日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第42回日本臨床薬理学会学術総会
選択された号の論文の410件中101~150を表示しています
シンポジウム
  • 莚田 泰誠
    セッションID: 42_2-S25-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    ファーマコゲノミクスは、薬効や副作用などの薬物応答性に関連する遺伝的要因 (ゲノムバイオマーカー) を見出し、個人個人に合った薬を適切に使い分けることを目指す研究分野である。がん治療においては、医薬品の適応判定を目的としたコンパニオン診断薬として、がん遺伝子検査と次世代シークエンサーを用いたがんゲノムプロファイリング検査が、現在約30薬剤について保険収載されている。これらのコンパニオン診断薬のほとんどは、がん組織を用いる体細胞遺伝子検査であるが、2019年より、従来、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診断に用いられてきたBRCA1/2検査が乳癌・卵巣癌・前立腺癌・膵癌治療薬オラパリブの選定のために行われている。

    一方、薬物血中濃度や重症副作用を予測する遺伝子検査 (薬理遺伝学検査) では、抗がん薬イリノテカンによる副作用の発現リスクを予測するUGT1A1検査、炎症性腸疾患、リウマチ、白血病、自己免疫性肝炎等の治療におけるチオプリン製剤 (6-メルカプトプリン、アザチオプリン) の至適投与量を予測するNUDT15検査、多発性硬化症治療薬シポニモドの投与可否・投与量を判断するためのCYP2C9検査 (いずれも保険収載)、ゴーシェ病治療薬エリグルスタットの用法・用量調整に用いられるCYP2D6検査 (先進医療) のわずか4種類 (5薬剤) が臨床応用されているに過ぎない。このように、臨床導入が限定的である薬理遺伝学検査の社会実装を推進するためには、臨床的有用性 (clinical utility) を示す信頼性の高いエビデンスを示すとともに、結果返却に関するプロセスを含むゲノム医療の提供体制の構築に関する検討が必要であると考えられる。

  • 桃沢 幸秀
    セッションID: 42_2-S25-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子であるBRCA1・BRCA2に病的バリアントが存在した場合、PARP阻害剤の適用が2018年に保険収載された。その適用対象のがん種が現時点では乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がんと広がりつつある。しかし、BRCA1・BRCA2の病的バリアントが他のどのがん種についてリスクを上げるか大規模な解析がなされておらず、その結果、PARP阻害剤の治療効果が他のどのがん種で期待されるかも明らかになっていない。さらには、他の相同組換え修復に関わる遺伝子のどれがどのがん種の発症に関わるかも解析がなされていなかった。 そこで、2015年から理研ではバイオバンク・ジャパン保有の14種のがん合計7万人、非がん対照群3万人の合計10万人について、BRCA1・BRCA2など遺伝性腫瘍関連遺伝子について解析を進めている。これまで、乳がん・前立腺がん・大腸がん・膵がんについては論文化され、その内容は診療ガイドラインにも取り込まれている。現在、他のがん種についても探索的な解析を行っており、本シンポジウムでは最新の結果を報告する。

  • 菱沼 英史
    セッションID: 42_2-S25-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    がん化学療法において、重篤な副作用発現は治療の中断や患者死亡につながる大きな問題である。5-フルオロウラシル(5-FU)を活性本体とするフッ化ピリミジン系抗がん剤(FP剤)は、様々ながん治療のキードラッグであるが、投与患者の約30%に重篤な副作用が生じるとされる。投与された5-FUはその80%以上がジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)及びジヒドロピリミジナーゼ(DHP)による代謝を受け排泄される。DPD及びDHPは、それぞれDPYD及びDPYS遺伝子にコードされており、酵素活性低下を誘引する遺伝子多型がFP剤による副作用発現の一因となることが知られている。白人種において、4種のDPYD遺伝子多型が副作用発現のリスクマーカーとして同定されているが、日本人集団においてこれらのバリアントは同定されておらず、日本人集団における有用性の高い遺伝子多型マーカーの報告はほとんど皆無である。近年、東北メディカル・メガバンク機構による大規模全ゲノム解析により、低頻度の遺伝子多型が数多く同定されており、この中に日本人集団特有の副作用予測マーカーとなり得るバリアントが存在する可能性がある。一方で、演者らは5-FUのプロドラッグであるカペシタビン投与患者においてDPYS欠損による致死的な副作用が発現した症例を報告している。DPYS欠損症は日本人をはじめとするアジア人集団での報告が多くなされており、DPYDバリアントに加え、DPYSバリアントが日本人集団におけるFP剤副作用予測マーカーになり得ると考えられる。これまでに、演者らは東北メディカル・メガバンク機構が公開している日本人全ゲノムリファレンスパネルを活用して、新たに同定された非同義置換を伴うDPYD及びDPYSバリアントについて、精力的にin vitro解析を行い、それらの機能変化を酵素反応速度論的解析により評価してきた。さらに、これらの酵素活性変動のパラメータより、各バリアントのアクティビティスコアを算出し、それぞれの遺伝子型に基づいた酵素活性予測パネルを構築している。その結果、日本人集団において、DPYDでは20.4%、DPYSでは1.5%のヒトで酵素活性が低下又は消失することが推測され、FP剤による副作用が発現するとされる約30%の患者のうち、約3分の2が遺伝子型から説明可能であると予想している。これらの結果は患者個々の遺伝的背景を詳細に解析することで、従来よりも安全かつ効果的ながん化学療法の展開に大きく寄与すると期待される。

  • 大根田 絹子
    セッションID: 42_2-S25-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    ファーマコゲノミクスに基づくactionableな遺伝情報(PGx遺伝情報)は、医薬品の選択、用量の適正化、効果の予測、重篤な有害事象の回避等において有用である。PGx遺伝情報を個人に回付(返却)する場合には、PGxや関連医薬品の知識や遺伝情報の有用性について、分かりやすく伝えることが肝要である。ゲノムコホート調査参加者への回付においては、事前に遺伝情報回付を受ける意思の確認が必要である。さらに、回付後長期にわたり関連医薬品に注意するように促すことや、将来関連医薬品を使用する場合に、医療者が情報を活用できるようにすることなどに留意しなければならない。

    今回私たちは、東北メディカル・メガバンク(TMM)計画のコホート調査参加者に対して、3つのPGx遺伝子(MT-RNR1, CYP2C19, NUDT15)の多型についての遺伝情報を回付した。全ゲノム解析実施者4,378名からランダム抽出した346名に対して、郵送で研究説明会について案内した。MT-RNR1 m.1555A>Gバリアント保持者は事前に解析し、リクルートに含めた。m.1555A>G保持者3名を含む161名が研究説明会に参加し、全員が研究参加に同意した。全ゲノム解析情報は、新たに採取した検体を民間の衛生検査所で実施したサンガー法による配列情報と一致していることを確認し、m.1555A>G保持者に対しては電話で、それ以外の参加者には郵送でPGx遺伝情報を回付した。併せて医療機関への情報提供書2通を密封して同封し、医療機関に持参するよう説明した。m.1555A>G保持者は、予め郵送された説明資料とアミノグリコシド系抗菌薬に対する注意喚起カードについて臨床遺伝専門医による説明を受け、東北大学病院耳鼻咽喉・頭頚部外科を受診した。各段階でPGxに対する知識の習得や行動変容、心理的インパクト等について調査した。

    参加者のほぼ全員が参加前にはPGxの知識が皆無であったが、研究説明によりPGxの基礎知識や有用性について理解を深めていた。検査結果については、75%がその概要を理解できたと回答し、m.1555A>G保持者は医療機関を受診したことをポジティブに捉えていた。一方、医療機関で今回のPGx遺伝情報が活用されるかどうかは現時点では不明であり、より確実な情報伝達方法が望ましいと考えられた。

  • 高橋 良幸
    セッションID: 42_2-S26-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    令和3年4月、我が国の看護系大学は276校293課程となった。養成可能人数は全学校養成所の約36%を占めている。看護師等の養成には、まず、学校の認可を受け、さらに保健師助産師看護師学校養成所指定規則を満たす教育機関として文部科学大臣より指定を受ける必要がある。指定規則は看護師国家試験受験資格を得るのにミニマムな教育内容が示されたものである。大学は学位を与える教育機関であるので、看護職養成にあたっては、指定規則の内容を上回りつつ、大学の教育目標及び学位授与の方針等に基づき教育課程を編成し、質の高い人材を輩出することが求められている。 令和2年10月30日に保健師助産師看護師学校養成所指定規則の一部が改正され、看護師養成に必要な教育内容が示されている別表3の総単位数が97単位から102単位へ増となった。各大学においては、指定規則を満たす教育課程であることの確認と同時に教育課程を見直す機会となっている。 文部科学省では、大学における看護学教育の質保証のため「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」を度々開催している。検討会において、平成23年には「学士課程教育においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標」が策定され、平成29年には学士課程において学ぶべき内容と学修目標を網羅した「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(以下、看護コアカリ)が策定された。医療の高度化や専門分化、地域包括ケアシステムの構築、医療専門職のタスクシフトなど我が国の保健医療を取り巻く状況は刻々と変化している。新興感染症の対応も重要になっている。大学においては看護コアカリなど外部基準を参照しつつ、将来に必要な基礎的能力が学生に獲得されるよう教育課程を熟慮熟考し編成することが期待される。

  • 小見山 智恵子
    セッションID: 42_2-S26-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    看護職(看護師・助産師・保健師)が勤務する現場は、病院や診療所、訪問看護、老人保健施設、保健所、学校など多岐にわたる。その中で最も多くの看護職が勤務しているのは病院であり、就業中看護職約168万人のうち約101万人(60.5%)を占める。2018年度病床機能報告において高度急性期、急性期病床が合わせて58.1%であったことを考慮すれば、最も多くの看護職が勤務する現場は急性期機能の病院や病棟であると言える。

    個々の患者にとっての与薬の質、また組織全体の与薬の質は多角的な視点で総合的に評価されるものと考える。しかし、安全性の観点から言えば、治療計画にそって指示通りの薬剤が誤りなく与薬されること、すなわち誤薬防止が極めて重要な要素であることは論を待たない。そこで、ここでは急性期医療の看護の現場から誤薬防止に焦点を当て、与薬の質や安全性の観点で臨床薬理学教育を考える機会としたい。

    急性期医療の現場では、治療をより迅速に確実に行うために点滴や注射による与薬が行われ、その多くは看護職によって実施される。看護職は安全な与薬のため薬剤の知識や与薬に関する技術習得のための教育体制を強化し、与薬の手順遵守、慣れない薬剤を使用する際のリスク認識の強化等に取り組んでいる。しかし、看護職によるインシデントは続いており、誤薬による重大な医療事故もなくなってはいない。

