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野田 哲史, 飯田 洋也, 藤本 剛英, 若杉 吉宣, 藪田 直希, 須藤 正朝, 平 大樹, 谷 眞至, 安藤 朗, 森田 真也, 寺田 ...
セッションID: 42_2-P-K-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】レンバチニブは、進行性肝細胞がんの1次治療で承認された経口マルチキナーゼ阻害薬である。しかし、用量制限毒性となる重篤な有害事象の発現や腫瘍縮小効果の個体差が大きいことが臨床上問題となっている。したがって、これらを予測するバイオマーカーの同定は喫緊の課題である。そこで本研究では、レンバチニブの至適濃度の同定を目的として、レンバチニブの血中濃度と副作用・治療効果の関連について、後方視的観察研究を実施した。【方法】2018年8月から2020年5月までの間で、滋賀医科大学医学部附属病院で、レンバチニブを投与され、血中濃度測定の同意を得た肝細胞がん患者28名を対象とした。レンバチニブは、60 kg以上では12 mg、60 kg未満では8 mgで開始した。レンバチニブのトラフ濃度と、grade 3(CTCAE v. 5.0)以上の副作用、および腫瘍縮小効果・無増悪生存期間の関連を解析した。【結果・考察】Grade 3以上の副作用を発現した患者(15名)のレンバチニブの血中濃度は、grade 2以下の副作用を発現した患者(13名)と比較して、有意に高値であった。腫瘍縮小効果が判定できた23名のうち、responder(最大縮小率が完全奏功、部分奏功、あるいは安定であった患者)は21名、non-responderは2名であった。Receiver operating characteristic解析の結果、grade 3以上の副作用を発現する有意なカットオフ値は、71.4 ng/mL[Area under the curve(AUC); 0.86、p < 0.05、95%信頼区間:0.71-1.00]であった。一方、responderの有意なカットオフ値は、36.8 ng/mL(AUC; 0.95、p < 0.05、95%信頼区間:0.85-1.00)であった。さらに、レンバチニブ濃度が36.8-71.4 ng/mLの患者(11名)の無増悪生存期間は、36.8 ng/mL未満の患者(4名)、あるいは71.4 ng/mL以上の患者(13名)の患者と比較して、延長する傾向を認めた [中央値13.3か月(36.8-71.4 ng/mL) vs. 3.5か月(36.8 ng/mL未満) vs. 7.8か月(71.4 ng/mL以上)]。【結論】本結果より、レンバチニブの至適濃度は36.8-71.4 ng/mLとなることが示唆された。
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中川 潤一, 金城 貴彦, 相内 尚也, 上野 桂代, 富田 泰史, 新岡 丈典
セッションID: 42_2-P-K-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】経口第Xa因子阻害薬の一つであるアピキサバンは薬物代謝酵素CYP3A4/5、薬物トランスポーターのP糖蛋白質(P-gp)及び乳癌耐性蛋白質(BCRP)の基質である。CYP3A5、P-gp及びBCRPをコードするCYP3A5、ABCB1及びABCG2の遺伝子多型は、これらの基質となる薬物の体内動態に影響を及ぼすことが知られているが、アピキサバンの体内動態に影響を与えるか否かについては意見が分かれている。そこで本研究ではアピキサバンの定常状態におけるトラフ血漿中濃度(C0h)に及ぼす、CYP3A5、ABCB1及びABCG2の遺伝子多型の影響について解析を行った。
【方法】弘前大学医学部附属病院に入院している心房細動患者を対象とし、アピキサバン服用後7日以上経過した時点において、内服12時間後に採血を行なった。CYP3A及びP-gpの活性に影響を及ぼす薬物を併用中の患者は解析から除外した。C0hはUPLC-MSMS法を用いて測定した。CYP3A5*3、ABCB1 c.1236C>T, c.2677G>A/T, c.2482-2236G>A, c.3435C>T及びABCG2 c.421C>Aの遺伝子多型はTaqmanプローブを用いたリアルタイムPCR法により解析した(倫理委員会承認番号:2018-011)。
【結果】96名の心房細動患者が本研究の対象となった。単変量解析の結果、アピキサバンの1回投与量(D)で補正したトラフ濃度(C0h/D)は各遺伝子多型間で有意差は認められなかった(全てP>0.05)。また、C0h/Dを目的変数としたステップワイズ法による多変量解析においても、これらの遺伝子多型は説明変数としてエントリーされなかった。一方、クレアチニンクリアランス及び血清アルブミン値は、C0h/Dの独立変数であった(partial R2 = 0.155, P<0.001及びpartial R2 = 0.121, P<0.001)。
【考察】クレアチニンクリアランスおよび血清アルブミン値が低い心房細動患者は、アピキサバンの血中濃度が上昇するリスクを有することが明らかとなった。アピキサバンの体内動態を予測する際は、CYP3A5、ABCB1及びABCG2の遺伝子多型よりも、腎機能や肝機能が指標になり得ると考えられる。
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田中 紫茉子, 砂川 由香理, 若松 しのぶ, 山本 駿, 柏倉 康治, 龍口 万里子, 佐藤 亮太, 並木 徳之, 乾 直輝, 前川 裕一 ...
セッションID: 42_2-P-K-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant, DOAC)は定期的な凝固能検査が不要であるという利点を有し、国内で4種のDOAC(apixaban, edoxaban, dabigatran及びrivaroxaban)が臨床使用されている。しかし、現在DOACは治療効果を判定する上で有用な指標が存在しないため、DOAC服用中患者の血漿中薬物濃度を測定することで、治療効果や副作用の評価に有用となる可能性がある。よって、全種類のDOACを網羅的かつ簡便に定量できる手法を確立できれば、臨床的に有意義であると考えられる。そこで本研究では、LC-MSを用いてDOAC4剤の血漿中薬物濃度の同時定量法を検討した。
【方法】血漿サンプル0.3 mLに内部標準物質としてApixaban-d3 (10 ng) を添加し、OASIS μElution plateで固相抽出後、測定サンプルとした。移動相は5 mM ammonium acetate (A) 及びacetonitrile (B) 、流速0.3 mL/min とし、測定0-10分でA:B(3:1)→(1:9)となるように直線的に変化させた。カラムはZORBAX Eclipse Plus C18を使用した。検量線は内部標準法を用いて5回測定し、真度、精度及び直線性について評価した。また回収率、マトリックス効果及び検体の保存安定性についても評価を行った。
【結果・考察】Apixaban, edoxaban, dabigatran及びrivaroxabanは、クロマトグラム上でそれぞれ3.8, 4.1, 1.0及び3.9分に検出され、1測定あたり10分であった。検量線はいずれの薬物においても1-500 ng/mlの範囲で良好な直線性を示し、定量値の真度及び精度はそれぞれ理論値の<±9.2%及び<8.8%であり、回収率及びマトリックス効果の精度はそれぞれ<12.4%及び<13.7%であった。また-30℃の保存条件下で4週間の安定性が認められた。さらに、本定量法を用いてDOAC服薬中の患者検体の血漿中濃度測定が可能であった。本研究の結果、医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションガイドラインにおける基準に合致したDOACの血漿中濃度の同時定量法を確立することができた。
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木村 耕二, 吉田 篤史
セッションID: 42_2-P-K-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)に対するインフリキシマブ(IFX)の治療効果には、個体差があることが報告されている。そのため、IFXを適正に使用するためには、投与開始後早期より患者個別にその治療効果を予測し、最適な投与設計を行う必要がある。そこで本研究では、薬物動態学および薬力学(PK / PD)理論に基づき、IFX投与開始後早期に患者毎の血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を定量的に予測することで、IBD患者個別にIFXの最適な投与設計を行うことについて検討を行った。
【方法】IFX投与開始後早期において、PK / PDモデルおよびマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたベイズ推定により、患者毎にPK / PDパラメータを求め、その血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を予測した。そして、維持投与期において血清中IFX濃度および治療効果指標の予測値と実測値が一致するかについて検討を行った。また、治療効果指標の寛解基準に基づき、各患者の最終評価時点における治療効果の有無を予測できるかについて評価した。
【結果・考察】IBD患者(CD患者8名、UC患者7名)から得られたデータを用いて解析を行った結果、血清中IFX濃度(Pearson product-moment correlation coefficient, 0.700; p<0.0001, 68時点)、UC患者(0.740; p=0.001, 16時点)およびCD患者(0.785; p<0.0001, 25時点)の治療効果指標において、予測値と実測値との間に有意な高い相関が認められた。また、各患者の最終評価時点(day 115からday 203)における治療効果の有無について、15例中14例(93.3%)で予測することができた。
【結論】本研究は、PK/PD理論に基づいて、IFX投与開始後早期に患者毎の血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を定量的に予測したものであり、本研究の結果、IBD患者個別にIFXの最適な投与設計を行うことができる可能性が示された。
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張 夢雨, 田島 壮一郎, 重松 智博, 岡部 安博, 江頭 伸昭, 家入 一郎
セッションID: 42_2-P-K-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】腎移植後の免疫抑制療法においては、免疫抑制薬の薬物血中濃度モニタリングに基づく投与量調節が実施されているが、移植腎組織内濃度を測定した報告は少ない。そこで本研究では、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度測定法を確立するとともに、腎組織内濃度と血中濃度や病理組織における拒絶反応との関連性について検討した。
【方法】LC-MS/MS(LCMS-8050, Shimadzu)を用いて、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度を同時に分析する測定法を確立し、FDAのガイドラインを遵守して分析バリデーションを行った。次に九州大学病院で腎移植を受けた患者を対象とし、書面により同意が得られた14症例のプロトコル腎生検で採取した余剰組織を用いて、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度を測定した。一方、タクロリムスおよびエベロリムスの血中濃度は化学発光酵素免疫測定(CLIA)法および電気化学発光免疫測定(ECLIA)法にて測定した。本研究は、九州大学病院臨床研究倫理委員会による承認を得て実施した。
【結果・考察】分析バリデーションの結果、選択性、日内・日差精度、真度、回収率、マトリックス効果および安定性はFDAの基準範囲内であった。またタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度は、それぞれ21.0-86.7 pg/mg tissue、33.5-105.0 pg/mg tissueであり、投与量で補正した血中トラフ濃度と投与量で補正した腎組織内濃度には正の相関関係(P<0.0001, r = 0.8901; P = 0.0479, r = 0.5429)を認めた。一方、これらの腎組織内濃度は、病理組織における拒絶反応の有無とは相関しなかった。以上の結果から、腎移植患者におけるタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度は血中トラフ濃度と関連することが示唆された。
【結論】本研究では、LC-MS/MSを用いたタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度測定法を確立し、それらの腎組織内濃度が血中トラフ濃度と相関することを明らかにした。
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田中 遼大, 白岩 健, 高野 久仁子, 緒方 正男, 甲斐 真己都, 龍田 涼佑, 伊東 弘樹
セッションID: 42_2-P-K-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】血液悪性腫瘍患者は易感染性の宿主が多く、深在性真菌症予防目的にアゾール系抗真菌薬が投与されることが多い。本邦ではフルコナゾール(FLCZ)、イトラコナゾール(ITCZ)、ボリコナゾール(VRCZ)、ポサコナゾール(PSCZ)の4種類が承認されているが、イサブコナゾール(ISCZ)も臨床開発段階にある。これらの薬剤およびITCZの主代謝物であるヒドロキシイトラコナゾール(ITCZ-OH)の体内動態は個体間・個体内変動が大きく、特に造血幹細胞移植患者では腸管の粘膜障害によりバイオアベイラビリティが低下している患者が多い。そのため、治療薬物モニタリングによる個別投与設計が重要であるが、薬物毎に異なる測定系を用いた場合、臨床現場では煩雑であり解析までに多くの時間を要する。本研究ではこの課題を克服するために、超高速高分離液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析を用いてハイスループットかつ高感度な6成分(VRCZ、ITCZ、ITCZ-OH、FLCZ、PSCZ、ISCZ)の同時測定系を確立することを目的とした。
【方法】前処理は96-well MCX μElution plateを用いた固相抽出法を選択し、内標準物質は各薬剤の重水素体を使用した。バリデーションは生体試料分析に関するFDAガイダンスに準拠し実施した。なお、本研究は大分大学医学部倫理委員会による承認を得て実施した(承認番号:1799)。
【結果・考察】各薬剤の保持時間は1.85~2.43分であり、6分/検体の短時間での測定が可能であった。各薬剤の回収率は≧74.9%であり、Matrix effectは濃度間に差異が認められなかった。日内変動の真度(-13.91~11.69%)および精度(CV≦10.66%)、日間変動の真度(-5.92~7.77%)および精度(CV≦10.87%)ともにFDAガイダンスの基準を満たし、直線性(r2≧0.9912)も良好であった。凍結融解に対する安定性およびオートサンプラー内に24時間放置した際の安定性は良好であったが、72時間放置の安定性はFLCZとITCZがFDAガイダンスの基準を満たさなかった。健常人検体を用いて特異度を評価したところ、各薬剤の保持時間に妨害ピークは見られず、高いS/N比(≧12.3)を確認した。血液悪性腫瘍患者12例を対象に血漿中濃度を測定したところ、全て検量線範囲内であり、ISCZを除く薬剤の臨床適応性が確認された。
【結論】ハイスループットかつ高感度な6種のアゾール系抗真菌薬および代謝物の同時測定系の開発に成功し、臨床応用可能であることが明らかとなった。
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野澤 健二, 渡部 智之, 佐伯 浩之, 桜井 努
セッションID: 42_2-P-K-8
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】ファビピラビルは新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症を適応症として国内で製造販売承認を取得した抗ウイルス薬である。ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害してウイルス複製を停止させることから,新型コロナウイルス,重症熱性血小板減少症候群ウイルス,エボラウイルス等のRNAウイルスに対しても効果が期待されている。ファビピラビルの薬物動態の特徴として,反復投与により消失に飽和が生じ,線形のコンパートメントモデルでは予測できない濃度推移が認められた。そのため,反復投与時の薬物動態を予測して投与量の決定に利用可能となるようなモデルの構築を検討した。
【方法】日本及び米国の健康被験者,肝機能,腎機能障害者の血漿中濃度データ (226名,6229ポイント) を用いて,NONMEM (version 7.4) により解析した。非線形な薬物動態を生じさせる原因として,mechanism based inhibitionの寄与が知られているアルデヒドオキシゲナーゼ (AO) の代謝への関与と考えられるため,AO代謝に対して阻害を受けると仮定したモデルをベースに,共変量は,体重をアロメトリー関数としてCL/F及びVd/Fに組み込んだ。年齢については,経口からの吸収速度定数 (ka) に影響すると仮定した。人種・民族については,米国人及び日本人でVmax (AOの最大消失速度) 及びKdeg (AOの生成速度) での違いを検討した。更に,肝機能障害者の曝露量の上昇をモデル式に加えるとともにスパース採血での感染症患者の予測も試みた。
【結果・考察】モデルに含めた共変量のうち,年齢が35歳未満と60歳超でkaの低下が認められた。日本人に対して米国人は酵素の消失速度及び生成速度に相違が認められ,1日目の負荷投与量の後に維持用量で濃度推移が一定になった。日本人の維持用量 800 mgは米国人の 600 mg投与と曝露量が類似し,AOのKdegに違いがあるためと考えた。更に,重度肝機能障害者は,血漿中からの消失が遅延し,スパース採血での感染症患者の予測も可能であった。
【結論】本モデルを使用することで,年齢,人種,特殊集団の特性を考慮した薬物動態の予測が可能となり,投与量の決定に有用であった。
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細畑 圭子, 松岡 裕之, 熊谷 悦子, 岩永 一範
セッションID: 42_2-P-L-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】高血圧およびそれに伴う腎臓病の発症・進展には酸化ストレスが関与することが知られている。これまで我々は酸化ストレスによって惹起されるvanin-1が高血圧モデル動物において腎障害進展と関連することを明らかにしてきた。本研究では、高血圧患者において尿中vanin-1が腎機能低下の予測因子になるか否かについて検討した。【方法】長野県飯田市の健和会病院を受診した成人高血圧患者を対象とし、同意取得後、日常診療時に採取した随時尿からvanin-1を測定した。vanin-1と追跡期間におけるeGFR20%以上低下との関連を各種因子(年齢、性別、降圧療法、喫煙の有無、肥満)で補正したCox比例ハザードモデルにより解析した。【結果・考察】解析対象者は随時尿または追跡期eGFR値が得られなかった患者を除外した147例(年齢72.9±8.2歳、女性39%)であり、平均12.5ヶ月の観察期間中にeGFR値が20%以上低下した症例は14例であった。vanin-1中央値(0.33 ng/mg Cr)で2群に分けたKaplan-Meier曲線では 0.33 ng/mg Cr 以上の患者群は、0.33 ng/mg Cr 未満の患者群と比較して有意にeGFR値が低下した。さらに各種因子で補正した多変量Cox比例ハザード解析の結果、尿中vanin-1はeGFR低下の独立した予測因子であった。【結論】高血圧患者における尿中vanin-1濃度は腎機能低下を予測する上で、その測定が有用であることが示唆された。
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平塚 真弘, 渡邊 卓嗣, 齋藤 雄大, 菱沼 英史, 公文代 將希, 前川 正充, 小田 彰史, 齋藤 さかえ, 三枝 大輔, 田高 周, ...
