象は全身および摂食機能に異常を認めない健常成人男性25名(平均年齢28.4歳)とした。姿勢は背もたれのない椅子座位とし、骨盤傾斜0°の中間位(以下:中間位)と骨盤最大後傾位(以下:後傾位)の2条件でVF検査を実施した。嚥下課題は各条件で冷水3㏄の指 示嚥下を3回実施した。その間、視線を目の高さに設定した印を 注視させ頚部を固定とした。時間解析は、嚥下反射の指標である STD(Stage-transition duration)と、舌骨運動の指標であるPRD(Pharyngeal response duration)をVF画像より評価した。筋活動の評価として、STD、PRD間の舌骨上筋群、後頚筋群、腹直筋、脊柱起立筋の表面筋電図を測定した。筋の測定はすべて右側とした。また、各条件での嚥下困難感をNumerical Rating Scale(以下:NRS)(0=飲み込みにくい~10=飲み込みやすい)を用いて評価した。各指標はすべて3回の平均値を算出した。統計解析は、2条件におけるSTD、PRD、NRSの差異と、STD、PRD間の各筋平均振幅の差異についてWilcoxon符号付順位和検定を行った。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    STDの平均は、中間位-0.017±0.12秒、後傾位-0.056±0.13秒で有意差を認めた(p<0.05)が、PRDに有意差は認められなかった。NRSの平均は、中間位6.6±1.8、後傾位4.4±2.5で有意差を認めた(p<0.05)。

    平均振幅はSTD、PRDともに後頚筋群、腹直筋、脊柱起立筋で有意差を認めた(p<0.05)。STD、PRDともに後頚筋、腹直筋で中間位より後傾位で平均振幅が増大し、脊柱起立筋は減少した。舌骨上筋群には有意差が見られなかった。

    【結論】

    STDは負の方向が嚥下反射惹起遅延を意味しており、今回、骨盤後傾位で嚥下反射惹起遅延が認められた。先行研究において、腹圧の上昇により食道内圧が高まり嚥下惹起性に影響を及ぼすことが指摘されている。今回、骨盤後傾位で嚥下筋への影響は見られなかったが、姿勢保持筋である腹直筋の筋活動の増大が認められ、それにより腹圧が上昇し食道内圧が高まり嚥下惹起遅延が生じたと考えられた。また、嚥下反射惹起遅延が嚥下困難感を増大させていたと考えられる。

    嚥下反射遅延を呈している患者において、頚部・体幹・骨盤のアライメント評価のみならず、腹圧による影響も考えられるため体幹筋の評価の必要性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は福岡リハビリテーション病院倫理委員会で承認を得て実施した。また、研究対象者には文章による説明を行い書面にて同意を得た。

  • 内田 学, 山田 真嗣
    p. 132
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    我が国で年間15万件発生するとされる大腿骨近位部骨折(HF)は、すべての骨粗鬆症に由来する骨折のなかで最も活動性が低下し、費用がかかる疾患である。2000年ではその発生は160万人であったが2050年には630万人に増加すると予測される。機能は骨折前と比べて骨折後では60%の患者で低下すると報告されている。高齢者に多発する事から発症前の栄養状態不良、手術侵襲などによるタンパク同化抵抗性が問題となる。術後のリハビリテーションにおいても筋肉タンパク質合成反応の低下が生じ臥床期間の延長、入院期間の延長が生じている。HFの術後合併症は肺炎(誤嚥性肺炎を含む)、心疾患が多く、入院中の死亡原因が肺炎によるものが30~44%を占める事が報告されている。これらは回復期リハビリテーション病院での発症が31.6%と高く、HFの合併症を未然に予防して早期社会復帰を支援していく事は喫緊の課題である。本研究では誤嚥性肺炎に影響を及ぼす嚥下機能に着目し、HFにて回復期リハビリテーション病院に入院している患者の嚥下機能を改善させる要因を特定する事を目的とした。