    現場ではどのように教育体制や労働環境を改善すればよいか模索している。安全に誤りなく与薬を実施するためには、適切な知識と判断、確実な与薬技術が必要である。その根拠となるのは、治療の理解であり薬剤の知識である。これらの教育は看護基礎教育から始まる。疾病や病態、薬の作用と機序、治療ガイドラインやプロトコールなどの知識を統合させ、与薬の重要性と危険性、看護職が与薬に関わる役割や責任等についての認識や理解を深め、安全な与薬の実施者として成長していくためには、看護基礎教育と継続教育のさらなる連携が必要であると考える。

    臨床薬理学教育の強化が誤薬防止という与薬の安全性の向上とともに、急性期医療の段階から患者の退院後の生活を見据えた服薬アドヒアランス向上のための介入や支援という与薬の質向上につながるのではないかと期待する。

  • 尾崎 章子
    セッションID: 42_2-S26-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    地域包括ケアシステムの構築が推進され、病床の機能分化・集約とともに在宅療養が促進されている。在宅では病院と異なり、服薬の管理は多くの場合、本人や家族に委ねられている。我々が訪問看護師を対象に、睡眠薬が関与していると推察される有害事象について行ったインタビュー調査では、在宅での有害事象は、早期発見されない事例がほとんどで、同居家族がいても転倒の第一発見者はヘルパーである場合や、訪問看護師が訪問した際に発見され、受診して骨折が明らかになる例があった。また、本人の同意が得られず服薬状況が把握できないなかで転倒が発生した例や、睡眠薬の見直しと介護負担軽減との折り合いを付けることが容易ではないために、介護者の意向を重視して睡眠薬の使用を継続せざるを得ないといった在宅特有の状況も明らかになった。これらの背景要因には、認知機能の低下、独居や老々介護、家族の介護負担、同居家族との希薄な家族関係が見出された。患者の身体的状態だけでなく、服薬管理に対する患者・家族の意向、家族の介護に対する協力や負担の程度、服薬をめぐる患者と家族のパワーバランスなど、様々な条件が異なる在宅では病棟とは異なる対応が求められる。

    在宅での服薬管理には患者・家族の協力は不可欠となる。生活状況も含めた包括的な服薬アセスメント、自律性を基盤にした服薬アドヒアランス向上の支援、患者・家族のエンパワメント、医師・薬剤師・ケアマネジャー・ヘルパーとの連携と協働といった、訪問看護師に求められる在宅服薬支援に関するコンピテンシーを明らかにし、これを育成することが課題であると考えられる。

  • 平原 康寿, 池田 龍二
    セッションID: 42_2-S26-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    医療の高度化や薬物治療の複雑化が進む中、患者がより安全で安心できる医療提供を受けるためには、各職種の専門性の発揮と連携が期待される。現在、多くの医療機関において病棟に薬剤師が配置され薬学的管理を行っている。薬剤師は薬理学、製剤学、薬物動態学など多くの薬学的知識を基に最善の薬物治療の提供や副作用マネジメントへ活かしている。しかしながら、薬剤師は与薬時を含め常時患者の傍にいることが難しい。与薬時は、薬剤の粉砕や簡易懸濁の可否、注射薬の配合変化やルートの選択、投与のタイミングや投与時間、副作用のモニタリングと大変多くの情報の理解と整理、ならびに迅速な対応が必要である。そのため、患者トータルケアの専門職である看護師と与薬前から薬剤や副作用情報について情報共有し、投与後の有害事象を発生させないために連携することが不可欠である。当院では、2017年度より職種間の情報連携の強化を図る目的で、病棟薬剤師が主体となり担当病棟ごとに病棟薬剤勉強会を開催してきた。主に「ハイリスク薬を中心とした薬剤投与後の観察と記録」、「配合変化」、「休薬が必要な医薬品」についてこれまでに取り上げた。これらは臨床現場で起こりやすい医薬品関連のインシデントやアクシデントに関連しており、薬物療法の基礎知識を理解することでより効果的に実践できることとなった。さらに勉強会といった多職種で理解できる時間を共有することで、職種間の信頼関係が構築でき、さらには職種間のコミュニケーションの構築にも貢献できた。これまでに医師と看護師が構築してきた連携に加え、新しく薬剤師が加わることでより充実した医療の実践が期待される。薬剤師がチーム医療における薬物治療の一翼を担い、質の高い薬剤管理を行うためには看護師との協働が極めて重要である。これまでの当院での薬看連携に関する取り組みを紹介し、実践するための工夫、問題点、今後の課題について議論したい。

  • 田代 学
    セッションID: 42_2-S27-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    「分子イメージング(Molecular imaging)」の基幹技術の一つとして、ポジトロン断層法(PET)が注目され、本邦では2006年度より放射線医学総合研究所(現:量子科学研究開発機構)と理化学研究所の連携のもと、「分子イメージング研究プログラム」が開始された。放射線医学総合研究所は「PET疾患診断研究拠点」として、理化学研究所は「創薬候補物質探索拠点」として活動を開始した。その後、2007年度より放射線医学総合研究所と東北大学の連携のもと「分子イメージング教育拠点」が構築された。 本講演では、PETを用いた分子イメージング研究と教育の背景について概説しつつ、PET黎明期の研究成果とともに、谷内一彦教授らの分子イメージング研究における研究成果をご紹介したい。

  • 古本 祥三
    セッションID: 42_2-S27-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    分子イメージングは2000年頃から米国を中心に研究が推進され、その主役的存在であるPETの研究分野では、分子標的を明確にしたトレーサー開発がメインストリームとなった。腫瘍イメージングでは、2000年以前は生化学反応や代謝に取り込まれる糖やアミノ酸、核酸、膜成分などのミミックトレーサーが開発や臨床利用の中心であった。しかし2000年以降は、がん治療薬の標的分子となっている増殖因子受容体や転移関連分子などを画像化するためのトレーサー開発が広く展開されるようになった。認知症の研究領域では、2000年以前は脳血流や糖代謝の変化をイメージングで評価する研究が中心的に行われたが、2000年以降は、認知症の病理機序に深く関与するアミロイドやタウなどの分子を標的とするトレーサーの開発研究が大きく発展してきた。分子標的型トレーサーの開発は、グローバルな分子イメージング研究の推進により着実な成長を遂げ、複数の承認薬が出現するまでに至っている。この分子標的型トレーサーの発展の背景には、分子標的薬の画像バイオマーカー・コンパニオン診断薬としての役割があった。この役割は今もなお重要性を増しているが、新しいトレンドとして、診断薬と治療薬の両方の機能を備えたセラノスティクス型薬剤の開発が高い関心を集めている。このような背景を踏まえ、本講演では分子イメージングの誕生から現在に至るまでの分子標的型トレーサーの開発研究とその将来展望について概説する。

  • 岡村 信行
    セッションID: 42_2-S27-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    アルツハイマー病における特徴的病理像である老人斑と神経原線維変化は、それぞれアミロイドβ蛋白、タウ蛋白を主要構成成分とするミスフォールディング蛋白病変である。ミスフォールディング蛋白の脳内蓄積はシナプス機能障害や神経変性の誘因となることから、これらの蛋白を標的とした治療薬開発が進められてきた。このような治療薬開発においては、両蛋白を生体画像化するアミロイドPETとタウPETが画像バイオマーカーとして重要な役割を担う。特に病初期におけるアルツハイマー病関連病理の存在確認やそのモニタリングが必要とされる臨床試験においては、治療対象者の選別や薬効評価に欠かせないツールとなっている。アルツハイマー病の患者脳では、活性化したミクログリアやアストロサイトの集簇も併せて観察される。これらの活性化グリア細胞は炎症性サイトカインの分泌促進などを通じ、神経変性に積極的に関与すると考えられている。近年、このようなグリア細胞の活性化状態をモニタリングするための画像診断技術も急速に進歩している。反応性アストロサイトのミトコンドリア外膜にはモノアミン酸化酵素B(MAO-B)の高発現がみられるため、MAO-Bを認識するPETプローブはアストログリオーシスの生体イメージングに利用可能である。我々はMAO-Bへの高親和性を示すTHK-5351の化学構造を部分的に改変し、MAO-Bへの結合選択性に優れた新規PETプローブ[18F]SMBT-1を開発した。本シンポジウムではSMBT-1の開発経緯や最近の臨床研究について紹介したい。

  • 樋口 真人
    セッションID: 42_2-S27-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    認知症の中でもアルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症(FTLD)は三大認知症と呼ばれ、脳内にアミロイドβ(Aβ)、タウ、αシヌクレイン、TDP43という4種の異常タンパク凝集体のいずれかが沈着することを特徴とする。いずれのタンパクが脳のどの部位に沈着しているのかを生体脳で画像化できれば、客観的な診断、鑑別、病勢評価に寄与する情報が得られる。ADの中核病態はAβとタウの沈着であるが、Aβ沈着をポジトロン断層撮影(PET)で可視化するイメージング剤(プローブ)は医薬品として承認され、ADの疾患修飾薬の承認を契機に医療保険収載される可能性も高まっている。タウ沈着はAβ以上に神経障害、神経脱落と密接に関連すると考えられており、タウ病変のPETイメージングが疾患進行の評価に役立つと見込まれる。Aβやタウ病変を可視化するPETプローブは、大半が海外の企業によって作出されたものであるが、我々量子科学技術研究開発機構(QST)のグループは高いコントラストでADやFTLDのタウ沈着を検出するプローブを開発し、臨床評価を進めている。バイオベンチャーであるアプリノイア社との連携により、米国・日本・台湾・中国でグローバル臨床試験を展開し、2-3年以内に診断薬として承認されることを目指している。日本発のプローブを技術的な基軸として、国際的な共同研究開発を推進できると目される。認知症をはじめとする中枢疾患の治療薬開発で「ものさし」として利用できるPETプローブを、企業とアカデミアのニーズを突き合わせて開発する産学連携体制として、QSTは「量子イメージング創薬アライアンス・脳と心」を2017年より主宰している。10社近い会員(国内製薬企業)と未発表データを含む情報交換、意見交換、探索評価を経て標的分子やプローブ候補化合物を同定し、神経炎症、タンパク凝集体、シナプス異常など特定のテーマで部会を構築して、部会内では複数企業との前競争的・協調的な連携によってプローブ開発が進展中である。一連の取り組みにより、αシヌクレイン病変の有望なPETプローブが非臨床で得られ、本年より臨床評価が開始された。研究開発の成果物を各国で診断薬として実用化し、治療薬の非臨床・臨床試験にも活用してもらえるよう、アライアンスにおける知財のビジネス展開機能も強化中である。