セッションID: 42_2-P-L-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】薬物代謝酵素CYP2B6遺伝子の多型性は、抗HIV薬をはじめ多くの薬物代謝反応の個人差を引き起こすと考えられている。CYP遺伝子多型の位置や頻度には民族集団差が存在するため、塩基多型に由来するアミノ酸置換等の酵素活性に及ぼす影響の解析は、日本人集団で同定されたバリアントに関して行うことが重要である。そこで本研究では、東北メディカル・メガバンクの全ゲノム情報を活用して、39種類のCYP2B6遺伝子多型バリアントの機能変化を解析し、薬物代謝活性に及ぼす影響を検討した。【方法】野生型CYP2B6のcDNA配列中に遺伝子多型を導入したバリアント発現ベクターを作製し、ヒト胎児腎臓由来293FT細胞中に各バリアント酵素を発現させた。次に、還元型一酸化炭素吸収差スペクトル測定法によりCYP2B6のホロP450含量および抗CYP2B6抗体を用いたウェスタンブロット法によりホロとアポP450の総量を定量した。酵素機能変化に関しては、抗HIV薬エファビレンツ (EFZ) を基質として一定時間反応させ、代謝物である8-水酸化体をLC-MS/MSを用いて定量し、酵素反応速度論的パラメータを算出した。さらに、3次元ドッキングシミュレーションモデル解析により酵素活性変化の分子メカニズム解明も試みた。【結果・考察】EFZ代謝活性測定において、39種のバリアントのうち15種で酵素活性の消失を認めた。また、酵素反応速度論的パラメータが算出できた24種のバリアントのうち、野生型CYP2B6と比較して、6種で酵素活性が有意に低下し、6種で有意に上昇することが明らかとなった。酵素活性が消失したバリアントのほとんどで、ホロP450含量が定量限界以下であった。また、酵素活性が大きく変化したバリアントでは、ホロP450含量の低下やアミノ酸置換部位周辺のループ構造およびヘリックス構造の変化が認められた。【結論】本研究により、野生型を含めた40種のCYP2B6バリアントについて、それらの酵素活性変化を明らかにした。EFZ服用患者において、酵素活性の消失あるいは低下が生じるCYP2B6遺伝子多型を有する場合、中枢神経障害等の副作用発現リスクの増大や治療中断に繋がる可能性が考えられる。今回の知見がCYP2B6遺伝子多型を考慮した個別化薬物療法を実施する上での情報基盤となり、さらなる臨床応用が期待される。
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黒澤 優子, 内藤 隆文, 前川 真人, 伊東 宏晃, 川上 純一
セッションID: 42_2-P-L-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1Bは内因性物質や薬物の肝細胞への取り込みを媒介する輸送担体である。OATP1Bの輸送機能を反映する内因性マーカーとして、コプロポルフィリン群やビリルビンなどが知られるが、近年、胆汁酸硫酸抱合体がOATP1Bの内因性マーカー候補となることが報告された。しかし、ヒト血漿試料における異性体の存在や胆汁酸硫酸抱合体のLC分離時の金属カラムへの吸着等が定量上の課題であるため、ヒト血中濃度分析に関する報告は限られている。本研究では、胆汁酸硫酸抱合体であるグリコケノデオキシコール酸硫酸抱合体(GCDCA-S)およびグリコリトコール酸硫酸抱合体(GLCA-S)のヒト血漿中濃度について、メタルフリーPEEKカラムを用いたLC-MS/MS法による同時定量法を開発することを目的とした。
【方法】アセトニトリル水を添加し、除タンパク処理を行った血漿試料を分析に使用した。分析カラムにはメタルフリーPEEKカラム(InterSustain AQ-C18)を採用した。移動相には37%アセトニトリルおよび0.1%ギ酸を含む水溶液を用い、流速0.3 mL/min、カラム温度60℃の測定条件下でLC分離を行った。米国FDAガイダンスに基づき、選択性、直線性、真度、精度、マトリックス効果、回収率、キャリーオーバー、安定性およびヒト血漿試料への適用性について評価した。
【結果・考察】上記の測定条件にて、血漿試料に含まれる異性体を含む他の内因性物質とのGCDCA-S、GLCA-S および内部標準物質のピーク分離は良好であり、全ての物質が10分以内に検出可能であった。また、LC分離にメタルフリーPEEKカラムを用いることで、硫酸抱合体の分析カラムへの吸着が抑制され、ピークのテーリングと感度が改善した。検量線においては、いずれの測定物質も、2.5-1500 ng/mLの濃度範囲においてr>0.99の良好な直線性が得られた。分析単位内および単位間における平均真度は理論値の±15%以内、精度は15%以下であった。マトリックス効果およびキャリーオーバーは認めらなかった。室温保管下において血漿中の測定物質の安定性も確認された。また、健常成人男女8人における血漿中GCDCA-SおよびGLCA-S濃度は、それぞれ、56-437、8.9-320 ng/mLであり、検量線の濃度範囲はヒト血漿試料へ適用する際に妥当であると考えられた。
【結論】本定量法により、簡便な前処理によるヒト血漿中GCDCA-SおよびGLCA-Sの同時測定が可能であった。
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柴田 理沙, 川口 菜穂, 窪田 竜二, 越道 大樹, 石橋 徹, 輪嶋 恵宏
セッションID: 42_2-P-L-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】バロキサビル マルボキシルの代謝物であり本薬剤の活性体であるS-033447の薬物動態(PK)は人種差があり,アジア人と非アジア人で投与24時間後濃度に違いが認められている.
バロキサビル マルボキシルは小腸,血液,肝臓中のarylacetamide deacetylase (AADAC) によって速やかにS-033447に加水分解され,S-033447はUGT1A3によりグルクロナイドに代謝される. AADACは遺伝子多型が知られており,AADAC*3は活性が低く日本人と白人で発現頻度の違いがあることが知られている.また,UGT1A3も遺伝子多型が知られており,UGT1A3*2はUGT活性を強め,更に,日本人と白人で発現頻度の違いがあることが知られている.
本研究の目的は, S-033447のPKの人種差における遺伝子多型の影響を検討することである.
【方法】第1相臨床試験 (12試験,N=315) で同意が得られバンキングしたDNAに対して遺伝子解析を実施した.PKパラメータに対して,AADACとUGT1A3の遺伝子多型及び,体重,人種を固定効果とする共分散分析(ANCOVA)を実施し,S-033447のPKの個体間変動における遺伝子多型の影響を検討した.
【結果・考察】AADACの多型頻度は人種間で差がなく,AADACの遺伝子型間でPKパラメータに差はなかった. UGT1A3について,UGT1A3*2のアレル頻度はアジア人と比較し白人/黒人で高かった.また,血中濃度推移から,*1/*1と比較して*1/*2では血漿中濃度の消失が早く,*1/*4は消失が遅い傾向がみられ,AUCにおいても*1/*2 は 低値を,*1/*4高値を示した.更に,体重及び人種差の影響を入れたモデルを用いてANCOVAで解析した結果,*1/*2, *1/*4におけるUGT活性の違いがみられた.一方,UGT1A3の同じ遺伝子型中でアジア人と白人のPKパラメータを比較すると,白人はアジア人と比較してCmax及びAUCが約40%低値を示したことから,S-033447のPKの人種差はUGT1A3活性の差 (遺伝子多型の頻度の差) のみでは説明できないと考えられた.
【結論】本研究により,S-033447のPKの人種差は,AADACの遺伝子多型は関係しないこと,そして部分的にUGT1A3の遺伝子多型に起因することが明らかとなった.
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小田 絢子, 鈴木 陽介, 佐藤 春輝, 小山 晃英, 大野 恵子
セッションID: 42_2-P-L-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】Cytochrome P450(CYP)3A活性を反映する内在性基質として4β-hydroxycholesterol(4β-OHC)が着目されている。個体間のCYP3A活性を横断的に評価する場合、血漿中4β-OHC濃度または4β-OHCを総コレステロール(TC)で除した4β-OHC/TCが用いられるが、その優劣は明らかになっていない。また、近年、4β-OHCの立体異性体でありコレステロールの自動酸化のみで生成する4α-hydroxycholesterol(4α-OHC)で4β-OHCを除した4β-OHC/4α-OHCが提唱されているが、この有用性も詳細に検討されていない。本研究では、一般成人におけるCYP3A5遺伝子多型の情報を用いて、個体間のCYP3A活性を横断的に評価する場合、血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC及び4β-OHC/4α-OHCのいずれの指標がより有用かについて検討した。
【方法】全国多施設共同コホート研究に参加した一般成人410名を対象にした。血漿中4β-及び4α-OHC濃度の測定はUHPLC-MS/MS法、TCの測定は酵素法で行った。ゲノムワイド関連解析の結果からCYP3A5*3の有無を判定し、CYP3A5*1/*1(n=23)、*1/*3(n=166)及び*3/*3(n=221)の3群に分類した。3群間の血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC及び4β-OHC/4α-OHCをKruskal-Wallis検定及びDunnの事後検定で比較した。なお、本研究は明治薬科大学及び京都府立医科大学の研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:3023、ERB-C-1384)。
【結果・考察】血漿中4β-OHC濃度は3群間で有意差が認められた(p<0.0001)。事後検定の結果、血漿中4β-OHC濃度は、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*3群でのみ有意に高かった(p<0.0001)。4β-OHC/TCは3群間で有意差が認められ(p<0.0001)、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*1群(p=0.033)及びCYP3A5*1/*3群(p<0.0001)で有意に高かった。4β-OHC/4α-OHCは3群間で有意差が認められ(p<0.0001)、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*3群でのみ有意に高かった(p<0.0001)。4β-OHC/TCは、血漿中4β-OHC濃度と比較してCYP3A5の遺伝的背景の影響をより鋭敏に反映すること、本研究の対象においては、4α-OHCによる補正は不要であることが示唆された。
【結論】4β-OHC/TCは、個体間のCYP3A活性を横断的に評価する指標として最も有用であることが示唆された。また、一般成人のように酸化ストレスの影響が少ないと考えられる場合は、4α-OHCによる4β-OHCの補正は不要であることが示唆された。
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滝田 浩之, Barnett Shelby, Zhang Yueping, Menochet Karelle, Shen Hong, Ogu ...
セッションID: 42_2-P-L-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【Background】Coproporphyrin I (CPI) is a sensitive endogenous biomarker of organic anion transporting polypeptides (OATP) 1B transporters. This study developed a reduced PBPK model to investigate the impact of OATP1B1 c.521T>C genotype, ethnicity and sex on baseline plasma concentration and AUCR of CPI.
【Methods】The model implemented mechanistic descriptions of CPI hepatic transport between liver blood and liver tissue and renal excretion. Key model parameters (endogenous synthesis rate (ksyn), hepatic uptake clearance (CLact)) were estimated using clinical data from 42 subjects. Covariate data (OATP1B1 genotype, ethnicity and sex) were available for all subjects. CPI AUCR with hypothetical OATP1B inhibitors were simulated using the developed CPI model and over the range of CLact and ksyn relative to values in male Caucasians with 521TT genotype.