    【方法】

    2019年4月~2022年3月までの間に当院回復期リハ病棟に人棟したHF患者で、術後に嚥下困難感を訴えた102名のうち天井効果を考慮し入院時嚥下Gr7~10の患者を除外した58名(年齢82.14±9.5歳)を対象とした。基礎的情報として年齢、疾患名を診療録より調査した。また栄養状態の指標としてGNRI(Geriatric Nutritional Risk lndex)、嚥下機能評価指標として藤島式嚥下グレード(Gr)、日常生活動作能力評価指標として入院時FIM(Functional Independence Measure)運動・認知項目合計点を調査した。退院時嚥下Grから 入院時嚥下Grを減法したものを嚥下Gr改善度とした。嚥下Gr改善度を従属変数、年齢、疾患名(骨頭部骨折・頚部骨折・頚基部骨折をダミー変数に変換)、人院時GNRL、入院時FIM運動・認知項目の各合計点を独立変数としてステップワイズ重回帰分析(強制投入法)を実施した。次に人院期間を調整する目的で、1回日の重回帰分析にて抽出された項目に人院期間を投入して再分析を実施した。

    【結果】

    人院時嚥下Grは5.5±1.5で対象者の8.4%がGr3以下(重症)であり、経口摂取不可の状態であった。退院時嚥下Grは8.6±1.2となり、重症が23.4%、中等症が17.1%、軽症・正常が59.5%であった。入院時FIM運動項目合計点は14.6±3.2点と全介助から重度介助レベルであった。重回帰分析の結果、人院時GNRIとFIM運動項目合計点が有意な説明変数として抽出された。次に入院期間を投入しても同じ項目が抽出された。

    【結論】

    本研究の結果から、人院時GNRIと入院時FIM運動項目合計点は嚥下Gr改善に独立して関与する要因であることが示された。入院時に低栄養状態にある患者に対しては栄養強化療法を併用し状態の改善に努める必要がある。そして、リハビリテーションではより活動的に日常生活動作が行えるよう積極的な運動介入を行っていくことの必要性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施している。また、研究に先立って東京医療学院大学研究倫理審査委員会の承認(21 ‐8H)を受けている。

  • 佐藤 陽一, 阿部 貴文
    p. 133
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    サルコペニアは,脳卒中患者の機能的予後不良につながる因子である.急性期では,エネルギー摂取量低下による“栄養”,及び臥床時間の長期化による“活動”の影響で,入院中に二次性サルコペニアを発症する可能性がある.そのため,エネルギー摂取量の充足や1 日当たりの理学療法実施時間を長くすることは,脳卒中患者のサルコペニア新規発症を予防する可能性がある.しかしながら,これらの因子の関係性は現在までに明らかになっていない.そこで本研究の目的は,サルコペニアの無い急性期脳卒中患者のエネルギー摂取量と理学療法時間が,急性期病院退院時のサルコペニアの有無に与える影響を検討することとした.

    【方法】

    本研究は,2021年8月-2022年3月に当院に入院した急性期脳卒中患者の内,入院時にサルコペニアの無い81名(年齢70.5±12.2歳,男性47名)を対象とした後方視的研究である.サルコペニアはAsian Working Group for Sarcopenia基準(2019)の握力と骨格筋指数(SMI)のカットオフ値で定義した.<検討1>エネルギー摂取量がHarris-Benedict式の基礎エネルギー消費量を満たすか否かで2群に分けた.エネルギー摂取量は経口摂取に加え,経静脈・経腸栄養を含む全てのエネルギー量とした.<検討2>理学療法時間の中央値により,2群に分けた.それぞれの検討において,アウトカムは退院時のサルコペニアの有無とした.統計解析は退院時のサルコペニアの有無を従属変数,エネルギー摂取量もしくは理学療法時間を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った.その際,年齢,性別,Body Mass Index,National Institutes of Health Stroke Scaleスコア,入院時の握力・SMI・Functional Oral Intake Scale・Geriatric Nutritional Risk Index・Functional Independence Measure,蛋白質摂取量,作業療法・言語聴覚療法時間によって求めた傾向スコアを調整因子として用いた.

    【結果】

    急性期病院入院中のサルコペニアの発症率は17.3%(14名)だった.<検討1>エネルギー摂取量の充足していた患者が65.4%(53名),不足していた患者が34.6%(28名)だった.サルコペニアの発症率は,エネルギー摂取量の充足していた群が3.8%(2名)に対し,不足していた群では42.9%(12名)と有意に高かった(p<0.001).ロジ スティック回帰分析では,エネルギー摂取量の不足はサルコペニア発症と有意に関連した(オッズ比4.38,p=0.009).<検討2>サルコペニアの発症率は,理学療法時間が長い群が5.0%(2名)に対し,短い群では29.3%(12名)と有意に高かった(p=0.004).ロジスティック回帰分析では,理学療法時間とサルコペニア発症に有意な関連性は見られなかった.