  • 金田 朋洋
    セッションID: 42_2-S27-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    PET腫瘍イメージングの幕開けは[F-18]FDGの登場から始まる。これはもともと脳の糖代謝を測定するために開発されたが、悪性腫瘍で糖代謝が亢進していることから大変明瞭なイメージングが可能となった。その後、PETがん検診の普及や2002年の保険収載に後押しされ、FDG PETはがん診療に不可欠なmodalityとしての地位を確立した。中でも遠隔転移や再発の検出、分子標的治療薬の治療効果判定などに関する高い診断能が数多く報告されている。ただし脳腫瘍に関しては、脳への生理的集積が低い[C-11]methionineや [F-18]FACBC、 [F-18]FBPAなどの使用が望まれる。こういったアミノ酸製剤は体幹部腫瘍にも応用されたが、広く普及するには至らなかった。東北大学サイクロトロン・RIセンター(CYRIC)では独自の腫瘍イメージング製剤の開発もなされており、我々は低酸素イメージング製剤18F-FRP170を用いた基礎研究から臨床応用までの橋渡しを行った。悪性腫瘍内の低酸素細胞分画は放射線治療や化学療法に抵抗性であるため、これらを画像化・定量化することにより効果的なテーラーメイドがん治療を行うことを目的としていた。その後ヨーロッパを中心に、より特異的な腫瘍イメージング製剤のターゲットとして前立腺膜抗原(PSMA)や神経内分泌腫瘍のソマトスタチン受容体が注目され、盛んに研究がなされた。いずれも18Fや68Ga標識によるPETイメージングのみならず、α線・β線放出核種の標識による核医学治療まで報告されている。まさに治療を見据えたイメージングという"セラノスティクス"がヨーロッパを中心に展開されている。残念ながら我が国におけるセラノスティクスは諸外国に比べて大きな遅れを取っているが、本年6月に我が国で神経内分泌腫瘍の核医学治療薬[Lu-177]Lutatheraが承認されたことは嬉しい知らせであった。さらに海外では線維芽細胞活性化タンパク阻害剤(FAPI)のPETイメージングが盛んになりつつあり、多くのがんが高いコントラストおよび少ないバックグラウンドで描出されることが報告されている。これも将来的に核医学治療への応用が期待される。このように最近の腫瘍イメージングは、核医学治療薬の開発と相まってこれまでにない程の盛り上がりを見せている。特異的なPETイメージングによるモニタリングと侵襲の少なく効果的な核医学治療の組み合わせが、今後一層発展していくことを願う。

  • 渡部 浩司
    セッションID: 42_2-S27-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 (QST)、住友重機械工業株式会社、そして株式会社千代田テクノルの4機関が共同で、2020年より「DATE(ダテ)プロジェクト」という名の事業が開始された。この事業では、特に、近年注目を集めている64Cu,67Cuを中心に医療用RIの製造を行うことを目標とする。DATE プロジェクトの DATE とは Deuteron Accelerator for Theranostics mEdicine at Tohoku University の略であり、この名前が示す通り、加速器で Deuteron(重陽子) を加速して、"Theranostics"(セラノスティックス) を行うためのRIを製造することを特徴とする。医学、薬学、理学、工学、医工学の分野の専門家が連携することにより、日本発の革新的な核医学治療薬の開発を目指す。本発表ではDATEプロジェクトの概要および将来展望について解説する。

  • 漆谷 隼
    セッションID: 42_2-S28-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    新しい治療法の開発や自らの使用する医薬品・医療機器の安全性に関心をもつ患者や患者会は少なからず存在する。米国では、1990年代から個別製品の承認に関するFDAのAdvisory Committeeへの患者参画が開始され、患者の視点で医薬品開発におけるニーズや課題を幅広く収集することを目的としたPatient-Focused Drug Development(PFDD)会議が様々な疾患領域について開催されている。欧州でも、2006年にはEMAの活動に患者の意見を積極的に活かすための組織であるPatients and Consumers Working Party(PCWP)が設立され、患者向け添付文書やsafety communication等の文書作成にも患者の声が活かされている。このように、欧米では、市販後の医薬品の安全対策の観点でも、「患者の声」を活用する取組みが行われている。本邦における医薬品の安全対策についても、患者の視点による課題を患者とPMDAが共有し、相互にコミュニケーションすることは、規制の適正化や改善につながることが期待される。また、AMEDからも「患者・市民参画ガイドブック」が出版され、本邦での医薬品の開発での患者参画に関する関心は高まりつつある。このような状況を踏まえ、PMDAでは、患者参画や患者との協同に向けたPMDAの取組みを検討するため、患者参画に関するワーキンググループを2019年5月に設置した。本発表では、海外の規制当局における取組み状況も踏まえ、本邦における患者向け情報提供の現状とこれからの展望等について、患者参画検討ワーキンググループの立場から紹介する。

  • 齋藤 宏暢
    セッションID: 42_2-S28-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    臨床試験はInformed Consentが文書で的確に行われることから始まる。かつて患者さんへの情報提供資料としてこの文書同意の説明資料が重要であった。専門性の高い言葉を使わずにわかりやすい言葉を使うこと、結果のみを主張し誇張のない薬剤の説明を行うことを徹底することが大きなテーマであった。この議論には臨床試験にて患者に寄り添うClinical Research Coordinator(CRC)の役割は重要で、治験依頼者としてCRCの方々から患者説明のノウハウも含め、わかりやすい説明文書の書き方を学んだものである。 今では、臨床試験に限らず、会社が薬剤情報の提供を社会に発信する機会が増えてきている。会社のHome Pageでは新薬の現状がすぐにわかるようになっており、規制としてClinical Trial.comなどへの実施中の臨床試験の開示を要求されている。Transparencyの観点からこのような活動は会社にとって重要である。このことより、患者や患者団体は、どの会社がどういう薬剤を開発して、どういう結果が出ているかを容易に入手することができるようになった。一方で、社会ではメールやラインというようなすぐに拡散するシステムもあり、正確な情報が的確に伝わっているか?疑問が残る場合も見受けられる。コロナ禍におけるワクチンのよくない噂などがよい例であろう。わかりやすい情報提供の説明を会社が社会に対して開催したり、Patient Accessの部署を作り、対応を強化している。経営から臨床試験の担当者までが同じメッセージを伝えることがたいへん重要である。製薬企業として、情報の受け取り手である患者さんに直接アクセスすることは難しい状況の中、患者の立場から一番望まれている情報をいかにFairに提供できるかは、重要かつ重大な責務である。このセッションを通じて患者から望まれる情報提供方法、内容、将来にむけて製薬企業として取り組むことなど議論できれば幸いである。

  • 眞島 喜幸
    セッションID: 42_2-S28-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー
  • 加來 浩器
    セッションID: 42_2-S29-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルスが出現してから早2年が経過しようとしているが、その間に我々は様々な危機的事態を経験し、対応し、そして実践してきた。具体的には、武漢市からのチャーター機や大型クルーズ船からの感染者受け入れ、指定感染症の規定に基づく行政検査と医療対応、新型インフル特措法の適用と緊急事態宣言等の実施、保健所からの病床確保の要請、院内クラスターの発生、地域医療の逼迫、医療従事者の過労働、医療従事者とその家族に対する偏見と差別の発生などである。また病原体や疫学に関する知見の集積によって、検査法が質的・量的に進歩した。当初の鼻咽頭ぬぐい液からのPCR法といった感染リスクを伴う検査法から、より安全な唾液によるPCR検査、さらには他の遺伝子検査や抗原検査が利用可能となった。疫学調査で判明したエビデンスに基づいて、無症状者のマイクロエアロゾルの感染性、3密などの感染リスクが高い状況の存在が明らかとなり、感染可能期間中の接触による濃厚接触者の特定などが可能となった。さらに、ワクチンの開発と輸入ワクチンの導入等が行われた。その一方で、保健所機能と医療のひっ迫、コロナ流行下での災害復旧、変異株の出現、緊急事態宣言下での東京オリパラの開催といった問題や課題にも直面した。未知なる新興感染症と向き合うためには、これらの経験をレガシーとして次に備える必要がある。本シンポジウムでは、これらの課題解決のための産官学の役割と、相互連携の在り方などについて述べたいと思う。

  • 國島 広之
    セッションID: 42_2-S29-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は、交通のグローバル化、ボーダーレス化のなか、日本を含めた国内外でパンデミックとなり、今なお世界中で多くの方が罹患している。わが国では2020年2月には神奈川に寄港した旅客船におけるアウトブレイク、次いで海外からの帰国者を発端とした流行が発生した。当時は、正確な感染性や病原性、感染対策が不明ななか、緊急事態宣言による人流の抑制もあり感染者の低減がみられた。2020年には医療施設や高齢者施設におけるクラスターも多く発生し、高齢者や基礎疾患を有する方に致死的な経過が多く発生した。2021年春には高齢者や医療従事者にmRNAワクチンが接種が行われ、高齢者の死亡例やクラスター事例は減少がみられた。度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置にも関わらず人流の低下がみられず、感染性のより高いα型次いでδ型変異株への置き換わりによって、2021年夏以降は、基礎疾患を有さない若年者に流行が拡大し、重症者や死亡例、後遺症患者がみられている。

    新型コロナウイルス感染症の発生以来、医療と経済、社会における感染対策が大きな争点となっている。今後も若年者におけるワクチン接種のあり方も様々な議論があり、新型コロナウイルス感染症の終息はいまだ先と予想される。今後もおこりうる新たな感染症によるパンデミックのためにも、感染症専門家、医療者、研究者、行政、社会との連携協力の更なる発展が必要不可欠である。

  • 中村 健一
    セッションID: 42_2-S30-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2016年11月にICH-E6(R2)が合意されたが、現在早くもICH-E6(R3)として次なる大改定の作業が進んでいる。短期間に再改定が行われることになった背景には、(1)ICH-E6は薬事承認を目指した臨床試験が前提になっているが、実質的にそれ以外の臨床試験にも適用されている、(2)多様化する臨床試験デザインに対応していない、(3)ICH-E6改定により直接影響を受けるアカデミアや患者がガイドライン策定に関わっていないという、主にアカデミアからの不満があった。これを受けて様々なステークホルダーからの意見を取り入れつつ改定作業が行われることになり、日本でもアカデミアを中心とした厚労特別研究班が組織された。

    研究班でまず問題になったのは、ICH-E6の適用範囲である。欧州でも同様の問題が生じているが、日本でもICH-E6が、薬事承認を目的としない医薬品の臨床試験や、医療機器の臨床試験など、どこまで適用されるかは明らかではない。日本でも今後特定臨床研究の薬事への利活用が議論される見通しであるが、ICH-E6の適用範囲にコンセンサスがないという問題の解消を図るべきである。また、ICH-E6(R3)では"proportionality"の概念がさらに推し進められ、被験者やデータのリスクと情報の重要性に応じた、適切な品質管理が行われる方向に向かう。さらに、治験以外のリアルワールドデータの利活用についてもAnnex 2と呼ばれるパートで言及されることになっている。日本でもレジストリデータの利活用に関する2つの通知が厚生労働省より2021年3月に発出されたところであるが、pragmatic trialやdecentralized trialの議論は日本では進んでおらず、Annex 2の策定に間に合うように議論を進めるべきである。