【Results】The optimized CPI model successfully described the observed data using three covariates. CPI CLact decreased by 75% in subjects with 521CC genotype relative to the wild type and by 37% in Asian-Indians relative to Caucasians. CPI ksyn was 24% lower in female relative to male. Baseline CPI increased with decreasing CLact (the effect of OATP1B1 genotype or ethnicity), whereas opposite trend was seen with decrease in ksyn (the effect of sex). Theoretical simulations illustrated high sensitivity of CPI AUCR to changes in CLact and more pronounced impact of the genetic effect on the CPI AUCR, whereas differences in ksyn did not affect the interaction magnitude.
【Conclusion】CPI AUCR is highly sensitive to changes in CLact, but not to ksyn; the latter highlights no risk of underestimation of the interaction magnitude if female subjects are included in the clinical study. The CPI model can facilitate the design of prospective clinical studies in subjects with multiple covariates to maximise the sensitivity of the biomarker [1].
【Reference】1. Takita et al. (2021) CPT Pharmacometrics Syst. Pharmacol. 10, 137-147.
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塚越 絵里, 中村 亮介, 浅田 秀夫, 斎藤 嘉朗
セッションID: 42_2-P-L-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】医薬品の副作用の中で特異体質性のものは発症予測が難しく、医薬品の安全対策上重要である。特にStevens-Johnson 症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、及び薬剤性過敏症症候群等の重症薬疹は、副作用被害救済制度において最上位を占め、予測・予防型の対策が求められている。特定の原因薬について、重症薬疹の発症と関連する遺伝子多型が日本人で報告されているが、いまだ臨床応用されていない。その理由として最も大きなものは、簡便な測定系がないために臨床研究がなされていないことである。本研究は、高尿酸血症治療薬のアロプリノールについて、重症薬疹の発症と関連が報告されているHLA-B*58:01と連鎖不平衡にある一塩基多型(SNP)に関し、重症薬疹発症予測のための迅速診断に用いうる簡便な核酸クロマトグラフィー法を構築することを目的とした。【方法】当研究室は、厚生労働省や日本製薬団体連合会の協力の下、全国より重症薬疹発症患者(SJS/TEN症例)の血液及び副作用情報を収集するシステムを構築している。研究倫理審査委員会の承認の下、重症薬疹発症患者の全血からゲノムDNA を採取し、HLA型解析およびSNPジェノタイピング解析(TaqMan法)を行った。さらに、重症薬疹患者試料を用いて、アロプリノールによる重症薬疹の発症に関連するHLAと絶対連鎖不平衡にあるSNP(rs9263726G>A)に関し、アレル特異的なPCR増幅を行い、核酸クロマトグラフィー法を開発した。【結果・考察】アロプリノールによる重症薬疹患者試料31例のうち、15例がHLA-B*58:01を保有しており、同アレルのヘテロ接合患者は全て、rs9263726の遺伝子型はヘテロ接合型(G/A)であった。一方、HLA-B*58:01を保有していない16例の遺伝子型は、野生型ホモ接合型(G/G)であった。野生型と変異型のそれぞれのプライマーに異なるDNAタグ配列を付加してPCR増幅を行い、クロマトチップに展開したところ、ライン状に固相化された相補配列オリゴDNAとプライマーに付加したタグDNAの強いハイブリダイゼーション反応によりPCR増幅産物がトラップされ、rs9263726の各塩基(GまたはA)に対応してチップ上に異なる位置でバンドを検出した。この核酸クロマトグラフィー法の結果は、TaqMan法による結果と完全に一致した。【結論】本研究により開発した核酸クロマトグラフィー法は、アロプリノールによる重症薬疹発症の予測診断に有用である可能性が示唆された。
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野川 聖子, 小出 大介, 丸山 達也, 森豊 隆志
セッションID: 42_2-P-L-8
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】
令和3年3月23日告示の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下、生命・医学系倫理指針)が6月30日に施行されたことに伴い、従来の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(以下、旧ゲノム倫理指針)は廃止されたが、東京大学大学院 医学系研究科・医学部(以下、当施設)では、旧ゲノム倫理指針で規定されていた個人情報管理者の役割を担う組織として設置した、個人識別情報匿名化室(以下、匿名化室)を、存続させて運用している。
旧ゲノム倫理指針下では、第三者として匿名化室がヒトゲノム解析研究における個人情報匿名化を行っていた。生命・医学系倫理指針施行後、研究者自らが行う場合についても、当施設の倫理審査申請時には匿名化に関する手順書の添付が必要とされている。
単施設研究、多施設共同研究、難病プラットフォーム研究、グローバル研究などの様々な実施体制があるなかで、臨床研究実施の初心者でも取り組みやすいように手順書作成の手引きを作成し、基本的プロセスを標準化することにより、研究者の手続きならびに審査者の負担を軽減するとともに、適切な匿名化手順の品質を維持する一助としたので、報告する。
【方法】
1. 研究者自らが匿名化を行う場合の必要事項と注意点を、研究実施の流れに沿って整理した。
2. 個人情報を安全に管理するために、どの役割の者が、何を、どの場所で行うのかを含め、基本的な手続きを挙げて標準化した。
3. 研究計画書に規定された文言を引用することで、それぞれの実施体制を反映した手順書が作成できるテンプレートとした。
4. 研究終了時には、個人情報の保管期間や廃棄方法を、匿名化室と研究者が双方で確認できるような流れを組み込んだ。
5. 生命・医学系倫理指針を遵守するうえで重要な事項は、チェックリストを作成し、研究者と匿名化室の双方で確認が容易となるように整理した。
【結果・考察】
個人情報匿名化手順のプロセスを標準化し、手順書のテンプレートと手引きを整備できた。これらは研究者支援、倫理申請時の支援、そして研究支援者業務の品質を維持する一助となった。定期的に見直しをはかり、より適切な匿名化の体制づくりに寄与していきたい。
【結論】
ゲノム研究における個人情報匿名化手順に標準化を取り入れてプロセス管理し、様々な実施体制においても品質を維持しつつ、取り組みやすい体制を構築した。
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森下 理恵, 上森 美和子, 穂積 順子, 竹下 麻美, 青木 雅彦, 深堀 理, 澤田 武志, 中島 貴子, 武藤 学
セッションID: 42_2-P-M-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】2020年4月早期臨床試験に特化した臨床試験専用病棟(次世代医療・iPS細胞治療研究センター、略称 Ki-CONNECT)が開設された。同時期に、新型コロナウィルス感染症(以下、「COVID-19」)の蔓延により、医療崩壊が囁かれる中、当病棟での臨床試験も甚大なる影響を及ぼした。このような中で、健常人試験、有疾患試験を並行して実施するにあたり、多職種との連携において実施した状況を報告し、今後の課題及び、当病棟の有用性を明確にすることを目的とする。【方法】2020年4月から全30床のうち15床の病床を開き、COVID-19が蔓延する中で臨床試験を受け入れてきた。COVID-19感染対策防止指針について、本院、感染制御部(以下、「ICT」)を中心に、マニュアルが整備された。その指針を基盤に、被験者及びスタッフの安全確保・試験の質の担保ができるように、早期より実務者である医師、看護師を中心として、臨床検査技師、薬剤師、CRC、事務で課題の抽出を行い、ICTと連携を図り実施体制の構築を行った。【結果・考察】COVID-19パンデミック下において、下記の通り対応した。1.早期から臨床試験プロトコールに関わり、ICTと連携しトリアージ、場面ごとに感染対策フローを作成し他職種と情報を共有し手順を整えた。2.臨床試験プロトコールに沿って、実務者で業務調整を行い、試験実施のフローの作成、シミュレーションを実施した。3.入院時全例PCR検査を行い、原則個室対応とし、被験者間の接触を最小限に留め、感染対策を講じながら試験を遂行した。4.臨床試験専用病棟に関わるスタッフ、被験者にCOVID-19の発症はなく、安全確保・試験の質の担保ができた。早期から試験プロトコールに関わり、病棟関連実務者及びICTと連携を行う事で、健常人試験・有疾患試験を並行しながら、試験を中断することなく、被験者とスタッフの安全確保をしつつ、スムーズに試験を遂行することができたと考える。また、実務者として部門を越えて連携し協働することが、試験の質の担保へと繋がると考える。【結論】2021年4月にはさらに15床を開設し全30床となった。今後、がん、難治性疾患、希少疾患に対する新規治療薬やiPS細胞治療の早期臨床試験を実施できる施設として、病棟の体制基盤を強固なものとし、人材育成にも取り組んでいきたい。
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中谷 英章, 入江 潤一郎, 稲垣 絵美, 藤田 真隆, 三石 正憲, 山口 慎太郎, 岡野 栄之, 今井 眞一郎, 安井 正人, 伊藤 裕
セッションID: 42_2-P-M-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】最近の動物実験においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の細胞レベルでの減少がインスリン抵抗性やアルツハイマー病に代表される老化関連疾患を引き起こすこと、NAD中間代謝産物であるニコチンアミドヌクレオチド(NMN)を投与することによりNAD量を増加させ、病態を改善することが報告されている。しかし、ヒトにおけるNMN投与の安全性については不明である。そこで我々は健康成人男性にNMNを経口投与し、その安全性を確認する臨床試験を行った。【方法】10名の健康成人男性に対し、100mg、250mg、500mg のNMNを1週間毎に段階的に経口投与し、投与前と投与後5時間までの血液データや尿データ、投与時の身体計測、心電図、胸部レントゲン、眼科検査を行った。【結果・考察】NMNの単回経口投与により血圧、心拍数、体温、血中酸素飽和度は変化しなかった。血液データでは、軽度の血清ビリルビンの上昇、血清クレアチニン、クロライド、血糖値の低下以外は変化を認めなかった。投与前後での眼科検査や睡眠の質スコアは変化を認めなかった。また、血中のNMNの最終代謝産物は濃度依存性に上昇し、体内でNMNの代謝がきちんと行われたことが確認された。【結論】健康成人男性においてNMNの単回経口投与は大きな副反応を認めず安全であった。
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森脇 全江, 大丸 資子, 三好 真希, 安原 美樹, 出口 綾香, 岩川 ひとみ, 廣瀬 千賀子, 西村 友美, 永翁 尚美, 麻生嶋 和 ...
セッションID: 42_2-P-M-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】 リスクに基づくモニタリング(Risk-Based Monitoring:RBM)という考え方は、2011年8月にFDAとEMAにより相次ぎ発表されたガイダンス案が始まりであった。過去のモニタリングに関する認識としては問題が発生した後の是正措置が中心で、問題を予測し、予防する作業過程を構築するプロセス管理が不十分であった。2016年(ICH-E6改訂による)RBMの本格運用を機に、当院では同意プロセスについて記録の取り方や同意書の版数の管理について検討を始め今年で5年目となる。 昨今のCOVID-19感染拡大によるSDV訪問禁止や訪問制限が続いていることを踏まえると、医療機関側の「質」を担保できるプロセスを管理することは非常に重要である。そこで、更なる品質向上を目指し、当院での同意プロセスについて再検証を行った。【方法】同意取得に関するワークシートは「治験開始時・本人」「治験開始時・代諾者」「再同意」の3種類と、課題毎に同意説明文書の版数と被験者番号を一覧にした「同意文書管理リスト」の計4種を作成している。今回は、「治験開始時・本人」と 「再同意」の書式とプロセスについて1~3の手順で検証を行った。1 第1版から最新版までの作成に関して検討した事項を抽出 2 最新版において発生しやすい又は実際に発生したプロセス不遵守について調査3 次回改訂に向けての検討【結果】治験開始時の同意取得では、IRBで条件付き承認となる場合があり、結果通知書の指示決定日が予定日と異なったため治験締結日を間違えやすいことが分かった。再同意では、文書改訂ではなくレター発行に伴って必要となる口頭同意においてワークシートの記載が不十分となった事例があった。【考察】ICF改訂による再同意以外にもレターを用いての同意という通常とは異なる場合においてもプロセスに沿った同意取得が必要だと分かった。プロセスの内容を検討することで適切な同意取得ができ、問題を未然に防ぐことができるようになることが分かった。今回の同意プロセスの検討を他の治験プロセスの検討にも広げ、GCP、プロトコールに沿った質の高い治験を実施できる施設を目指して努力をしていきたい。
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土井 麻理子, 湯川 慶子
セッションID: 42_2-P-M-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】新しい治療法を探す患者にとって治験や臨床研究等は、新しい治療へのアクセスとして重要な選択肢の一つとなっている。治験や臨床研究に関する情報が登録・公開されている臨床試験登録レジストリはこれらへの情報アクセスの手段として紹介、広く利用されている。しかしながら国内の臨床試験登録のレジストリについては、登録情報に対する検索性能向上の必要性が指摘されている。本研究では、臨床試験登録レジストリが提供している検索機能について、海外の臨床試験登録レジストリについて内容を整理・検討することを目的とする。
【方法】海外の臨床試験登録レジストリにおける検索に係る項目について比較検討を行った。海外の臨床試験登録レジストリとして、米国のClinicalTrials.gov(CT.gov)と欧州のEU-CTRを、国内の臨床研究検索ポータルサイト(JPRN)と臨床研究データベース(jRCT)を対照として比較した。検討項目は、検索画面の配置、簡易と詳細な検索機能への分割の有無、検索項目、検索マニュアルの有無とした。
【結果】検索画面の配置については、トップ画面に設置しているサイト(CT.govとJPRN)とトップ画面から検索画面への移動が必要なサイト(EU-CTR、jRCT)があった。検索機能の分割には、CT.govとEU-CTR、JPRNの3サイトが設定していた。CT.govとJPRNは、詳細検索の画面を別に設けていただが、EU-CTRは、検索項目が追加で開く仕様になっていた。jRCTは分けていなかった。検索項目については、4つのレジストリに共通して、フリーワードによる検索が可能となっていたが、フリーワードによる検索を主とした仕様としているもの(EU-CTRとJPRN)と、検索項目の一つとして設定しているもの(CT.govとjRCT)があった。試験フェーズなど、全てのレジストリが設定していた検索項目もあるが、レジストリによって異なる項目設定もあった。検索マニュアルは、CT.govとEU-CTR、JPRNの3つのレジストリが提供していたがjRCTは提供していなかった。
【考察・結論】海外・国内のレジストリの比較から、簡易と詳細の2つの検索画面の設定、検索マニュアルの整備等によって利用目的が幅広いユーザーに対して検索の利便性向上が期待できると考えられた。レジストリ内でのバランスを考慮した上で、利用しやすい検索機能への修正・提供が必要と考えられる。
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滝尾 愛莉, 羽田 かおる, 小林 恭子, 柚本 育世育世, 瀬野 千亜紀, 吉村 芙美, 名畑 優保, 奥村 葵美, 千賀 明日香, 仁谷 ...