    【結論】

    急性期脳卒中患者の内,17.3%が新たにサルコペニアを発症した.入院中のサルコペニア発症を防ぐためには,充足したエネルギー摂取量が重要な因子であることが示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言及び人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に則り,研究実施施設の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号02-024).本研究は,後方視的研究であるため,書面によるインフォームドコンセントを得ることができなかった.研究に関する全ての情報は公開され,参加者は書面の提出により研究への参加を拒否できる機会が保証された.

オンデマンド発表
栄養・嚥下オンデマンド
  • 上泉 理, 江端 純治, 高橋 友哉, 荒谷 隆, 千葉 春子
    p. 134
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    低栄養を認める病態は、身体機能やADL改善を阻害することが明らかとなってきており、リハビリテーション(以下リハビリ)を行う際の栄養評価は非常に重要である。近年、生体電気インピーダンス法(以下BIA法)により算出される位相角(Phase angle:以下PhA)は、細胞の生理的機能レベルを反映し、栄養状態や身体機能、生命予後と関連するといわれていることから注目されている。PhAと疾患との関連は、高齢者やがん患者、心大血管疾患では開心術や心不全において報告を認めるが、末梢動脈疾患(以下PAD)とPhAに関する報告はまだ認めず、その詳細は不明である。そこで本研究ではPADにおけるPhAからみた低栄養と身体機能の関係を検討した。

    【方法】

    2016年4月~2022年3月に当院でリハビリ処方された間歇性跛行を認めるFontaine分類II度のPAD患者44例(平均年齢73.5±8.4歳、男性31名、女性13名)を対象とし、後方視的観察研究とした。PhA はBIA法を採用している体組成計InBodyS10を用いて安静臥位で測定し、KyleらがPhAの栄養指標のcut off値として報告した男性≧5.0°、女性≧4.6°を参考に正常群と低栄養群の二群に分け、最大歩行距離、握力、等尺性膝伸展筋力、片脚立位時間、骨格筋量、足関節上腕血圧比(以下ABI)、基本属性を比較検討した。最大歩行距離は、トレッドミルを用いて速度2.4km/h、勾配12%の強度で症候限界負荷試験として実施し、骨格筋量はBIA法にて四肢骨格筋量を測定し、身長の2乗で補正した骨格筋指数(以下SMI)を算出した。また、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019サルコペニア診断基準を参考に骨格筋量と握力の両方が低下しているものをサルコペニアとして、その割合を調査した。統計方法は、t検定あるいはMann-Whitney検定を用いて、いずれの場合も有意水準は5%とした。

    【結果】

    低栄養群は全体の26名にあたる59.1%に認め、全体のPhAは4.52±0.98°、低栄養群のPhAは3.87±0.64°、正常群のPhAは5.47±0.49°であった。サルコペニアは低栄養群のみに認め、その割合は低栄養群の半数にあたる50%であった。また、低栄養群は正常群と比べ、PhA、SMI、最大歩行距離、等尺性膝伸展筋力、握力、片脚立位時間、BMIが有意に低値であり、年齢、ABI、合併症には有意差を認めなかった。

    【結論】

    PhAからみたPADの栄養状態は、低栄養のものを過半数に認め、正常群においても健常アジア人のPhAといわれる6.55±1.10°を上回るものが一人もおらず、PADには低栄養のものが多い可能性が示唆された。また、PADの低栄養群においては、サルコペニアの割合が多く、歩行能力や筋力、バランス能力などの身体機能や骨格筋量も有意に低値であった。PhAは運動療法によっても改善するとの報告もあり、PADと関わっていく際には、身体機能や骨格筋量だけでなくPhAも活用し、栄養状態を把握した上で介入していくことが重要と思われた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施した研究であり、KKR札幌医療センターの研究倫理委員会の承諾(承認番号2021-17)を得てから開始した。対象者には、事前に口頭にて研究の目的、方法、個人情報の取り扱いなどについて説明し、同意を得た。

  • 木村 鷹介, 音部 雄平, 鈴木 瑞恵, 増田 浩了, 小島 厳, 田中 周, 久住 治彦, 山本 晟矢, 吉村 友宏, 三枝 洋喜, 山田 ...
    p. 135
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    リハビリテーションの実施量を増加させることは、脳卒中者の日常生活活動能力(Activities of daily living、以下ADL)回復に寄与すると報告されている。しかし、そのトレーナービリティーの特性を検討した報告は少ない。先行研究において、Body mass index(以下、BMI)は回復期脳卒中者のADL回復に影響を与える要因であると報告されており、リハビリテーション実施量がADL回復に与える影響はBMIによって修飾される可能性がある。そこで本研究では、リハビリテーションの実施量が回復期脳卒中者のADL回復に与える影響について、BMIにて層別化して検討した。