    いずれにしてもデータの信頼性を画一的に考えれば良いという時代は終わり、治験、特定臨床研究、レジストリの外部対照利用など、目的によって信頼性の水準を使い分け、適用する臨床試験を選択する時代がすぐそこに来ていると言えよう。

  • 小宮山 靖
    セッションID: 42_2-S30-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    GCP Renovationは4半世紀ぶりのE8およびE6の大改定である。GCP Renovationの最初のガイドライン・エフォートであるE8(R1)がStep 4に到達した。E8(R1)はハイレベルな指針であり、医薬品のライフサイクルを通して考えておくべき一般的な原則が述べられ、ここに示されたPhilosophyはGCP (E6(R3))のみならず、今後改定されるガイドライン、新規に作成されるガイドラインにも反映されることだろう。GCP RenovationにおけるClinical Studyの実務上もっとも大きな変更点は、Clinical Studyの質の管理技術の転換である。従来、広く用いられていた質の管理技術は、Clinical Studyで起きてしまった問題(エラー、逸脱、不正など)を発見し修正することが中核をなす、言わば「後ろ向きのアプローチ」であった。GCP Renovationが推奨する管理技術は、Clinical Studyにおける業務プロセスに質を事前に作り込むことを前提として、Clinical Studyの目的を達成するために極めて重要な意味を持つプロセスに着目しながら修正を行っていく、言わば「前向きのアプローチ」である。これは工業生産等で発展してきた品質マネジメントのアプローチにClinical Studyが約40年遅れてたどり着くことを意味する。Clinical Studyの計画や準備、実施、終了後のまとめなどは大きく変わっていくことになるだろう。Clinical Studyに関わる全ての人々の考え方の転換が必要である。Clinical Studyにおける業務プロセスに質を事前に作り込むためには、スポンサーやプランナーが机上でプロセスを設計するだけでは全く不十分である。Clinical Studyに参加する医療機関が自分たちの業務プロセスに事前に質を作り込んでいくという準備に年単位の時間を要する努力の積み上げが欠かせない。GCP Renovationが推し進めるQuality by Designは、そのような下地があって初めて健全に機能する。

  • 長谷川 一男
    セッションID: 42_2-S30-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    私は肺がんの患者。ステージは4。2010年、39歳で罹患。当時の私の治療では生存期間中央値が12か月。その状況の中で幾多の治療を選択し、受けてきた。その後2015年に肺がん患者の会ワンステップを設立。活動を続けている。今回は加速しているPPI(患者参画)の流れ。そして、患者提案型医師主導治験KISEKI trialから見えてきた患者参画の良い点と懸念点をお話しする。 それがGCP Renovationに関わる皆さんのお役に立てれば幸いである。<そもそも PPI(患者参画)とは?>男女参画とは臨床研究・治験の推進に関する 今後の方向性について 中間とりまとめ (平成 31 年3月 29 日 厚生科学審議会 臨床研究部会)において、臨床研究・治験の推進に係る基本的考え方として患者参画が記されている。「国民・患者の理解や参画促進 国民・患者の臨床研究・治験への理解や参画が十分でないことも臨床研 究・治験を進める上で課題となっているとの指摘がある。国民・患者の 臨床研究・治験に関する理解や参画を促す取組が必要である。」AMEDにおいても患者参画ガイドブックが発行され、 研究者、患者団体に 研究への参画が周知され、様々な取り組みが始まっている。<患者提案型医師主導治験KISEKI trial>肺がんの EGFR 陽性患者を対象に行われているこの医師主導治験は、患者団体からWJOG(西日本がん研究機構)へ お願いし、製薬会社も協力して2020年から始まった。感謝をどれだけしても足りない。 PMDA の対面助言の費用も寄附で集めた。現在も進行中。日本 においてこのような取り組みは前例がなく患者参画の事例として幾度も紹介された。今回はその経緯を振り返り、 患者参画の良い点と懸念点を記す。良い点としては、患者ファーストを貫くと、ストラテジーにそれた治験も可能になったことだ。現在ゲノム医療の出口戦略が問われている。癌腫横断的で数の少ないタイプは治験が組まれにくい面がある。KISEKI trialはそういったタイプのがんの研究に対し、前例を作ったという見方もできる。懸念点としては、PMDAでの事前面談の場で起こったことをあげる。サイエンスの議論の場に患者が参加したわけだが、そこで、患者の持つ感情を届けることの懸念を強く感じる場面であった。

  • 伊藤 かな子
    セッションID: 42_2-S30-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    ICH E6ガイドライン(医薬品の臨床試験の実施の基準)は1996年に発行され、技術革新や"risk-based approach"等の新たな概念への対応を目的に2016年にE6(R2)へ改訂された。その際、研究者達の国際コンソーシアム等より、試験の多様化に伴う被験者のリスクの相違への配慮が十分でない等の批判がICH及びEMAにパブリックコメントとして寄せられたため、ICHはICH E8ガイドライン(臨床試験の一般指針)の近代化及びそれに続くE6ガイドラインの改訂に関する計画として"GCP renovation"を公表した。本計画に従い、時代を経て多様化した開発手法や試験デザイン・データソースへの対応、"Quality by Design" と表現される考え方の臨床試験への導入、E8ガイドラインが担うべき関連ガイドラインの「道案内」としての役割の強化等を目指し、E6及びE8ガイドラインの改訂が進められている。E8(R1)の検討は2017年より開始され、2021年10月にICHにおける最終合意が得られStep4に到達した。

    一方、E6(R3)についても、"GCP renovation"の一連の作業が開始された。具体的には、2019年6月のICH会合にてE6(R3)が新規トピックとして採択され、同年11月のICH会合においてConcept paper及びBusiness planが承認された。E6 (R3)は Principles、Annex1及びAnnex2から構成され、2020年5月及び11月には、対面会合を予定していたICH会合をバーチャル会議として実施し、Principles(原則)を中心に検討を行った。2021年4月には、Principles案を公開し、同年5月に無料パブリックウェブカンファレンスにて最新の検討状況を報告した。2021年5-6月には、ICH会合(バーチャル)において、主にAnnex 1に関して議論を進め、2021年11月に開催予定のICH会合(バーチャル)においても引き続きAnnex1の草案について検討することが予定されている。また、本ガイドライン改訂にあたってはアカデミア団体や患者団体等の様々なステークホルダーからの意見を取り入れながら検討を進めている。

    本セッションでは、"GCP renovation"に基づくICH E8及びE6ガイドラインの改訂に至った背景、方向性及び最近の動向について共有する。

  • 岩崎 幸司
    セッションID: 42_2-S30-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    GCP Renovation(ICH-E6)では、治験のような薬事承認をゴールとする臨床試験が前提となっているが、アカデミア(医療機関等)で実施されている臨床研究に占める治験の割合は極めて少ないのが現状である。アカデミアで実施している臨床研究の目的やデザインは、薬事承認のみならず、医薬品等の作用機序や疾患・病態の解明に加えて、医薬品と医療機器の組み合わせや画像診断機器とデモグラフィックデータの組み合わせによるアルゴリズム機器の開発など極めて多様化している。現時点ではこのようなアカデミアの状況にGCP Renovationは対応ができていない。さらにGCP Renovationの主体は、製薬企業と規制当局であり、令和2年度厚生労働科学特別研究事業「ICH-GCP改定における国内ステークホルダーの参画のための研究」を除いて、アカデミアは関与できていないので、多様性に富むアカデミアでの臨床研究は、GCP Renovationに対応し辛い状況である。

    しかしながら、GCP Renovationの根幹部分をなす臨床研究の信頼性の確保、質の向上は、アカデミアとしても積極的に取り組むべき事項である。特に、Quality Management(QM)で示されている「被験者やデータのリスクと情報の重要性に応じたQMやRisk Management(RM)を実施すべき(E6(R3))」との提案は重要なポイントと認識している。

    そこで、臨床研究の信頼性向上のために研究責任者(PI)及び統計、スタディマネジャ(StM)、データマネジャ(DM)、モニター(MO)、CRC等の支援職種に対して、QMやRMの概念を教育するシステムを開発している。また、臨床研究の計画立案の早い段階からQMやRMのトレーニングを受けて知識・スキルレベルが向上した各支援職種が研究計画の作成に取り組むことができるようなシステムの開発に取り組んでいる。この多職種連携システムでは、PIのみならず各支援職種の研究計画作成に関する知識・スキルレベルが格段に向上する傾向がみられている。

    本シンポジウムでは、これらの活動の一端を紹介し、臨床研究の信頼性確保・向上について、議論を深めたい。

  • 金井 雅史
    セッションID: 42_2-S31-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2019年6月にがん遺伝子パネル検査が保険診療として実施可能となり2年が経過した。保険償還の為にはがん遺伝子パネル検査の結果を多職種で構成されるエキスパートパネルで医学的解釈を行うことが要件となっている。しかしエキスパートパネルの判断基準は施設によりさまざまであり、同じバリアントに対してエキスパートパネル間で異なる治療薬が提案されるということも起こりうる。エキスパートパネルの標準化も試みられているが、治験を含めた関連情報は常にupdateされており、エキスパートパネルを担当する医師にとって、年々増加する最新情報に対して常にキャッチアップしていくことは現実的にハードルが高い。さらに2021年8月からは血液検体を用いたリキッドバイオプシーも保険承認され、今後がん遺伝子パネル検査件数の増加が予想されるが、エキスパートパネルに割くことができる労力と時間は有限であることから、エキスパートパネルの効率化は喫緊の課題である。今回、中核拠点病院におけるエキスパートパネル運営の現状と課題について、当院での経験も踏まえて論じたい。

  • 植木 有紗
    セッションID: 42_2-S31-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    NCCオンコパネルシステム検査(NOP)とFoundationOne CDx検査(F-One)が保険診療として実施可能となり、遺伝性腫瘍診療には大きなパラダイムシフトが起きた。がんゲノム検査の結果、本来の治療標的を定める目的の遺伝子プロファイリング解析結果以外に、遺伝性腫瘍関連遺伝子に関わる情報についてgermline findings(GF)として遭遇しうる。GFの開示に当たっては、NOPではgermlineの解析を行っているため確定的な検査である。一方でF-Oneの場合、腫瘍由来の情報のみでありGFについてはあくまで"presumed"という表記が妥当であるため、確認検査が必要である。現時点でgermlineについての確認検査は保険収載されておらず、どの遺伝子を開示対象とするのか、pathogenicityの評価をどう行うのかについては各施設の判断に委ねられており、今後本邦においての対応を統一することは大きな課題といえる。