セッションID: 42_2-P-M-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】当院では2016年度に「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づく研究機関の長が自ら行う点検(以下、自己点検)の実施体制を構築し、臨床研究推進室室員が点検者として指名を受け、2回/年の自己点検を継続している。また2019年度から「臨床研究法」に基づく点検の体制も追加した。自己点検の導入から5年経過し、2020年度までに40課題の自己点検を終了した。自己点検を5年実施した結果から有用性を検討する。
【方法】2016年度から2020年度に実施した自己点検の結果報告書から不適合項目数、不適合の内容と改善策を確認し、自己点検活動が指針等の遵守に有用であるか検討する。
【結果・考察】自己点検は、22診療科32課題、5部門8課題に対して実施した。研究内容は、介入・侵襲あり8課題、介入あり4課題、侵襲あり9課題、介入・侵襲なし15課題、特定臨床研究4課題であった。倫理指針等への適合性は、問題なしが20課題、問題ありが20課題であった。1課題につき21の確認項目があり、問題ありの20課題に合計32項目不適合があった。内容は同意書・CRFに関わるものが24項目(18課題)、研究実施の手続きに関わるものが6項目(6課題)、重篤な有害事象の確認に関わるものが2項目(2課題)であった。同意書・CRFに関わる内容は、最新版の説明文書・同意書が使用出来ていない等の文書管理や、研究分担者に追加されていない者が同意取得をした等の手続きに関するものが、24項目中17項目(15課題)で確認され不適合となりやすいことがわかった。原因としては研究責任者と研究分担者間での最新版の文書に関する情報共有不足や、人事異動に伴う手続きに要する時間を考慮出来ていないなどであった。自己点検の結果は、院長から文書で通知している。問題ありの場合、研究者は指示に従って必要な対応を行い、再発防止策も実施していた。不適合の内容により改善計画書の提出を義務づけており、研究者が行った対応については院長の指示に従いフォローアップ点検にて確認していた。また、院内の臨床研究セミナーや院内治験・臨床研究担当者会議で自己点検結果を報告し、研究者へ注意喚起を行っていた。
【結論】当推進室で構築し継続している自己点検活動は、不適合の確認と改善、再発防止や、院内研究者への注意喚起につながり、有用であると考える。不適合となりやすい内容については、今後も研究者に対する注意喚起や支援策の検討が必要である。
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高井 恵子, 片桐 みずき, 外山 陽子, 花田 隆造, Myers Steven Randal, 千代田 健志, 竹島 雅治, 生島 一平 ...
セッションID: 42_2-P-M-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】昨今、薬物動態や安全性の民族差検出を目的とした白人対象試験が増えてきている。当院では2009年に白人対象試験を初めて実施し、コロナ禍で試験数が一時減った時期があったものの、最近5年間は概ね年間5試験以上実施し、女性を含む年間100名以上の白人被験者を受け入れている。言語や文化、生活様式の違う白人被験者の受け入れには、日本人被験者とは異なる管理体制を敷かなければならない。一方、様々な出身国の被験者が集まるので、臨機応変な対応も必要とされる。さらに、異国の地で治験に参加する被験者の不安や戸惑いにも十分配慮しなければならない。これらを考慮した白人対象試験の入所中における管理・対応について報告する。
【方法】試験に関わったスタッフや被験者に聞き取り調査を行い、白人対象試験で考慮すべき事項を集積した。
【結果・考察】以下のカテゴリーに分類し、検討した。
1.コミュニケーション:同意説明・スクリーニング・投薬時の通訳スタッフ配置、日英併用の院内掲示物、翻訳機の活用、職員教育など。
2.身体的特徴:大きなサイズの衣類やベッドの準備、検査時の体毛やタトゥーへの配慮、屋内照明に対する眩しさへの対応など。
3.食事:嗜好、菜食主義、宗教上の食事制限などを考慮したメニュー。
4.その他:院内感染防止策、通訳スタッフへの相談体制、日本人被験者との関係など。
出身国としては北米・西欧地域が主だが、最近は南米、中東、中央アジアなどの参加者が増えてきている。このように多種多様な文化を背景に持つ被験者に対しては、画一的な管理では足らず個別な対応も必要となる。その最たるものが食事であり、白人対象試験における最大公約数的なメニューを策定するのは特に難しかった。パン食を基本に、鶏肉や麺類、中華を中心にメニューを組み立てているが、今後も被験者の意見を聞きながら改善をしていく予定である。
【結論】白人対象試験では日本人との差異のみならず、多様性にも配慮した管理・対応が必要である。詳細な内容は、学術総会のポスターに記載する予定である。
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藤金 治雄, 川田 哲史, 大津 友紀, 池内 忠宏, 兼重 晋, 神村 英利
セッションID: 42_2-P-M-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】治験薬管理業務には責任医師および分担医師をはじめ、治験コーディネーター(Clinical Research Coordinator、以下CRC)、臨床開発モニター(Clinical Research Associate、以下CRA)等、多くの職種が関わっている。福岡大学病院(以下、当院)では二重盲検試験における薬剤割付番号の発番はCRCが、治験薬の調剤および調製は薬剤師が、併用薬確認はCRC、薬剤師が共に行うなど、各場面において各々が職能を活かしてインシデント防止に努めている。今回、薬剤師によるインシデント回避例を経験したことを機に、当院での実態調査を行った。【方法】2020年9月から2021年6月までの10か月間に当院で発生した治験薬管理業務でのインシデント回避例を収集し、内容によって分類した。【結果・考察】期間内におけるインシデント回避例は12件あった。内訳はCRCの割付番号連絡間違い4件、処方間違い2件、処方漏れ1件、併用薬処方関連1件、治験薬使用期限切れ1件、その他運用に関するもの3件であった。いずれも治験薬担当の薬剤師がミスを発見し、治験薬交付前にCRC等へ指摘し、インシデントを回避した。使用期限切れの1件は、患者来院が延期になったことをCRCからCRAに報告しておらず、使用期限内に投与できる治験薬が搬入されていないケースであった。このケースでは薬剤師が定期的に行っている治験薬使用期限チェックにより、使用期限の問題に気付き、患者来院前に新しい使用期限の治験薬を搬入できたため、インシデントを回避できた。【結論】薬剤師による割付番号や処方内容、来院スケジュール等の確認は治験の信頼性確保につながった。また、インシデントの内容によっては治験からの逸脱となる可能性もあったため、患者にとっての不利益も回避できた。薬剤師が治験薬管理業務に関わることにより、インシデント回避に貢献でき、より安全で安心できる医療を患者へ提供することができるとともに、治験におけるデータの信頼性確保に貢献できると考える。
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渡辺 裕太, 成川 衛
セッションID: 42_2-P-N-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】患者の安全を確保するための市販後安全対策に有用な事前情報の活用を目指して,日本における新薬の承認前後に得られる情報と市販後の安全性措置との関係を分析し,その因果構造について検討した.
【方法】日本において2005-2015 年度に承認された新薬333 品目を対象に,市販後の安全性措置(PMSEs)に関する情報及び承認前後に得られる情報を抽出した.PMSEsとして,初回承認後5 年以内に厚生労働省が発出した添付文書の「使用上の注意の改訂指示通知」の回数を抽出した.承認前後に得られる情報として次の7 種類の情報を抽出した:疾患領域;臨床試験における日本人被験者数;日本人に対する用量設定試験;日本と欧米間の承認時期の差;薬剤の新規性;市場での予測患者数;初回承認後の追加承認の回数.承認前後に得られる情報とPMSEsとの関係を推定するため,負の二項回帰分析を実施した.また,各変数間の因果構造を検討するため,構造方程式モデリングの一種であるパス解析を実施した.
【結果・考察】負の二項回帰分析より,PMSEsに関係する因子として,抗悪性腫瘍薬(Incidence Rate Ratio (IRR)=1.70, p=0.0058),市場での予測患者数(IRR=1.32, p=0.0024)及び日本と欧米間の承認時期の差(IRR=0.88, p=0.019)が示された.このような安全性リスクの高い新薬は,特に注意して安全対策を行う必要があると考えられる.
パス解析より,新薬は市場での患者数が少ないと新規性が高い傾向にある一方(standardized path coefficients (β)=-0.36, p<0.001),市場での患者数が少ないとPMSEsは講じられづらいことが示された(β=0.16, p=0.003).一般に,新規性の高い薬剤は市販後に未知の副作用が起こりやすいと考えられる一方,添付文書を改訂するのに必要な量の有害事象が短期間で発現しないことが示唆された.このため,早期の安全性エビデンスの構築が必要であると考えられる.
【結論】日本において市販後の安全性措置に関係する承認前後に得られる情報として,抗悪性腫瘍薬,市場での予測患者数及び日本と欧米間の承認時期の差が示された.一方,新規性の高い薬剤は市場での患者数が少ないことで潜在的な安全性リスクが検出されづらい可能性が示唆された.市販後の安全対策では,これらの事前情報を活用して潜在的な安全性リスクの高い新薬に注力することが有用であると考えられる.
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高杉 智博, 半田 大輔, 小野 俊介
セッションID: 42_2-P-N-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】近年、医薬品の同時開発・承認のために多くの国際共同治験が行われており、国際共同治験を経て承認される新薬の数も増えている。ICH-E17ガイドラインの趣旨にもあるとおり、国際共同治験においては単一の実施計画書の下で同時期に知見が集積するため、人種・地域間差の情報を効率的に収集することができ、また、観察された結果に解釈を与えることが(他の方法と比較して)容易となる。本研究では、日本(人)が参加した国際共同治験における日本(人)と外国(人)の有害事象発現状況を比較し、発現状況に違いが生じる理由を探った。【方法】2012年度から2020年度に日本で承認された新有効成分含有医薬品のうち、承認申請のための国際共同治験(複数回行われた場合は最も被験者数が多く、実施相が後ろの試験)が実施された品目について、試験デザインの詳細、発生した有害事象の発現数(日本人・外国人別)を収集した。全ての有害事象の発現例数を取得できた試験を分析対象とした。主な有害事象について、日本人の発現率から外国人の発現率を引いたリスク差をメタアナリシス(変量効果モデル)により推定した。【結果】痛みに関わる主観性の高い有害事象が日本人と比較して外国人における発現率が高いことが示された。特に頭痛は有意に外国人における発現率が高かった(リスク差:-0.04、p<0.01)。日本人では鼻咽頭炎の発現率が外国人に比べて高い傾向が見られた(リスク差:0.12、p<0.01)。臨床検査値に裏付けられるような客観性の高い有害事象(例:血中トリグリセリド増加)の多くは、日本人と外国人との間で発現率に差が見られなかった。観察された差は、試験の疾患領域(特に抗がん剤で差が顕著になる傾向)、患者構成(欧米人とアジア人の比率)などによって異なることが分かった。【考察・結論】複数の疾患領域の国際共同治験において、痛みに関わる有害事象を含むいくつかの有害事象の発現率に日本人と外国人との間で差が見られることが分かった。これらの差は内因性要因と外因性要因の両方を反映する可能性が示唆された。
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今井 優也, 成川 衛
セッションID: 42_2-P-N-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】海外で承認され使用されている医薬品が、日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差またはその遅れをドラッグラグという。日本におけるドラッグラグは、国際共同試験の促進や審査期間の短縮によって縮小されているが、その根本的かつ最大の要因は開発着手の遅れである。本研究は日米欧三極における新薬の承認状況から、日本における新薬承認取得の遅延に繋がる要因分析を目的とした。これに基づき、ドラッグラグの縮小に向けた方策を考察する。
【方法】米国および欧州の双方で承認された後、2010~2020年に日本で承認された新有効成分含有医薬品を研究対象とした。次に日米欧三極の各規制当局における公開情報から、当該医薬品の開発・承認にかかる関連情報を抽出した。これに基づき、研究対象医薬品が欧米ともに承認を取得した時点から日本で承認されるまでの時間を応答変数とし、1.類似薬の有無、2.薬効分野(抗悪性腫瘍薬であるかどうか)、3.欧米で承認を取得した企業の日本法人の有無、4.オリジネーターと日本で承認を取得した企業との一致性、5.日本で承認を取得した企業の国籍(内資・外資)、6.予測販売額(100億円以上・100億円未満)、7.ピボタル試験(開発の中核となった臨床試験)に伴う分類という7つの変数を説明変数としてCox回帰分析を行った。なお回帰分析に先立ち、各説明変数間の相関関係を確認するため、クラメールの連関係数を算出した。解析にはStatsDirectを用い、p値が0.05未満の場合を有意な関連ありと判断した。
【結果・考察】研究対象医薬品数は115品目であった。クラメールの連関係数を算出した結果、各説明変数間に相関関係はなかった。Cox回帰分析の結果、4・5・6・7という4つの説明変数で統計学的に有意な関連が認められた。これはオリジネーターと日本の承認取得企業が一致していない新薬、日本の承認取得企業が内資企業である新薬、日本で追加試験が実施された新薬、予測販売額が100億円未満である新薬において、日本での承認取得が遅れることを示唆している。他企業に開発権を譲渡する際には、早期の情報共有を含むタイムロスの最小化が求められる。内資企業のグローバル開発については、その経験値を蓄積するとともに日本での同時上市を見据えた開発戦略が望まれる。
【結論】ドラッグラグの更なる縮小に向けて、薬事規制、保険制度などのさまざまな視点から対応策を検討していくことが重要である。
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高澤 和歌子, 小野 俊介
セッションID: 42_2-P-N-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】
医薬品の安全性に係るリスクを適正に管理するため、2013年4月から「医薬品リスク管理計画(RMP)」の策定が求められている。承認時のRMPには開発段階で認められたリスク(安全性検討事項)、市販後早期における安全性監視活動、リスク低減のためのリスク最小化活動の情報がまとめられる。RMPには「危ない」有害事象が優先的に記載されると考えられるが、RMPの作成者(企業)が現実に何を「危なさ」の判断の基準・根拠としているのかは明らかではない。本研究では、どのようなプロファイルの有害事象が安全性検討事項に記載されやすいかを分析し、有害事象のリスクのどのような側面がRMP作成において重視されているのかを探索した。
【方法】