    【方法】

    対象者は2017年4月から2020年12月までに6施設の回復期リハビリテーション病棟に入棟した脳卒中者とした。包含基準は、発症前のADLが自立していた者、診断名が脳出血あるいは脳梗塞であった者とした。除外基準は、入棟時点でADLが自立していた者、入棟後1か月以内に退院した者、医学的状態の増悪により急性期病棟へ転科した者とした。調査項目は、入棟時のBMI、基本属性(年齢、性別など)、医学的情報(脳卒中の病型、併存疾患など)、1日あたりの平均リハビリテーション実施量(提供単位数)、および入棟時と退院時のFunctional Independence Measure(FIM)として、各施設の診療録より後方視的に調査した。アウトカム指標は、入棟時と退院時のFIM得点の差分であるFIM利得とした。本研究では、BMIについて18.5kg/m 2 未満を痩せ群、18.5 kg/m 2 以上25.0 kg/m 2 未満を普通群、25.0 kg/m 2以上を肥満群と定義した。統計解析では、入棟時のBMI別にリハビリテーション実施量がFIM利得に与える影響を検証するために、従属変数にFIM利得を、独立変数にリハビリテーション実施量を、調整変数にその他の変数を投入した重回帰分析を3群で層別化して行った。

    【結果】

    包含基準を満たした1536名のうち、507名が除外基準に該当し、 最終解析対象者は1029名となった。全対象者の平均年齢は69.5±13.1歳、性別は男性が664名(64.5%)、平均リハビリテーション実施量は138.7±26.8分/日、平均BMIは22.1±3.6kg/m 2であり、痩せ群は129名(75.2歳、男性44.2%)、普通群は701名(70.3±12.5歳、男性65.2%)、肥満群は199名(62.9±12.9歳、男性75.4%)であった。FIM利得の平均値は、痩せ群で26.0±21.7点、普通群で30.7±17.2点、肥満群で33.8±18.4点であった。重回帰分析の結果、リハビリテーション実施量は痩せ群(標準化回帰係数β = 0.29, p < 0.001)と普通群(β = 0.18,p < 0.001)においてFIM利得に有意な影響を与えていた。肥満群では、リハビリテーション実施量はFIM利得に対して有意な影響を与えていなかった(β = 0.060, p = 0.234)。

    【結論】

    リハビリテーション実施量が回復期脳卒中者のADL回復に与える影響は入棟時BMIによって異なっていた。リハビリテーション実施量は痩せ群および普通群において、その実施量の増加がADL回復の促進に有効であることが示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、全研究協力機関の各倫理審査委員会の承認を得て行った(代表施設の承認番号:R2-38)。本研究は後方視的調査であったため、各施設の規程に則ってオプトアウトを実施し、研究対象者が参加を拒否できる機会を保障した。本研究に際し得た情報は個人を特定できないように匿名化した。また、データを保存した電子媒体に暗証番号を設定して、共同研究者以外に情報が漏洩しないように十分配慮した。

  • 宮本 陳敏, 南場 芳文, 劉 振, 栗本 由美, 宮本 明, 久保 高明
    p. 136
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    高齢者の呼吸機能低下は生活の質をはじめ,身体機能の低下とともにフレイルやうつ傾向,死亡率上昇との関連が多く報告されており,高齢者の呼吸機能低下の早期発見は生活機能が低下する前の予防に重要である.また,呼吸機能低下は,運動耐久性を低下させ,廃用症候群や肺炎のリスクを増大することも周知の通りである.しかし,いわゆる地域で暮らす健常高齢者は呼吸の症状が現れる前に気付きにくく,検査するには大規模の集団検診や医療機関での診察を受ける必要がある.このため,早期発見と早期予防するために簡単な検査手段が必要と考える.小規模地域に在住する高齢者の呼吸機能に関連する健康のパラメータを検出し,呼吸機能低下の早期予防から地域高齢者の健康寿命に寄与することが本研究の目的である.