    がんゲノム診療の現場において、もともと想定していない遺伝性腫瘍関連遺伝子が検出されるケースにも遭遇しうる。とくに保険診療におけるがんゲノム検査を希望する患者は標準治療終了見込みの患者が多く、藁にも縋る思いで検査を受けられるケースも少なくない。治療を提供できない患者に対して、GFのみを返却することは主治医にとっても非常に負担の大きい説明であることは想像に難くない。また現在の癌治療だけで精一杯の患者が直接治療方針に関わらないGFについて開示された場合、血縁者への影響について考える余裕がない場合もある。

    そのような状況にあってもGFを開示し確認検査をする意義のひとつは、目の前の患者の治療には役立てずとも、家族に対する医療介入によってがん死低減に寄与できる可能性があることである。患者の遺伝学的診断によって家族が発症前にリスクがあることを理解し、適切なサーベイランス介入を行うことで、早期発見・早期治療につなぐための方策が提案できることがある。

    GF開示にあたって遺伝診療部門として重視していることは、患者・家族にとって正確な情報を整理し、正しい理解を助け、家系全体のがん死低減に寄与できるための前向きな心理社会的支援である。がんゲノム診療の普及と共にがんゲノム検査を実施する医療施設は、患者・家族に適切なサーベイランスを提供できる院内態勢の整備が急務である。

  • 座間味 義人
    セッションID: 42_2-S31-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    岡山大学病院(以下、当院)は中国四国地方において唯一がんゲノム医療中核拠点病院として指定されており近隣施設のがんゲノム拠点病院などの医療機関と連携し、がんゲノム医療の中心的役割を担っている。当院における役割の一つとしてエキスパートパネル(以下、EP)の開催が義務づけられており、専門知識を有する多職種のスタッフにより構成されがんゲノム医療の活発な議論がなされている。がん遺伝子パネル検査(以下、パネル検査)から治療候補に結び付く遺伝子病的バリアントが見つかった場合、出口戦略として臨床研究が候補として挙げられることも少なくない。そのため出口戦略に関連した専門知識、各がん種における標準治療や病態の理解、分子標的治療薬などの薬剤情報が必要とされる。しかしながらEP構成員の指定要件に薬剤師は含まれておらず、がんゲノム医療における活動範囲や役割についてはほとんど認知されていない。

    当院では現在、薬剤師兼臨床研究コーディネーター1名が、がんゲノム医療に携わっている。院内外合わせて約20症例/週のパネル検査結果をEP前までに事前確認し、臨床研究の実施状況や適格性確認等における出口戦略の検討、およびパネル検査から結びついた治験や患者申出療養制度を用いた特定臨床研究の業務支援を行っている。さらに薬の専門家として薬理学的特性を熟知していることから治療薬の適正使用にも貢献している。必要時にはEP前に薬剤師が論文検索を行い、医師へ臨床情報をフィードバックすることもある。これら業務は各診療科医師から信頼関係が無ければ出来ないと考えられ、まさしくチーム連携が必須であると言える。

    現在においてもパネル検査から治療に結び付く症例は約1割程度と報告されている。より治療に結び付く症例を増やすためには、ビッグデータ解析を用いて治療標的になり得る薬剤の臨床情報整理や論文抽出等の業務効率化、ドラッグリポジショニング研究から既存薬をよりがんゲノム医療に結び付ける橋渡し研究等の活性化、がんゲノム医療を専門とした薬剤師の人材育成が必要である。

    今後がんゲノム医療における薬剤師の役割が重要と位置付けられることが予想され、本シンポジウムでは薬剤師の期待と課題について皆様と議論したい。

  • 平沢 晃
    セッションID: 42_2-S31-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    がんゲノム医療は「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防をおこなう医療(未発症者も対象とすることがある。またゲノム以外のマルチオミックス情報も含める)」と定義される(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書)。わが国では2018年よりPARP阻害薬オラパリブ使用のためのコンパニオン診断に遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1/2 遺伝学的検査が承認され、2019年よりがんゲノム医療が保険診療として開始した。がんゲノムプロファイリング検査(CGP)は、標準治療がない固形癌患者または標準治療が終了となった(終了見込み含む)固形癌患者が保険診療の対象である。しかし本来がん細胞のゲノム情報は主治医が治療計画を考慮するパラメーターであり、CGPを標準治療後に限定する科学的根拠はない。また一部のCGP検査はコンパニオン診断(CDx)機能を有しているものの、CGPをCDx目的で使用した場合はCDxの点数のみしか算定できない。がんの約1割は遺伝性であるといわれており、がんゲノム医療は遺伝子診療部門とがん治療部門が協働で治療のみならず、血縁者も含めた国民全体のがん死低減に向けた貢献が理想であるが、保険未収載の遺伝医療が多い。遺伝性腫瘍の遺伝学的検査で保険収載となっている項目はRETRBMEM1BRCA1BRCA2の5遺伝子のみ(2021年8月時点)であり、早急な解決が求められる。また令和2年度診療報酬改定では遺伝性疾患としてHBOCが病名収載されたが、保険対象となるのは乳癌や卵巣癌の既発症者のみである。遺伝カウンセリングに対する保険適応の見直しも必要である。現行では遺伝学的検査を実施し、その結果について患者又はその家族に対し遺伝カウンセリングを行った場合に、遺伝カウンセリング加算として患者1人につき月1回に限り1,000点を所定点数に加算することが認められているが、遺伝学的検査のみに付随する区分D(検査)ではなく、区分B(医学管理等)で実施することが適切である。我が国は国策としてがんや難病において全ゲノム解析を行うことが示された。しかしながら全ゲノム解析の臨床導入前に、これら保険未収載事項の解消や厚生労働省標榜診療科としての「遺伝科(仮称)」設置も喫緊の課題である。

  • 白井 直人
    セッションID: 42_2-S32-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    消化性潰瘍を含む酸関連疾患の治療は1982年にH2受容体拮抗剤が利用できるようになり劇的に変化しました。それ以前は消化性潰瘍の多くは再発・難治症例が多く外科的治療を要する疾患でしたが、H2受容体拮抗剤により保存的治療が可能な内科疾患となったのです。その後1990年代に入りさらに強力な酸分泌抑制が可能であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)が登場します。消化性潰瘍の治療に関しもう一つ重要な因子がHelicobacter pylori (H. pylori)の発見です。H. pyloriの除菌による潰瘍再発・胃癌発生の抑制が示されました。H. pylori除菌治療にはPPIと抗生剤を使用します。抗生剤としてAmoxicillin(AMPC)とClarithromycin(CAM)を使用しますが、AMPCは十分な酸分泌抑制がなければ抗菌効果を発揮できません。PPIは程度の差はありますが、CYP2C19にて代謝を受けるため、その遺伝的多型性の影響を受けます。両アレルが野生型であるRapid metabolizer(RM)と片方のアレルに変異のあるIntermediate metabolizer(IM)、二本のアレルの両方に変異があるPoor metabolizer(PM)に分類され、PPIの代謝が早いRMでは十分な酸分泌抑制が達成されずAMPCの効果が十分に発揮できないため除菌率は低く、逆に代謝の遅いPMでは除菌率が高くなります。通常除菌治療では2倍量のPPIを使用しますが、酸分泌抑制の十分でないRMにおいては4倍量のPPIを使用することにより十分な酸分泌抑制が達成され、PMに劣らない除菌率が得られます。最近は日本人の酸分泌能の増大やH. pylori感染率の低下、食事の欧米化などにより胃食道逆流症(GERD)が増加しています。GERDの一つである逆流性食道炎の治療はしっかりとした酸分泌抑制が必要です。やはりPPIによる逆流性食道炎の8週後内視鏡的治癒率は酸分泌抑制が十分達成されるPMで高く、RMで低い結果です。2015年にP-CABが利用できるようになり、PPIに比べ半減期が長く酸に安定であることから、PPIよりも強力で持続する酸分泌抑制が達成されます。H. pylori除菌率はPPIレジメンに比べ高い除菌率を達成しています。逆流性食道炎の治療に関しても特に重症な症例ではP-CABによる24週後の再発率は低値です。P-CABは主にCYP3A4にて代謝を受けるため、CYP3A4で代謝される薬剤との併用には注意を払うべきです。また強力な酸分泌抑制力のため血中ガストリン値が高値となるため、こちらに関しては今後も経過観察が必要と考えられます。

  • 角田 洋一, 木内 喜孝, 正宗 淳
    セッションID: 42_2-S32-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患の診療において、アザチオプリンおよび6-メルカプトプリンからなるチオプリン製剤は現在においても寛解維持治療を中心に活用されている。稀に経験される全脱毛や白血球減少はチオプリン製剤に特徴的な副作用であり、重篤かつ回復に時間がかかることなどから治療導入の障害となっていた。欧米人に比較しアジア人で副作用が多いにもかかわらず、チオプリンのPGx検査としてよく知られるTPMTの遺伝子多型はアジア人での相関が極めて弱く、別の要因が示唆されていた。2014年に明らかとなったNUDT15遺伝子多型とチオプリンによる白血球減少および脱毛との非常に強い相関は、特に全脱毛はほぼ全てこの遺伝子多型だけで説明できるほど多型と症例が一致した。この明確な関連性から、我々は検証研究および検査キットの開発を行い、その結果2019年2月から保険収載となった。実用化から2年以上経過しNUDT15遺伝子検査はチオプリン製剤を使用する前のスクリーニング検査として定着しつつある。一方で、この検査の結果を単に高度の副作用症例(Cys/Cys型)の判定に使用するだけなのか、ヘテロ型や特殊型はどう扱うのかなどはまだ議論があるほか、そもそもこの検査が実際に予後を改善しているかは評価が必要である。少数例での検討であるが、当院通院中の炎症性腸疾患患者でチオプリン使用歴のある259例について、事前にNUDT15遺伝子多型検査を行った群65例と、検査なしで治療を開始した194例の予後を比較したところ、遺伝子検査なし群ではヘテロ型の累積副作用回避率が有意に通常型より低かったものが(p= 0.000270)、遺伝子検査後にヘテロ型でチオプリンを減量して開始すると、通常型との有意差が消失していることが確認された((p=0.495)。現在、大規模での検討が進んでいる。もう一つの問題として、妊娠中のチオプリン製剤の使用とNUDT15遺伝子多型検査の問題がある。チオプリンは妊娠中にも使用することがあるが一部は胎盤移行するため、胎児のNUDT15遺伝子型が母体と異なる場合に、母体では問題がない場合でも胎児に問題が発生する。この問題はヒトと同じNUDT15遺伝子多型を再現したマウスの実験で危険性が確認されており、現在臨床での検討が進められている。このように国内で実用化に至った数少ないPGx検査の一つであるNUDT15遺伝子検査について、実用化後の現状と問題点についてまとめる。