2016年から2018年に承認された新有効成分医薬品(109品目)のRMPの構成情報、及びその新有効成分医薬品のうち2016年から2017年に承認された抗がん剤(12品目)のRMPと承認審査情報をPMDAのホームページから収集し、新有効成分の医薬品のRMPに含まれる記載項目の品目ごとのばらつきを確認した。抗がん剤を分析対象品目とした治験(検証試験)で発現したすべての有害事象(計:5637個、有害事象の種類:2196個)について、それらが安全性検討事項の「重要な特定されたリスク」として記載されているかを目的変数とし、それら有害事象の発現状況(発現率、重篤度など)及び薬剤の特徴(承認取得企業、類薬の有無など)を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。
【結果・考察】
新有効成分医薬品のRMPを構成する項目は薬剤の種類(薬効分類)ごとに異なることが確認された。抗がん剤を分析対象品目とした治験で発現した有害事象のうち、発現率が高い有害事象、治験中止を導いた有害事象、重篤な有害事象は「重要な特定されたリスク」としてRMPに記載されやすかった(p<0.001)。また、類薬が有る薬剤、希少疾病用医薬品、内資企業の薬剤で、有害事象が「重要な特定されたリスク」としてRMPに記載されやすいことが分かった(p<0.001)。
【結論】
企業が作成するRMPの内容(記載項目)には薬剤の種類ごとに相当な違いがあること、リスクとして記載される有害事象は重要な検証試験の結果に基づいて選択されていること、薬剤の置かれている競合・規制環境によってリスクの記載内容が異なることが明らかとなった。
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記伊 賀南子, 下河原 雄希, 小野 俊介
セッションID: 42_2-P-N-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】本邦における日米の「ドラッグラグ」の状況は、一定の期間に日本及び米国で承認された薬剤をサンプルとし、両国の承認日の差(一般に日本の遅れ)を算出した結果として示されることが多い。しかしその方法はサンプリングバイアスの影響を受けるだけでなく、たとえば「日本に参入する新薬数の減少」といったラグの量的な側面を表現できない。国民の医薬品アクセスの機会費用(逸失利益)の観点からの評価を行うこともできない。本研究では、承認日の差による一般的なラグの指標に加えて、承認薬剤の種類・数の相違、各薬剤が市場において使用されなかった期間を考慮した指標を併せ用いて日米「ドラッグラグ」の状況を記述し、それぞれの指標のパブリックヘルス及び産業論的な含意を考察した。
【方法】2016-2020年に日本と米国で承認されたすべての新有効成分含有医薬品(日本:192品目、米国:311品目)を対象として承認日、薬剤と承認取得企業のプロファイルを収集した。ある時点の日米の「ドラッグラグ」を (a) (承認時点での)薬剤の承認日の差、(b) 日・米各々の承認品目数、(c) 各品目の日米相対的なラグ期間の積算値(経時的な積み上げ)によって表現した。
【結果】一般的な方法(a)で算出されたラグ(日本の遅れ)は、2016年から2020年まで中央値で37.5カ月、13.5カ月、11カ月、13カ月、5カ月と推移し、著しく改善しているように見えた。一方、承認品目数を用いると(方法(b))、同期間に米国のみで承認された品目数は25個から244個へ、日本のみで承認された品目数は14個から65個へと推移しており、数のバランスとしては日本への新薬参入が明らかに滞っていることが分かった。日米相対的な医薬品アクセスの積算を示す方法(c)による表現も、方法(a)が与える印象(著しい改善)とは異なる印象を与えるものであった。
【考察・結論】日米の承認時期の差により表現された「ドラッグラグ」は製薬産業論の象徴的なシグナルとして一見分かりやすいが、国民の新薬アクセスの全体の姿を表現できず、また、不可避的に生じるサンプリングの歪みから、「状況の改善・悪化」といった経時的な評価目的には不適切な指標である。国レベルの新薬アクセスの評価にどのような指標を用いるべきかについては国民の健康への影響とリンクした議論が必要である。
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野口 千鶴, 三宅 真二, 漆原 尚巳
セッションID: 42_2-P-N-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】日本と欧州で希少疾病用医薬品の指定を撤回された医薬品の実例から比較を行い、開発の現状や今後開発を進めていく上での課題を明らかにすることである。
【方法】制度の開始時点から2020年12月31日までに日本と欧州で希少疾病用医薬品に指定された後に撤回された医薬品の中で、日本は厚生労働省HPの医薬品第一部会、第二部会議事録から、EUはEMAのHPから撤回理由を特定できる医薬品を対象とした。文書の内容を調査し、撤回の理由の分類、集計を行った。
【結果・考察】日本で対象となった薬剤は、開発中の撤回が42品目、販売承認後の撤回が9品目であった。そのうち、「有効性」が撤回理由である品目が1番多く26品目(50.1%)、続いて「医療上の必要性がなくなった」ために撤回された21品目(41.2%)、「安全性」の問題で撤回された6品目(14.3%)であった。EUで撤回理由が公表されていた薬剤は、販売承認時の指定見直しで撤回された20品目であった。そのうち、「有効性」が撤回理由である品目が最も多く13品目(65.0%)、続いて患者の利益につながる「Patient care」が理由の10品目(50.0%)、指定要件の「有病率」が不適の9品目(45.0%)であった。指定取り消しの理由として1番多いのは日本、欧州ともに「有効性」の問題であった。欧州の撤回理由の2番目は「Patient care」であり、患者目線を重視していると考えられ、それは審査委員会の患者代表枠があることからも言える。日本と欧州の違いとして、欧州では販売承認時の指定見直しとその審査の厳しさがあり、指定数の多さから承認後に受けるインセンティブへのハードルが高く設定されていると考えられる。
【結論】希少疾病用医薬品の指定要件が異なるため一概に比較できないが、日本は指定数に対し承認される割合が高く、EUでは指定数が日本の4倍多いにも関わらず承認された品目は少なかった。承認される割合が低い欧州の現状の制度は開発促進策がうまく機能していないように思われる。一方で、日本の場合は指定要件に開発可能性があるため、それを示すための臨床試験など指定以前の開発段階における負担が重いが、それに対する支援・補助がないことなどが希少疾病用医薬品開発の障害になっている可能性があり、制度の課題だと言える。今後、希少疾病用医薬品の開発をより促進していくために制度設計を含めた見直しが必要であろう。
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吉次 広如, 武藤 智恵子, Chunze Li, Tong Zhu, Sinha Vikram, Nagao Lee
セッションID: 42_2-P-N-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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The International Consortium for Innovation and Quality in Pharmaceutical Development (IQ Consortium) is a technically focused, cross functional organization with a mission of advancing science and technology to augment the capability of member companies to develop transformational solutions that benefit patients, regulators, and the broader research and development community. The IQ Consortium was formed in 2009 and is made up of more than 35 pharmaceutical and biotechnology companies engaged in innovative research and development. The IQ Clinical Pharmacology Leadership Group (CPLG) was established in 2011, and currently includes 13 Working Groups including Japan subteam formed in 2019. The CPLG's mission is to address themes of experimental design, analysis, translational sciences, and the integration of nonclinical and clinical data to enable dosing and labeling recommendations. It also provides scientific counsel to the pharmaceutical industry, regulatory authorities, and academia. The dissemination of best practices and knowledge sharing is also achieved through benchmarking surveys, webinars, publications, public presentations, and discussion groups. IQ CPLG has interacted a lot with regulatory authorities including FDA, EMA and PMDA so far to provide industrial perspective and comments to them. This poster session will introduce the mission and activities of IQ CPLG in parallel with the presentation regarding "New Modalities: Cell and Gene Therapies" and "Risk-Based Pharmacokinetic and Drug-Drug Interaction Characterization of Antibody-Drug Conjugates in Oncology" at the symposium and the educational seminar in JSCPT 2021.
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花田 隆造, 竹島 雅治, 大釜 陽一郎, 米村 拓磨, 村上 晴美, 矢澤 利枝, 大宮 薫, 千代田 健志, 生島 一平, 入江 伸
セッションID: 42_2-P-O-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】当院ではCOVID-19感染防止策の一環としてビデオによる同意説明を行っている。昨年の本学術総会で、日本人健康成人対象試験のビデオを用いた説明に対する理解度などを報告した。今回、白人対象試験について調査したので報告する。
【方法】責任医師がパワーポイントでシナリオを作成し、治験協力者である通訳スタッフが音声を吹込み、説明ビデオを作成した。作成にあたっては、説明同意文書に沿った内容となるよう留意し、画面に文書の該当頁を常に表示するようにした。参加予定者のビデオ視聴中は担当医師が立会し、上映後、質問の有無および説明を理解したことを個別に確認した。アンケートでは、Q1. ビデオのわかりやすさ、Q2. 長さ、Q3. 質問の機会、Q4. 質問のしやすさ、Q5. ライブによる説明とどちらがよいか、Q6. その理由、について質問した。
【結果】作成したビデオは約20分だった。アンケートは33名の回答を得た。Q1. 大変わかりやすい:13(名)、わかりやすい:19、普通:1、わかりにくい/大変わかりにくい:0。Q2. 大変長い:1、やや長い:3、適当:29、短い/大変短い:0。Q3. 十分にあった:27、普通:5、十分にはなかった:1。Q4. しやすかった:27、普通:6、しにくかった:0。Q5. ビデオの方がよい:6、どちらでもよい:10、ライブの方がよい:6。
【考察】前回の調査と同様、ビデオを用いた説明の理解度や質問の機会などにつき、良好な結果を得た。一方、日本人対象の調査ではライブが望ましいとする意見は少なかったのに対し、白人ではライブを望む意見も多かった。この点、Q6の、"I just prefer face-to-face interaction."、"Live is always better than a prior recording." の記載から、1)ディスカッションを好む白人の特性、2)コロナ禍のコミュニケーション不足に対する渇望、などが理由として考えられた。これについては、同時期の日本人について再調査・比較検討を予定している。
【結論】文書により適切な説明を行うための手法としてビデオを用いることは、白人被験者においても治験の内容の理解を深める上で有用であった。
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田中 誠也, 脇之薗 真理, 柏田 舞波, 馬田 美和, 戸田 彩乃, 木ノ下 智康, 辻本 昌史, 鈴木 啓介
セッションID: 42_2-P-O-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】高齢者医療や介護のリハビリテーション(以下、リハ)の向上を目的とした質の高い臨床研究を実施するためには、地域の医療・介護施設における臨床研究の教育・支援が必要と考えられるが、これらの施設における臨床研究の実態は知られていない。我々は、臨床研究教育・支援対象として想定している地域でリハを行う医療・介護施設における臨床研究・倫理体制の実態を調査した。【方法】日本言語聴覚士協会公式ホームページで一般公開されている施設一覧を参考に選出した、愛知県内の主に成人を対象とする医療・介護施設208施設のリハ担当者宛に郵送にて無記名アンケート調査を実施した。また、実際に臨床研究の教育・支援を希望する施設を募集し、希望する施設を対象に希望する教育・支援内容について調査した。これらの調査をもとに臨床研究支援体制を構築することとした。【結果・考察】回答のあった67施設のうち成人を対象にリハを提供している66施設(31.7%)を分析対象とした。患者を対象とした研究を実施しその成果を学会発表もしくは論文投稿している施設を研究実施施設、それ以外の施設を研究未実施施設とした。研究実施施設であっても倫理指針の認知度は21/27(77.8%)に留まった。臨床研究の教育や支援を希望する施設の割合は、研究実施施設20/27(74.1%)、研究未実施施設23/39(59.0%)であった。希望する教育・支援内容については、研究実施・未実施施設ともに「統計学的解析」に対する希望が最も多かった。研究未実施施設においては、研究実施施設に比べて「研究計画立案」「倫理的配慮」「研究に関する文書の作成」「学会発表」に対する希望が多かった。実際に教育・支援を希望した施設は7施設あり、そのうち研究経験のある施設は研究者の能力に応じた教育・支援を希望していたが、研究経験の乏しい施設は、臨床研究に関わる全行程の教育・支援を希望していた。これらの結果から、施設や研究者の能力、研究課題の内容に応じた支援体制の構築が必要であると考えた。以上を踏まえて、現在実際に教育・支援を希望した7施設を臨床研究の実施状況によって施設を分類し、臨床研究に関する基本事項を学ぶ集団プログラムと研究課題毎に支援する個別プログラムを併用する形でプログラムを開始している。【結論】地域の医療・介護施設の実状に応じて支援体制を構築することで、実用的な教育・支援が可能になると考える。