    【方法】

    兵庫県神戸市の小規模住宅が集中する地域に在住する高齢者を対象とした.本研究は筆者が地域講演会を開く際,本研究に同意した14名(女性8名,男性6名)の高齢者に対し呼吸機能検査は電子式診断用スパイロメータ(ミナト医科学社オートスパイロ307)を使用し,努力性肺活量,一秒量(FEV1.0),一秒率(FEV1.0%)を算出した.健康パラメータは握力,下腿周径,唾液空嚥下テスト,簡易栄養状態評価表(MNA-SF)と聖隷式嚥下質問紙の関係を調査した.呼吸機能と握力,下腿周径,摂食嚥下機能と栄養状態の関係を多変量相関の処理をした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施され,対象者全員には研究内容を十分説明し,調査対象の同意を得た.

    【結果】

    年齢,性別,体脂肪指数(BMI)で調整しても,努力性肺活量は利き手握力,非利き手握力のいずれにも有意な正の相関が認められたが,他のパラメータとの有意な差はなかった.

    【結論】

    小規模地域に在住する高齢者14名を対象に,呼吸と健康パラメータに関するスクリーニングテストを行った結果,握力が呼吸器機能との関係性が示された.握力と呼吸筋力はともに随意努力が必要であり,握力測定も腹圧のコントロールが不可欠である.今回,両手とも握力が呼吸機能との相関性を示されたことは,仮に片麻痺やリウマチなどの障害があっても,片手の握力のみで,呼吸機能をスクリーニングできる可能性を示唆したことは意味があると考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施され,対象者全員には研究内容を十分説明し,調査の対象になると共に,研究内容の公開についても同意を得た.また,本研究は個々人が特定されないよう努めている.

  • 折内 英則
    p. 137
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【症例紹介】

    性別・年齢:男・60歳台。(現病歴)ホテルでの長期滞在中に発熱・下痢症状出現した。食事が摂れず体動困難となり救急搬送され、低栄養、多発褥瘡、結腸膀胱瘻、S状結腸癌の診断となる。手術が計画され同時に周術期のリハビリテ-ション開始となった。(既往歴)高血圧、高脂血症。(社会背景):独身、ADL自立、無職。

    【評価結果と問題点】

    JCS:0。認知症なし。四肢筋力(MMT):3。ADL(Barthel Index):15/100。BW:48.6kg。BMI(Body Mass index):17.2kg/m 2。栄養(GLIM criteria):重度低栄養。サルコペニア(AWGS2019):サルコペニアの疑い。褥瘡(DESIGN-R®2020):上下肢に14カ所(各6~18点)。評価と問題点の統合:多発褥瘡や低栄養などの全身状態不良が周術期における運動機能・能力向上を図る上で問題点となった。

    【介入内容と結果】

    運動機能・能力改善を目標に栄養管理下で積極的運動を実施した。1~2ヵ月で体重2~3kg増加を目指した。これを、NST(Nutrition Support Team)等で管理した。運動は侵襲や摂取エネルギー量(以下、摂取E)に応じて1.5~3.5METsを目安とした。一日必要エネルギー量1800kcal、必要蛋白質量(g/kg/日):60gから開始し随時運動量などを鑑み検討した。(経過)〈第2病日〉欠食。PPN・TPNで栄養投与。(摂取E):1840kcal、摂取蛋白質量(以下、摂取pro)60g。四肢運動・歩行練習等を軽負荷で実施。〈第19病日〉摂取E:2040kcal、摂取pro:60g。BW:48.6kg。褥瘡5ヵ所へ減少。〈第22病日〉S状結腸切除+両側尿管ステント留置+膀胱部分切除+人工肛門造設術施行。〈第26病日〉食事開始も食思不振。摂取E:399kcal、摂取pro:2g。運動耐久性低下。BW:46.9kg。〈第33病日〉栄養補助食品等提供。摂取E:817kcal、摂取pro37.4g。褥瘡1ヵ所へ減少。〈第40病日〉摂取E:2071 kcal、摂取pro:60g。BW:49.3kg。積極的RT実施。〈第71病日〉摂取E:1951kcal、摂取pro:80g。積極的自主トレ。膀胱吻合部治療継続。〈第90病日〉摂取E:1951~2000kcal、摂取pro:80g。嗜好食も間食で摂取。BW:50.5kg。Barthel Index:95/100。介護施設利用のため退院。

    【結論】

    周術期の理学療法を検討する際には栄養評価が重要とされる。本症例は術前からの重度低栄養が大きな問題点であった。運動機能・能力目標を踏まえ、飢餓、侵襲、運動等による栄養状態を考慮した理学療法が運動機能・能力向上に繋がったと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は患者に研究内容を十分説明し,対象になることについて同意を得た。

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