  • 上島 智, 桂 敏也
    セッションID: 42_2-S32-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    本邦における脳卒中の死亡数は死因別死亡数の第4位であり、なかでも脳梗塞の死亡数は脳卒中の約60%を占めている。心原性脳塞栓症は最も予後不良な脳梗塞であり、従来その再発予防にはビタミンK拮抗型抗凝固薬ワルファリンが汎用されてきた。しかし、ワルファリンは多くの薬物やビタミンKを豊富に含む食品と臨床上問題となる相互作用を示すことが報告されている。一方、トロンビンや活性型血液凝固第X因子 (第Xa因子) に直接作用する経口抗凝固薬 (DOAC) においては、食品や薬物との相互作用がワルファリンよりも少なく、DOACの有効性や安全性はワルファリンと同等であることから、実臨床におけるDOACの使用頻度が増加している。しかし、添付文書に記載されている用法・用量に準じてDOACを投与しても、消化管出血が高い頻度で認められること、DOACの出血症状を予防するための指標がないことが問題になっていることから、DOACの薬効や出血症状を反映するバイオマーカーを探索する研究が進められている。

     DOACは小腸や肝臓、腎臓に発現する薬物排出トランスポーターにより体外へ排泄され、小腸や肝臓に発現する薬物代謝酵素により代謝される。これらのタンパク質がDOACの体内動態を規定する主要因子と考えられるが、これらのタンパク質の遺伝子多型が薬物動態に及ぼす影響については不明な点が多い。近年、治験データを用いたDOACの曝露/応答解析より、血中薬物濃度または血中薬物濃度-時間曲線下面積が出血症状や血栓塞栓症の発現頻度と相関することが報告されている。従って、DOACの体内動態における個体間変動要因を解明できれば、個々の患者における血中薬物濃度を精確に予測することが可能になり、これに基づく消化管出血の予防法の確立に繋がると考える。

     そこで本講演では、DOACの薬物動態/ゲノム薬理学的研究について紹介し、DOACによる消化管出血の予防に対する薬物動態関連遺伝子多型の有用性について考察したい。

  • 山出 美穂子, 高橋 悟, 樋口 友洋, 古田 隆久
    セッションID: 42_2-S32-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    消化器癌の早期発見、早期治療は増加しているが、切除不能進行癌で診断される症例も依然多く、癌薬物療法の効果的な対策が求められている。癌診療においても個別化医療の潮流が見られるが、いまだ十分であるとは言えない。 消化器癌におけるコンパニオン診断(CDx)として、胃癌ではHER2発現、大腸癌ではRAS・BRAF変異、膵癌ではBRCA1/2変異等の検査があり、対応する治療薬の適応が決定されている。また免疫チェックポイント阻害薬Pembrolizumabの適応決定に、MSI-H検査が実施可能である。しかし、CDxで対応する薬物が使用可能となる症例は一部に限られる。標準治療の治療難渋例には、包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査(がんパネル検査)が行われエキスパートパネルを経て治療薬が検討されるが、現状では薬剤到達率は1割程度であり、新たなバイオマーカー探索が急務である。その中で、殺細胞性抗腫瘍薬の効果予測として期待されているのがSLFN11である。 2012年、2つの独立したグループが癌細胞遺伝子Databaseの解析よりSLFN11を見出した。NIH/NCIのグループは60の代表的な癌細胞株NCI-60の薬剤感受性と遺伝子発現Dataを用い、Topoisomerase阻害薬感受性の解析からSLFN11を見出し、卵巣癌や大腸癌において抗腫瘍薬の薬剤感受性やOSにSLFN11発現が影響することを報告した。もう一つのHarvardとMITのグループは1000以上の癌細胞株CCLEの遺伝子解析からSLFN11を見出し、SLFN11発現がTopoisomerase阻害薬の感受性に関連すると報告した。SLFN11は抗腫瘍薬や放射線によるDNA損傷時に複製フォークへ結合し、クロマチン構造を変化させ、複製フォークの進行すなわち複製を阻害する。SLFN11による複製の阻害は永続的であり、長期にわたるS期停止が薬剤感受性に寄与すると考えられる。SLFN11の研究報告は加速度的に増加傾向にあり、2020年当科グループも食道癌における放射線化学療法の予後予測因子であることを報告し、特にStage II IIIの食道癌において手術とCRTの選択に有用である可能性が示唆された。現在、消化器癌にとどまらず様々な領域でSLFN11の臨床応用が検討されており、今後の活用が大いに期待される。

  • 田中 靖人
    セッションID: 42_2-S32-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    2009年、我々はゲノムワイド関連解析(GWAS)により、C型慢性肝炎に対する当時の標準治療であったペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法の有効性に関連するIL28B遺伝子多型(SNP)を同定した(Tanaka Y, et al. Nat Genet 2009)。これまで報告されているウイルス側因子のみでは治療前効果予測は不十分であったが、IL28B SNPの発見により、80%以上の確率で有効/無効を予測できるようになった。2010年には「IL28Bの遺伝子診断によるインターフェロン治療効果の予測評価」として先進医療に認可され、C型肝炎の個別化治療の道を開いた。さらに、この発見により新規治療薬の開発が進み、現在主流となっている直接作用型抗HCV薬(DAA)が早期に臨床応用された。現在、HCVは容易に駆除できる時代となったが、今なおHCV治癒後の肝がん症例が散見される。2017年、GWASによりHCV治癒後の肝発癌に関連するTLL1(トロイド様遺伝子1)SNPを同定し、既存の因子を組み合わせることで、DAA治療後の肝発癌リスクの高い患者群を絞り込むことが可能となった(Gastroenterology 2017)。この遺伝子はメタロプロテアーゼの1種で、NASH線維化にも関連していることを報告(J Gastroenterol 2018)、肝線維化・発癌メカニズムの解明、新規治療法の開発に繋がる。以上、GWASにより得られた因子の臨床的意義について触れる。

  • 米澤 淳
    セッションID: 42_2-S33-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    抗体医薬品は、低分子医薬品だけで賄えない領域において高い治療効果を発揮し、医療現場では必要不可欠となっている。しかし、高額であることから医療経済への影響が危惧され、適正使用が望まれている。抗体医薬品は生体成分のイムのグロブリンIgGとほぼ同じ構造であることから、ヒトにとっては生体類似物質であるが、動物にとっては完全な異物である。従って、動物を用いた研究からヒトにおける体内動態変動を予測することは困難であり、ヒトにおける臨床薬理学研究の重要性がきわめて高い。

    近年、抗体医薬品は免疫原性を有することから生体内で抗薬物抗体が産生され極端な血中濃度低下を来たすことが報告され、血中濃度モニタリングの重要性が示唆されている。また、抗体に付加する糖鎖は、抗腫瘍効果で重要な抗体依存性細胞傷害機能を調節することが知られているが、抗体の体内における構造変化(分解、代謝、修飾等)に関する情報は皆無である。抗体医薬品の血中濃度データに基づく投与設計法や測定技術の開発が課題となる。

    我々は質量分析器を用いた抗体医薬品血中濃度一斉測定技術やTOF-MSを用いた生体内における抗体医薬品の構造解析法など新たな体内動態解析手法を確立してきた。また、血液検体を保有する京大病院リウマチ患者のコホートデータなどを活用し、自己免疫疾患患者において抗体医薬品のTDMの有用性を明らかにしてきた。

    本シンポジウムでは、臨床薬理学会認定薬剤師として遂行してきたこれらの研究内容を紹介するとともに、抗体医薬品の最適医療を目指したInnovationへの挑戦について議論したい。

  • 平井 利典
    セッションID: 42_2-S33-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    臨床薬理学会認定薬剤師制度は数ある認定薬剤師・専門薬剤師制度の中で最も歴史が古く、本邦初の学会レベルで発足した認定薬剤師制度である。臨床薬理学の発展と普及に主眼を置いており、臨床薬理学会認定薬剤師を取得するには臨床経験だけではなく学術論文をはじめとした研究業績も求められる。本演題では、演者自身が取り組んできた活動内容を紹介し、認定薬剤師の今後のあり方について議論を深めたい。

    大多数の認定薬剤師は領域・診療科に特化した方針が敷かれている。一方、臨床薬理学会認定薬剤師制度では診療科の垣根を超えた領域横断的な活動も評価される。近年、Onco-nephrologyなどの領域横断的な介入も求められており、臨床薬理学会認定薬剤師の強みとなることが期待される。血管新生阻害薬である抗VEGF抗体は、既存の殺細胞性抗がん剤の併用により種々のがん種の予後を改善してきた。しかし、高血圧や蛋白尿の副作用がしばしば治療継続の障害となりうる。そこで、高血圧や糖尿病性腎症で汎用されるRA系阻害薬による腎保護効果、すなわち尿蛋白抑制効果に注目して臨床研究を実施した。その結果、RA系阻害薬は抗VEGF抗体投与症例に対して抗尿蛋白作用を発揮し、尿蛋白を認めた症例では降圧コントロール不良の傾向であった。

    所属に違いはあれ、臨床薬理学会認定薬剤師は臨床現場への志向を忘れてはいけないと自戒している。薬剤師の大きな責務として医薬品適正使用の貢献が謳われており、その実現に不可欠なスキルの一つとして薬物動態学がある。過去のソリブジン事件からも薬物動態学の重要性は想像に難くない。演者はST合剤による高K血症の危険因子として、高用量ST合剤が独立した危険因子であることを見出した。高K血症の機序として、トリメトプリムが濃度依存的に腎尿細管におけるK+分泌を阻害することが知られている。しかし、K+の体内動態は種々の要因により異なり、医薬品と生体の両方からST合剤による高K血症について検討するべきである。そこで、演者はST合剤による血清K値の推移を予測するPK-PDモデルの開発に着手している。また、アザチオプリンとアロプリノールとの薬物相互作用はキサンチンオキシダーゼを介して起こることが知られているが、腎機能低下患者では薬物相互作用が増強することを見出した。

    【参考文献】

    T Hirai, Cancer Chemother Pharmacol. 2019; 84:195-202.

    T Hirai, J Infect Chemother. 2021; 27:1607-1613.