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佐藤 倫広, 目時 弘仁, 堀 里子, 小原 拓, 眞野 成康
セッションID: 42_2-P-O-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】医薬品・医療機器等安全性情報報告制度(以下、本制度)により、医薬関係者は医薬品等によって発生する健康被害等の情報を厚生労働大臣に報告することとされている。全ての医療機関及び薬局等が対象であるが、医薬品の国内副作用・感染症症例報告に占める医療機関報告は少ない。本制度の理解度が副作用等報告の経験に強く関連するという先行研究から、大学生時代における教育が重要と考えられるが、医学部における教育実態は明らかではない。本研究では、全国の医学部を有する大学を対象に、本制度に関わる授業を明らかにすることを目的とした。
【方法】本研究は、医薬品等規制調和・評価研究事業(AMED)『医薬関係者による副作用報告の質向上に向けた情報連携のあり方の研究(代表:眞野成康)』の一環として実施された。全国の医学部を有する大学に、電話、メール、ホームページからの問い合わせ、または紙媒体の郵送により調査を依頼し、本制度に関わる授業科目とその内容、および自由記載により本制度の医学教育における改善点と意見を収集した。
【結果・考察】全82大学のうち25大学から当該授業科目の内容が回答された。その他、11大学から該当する授業がない旨の回答、4大学から回答拒否、および42大学からは未回答(現在郵送調査による再依頼中)であった。本制度に関わる講義をした科目は、薬理学が9件、臨床薬理学・薬物治療学が8件、衛生学・公衆衛生学が5件、医療安全・管理学が5件と多く、概論や実習を含むその他25件の科目も挙げられた。これら授業のコマ数を各大学で集計した結果、授業コマ数は1~2コマが17大学と最も多かった。履修学年は4年次が最も多く、5年次以上で回答された科目を実施している大学は3大学のみであった。医薬品安全性情報報告書を実際に「記載させる」と回答した科目は1件のみであった。意見の自由記載欄では、副作用発生の臨床薬理学的なバックグラウンドや薬害歴史の理解の重要性に言及した回答が比較的多く見られ、その他、報告に関わる実習の増加、医学部コアカリキュラムの改定、または5~6年や卒後の教育の充実などが具体的な提案として挙げられた。
【結論】医学部における本制度の講義は、主に薬理学および臨床薬理学・薬物治療学で実施されていた。実際に報告を経験させる授業は限られており、また、5~6年次における授業も不十分と考えられた。
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根本 隆行, 柳田 俊彦, 田頭 秀章, 喜多 知, 小松 知広, 岩本 隆宏
セッションID: 42_2-P-O-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、「医師として求められる基本的な資質・能力」の一つとして、「患者の心理・社会的背景を踏まえながら、患者およびその家族と良好な関係性を築き、意思決定を支援する」というコミュニケーション能力が求められている。これを踏まえ、当講座の薬理学カリキュラムでは、1. 臨床における適切な薬物治療プロセスを早期に学ぶこと、2. 患者とのコミュニケーションの重要性を実感することを目的とし、医学科3年生に対してP-Drug演習(処方箋作成・毎年実施)およびロールプレイ演習(医療コミュニケーション・過去2回実施)を行っている。これまでは、両演習を異なる症例課題で個別に行ってきたが、本年度(令和3年度)は、新たな学修効果を期待して、P-Drug演習とロールプレイ演習を連携して同一症例課題で行った(P-Drug連携型ロールプレイ演習)。【方法】医学科3年生約110名を8グループ(各班12~14名)に分け、演習1週間前に症例課題を提示し、P-Drug演習として"診断の定義"から"処方箋"までを各班に作成してもらった。ロールプレイ演習では、各班からランダムに医師役(3名)、患者・患者家族役(3名)、コメンテーター(3名)を選抜し、P-Drug演習と同じ症例について薬物治療ロールプレイを実践してもらった。ロールプレイ終了後に、コメンテーターより使用薬物の基本情報(作用機序、副作用、禁忌、相互作用)について発表してもらい、演者以外の学生を交えて自由討論を行なった。【結果・考察】当講座では、ロールプレイ演習を過去に2回行っているが、いずれもP-Drug演習とは異なる症例課題を用いて個別に実施している。個別のロールプレイ演習後のアンケート調査では、「病気や治療の学習に役に立ったか?」、「患者さんの気持ちを理解するのに役に立ったか?」という質問に対して "強くそう思う"もしくは"そう思う"と回答した学生は81%、75%であったのに対し、今回のP-Drug連携型ロールプレイ演習後の同アンケートでは、95%、89%といずれも個別のロールプレイ演習より高い評価が得られた。その他、全てのアンケート項目において、P-Drug連携型ロールプレイ演習は個別のロールプレイ演習よりも学生の評価が高かった。【結論】アンケート結果から、P-Drug連携型ロールプレイ演習は、P-Drug演習とロールプレイ演習を個別で行う場合と比べて、高い学修効果が期待できると考えられた。
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大滝 正訓, 太田 有紀, 武半 優子, 渡辺 実, 小林 司, 木田 圭亮, 飯利 太朗, 松本 直樹
セッションID: 42_2-P-O-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【背景】学生からの「薬理学の教科書は何が良いですか」という問いに明確に答えるのは難しい。教科書毎に特徴があり、何を目的とするかによって異なると考えられる。その判断基準として、承認された薬を全て記載するのは不可能としても、有害事象の多い薬の学習は一つの判断基準と考えた。【方法】医薬品服用時に発生する有害事象は独立行政法人医薬品医療器機総合機構により医薬品副作用データベースとしてまとめられ、データセットが提供されている。本研究では、2004年4月から2021年6月のデータセットを用い、有害事象の被疑薬の頻度の高い薬物が、薬理学の教科書に記載されているかどうかを調査した。医薬品副作用データセットは症例一般テーブル、医薬品情報テーブル、副作用情報テーブル、原患者テーブルから構成されている。医薬品情報テーブルの被疑薬のうち医薬品(一般名)に記載されている品名を数え上げ、頻度リストを作成した。また、聖マリアンナ医科大学で推奨している薬理学の教科書のうち、発行年度が新しい3つの教科の索引にある薬物をそれぞれの薬物リストとして作成し、作成した頻度リストとの比較を行った。また、教科書の総ページ数が異なるため、ページあたりのデータとして解析した。【結果・考察】有害事象報告が多い順に、オキサリプラチン、プレドニゾロン、フルオロウラシル、メトトレキサート、リバビリン、タクロリムス水和物、ベバシズマブ(遺伝子組換え)で20,000件以上あった。10,000件以上は19種であった。また、プレドニゾロンは被疑薬の以外の記載も含めると最多の出現頻度であった。頻度リストの上位1.0%で報告の40%、6.7%で80%を占めた。上位1.0%、6.7%との一致率(各%/冊)は教科書A、約56、約35、教科書B、約98、約80、教科書C、約94、約76であった。ページあたり(各%/ページ)では教科書A、0.15、0.10 、教科書B、0.15、0.12、教科書C、0.15、0.12であった。教科書Aは頻度リストとの一致が他の2つの教科書よりも低かったが、ページあたりでは差が小さくなっていた。また、頻度リストの対象を広げると、いずれの教科書も一致率が悪くなった。【結論】いずれの教科書も、有害事象報告の多い医薬品を高いベースでカバーしており、有害報告の学習には差はなかった。
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矢田 充男, 小林 英嗣, 小松 由佳, 石田 さやか, 平間 麻衣子, 一戸 集平, 渡辺 真衣, 水吉 勝彦, 澤田 真樹, 高橋 香, ...
セッションID: 42_2-P-O-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【はじめに】新型コロナウイルス感染症は、2019年12月以降、中国湖北省武漢市を中心に発生し、短期間で全世界に広がった。本邦において2021年2月14日に新型コロナウイルスワクチンとして販売名コミナティ筋注(以下「本剤」という)が特例承認となった。国立病院機構においては、投与初期における安全性確認を主たる目的としたコホート調査(以下「調査」という)を兼ね先行接種を行った。当院において、本剤先行接種に際し、医師、薬剤師、看護師、事務職員により構成された新型コロナウイルスワクチン検討チーム(以下「検討チーム」という)を立ち上げ、当院職員に対し本剤接種を安心・安全を第一に接種行うこととした。【目的】当院において2021年1月26日に検討チームの第1回目の打ち合わせを開始し、その後も随時打ち合わせを行いながらの対応となった。2月5日に本剤保管用のディープフリーザーの設置、2月12日より院内において本剤接種および調査の説明会を実施した。当院には2月18日に本剤が搬入となり、翌2月19日より接種を開始した。その後3月26日までの先行接種終了までの流れについて紹介する。【方法】当院職員を対象とした先行接種に1207名を対象に接種希望調査を実施し、1062名の職員が先行接種の希望をされ、うち2021年2月25日までに接種を受けた378名に調査にご協力いただくこととなった。ワクチン接種は院内大講堂を会場に行い、予診票等の事前確認、問診、接種、予診票等の回収という流れで行い、被接種者は接種後に大講堂若しくは職場等で観察を行い、一人で過ごすことがないような環境を整えた。【結果】本剤の接種にあたり、問診等は医師、本剤の管理・調製は薬剤師、接種は看護師、職員の接種スケジュール管理は事務、調査関係は治験管理室とそれぞれの役割を分担したことにより、接種を希望する全職員への接種は大きな問題はなく終えることができた。また調査における日誌の回収、データ入力についても関係各所に協力をいただきながら期限までに入力を終えることができた。しかしながら、各部署の担当者への負担が増加したところは否定できない状況であった。【考察】本剤先行接種に際し、各種情報が日々更新される中で、円滑に接種を終えることができたのは、医師、薬剤師、看護師、事務職員をはじめとした病院の全ての職員が一丸となり、一つのチームとして対応したことが一番の要因であると考える。
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脇山 えりか, 小林 大介, 井上 将志, 立麻 香帆, 窪田 敏夫, 平山 徹, 勢島 英, 生熊 真美子, 楠本 哲也, 小松 公秀, ...
セッションID: 42_2-P-O-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
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【目的】医療機関と保険薬局の連携ツールとして服薬情報提供書(tracing report : TR)が活用されている。TRを用いた情報提供の質向上と利用促進により医薬品適正使用を推進するために、一般社団法人福岡市薬剤師会(市薬)と九州大学大学院薬学研究院臨床育薬学分野の共同事業として、研修会の開催や活用事例の提示などを行っている。そこで今回は、TRの活用状況や薬剤師の認識の変化について明らかにすることを目的として、2019年と2021年にアンケート調査を実施した。また、2017年と2020年に提出されたTRを収集し、TRによる情報提供や処方提案について解析した。
【方法】市薬会員薬剤師に対してGoogle formを用いたアンケート調査を2019年11月19日~12月20日と2021年1月26日~3月12日の2回実施し、TRによる医師への情報提供の有無、直近一年間のTR送信回数、TRの有用性の認識について比較を行った。また、2017年1月1日~12月31日と2020年1月1日~12月31日の期間に市薬会員薬局から診療施設に提出された成年患者のTRのコピーを収集し、TRの記載内容を10項目に分類(重複可)した。処方提案があったTRについては、処方提案前後の処方内容を調査し、処方提案採用率を算出し、その採用率などについて2017年と2020年で比較した。
【結果・考察】TRによる医師への情報提供、直近一年間のTR送信回数、TRの有用性の認識において、2021年は2019年と比較し、いずれも増加していた。一方、有用性を認識できていない理由として、「医師からの反応や返答がないから」や「処方変更につながらないから」といった回答が多く見られた。TRの記載内容は、10項目中8項目において2017年と比較して2020年の方が増加していた。また、処方提案があったTRの割合は23.9%から32.2%へと有意に上昇し、最も提案につながりやすい内容は、2017年と2020年ともに「薬剤に関する要望」であった。この結果は、薬剤師がより幅広い内容を提供できるようになっていることを示唆していると考えられる。
【結論】TRに対する薬剤師の認識は高くなり、処方提案型のTRが増加していることが明らかとなった。しかしながら、今後は有用性の認識ができていない理由に対するアプローチが必要であると考える。
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溝口 遼, 甲斐 駿介, 立石 正登, 井手 孝佳弘, 玉山 有希, 高砂 恵梨, 水口 美咲, 福田 浩紀, 野中 勝也, 岩井堂 政裕, ...
セッションID: 42_2-P-O-8
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大の波は繰り返し、高齢者の「生活不活発」によるフレイル高齢者が増えることが危惧されている.そのような状況の中,当保険調剤薬局(健康サポート薬局)は,2019年7月から地域在住高齢者を対象としてフレイル予防・対策のための介入を実施している.そこで今回,コロナ禍の前後のフレイルおよび栄養状態・食物摂取状況の変化について検討したので報告する.
【方法】対象者は65歳以上の高齢者で,コロナ禍前31名,コロナ禍29名であった.調査方法は,コロナ禍前においては対面による面接調査と身長・体重測定を実施し,コロナ禍においては全ての調査資料(基本チェックリスト,栄養状態調査,10食品目チェッカー,一般性セルフエフィカシー尺度(GSES))を郵送し,自記式質問票調査とした.なお,本研究は長崎国際大学薬学部倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
【結果】2020年1月 (コロナ禍前)と2021年1月(コロナ禍)においてフレイルチェック結果のチェック項目数の有意な増加が認められ(p<0.05),69%の高齢者に増加が認められた.また,フレイルチェックの目的のうち「日常生活(暮らしぶり1)」と「社会的交流」は5倍の増加であった.この要因の一つに,コロナ感染拡大防止のための外出自粛の影響が考えられた(p値=7.665e-05,p<0.05).一方,栄養状態においては,85%の対象者が「栄養状態良好」 のまま維持できており,さらにコロナ禍前とコロナ禍の食品摂取多様性得点においては有意な差は認められず,95%の対象者が高群(7~10点)を維持でき,バランスの良い食事摂取が習慣化していることが窺えた.また,BMIにおいても91%の対象者が高齢者の目標値(21.5以上)を維持できた.一方,GSESにおいては有意な減少が認められた(p<0.05).
【考察】今回の結果から,コロナ禍での自粛生活による社会性および精神面の低下が原因と思われるプレフレイル,フレイルの増加は認められたが,栄養状態および食品摂取多様性において変化は認められなかった。これは当保険調剤薬局(健康サポート薬局)が実施しているフレイル予防・対策のための介入により習慣化されたと思われる低栄養予防の食習慣がコロナ禍においても継続されたことが窺える.このことからバランスの良い食事の習慣化に大きく寄与すると思われる本介入は「withコロナ」においてもフレイル予防の一助となると考えられる.
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樋口 友洋, 高橋 悟, 山出 美穂子, 古田 隆久
セッションID: 42_3-P-P-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】Vonoprazanが上市され、H. pylori除菌治療の除菌率は飛躍的に向上し、容易に治療を完了できるようになった。しかし薬剤アレルギー歴のある患者に対するH. pylori除菌治療は使用できる薬剤が限られ、副作用も懸念されるため難解な治療として認識されており、除菌治療における残された課題の1つである。薬剤リンパ球刺激試験(DLST)はin vitroで行う検査のため、負担が少なく感作のリスクもない。我々は問診で薬剤アレルギー歴がある患者に対し、治療前に使用が予想される薬剤に対するDLSTを実施し、薬剤選択を行ってきた。今回、各薬剤のDLST陽性率を検討した。【方法】当院のピロリ菌専門外来を受診した患者のうち問診で薬剤アレルギー歴があり、DLSTを実施した症例を抽出した。DLSTはVonoprazan(VPZ)、Amoxicillin(AMOX)、Clarithromycin(CAM)、Sitafloxacin(STFX)、Metronidazole(MNZ)、Minocycline(MINO)の6剤について施行し、各薬剤の陽性率を検討した。【結果】問診で薬剤アレルギー歴があり、DLSTを実施した症例は77名であった。なお、DLSTを施行した薬剤には欠損値を認める。問診で薬剤アレルギーと申告された薬剤または除菌治療でアレルギーがあった症例は、除菌治療薬39名(50.6%)、ペニシリン系 26名(33.8%)、マクロライド系 6名(7.8%)、キノロン系 3名(3.9%)、ニトロイミダゾール系 0人(0%)、その他・詳細不明6名(7.8%)であり、前治療でアレルギー歴のある患者がもっとも多く、次いでペニシリン系が多かった。一方、DLSTではPPI 0名(0%)、VPZ 6名(8.5%)、AMOX 12名(16.7%)、CAM 5名(7.4%)、STFX 3名(4.2%)、MNZ 14名(20.0%)、MINO5名(7.7%)で陽性を認めた。【結語】問診ではペニシリンアレルギーが多いが、DLSTを行うとMNZが最も陽性率が高く、また他剤も少ない割合ではないことが分かった。薬剤アレルギー歴を有する患者には、慎重な薬剤選択が必要である。
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若井 恵里, 西村 有平
セッションID: 42_3-P-P-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】バルプロ酸は抗てんかん薬や統合失調症治療薬として臨床現場で広く使用されている。しかしながら、バルプロ酸の副作用には肝障害があり、バルプロ酸内服患者のうち、10~40%は一過性の軽度のトランスアミナーゼの上昇を認める。また、一部の患者では重篤な肝障害を起こし、肝不全に陥る場合もある。特に劇症肝炎による死亡例では多剤併用例が多いことも報告されている。これまでに我々はシスプラチン誘導性腎障害に対する保護薬として公共データベース及び有害事象自発報告データベースを用いて5HT3拮抗薬のパロノセトロンを同定し、ゼブラフィッシュを用いたin vivo実験及び三重大学病院の電子カルテやレセプトデータベースを用いたリアルワールドデータ解析によりパロノセトロンの保護効果を実証した。そこで本研究では同アプローチを用いて、バルプロ酸誘導性肝障害に影響を及ぼす薬物について探索を行なった。
【方法・結果】公共トランスクリプトームデータベース (Gene Expression Omnibus)を利用して、バルプロ酸誘導性肝障害の遺伝子発現シグネチャーを同定した。さらに、化合物シグネチャーデータベース(Connectivity Map CLUE)を用いて、バルプロ酸誘導性肝障害シグネチャーと同じまたは逆向きの変化を与える化合物を予測した。また、有害事象自発報告データベース(FDA Adverse Event Reporting System: FAERS)を用いて、バルプロ酸誘導性肝障害を副作用とするオッズ比を上昇または低下させる併用薬を探索した。これらの解析により予測されたバルプロ酸誘導性肝障害に影響を及ぼす併用薬について、三重大学病院の電子カルテ情報を用いて臨床的影響を検証した。さらに、ゼブラフィッシュを用いてバルプロ酸誘導性肝障害に対する併用薬の影響を評価した。
【結論】本研究で用いたアプローチはさまざまな薬物性肝障害に対する併用薬の影響評価にも有用であると考えられる。
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武半 裕子, 小林 司, 大滝 正訓, 太田 有紀, 木田 圭亮, 原 雅樹, 渡辺 実, 飯利 太朗, 松本 直樹
セッションID: 42_3-P-P-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は多様な生理活性をもち、神経伝達物質としてだけでなく免疫系の調節や血管拡張因子としての役割がある。また腫瘍病態を修飾することから、治療のターゲットとして注目されている。本研究では、肝細胞癌(HCC)におけるPACAPのがん細胞増殖に対する作用を明らかにすることを目的とした。【方法】本学内ではヒト組織バンクを保有し、外科手術時に採取された患者の肝臓癌組織を文書同意のもと保存している。この患者由来の肝細胞癌肝臓組織を用いてPACAPおよびその受容体(PACAP1, VPAC1 そしてVPAC2) のタンパク発現を免疫組織学的染色およびWestern blottingより評価した。さらにPACAPの作用を検討するために、HCC細胞株 HepG2 およびHuh7にPACAP-38(10-12―10-9 M)を添加して培養後、細胞増殖反応をMTS法にて測定した。回収した蛋白はアポトーシス関連蛋白の発現を検討した。【結果・考察】HCC肝臓組織におけるPACAPの発現は、血管周囲に存在する神経線維より多く産生されていた。またPACAP1, VPAC1 そしてVPAC2の発現はがん細胞に多く発現していた。HepG2 およびHuh7の細胞増殖は、PACAPの生体内濃度に近似する10-10M で有意な抑制を認めた。またPACAPは、HCC細胞株のCaspase-3の発現が増加した。【結論】以上の結果より、PACAPはHCC組織において発現し、その受容体ががん細胞に発現することを示した。またPACAPはがん細胞のアポトーシスを誘導し、増殖抑制に働くと考えられた。PACAPの癌細胞増殖抑制は、HCCの新たな治療ターゲットになり得ることを示唆した。
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西村 和子, 柴田 寛子, 宮間 ちづる, 石井 明子, 斎藤 嘉朗, 碇川 絵夢, 鈴木 康夫
セッションID: 42_3-P-P-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】免疫系疾患やがん等を対象に,多くのバイオ医薬品が開発されているが,バイオ医薬品は有効成分がタンパク質であることから免疫原性を有し,ヒトへの投与後に有効成分に対する抗体,すなわち抗薬物抗体(ADA)が産生される場合がある.ADAの産生は,血中半減期の短縮や薬理作用の阻害による有効性の低下,免疫複合体を介した補体やFc受容体の活性化による有害反応等につながる可能性があるため,バイオ医薬品の開発・使用の際には,免疫原性の評価が重要である.そこで本研究では,日本人炎症性腸疾患患者を対象に,抗TNFα抗体医薬品投与患者血清中のADAを測定し,ADA陽性率および抗体価に影響する因子について考察した.【方法】抗体医薬品が投与された炎症性腸疾患患者(潰瘍性大腸炎,クローン病,ベーチェット病)について,血清試料および臨床情報を収集した.患者血清中のADAは,電気化学発光(ECL:Electrochemiluminescence)法を用いたスクリーニングアッセイ及び確認アッセイを実施し,陽性・陰性判定を行い,スクリーニングアッセイにおけるECLのレスポンスにより抗体価を評価した.また,ELISA法により血清中の抗体医薬品濃度を測定した.【結果・考察】抗TNFα抗体医薬品を投与された炎症性腸疾患患者176例(インフリキシマブ87例,アダリムマブ66例,ゴリムマブ23例)から血清試料を収集した.インフリキシマブ投与量の中央値は400mg,アダリムマブは40mg,ゴリムマブは100mgであった.抗体医薬品投与患者血清のADAアッセイを行ったところ,ADA陽性率が医薬品によって異なっていた.また,インフリキシマブあるいはアダリムマブ投与患者血清では,スクリーニングアッセイにおいて陽性判定基準を大幅に上回る抗体価を示す検体が複数見られた.抗体価の高い検体では,血中の遊離薬物濃度が低い傾向があり,ADAの存在により抗体医薬品の消失が高まっている可能性や,抗体医薬品がADAとの複合体として存在している可能性が考えられた. 【結論】ECL法を用いて炎症性腸疾患患者の血清中ADAおよび血中薬物濃度の評価を行い,ADA陽性率を明らかにした.
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渡邊 里奈, 穴田 彩夏, 河渕 真治, 伊藤 由佳子, 加藤 健一郎, 早川 哲雄, 栄田 敏之
セッションID: 42_3-P-P-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】経口糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤dapagliflozinに関しては、2020年11月、慢性心不全の効能・効果が追加承認され、血糖降下作用以外のプレイオトロピック作用に注目が集まっている。そこで本研究では、2型糖尿病患者を対象として脂質プロファイルの変化を調べるとともに、脂質異常症モデルラットを用いて基礎的な検討を行った。
【方法】2型糖尿病患者72名を対象とした。罹患期間は10.8±7.7 年(±SD)であった。年齢は58.4±10.6 歳、男女比は52:20であった。投与開始時(ベースライン)および投与開始1、3、6、9、12ヵ月後に臨床検査を行い、triglyceride値、LDL-C値およびHDL-C値のベースラインからの変化量を評価した。なお、本検討は市立砺波総合病院、京都薬科大学における倫理委員会の承認を得て実施した。一方、Wistar系雄性ラットを用いて、常法に従い、poloxamer 407、1 g/kgを腹腔内投与することで脂質異常症モデルを作製した。Dapagliflozinを常用量に相当する0.1 mg/kgで経口投与し、投与後8時間まで経時的に採血を行い、作用部位である腎臓を摘出した。血漿中および腎臓中のdapagliflozin濃度はLC-MS/MSで、各脂質成分値は測定キットを用いて評価した。
【結果・考察】ベースラインのtriglyceride値、LDL-C値、HDL-C値は、各々、123±48 mg/dL、89±24 mg/dL、52±15 mg/dLであった。投与開始12ヵ月後まで、LDL-C値、HDL-C値は変化しなかった。しかしながら、triglyceride値は投与開始12ヵ月後で有意に低下した(-13±45 mg/dL、p=0.028)。さらに、ベースラインが150 mg/dL以上の患者で顕著に低下し(-45±56 mg/dL、p<0.01)、その低下は経時的であった。一方、脂質異常症モデルラットにおけるdapagliflozinのAUC0-8hおよび投与8時間後の腎臓中濃度は、正常ラットに比べて、各々、約1.4倍、約0.6倍であり、脂質異常症を伴う患者で血糖降下作用が減弱する可能性が示唆された。なお、投与8時間後まで、triglyceride値、cholesterol値はともに低下しなかった。
【結論】ベースラインのtriglyceride値が高い患者でtriglyceride値が顕著に低下した。今後、脂質異常症モデルラットを用いてより長期間の観察を行い、dapagliflozin投与に伴うtriglyceride値低下のメカニズムの検討を行う。
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尾上 綾加, 河渕 真治, 伊藤 由佳子, 加藤 健一郎, 早川 哲雄, 栄田 敏之
セッションID: 42_3-P-P-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤に関しては、重度の腎機能障害患者には血糖降下作用が期待できず、中等度の腎機能患者についてもその効果が十分に得られない可能性があるとされている。本研究では、慢性心不全の効能の追加承認により注目を集めているdapagliflozinを取り上げ、2型糖尿病患者における各種パラメータの変動を腎機能で層別化して検討するとともに、腎障害モデルラットを用いて薬物動態学的な基礎的検討を行った。
【方法】2型糖尿病患者72名を対象とした。投与開始時および投与開始1、3、6、9、12ヵ月後において臨床検査を行い、体重、拡張期血圧、収縮期血圧、HbA1c値の変化量を評価した。変化量の評価にあたっては、CKD診療ガイド2012のCGA分類に従い、G1(eGFR≧90 mL/min/1.73m2)、G2(60~89)、G3a(45~59)、G3b(30~44)に層別化した。なお、本検討は市立砺波総合病院、京都薬科大学における倫理委員会の承認を得て実施した。一方、Wistar系雄性ラットを用いて、常法に従い、虚血再灌流処置を施し、急性腎障害モデルを作製した。Dapagliflozinを常用量に相当する0.1 mg/kgで経口投与し、投与8時間後まで経時的に採血を行い、作用部位である腎臓を採取した。血漿中および腎臓中の dapagliflozin 濃度はLC-MS/MSにて測定した。
【結果・考察】投与開始前と比べて、投与12ヵ月後で、体重、HbA1c値は有意に低下(各々、-1.3±2.6 kg、p<0.01、-0.2±0.5 %、p<0.01)したものの、拡張期血圧、収縮期血圧は変化しなかった。G3bの患者でHbA1c値は低下しなかったが体重は低下傾向にあった。また、正常ラット、腎障害モデルラットにおけるAUC0-∞は、各々、693±370、651±382 ng・hr/mLであったが、投与8時間後における腎臓中濃度は、各々、371.1±47.6、264.7±90.0 ng/g であり腎障害モデルで低下傾向にあった。ただし、腎移行クリアランスは、各々、1.46±0.68、1.50±1.13 mL/hr/gで同等であった。
【結論】G3bの患者において、HbA1c値が低下しないことが確認できたが、体重が低下する傾向にあった。症例数を増やして検討を継続する。また、腎障害モデルラットにおいて腎臓中濃度の低下傾向が認められた。このことが腎障害患者でHbA1c値が低下しないことに関係している可能性が示唆された。
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松井 利浩, 當間 重人
セッションID: 42_3-P-P-7
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】主治医の診療科が内科か整形外科かによって、関節リウマチ(RA)の薬物治療の内容に違いがあるのかを比較する。【方法】全国規模の関節リウマチデータベース:NinJa (National Database of Rheumatic Diseases in Japan)の2019年度のデータを用いて解析を行った。対象は、総登録患者16,086例中、データを登録した医師の診療科が判明していた15,392例。内科(A群)が11,187例(72.7%)、整形外科(B群)が3,840例(24.9%)、両者(C群)が365例(2.4%)(C群は今回の解析から除外)。【結果】平均年齢(A群66.6歳、B群67.7歳)、平均罹患年数(12.9年、17.5年)、男女比(女性比率78.3%、81.9%)はともに群間で有意差を認めた。疾患活動性をCDAI(中央値[95%CI]で比較すると、A群(3.9[1.4, 8])はB群(4.6[1.8, 9])に比べ有意に低かったが、MTX使用率(59.7%、60.6%)に群間差は認めず、MTX平均使用量(8.2mg/w、7.6mg/w)、副腎皮質ステロイド使用率(32.8%、24.8%)はいずれもA群で有意に高かった。生物学的製剤使用率(30.1%、34.5%)はA群が有意に低く、JAK阻害薬使用率(4.8%、2.9%)はA群で有意に高かった。両群ともにMTX非使用者の腎機能はMTX使用者に比べて有意に低かった。MTX使用下で生物学的製剤もしくはJAK阻害薬を併用する際の比率を比較すると、A群(17.3%)ではB群(10.3%)に比べ、JAK阻害薬の使用率が有意に高かった。【考察】内科医と整形外科医とではRA治療に用いる薬剤の使用内容に差を認めた。A群はB群に比べて疾患活動性は低かったが、副腎皮質ステロイド使用率も多く、抗リウマチ薬の違いによる影響かの判断は困難だった。今回の解析では、整形外科医はMTXや生物学的製製剤/JAK阻害薬などの強力なRA治療を内科医以上に実施していることが明らかとなったが、リウマチ専門施設のデータでもあり解釈には注意を要する。解析に用いた両群の患者背景に差を認めたことから、診療科によるRA治療の比較には患者背景を揃えた集団での詳細な解析が必要である。【結論】主治医の診療科の違いにより、RAの薬物治療内容に違いがある可能性が考えられた。
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一條 直
セッションID: 42_3-P-Q-1
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】今まで一般的な冬の感染症といえばインフルエンザが主であったが、新型コロナ(SARS-Cov-2)の発生により、感染症対策が大きく変化した。治療薬やワクチンがあるインフルエンザ治療とは異なり、自己免疫による対策も再注目された今般、免疫系に関与すると考えられる活性型ビタミンD3製剤(以下AVD3)服用群と非服用群を比較し、感冒症状の予防にどの程度寄与するかを調査する。【方法】2021年1月から3月の三ヶ月間で来局した65歳以上100歳以下の女性患者のうち、AVD3服用群と非服用群を抽出し、感冒症状で治療薬が処方されたケースを薬歴から後方的に比較検討した。【結果】AVD3非服用群88名のうち、感冒症状があったのは11名(12.5%)。AVD3服用群37名のうち、感冒症状があったのは1名(2.7%)。リスク比は4.6であり、AVD3非服用群が感冒症状を発症するリスクはAVD3服用群に比べ4.6倍高いことがわかった。統計ではOR5.14:95%CI、0.63-41.37となり、有意差は認められなかった。【考察】今回の研究では、AVD3服用群と非服用群間の感冒症状の程度に有意差は認められなかったが、リスク比が優位に高かったため関連性がないとも断定できなかった。今後、さらに症例を集積し、地域における感染対策の一助としたい。
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南 あかり, 岡田 賢二, 小林 洋介, 鈴木 涼, 若宮 卓也, 池川 健, 河合 駿, 小野 晋, 金 基成, 柳 貞光, 上田 秀明, ...