  • 嶋田 沙織
    セッションID: 42_2-S33-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    日本臨床薬理学会への入会は治験を担当する部署への配属がきっかけであった。新しい治療に対する患者の期待や、治療の選択肢を増やしたいという医師の思いに直接触れ、薬剤師CRCとして治験への関わり方を模索している時期であった。治験を通じて添付文書の情報が構築される手順を知り、臨床研究の進め方や守るべき規則を学び、2011年に認定CRCを取得した。特に、臨床研究の進め方や守るべき規則を身につけたことは、その後の博士課程での研究に役立った。治験の部署から薬剤部に戻った後、社会人大学院生として「甘草含有漢方薬投与による低カリウム血症の発症要因に関する研究」に取り組むことになった。この時、漢方薬の副作用を、西洋医学的な思考も取り入れて臨床薬理学の手法で評価したいと考え、学会認定薬剤師を目指した。自身の研究成果を本学会の学術総会で発表しながら研究論文をまとめ、博士の学位と同時に学会認定薬剤師も取得できた。

     学位取得後は医療安全部門へ配属され、現在は医薬品安全管理責任者の指名する薬剤師として院内全体の医薬品の安全管理業務に従事している。本業務では、特に「未承認薬の臨床使用」や「医薬品の禁忌・適応外使用」を評価する能力が求められる。未承認薬や禁忌・適応外使用のエビデンスは限られており、各薬剤の薬理作用・副作用や薬物動態を理解した上で、対象症例に投与することのメリットとデメリットを判断することが重要である。この過程では、本学会の認定薬剤師・CRCとしての知識や経験が役立っている。患者の希望や、患者を救いたいという医師の強い思いを受け止めつつも、未承認薬等を選択する倫理的・科学的妥当性や使用方法の可否について薬剤師として適切に判断できるよう心掛けている。また、医療安全部門の薬剤師として、治験審査委員会、いばらき治験ネットワーク中央治験審査委員会、臨床研究倫理審査委員会、臨床研究審査委員会の委員も務めている。各委員会では、医薬品の有効性・安全性に対する薬剤師としての視点と、被験者の気持ちに寄り添ったCRCとしての視点から、患者がよりよい医療を選択できるような発言を心掛けている。

     認定薬剤師・CRCとしての知識や経験は、これまでの私の業務および研究に対する考え方に大きな影響を与えてきた。本発表ではそれらを紹介しながら、医療現場における臨床薬理学会認定薬剤師の役割とその可能性を考えてみたい。

  • 川名 純一
    セッションID: 42_2-S33-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品医療機器総合機構(PMDA)の職員が、医療系学会等の認定資格を取得することは、社会から医学・薬学に関する高い見識を持つ専門家と認められ、PMDAの業務の質の向上を図る上でも有用と考えられる。特に臨床薬理学は、PMDAが担う医薬品の承認審査・安全対策・副作用被害救済に関連した業務に深くかかわる学問分野である。そこで、PMDAでは、業務内容や既存の研修プログラムの中から、臨床薬理学会の研修ガイドラインに基づく臨床薬理学研修カリキュラムを策定し、令和2年1月、臨床薬理学会認定薬剤師制度の研修施設認定を取得した。これにより、職員がPMDAでの業務を通して研鑽を積みながら認定薬剤師を目指すことが可能となったため、PMDAの臨床薬理学会指導薬剤師等が職員に対して行っている認定取得支援の取組みの一部を紹介したい。

    まず、認定薬剤師制度の認知度を高めることを目的に、職員向け説明会を開催し、医療系学会認定資格取得の意義、臨床薬理学会認定薬剤師制度の概要、申請要件、PMDAにおける臨床薬理学研修カリキュラム等について解説した。説明会後のアンケートの結果、認定薬剤師を目指そうと思った職員が増加したが、調査・研究の実施を認定取得上の課題としてあげる職員が多かった。また、指導薬剤師に対し、研究への従事の方法や具体的な事例紹介の要望が多く認められたため、フォローアップ説明会を実施した。

    フォローアップ説明会では、PMDAが提供できる研究の場、研究への従事の方法や制度面の支援、指導薬剤師による具体的な研究事例等を解説した。フォローアップ説明会後には、日常業務に関連した研究テーマを考える職員が多く、実際に研究をはじめたいと思った職員が半数を超えた。また、研究したいテーマがあるものの開始が難しいと回答した職員に対し、指導薬剤師が個別に助言を行った。

    さらに、PMDA内のイントラネットに、医療系学会等の認定資格支援に関するページを作成し、内部向け説明会資料の掲載や臨床薬理学会の学術集会の周知等を行っている。また、各部においても職員に対し研究活動の支援や学会情報の提供等を適宜実施している。

    PMDAにおける業務や研究を通して培った知識や経験を、国民がより有効でより安全な薬物治療の恩恵を受けられるよう活かす上でも、臨床薬理学会認定薬剤師を目指し研鑽を積むことは有用である。今後とも、指導薬剤師等による職員への様々な支援の継続が必要と考える。

  • 塩見 真理
    セッションID: 42_2-S33-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    臨床薬理学会認定薬剤師は、その目的に、国民がより有効でかつ安全な薬物治療の恩恵を受けられるために貢献し、併せて臨床薬理学の普及向上を図ることがある。近年、次々と生み出される画期的な治療及び新薬を適切に使いこなすべく、薬物療法は大きな変革を迫られ、パラダイムシフトを続けざるを得ない状況にある。この場合、薬物治療の基盤は、まさにエビデンスに基づく臨床薬理学であり、認定薬剤師はその専門家として、多岐にわたる活躍が期待されている。

    ここで、製薬企業で医薬品開発を行う場合、認定薬剤師が貢献できることについて考えてみたい。言うまでもなく製薬会社は、良質な医薬品をその情報とともに適切かつ迅速に患者に届ける責任を有する。その際、安全性を確保しつつ、治験薬の効果を最大限に発揮させる用法・用量を科学的に設定することが特に重要と考えられるが、これは薬物動態理論の臨床応用を得意とする臨床薬理の専門家として、その役割を大いに発揮できる点である。例えば、モデリング&シミュレーションアプローチは、十分にコントロールされた質の高い臨床試験成績に基づいて、投与量と有効性/安全性の関係(曝露-応答関係)を明らかにする方策で、新規用法・用量承認をめざす開発戦略を科学的にサポートするものである。その有用性と限界を理解した上で、これらの方策を使いこなすことも、重要な役割の一つと考える。

    このように臨床薬理学の叡智を結集させて勝ち取った承認後、それがいかに最適な用法・用量であっても、その科学的根拠や背景を十分に理解し、重要な事項は遵守して使用いただかなければ、有効性が発揮されないばかりか、患者を副作用で苦しめてしまうと、結局は臨床で使っていただけないという状況を招きかねない。こういった状況を回避するためにも、開発時に収集した治験薬の情報を、過不足なく臨床現場に届ける必要がある。ここでも、薬物治療の合理的かつ科学的遂行のために、認定薬剤師の強みを活かした貢献ができる。

    本発表では、医薬品開発に認定薬剤師として携わることの意義と楽しさの一端をお伝えできれば、と考えている。

  • 佐藤 洋美
    セッションID: 42_2-S34-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    世界の高齢者人口は2050年までに倍増する見込みであり、また薬物動態特性情報の少ない80~90歳代の人口は特に急増している。さらに高齢者の薬物治療では多剤併用による相互作用リスクが高まることにも注意が必要である。

    経口薬の中でも肝代謝型の薬物は市場の多くを占めている。そこで高齢者の生理学的変化の見積りに役立つように、我々は肝クリアランスに対する加齢の影響を定量的に予測することを目指した。医薬品承認申請資料に公開されている多数の薬剤の母集団薬物動態(PPK)解析結果を活用し、年齢が全身クリアランスの有意な共変量であった薬剤を調査した。最終的に18薬剤を解析対象として、年齢の代表値及びクリアランス変動比を抽出した。各薬剤の年齢によるクリアランス変動は加齢全体におけるクリアランス変動の断片情報と仮定し、薬剤間で非線形最適化を行い、肝クリアランスの年齢推移を予測するモデルを構築した。その結果、80 歳時の肝クリアランスは40 歳時と比較して約30%、90歳時には約40%低下し、40歳時点から1年間に0.8%低下すると予測された。この低下傾向は報告されている加齢による肝重量の変化と良く一致した。

    また、薬物相互作用のマネジメントのために、我々はCYP基質薬の代謝寄与率(CR)とCYP阻害薬の各分子種への阻害率(IR)から薬物曝露(AUC)変化を予測するCR-IR法を構築してきた。現在はin vitroとin vivoの情報を一つのモデルの枠組みに統合し、予測精度の向上を目指している。本講演では、統合モデルの概要と、本解析で新たに浮上した相互作用薬の組み合わせとしてCYP2B6で代謝活性化を受けるシクロフォスファミドとCYP2B6阻害薬のボリコナゾールの併用リスクについて検討した内容を報告する。

    以上の研究手法は、加齢が薬物動態に与える影響を適切に見積り、一方では新たな薬物相互作用のリスクを網羅的に予測する精度を高めることで、高齢者の用法用量調節及び個別化医療の実現に資するものと考えられ、今後とも継続的に追究する。

  • 岡田 章, 世良 庄司, 田口 真穂, 山田 博章, 永井 尚美
    セッションID: 42_2-S34-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    高齢者は、加齢に伴う生理機能の変化や併存疾患治療のために投与された薬剤間の相互作用等により、安全性上の問題が生じやすい状況にある。しかし、医薬品の製造販売承認に際して実施される治験では、対象患者の範囲および症例数は限定されており、通常、高齢者や多剤併用の患者は対象とはされない。従って、承認時における知見は必ずしも十分ではなく、より適切な薬物治療の実施には、更なる情報の収集、評価・解析並びに現場への還元が必要である。服用薬剤数の増加に関連した薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤やアドヒアランス低下等の問題につながる状態をポリファーマシーと呼び、有害事象の発現率は併用薬剤数とほぼ比例して増加する事が知られている。特に75歳以上の高齢者の約25%で7種類以上の薬剤が処方されており、潜在的に有害事象のリスクに曝されている。ポリファーマシー是正と高齢者の特徴に配慮した適切な薬物治療のため、平成29年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」が設置され、高齢者での医薬品の安全性確保に関わる調査・検討に基づき、平成30年5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針 (総論編)」が、令和元年6月に「同・各論編 (療養環境別)」が厚生労働省より発出された。この様に高齢者に対する医薬品適正使用の推進は喫緊の課題であり、薬物療法の適正化に際する有用なエビデンスの構築が求められる。

    近年、IT技術の発展や情報のデータベース (DB) 化に伴い種々のリアルワールドデータを利活用したDB研究が盛んになってきた。DB研究の最大の利点として、データ規模が大きく、従来の臨床試験では特定が困難であった稀なケースの検出や、より広い範囲の患者情報の活用が可能な点が挙げられる。本邦においても複数の医療用DBが利用可能であり、治験等では得られにくかった高齢者における薬剤の使用実態や、有害事象発現傾向の調査、およびそれらを踏まえた安全確保策の検討に際しても有用であるが、調査解析に際してはそれぞれの特徴を十分把握したうえで、適切なDBを選択する事が重要である。JADER (Japanese Adverse Drug Event Report database) は、医薬品医療機器総合機構が提供する医薬品副作用DBであり、100万件を超える副作用が疑われる症例報告の情報が蓄積されている。本発表では、高齢者で特に注意すべき薬剤の適正使用に向けて、JADERを中心とした医療情報DB等を用いた我々の取り組みについて紹介する。