セッションID: 42_3-P-Q-2
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】シルデナフィルはホスホジエステラーゼ5の選択的阻害を機序とする肺動脈性肺高血圧症 (PAH) 治療薬であり、小児の適応症を有する。本薬はCYP3A4により代謝され、その薬物動態は、成長過程の変化とそれに伴うCYP3A4活性の変動の影響を受ける。一方、PAH治療では、肺動脈血圧が目標値まで下がらない場合、エンドセリン受容体拮抗薬との併用も選択肢の1つとなる。この場合、他剤の阻害・誘導による血中濃度の変動も考慮した投与設計が必要となる。本研究では、シルデナフィル経口投与または直腸内注入後、血漿中濃度モニター時に得られたデータを用い、既報の母集団薬物動態 (PPK) モデルによる予測の適用性について検討することを目的とした。
【方法】経口投与後のPAH患児 (体重の平均10.5kg, 範囲2.6-36kg) 15名と直腸内注入後のPAH患児 (体重の平均6.5kg, 範囲3.3-11.6kg) 10名から得られたシルデナフィルの血漿中濃度 (経口:29時点, 直腸内注入:64時点) を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により測定した。既報の小児経口投与PPKモデル (体重の平均3.6kg, 範囲2.0-5.1kg)および小児直腸内注入PPKモデル (体重の平均3.4kg, 範囲0.6-8.1kg) を用いて、対応する患児の投与量および体重から、各患児の採血時点におけるシルデナフィル血漿中濃度のシミュレーション値を得て、観測値と共にprediction-corrected visual predictive check(pcVPC)法により補正した後比較した。本研究は、後方視的研究として関連施設の倫理委員会の承認を受けている。
【結果・考察】pcVPC法により、対象の患児の内、経口投与15例および直腸内注入10例は、今回検討した既報の経口投与および直腸内注入のいずれの小児シルデナフィル PPKモデルの予測値とは若干の解離が認められた。経口投与時のピーク付近の血漿中濃度は,予測値よりも低値を示した。エンドセリン受容体拮抗薬との併用1例において、母集団からの解離は観測されなかった。
【結論】経口投与および直腸内注入後の既報小児PPKモデルは、当該観測値の測定において、精度は不十分であり新規モデルの必要性が示唆された。
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小林 洋介, 岡田 賢二, 南 あかり, 上沼 碧海, 池川 健, 若宮 卓也, 河合 駿, 小野 晋, 金 基成, 柳 貞光, 上田 秀明 ...
セッションID: 42_3-P-Q-3
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】シルデナフィル(SIL)及びタダラフィル(TAD)はホスホジエステラーゼ5(PDE5)を選択的に阻害する肺動脈性肺高血圧症 (PAH) 治療薬であり、小児にも用いられ、また、機序の異なるエンドセリン受容体拮抗薬と併用されることも多い。薬効指標としては、歩行困難な乳幼児では肺血管抵抗係数(PVRI)等が用いられ、SILではこの薬力学的(PD)モデルが公表されている1)。本研究ではこの既報PDモデルを用いて、薬物血漿中濃度よりPVRIを予測する手法を検討し、投与量や多剤併用の設定に役立てることを目的とした。
【方法】小児PAH患者に心臓カテーテル検査を実施し、SIL(2名)またはTAD(2名)をそれぞれ経口投与した後、治療開始前後のPVRI変化率と投与後の薬物血漿中濃度をLC-MS/MS法により測定し、患者個々の薬物動態パラメータを既報母集団薬物動態モデル2,3)を用いて推定した。また、両薬剤のPDE5阻害定数のin vitro試験報告値を基に、PDE5の薬剤による占有率を推定した。一方、既報SIL PDモデルおよび薬剤濃度を用いて、PDE5占有率に対するPVRI変化率を算出し、予測値と実測値を比較した。なお、TADのPVRI変化率予測値の算出では、SILとTADのPDE5の占有率が等しい場合には、同じPDE5を標的とする両薬剤のPVRIは等しいと仮定し、TADの阻害定数を基にSIL血漿中濃度に変換することで、SIL PDモデルを用いて求めた。本研究は、後方視的研究として関連施設の倫理委員会の承認を受けている。
【結果・考察】SILおよびTAD投与患者それぞれ2名と1名はいずれもエンドセリン受容体拮抗薬と併用しており、これらのPVRI変化率の実測値は単剤による予測値よりも低値を示し、併用効果が示されているものと考えられた。一方、TAD単剤投与患者1名のPVRI変化率の実測値は、予測値と近い値を示した。現在、これら2薬剤の臨床データをさらに収集し、既報SIL PDモデルを用いたSILおよびTADのPD予測精度について検討中である。
【結論】既報SIL PDモデルを用いたSILおよびTADのPVRI予測の可能性が示された。
【参考文献】1)Chamu P., et all., PAGE公開資料 (2011), 2)Hornik C., et al., Cardiol Young., 28, 85-92 (2018), 3)Kohno H., et al., Ther Drug Monit., 36, 576-583 (2014)
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折戸 雄時, 加唐 誠剛東, 岡田 章, 永井 尚美
セッションID: 42_3-P-Q-4
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【背景】乳幼児では検体採取に係わる制限があるため、臨床試験で薬物動態(PK)を評価するには、数理モデルとシミュレーション技術を活用して定量的な解析・予測を行うファーマコメトリクス(PMx)のアプローチが有効である。母集団薬物動態(PPK)モデルを用いて少数の採血時点から個別のPKパラメータを推定できることから、本研究では、海外試験データで構築されたPPKモデルに基づき、乳幼児を対象とした抗菌薬開発での採血時点の最適化を検討した。【方法】腎排泄型抗菌薬であるセフェピム(CFPM)及びシプロフロキサシン(CPFX)の既報の小児PPKモデルを用いて、それらのモデル構築で使用された海外試験(生後3.6カ月~3.1年の乳幼児)での採血時点を減らすことをシミュレーションにより検討した。PPKモデルのFisher情報行列に基づき、1例あたり4、3又は2つの採血時点をそれぞれ選択し、各シナリオにおける採血時点の妥当性を評価するため、海外試験と同じ患者数での仮想の臨床試験を1,000回行った。4、3又は2時点で採血するシナリオ(S4、S3又はS2)に加え、各患者でS3の採血時点のいずれか1時点でランダムに採血するシナリオ(S1G3)を検討した。PPKモデルに基づきモンテカルロ法で発生させた各シナリオでの採血時点の血中濃度を用いて、ベイズ推定したPKパラメータ(CL及びAUC)の推定精度及び治療の成功確率を算出した。【結果・考察】乳幼児を対象としたいずれの仮想の臨床試験においても、S4、S3及びS2の間でCL及びAUCの推定精度に大きな違いはなく、少ない採血時点からAUCを推定することができた。S1G3でもAUCを推定することは可能であったが、推定精度のばらつきが大きく、患者個々のAUCの推定値の解釈には注意が必要である。また、すべてのシナリオで治療の成功確率に大きな違いはなかった。以上のことから、腎排泄型抗菌薬の小児臨床試験を計画する際には、3又は4ポイントの採血時点を設定し、優先すべき1又は2ポイントの採血時点を特定することを提案する。【結論】本研究で用いたPMxアプローチにより、必要最小限のデータで、小児用医薬品の臨床開発を効率的に進めることができるとともに、実臨床における抗菌薬の投与設計にも応用可能な最大限の情報が得られ、適正使用のための議論が進むことが期待される。
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村上 知子, 山田 雄一郎, 清水 優貴, 春田 昭二
セッションID: 42_3-P-Q-5
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【背景】妊娠中および産褥期の女性は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高く、妊婦のVTE治療には胎盤通過性のないヘパリンCa等の未分画ヘパリンやエノキサパリン等の低分子ヘパリンが用いられる。しかし、ヘパリンはアレルギー反応を示す症例が少なからず存在する。妊娠中に発症したVTEの治療においてヘパリンCaに対するアレルギー及びエノキサパリンに対する薬疹を呈し、合成Xa阻害剤フォンダパリヌクスの自己注射による抗凝固療法へ切り替え、無事出産に至った1例を経験したため報告する。
【症例】妊娠時41歳、2回経妊1回経産の女性。前回妊娠時は経過に大きな問題なく、妊娠38週で正常児を自然分娩した。今回妊娠7週で右下肢に疼痛が出現した。症状は次第に増強し、歩行に支障を来した。Dダイマー11.0μg/mLと上昇が認められたため、近医産婦人科から当院に紹介受診した。深部静脈血栓症を疑い、当日にヘパリンNa 5000単位を静注し、翌日よりヘパリンCaの自己注射を開始した。抗凝固効果はAPTT比1.5~2.5倍を目標とした。下肢静脈エコー検査で右ひらめ静脈に血栓を認め、後日プロテインS活性低下(13%)が確認された。妊娠10週頃から大腿および下腹部の注射部位の痒み、また同部位や前胸部及び眼瞼の膨隆・発赤が出現した。妊娠11週時にヘパリンCa中止し、エノキサパリン自己注射に変更した。抗凝固効果はΧa活性の代替としてヘパリン濃度を指標とした。その後症状は一旦消失したが、妊娠22週頃から注射部位とは異なる下腹部に痒みが出現し、紅斑局面となり上腹部や背部に広がった。皮膚科診察にて薬疹を疑われるも妊娠性痒疹の可能性もあるため、薬剤は中止せずステロイドの外用及び内服で経過観察されたが、症状悪化し紅斑が全身へ広がったため、妊娠27週にエノキサパリンを中止した。フォンダパリヌクスの有益性および危険性を説明し、本人同意のもとで自己注射を開始した。薬剤変更直後より紅斑や痒みは速やかに改善した。その後も経過に大きな問題なく、妊娠37週3日に誘発分娩で2478gの児を出産した。フォンダパリヌクスは分娩前に一旦中止したが、分娩翌日より再開し、産褥2ヶ月まで継続し、血栓症の再発はなかった。
【結論】妊婦のVTE治療においてヘパリンが使用できない場合には、フォンダパリヌクスも治療の選択肢となり得ると考えられた。
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太田 有紀, 太組 一朗, 山本 仁, 清水 直樹, 山野 嘉久, 宮崎 カンナ, 松本 直樹
セッションID: 42_3-P-Q-6
発行日: 2021年
公開日: 2021/12/17
会議録・要旨集
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【目的】カンナビノイド(大麻抽出成分)由来医薬品は、大麻取締法等の規制対象であり、現行法では、輸入も使用もできない。諸外国では、指定難病であるレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群に対する治療薬として使用され、日本国内においてもその期待が高い。しかしながら、本邦において規制の存在する薬物を扱うことは、現行、容易ではない。すなわち、病院内薬剤管理体制・薬剤供給体制などはこれまでの治験にない独自の管理が必要である。そこで本研究では、治験実施における大麻由来製剤の取扱い等に関する課題に対して、治験実施施設としてどのように考え、どのような対応が可能かを明らかにすることを目的として調査した。【方法】てんかん診療全国拠点機関および21道府県のてんかん診療拠点機関の全22施設を対象に、大麻由来製剤に関して想定される課題に関するアンケートを実施した。【結果・考察】アンケートへの回答は22施設中15施設から得られ、回収率は68.2%であった。大麻由来製剤の管理等(保管方法、帳簿、廃棄等)については、麻薬と同等で良いとする回答が多く得られた。その服薬において、厳格な管理を必要と考えている施設はなく、日誌などによる管理の提案などが多かった。大麻由来製剤を取扱うことに対する抵抗感、不安感等については、半数以上で抵抗感・不安感は「ない」と回答する一方、法規制、調剤の難しさ、金庫の設置等から「ある」と回答する施設もあった。しかしながら、患者さんへの服薬指導に関して抵抗感・不安感はあるかの質問に対して、「ある」と回答した施設はなかった。今回のアンケートから、適正に情報を提供することで基本的には治験の実施は可能である事が確認出来たと考える。【結論】現行の規制法においても治験の実施には前向きな回答が寄せられ、またその理解水準は妥当なものと思われる結果が得られた。特に治験としてカンナビノイドを使用する場合、多くの追加的配慮を必要とせずに実施可能であると考えられた。
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