  • 田口 真穂, 岡田 章, 世良 庄司, 永井 尚子, 山田 博章
    セッションID: 42_2-S34-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    生活習慣病をはじめとする慢性疾患は、一般的に高齢になるにつれて罹患率が上昇する。高齢者においては、複数の疾患を合併し、複数の医療機関を利用しているケースも少なくなく、結果的に、同時に服用する処方医薬品数が増加する傾向がある。一方で、加齢に伴う生理的な変化によって薬物動態や薬物反応性が一般成人とは異なることや、治療のために投与された複数の薬剤同士で薬物相互作用が起こりやすく、薬物有害事象が発現しやすくなるポリファーマシーが問題となっている。2018年5月には、高齢者の薬物療法の適正化(薬物有害事象の回避、服薬アドヒアランスの改善、過少医療の回避)を目指し、高齢者の特徴に配慮したより良い薬物療法を実践するために、厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」が公表されている。本指針においては、高齢者において潜在的に有害事象が多い可能性のある薬剤を中心に、高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点がまとめられている。

    近年、医療情報のIT化に伴い、収集されるデータ量が増加したこと、General Purpose GPUの出現による計算機の処理能力の向上により、医療分野におけるビッグデータ分析によるデータの利活用が活発化している。2008年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、厚生労働省が医療費適正化計画の作成、実施及び評価のための調査や分析などを行う目的でレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)が構築された。NDBは医療機関が医療保険者へ向けて発行する診療報酬請求明細書情報と、特定健診・特定保健指導情報の2つの要素が格納されており、国民皆保険制度に基づいた保険診療行為に紐づけるための保険病名、実施した検査や処置の内容と費用、処方内容と薬剤費などの情報、国民健康保険の被保険者とその被扶養者の受診情報が含まれている。

    現在、横浜薬科大学と武蔵野大学の合同研究チームにおいて、高齢者における有害事象とポリファーマシーの実態について、種々の情報源を用いたリアルワールドデータの解析を進めている。本発表では、医療情報データベースを用いた高齢者におけるポリファーマシーの実態、リスク評価と安全確保の検討にむけた取り組みについて紹介する。

  • 工藤 敏之, 伊藤 清美
    セッションID: 42_2-S34-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    高齢者においては、多数の薬物を同時に使用することが多い。それに伴い薬物相互作用による有害事象が生じるリスクは高くなることから、薬物相互作用の影響を正確に予測し、適切にマネジメントすることが重要である。加齢に伴う生理的変化などによる薬物動態変動に、さらに薬物相互作用の影響も加わるので、高齢者における薬物の体内動態を正確に予測するには生理学的薬物速度論 (PBPK) モデル解析の活用が必須である。本研究では、主に代謝により消失するベンゾジアゼピン系睡眠薬フルニトラゼパムをモデル薬物として、加齢に伴う生理機能の変動を組み込んだPBPKモデル解析を実施した。

    まず、消化管、全身循環、肝臓、末梢組織で構成されたPBPKモデルを若年者にフルニトラゼパムを単回経口投与した際の血中濃度推移に当てはめ、体内動態パラメータを推定した。次いで、文献情報から得た加齢に伴うパラメータ変動 (最大で肝血流速度は約0.3倍、肝重量は約0.5倍、血漿中アルブミン濃度は約0.9倍の低下、分布容積は約1.5倍の増大) をモデルに組み込み、フルニトラゼパム反復経口投与時の血中濃度のシミュレーションを行った。定常状態におけるピーク濃度には年齢に依存した相違はほとんど認められなかったのに対し、高齢者においては最大で若年者の2倍程度の消失半減期の延長およびトラフ濃度の上昇が認められた。このことから、高齢者におけるフルニトラゼパム投与による有害事象発現リスクの上昇は、加齢に伴う体内動態変動が一因となる可能性が考えられた。

    PBPKモデル解析に使用する体内動態パラメータが不明な場合、当てはめ計算等により値を見積もる必要がある。フルニトラゼパムのバイオアベイラビリティ (F) が不明の場合を想定して同一の血中濃度推移から体内動態パラメータを推定すると、設定したFに依存して肝クリアランスおよび小腸アベイラビリティが異なる値に見積もられた。CYP3A4基質フルニトラゼパムとCYP3A4阻害薬エリスロマイシンとの臨床相互作用事例についてPBPKモデル解析を実施した結果、小腸アベイラビリティに依存して予測されるフルニトラゼパムの血中濃度上昇率に相違が認められた。すなわち、CYP3A4基質のFが不明な場合に相互作用の程度を予測する際には小腸での代謝に関する情報が必要であることが示された。

    本解析により得られた知見を、高齢者における適切な投与設計および薬物相互作用マネジメントに繋げていきたい。

  • 和田 直樹
    セッションID: 42_2-S35-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    2002年に国際禁制学会によって尿意切迫感(urgency)を主症状とする症候群を過活動膀胱(OAB)と定義されて以来、さまざまなOAB治療薬が開発されてきた。それまではオキシブチニンおよびプロピベリンの二剤のみであったものが、2006年にソリフェナシンおよびトルテロジン、2007年にイミダフェナシン、2013年にフェソテロジンまたオキシブチニンの貼付剤が発売されている。これまでにこれらの抗コリン薬によって多大な恩恵を得られた患者も少なくないと考える。

    しかし抗コリン薬の有効性とは裏腹に、抗コリン薬特有の有害事象による問題も指摘されてきた。口内乾燥や便秘、または排尿障害による残尿量増加などである。これらの有害事象のために服薬継続が困難であった患者の存在も否定できない。また超高齢社会の日本においては認知機能に影響を与えうる抗コリン負荷の軽減が昨今取りざたされており、高齢者への抗コリン薬投与を避ける傾向にある。そのような中、2011年に新しい作用機序のOAB治療薬であるβ3作動薬が発売された。いままでの抗コリン薬特有の有害事象が少なく認知機能に与える影響も少ないと報告されている。現状はOAB治療薬として抗コリン薬とβ3作動薬が使用されているが、その使用に関して棲み分けが必要であると思われる。

    本シンポジウムでは、抗コリン薬の有効性と限界を示す基礎および臨床研究のデータを共有したい。

  • 清水 信貴
    セッションID: 42_2-S35-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    抗コリン薬は口腔内乾燥、便秘、霧視などの副作用や、膀胱での排尿困難、残尿量の増加、尿閉などの副作用が懸念されていた。これらのことから、2011年9月以降、新たなOAB治療薬として選択的β3アドレナリン受容体作動薬ミラベグロン(ベタニスR)が臨床使用されており、2018年11月からはビベグロン(ベオーバR)が上市され、ミラベグロンに次ぐ選択的β3アドレナリン受容体作動薬として臨床使用されている。

    ビベグロンは膀胱のβ3アドレナリン受容体に選択的に作用することで膀胱弛緩作用を示し、蓄尿症状を改善させる一方で、排尿機能には影響を及ぼしにくいという特徴を有している。またミラベグロンと比較して、「生殖可能な年齢の患者には投与をできる限り避ける」という注意喚起がなく、薬物相互作用が少なく併用禁忌薬がないことも特徴といえる。しかし発売後、好調な売れ行きで需要を満たすだけの数量を確保できず、現時点で、出荷調整の解除は2022年度中になる見込みであり、現在新規処方が中々できていない状況がある。

    本シンポジウムでは、選択的β3アドレナリン受容体作動薬の有効性と限界を示すデータを共有したい。

  • 相澤 直樹, 藤田 朋恵
    セッションID: 42_2-S35-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    過活動膀胱の治療薬として、抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬が広く用いられ、近年では、難治性過活動膀胱に対する新規治療法として、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法や仙髄神経電気刺激による神経変調療法などを用いることが可能になった。一方で、治療抵抗性や副作用回避の観点から、既存薬物以外の作用機序を有する創薬探索を目的として、主に動物を用いた基礎研究が盛んに行われている。

    標的とする作用部位も、元来では膀胱の異常収縮抑制および膀胱弛緩増強であり、いずれも膀胱排尿筋への直接作用が主体であったが、膀胱を含めた下部尿路組織の慢性虚血や、尿意すなわち膀胱知覚の求心性伝達路、更には中枢作用を有する薬物が新たな治療標的として注目されている。

    これまでに、膀胱局所における作用を期待した治療標的として、Rho kinase、Angiotensin受容体、アポトーシス誘導因子、Vitamin D3などが挙げられる。また、膀胱知覚の求心性伝達路を治療標的として、Nerve growth factor (NGF)、P2X3受容体、Potassium (Kv7)チャネル、Navチャネル、Prostaglandin E2 (PGE2)、Transient receptor potential (TRP)チャネル、Cannabinoid受容体などが検討されている。さらには、中枢での治療標的として、Angiotensin II、Bombesin、Serotonin、Adenosine A2A、GABA等の各受容体が注目されている。

    このシンポジウムでは、新規治療標的に着目しつつ、上記に挙げたいくつかの基礎的検討について、最新の研究結果も踏まえて発表する予定である。特に、膀胱知覚の求心性伝達路に対する創薬は、過活動膀胱の必須症状である尿意切迫感の根本治療に直結する可能性を秘めており、我々が行なってきた基礎的検討を含め、本シンポジウムで発表したい。

  • 清水 孝洋, 清水 翔吾, 東 洋一郎, 齊藤 源顕
    セッションID: 42_2-S35-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    過活動膀胱(OAB)は尿意切迫感(突然起こる、我慢できないような強い尿意であり通常の尿意との相違の説明が困難なもの)を必須とし、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う症状症候群と定義されている。これら症状は患者の日常生活に支障をきたし、QOLを著しく低下させる。本邦における40歳以上を対象とした大規模疫学調査によれば、OABの有症状率は全体の12.4%で、2002年の人口構成からOAB症状を有する人の実数は810万人と推定されている(過活動膀胱診療ガイドライン第2版, 2015)。OABの危険因子の1つに加齢が存在することから、急速なスピードで高齢化が進む我が国において今後OAB患者がますます増加し、OAB治療薬の社会的ニーズも更に高まると推測される。OABに対する現行の薬物療法は抗コリン薬およびβ3作用薬が主流であり、いずれも直接膀胱組織へ作用し過剰な膀胱収縮を抑制する薬物である。一方、OAB症状の経時的変化の観察検討によると、その寛解率は約40%と報告されている(過活動膀胱診療ガイドライン第2版, 2015)。これは現行の薬物療法が奏功しないOAB患者の存在を示唆するものであり、新たな治療標的の同定が必要と考えられる。

     近年、機能的脳画像(PET, fMRI)を用いた研究により、OAB患者―健常者間にて蓄尿時に活性化される脳内部位に相違があることが報告されている。すなわち、蓄尿に伴って膀胱から脳への入力が増大する際、脳における膀胱からの情報処理様式がOAB患者―健常者間で異なることが示唆される。よって、OAB患者における「異常な」脳の応答の是正、が新たなOAB治療戦略となる可能性が考えられる。しかしながら、中枢神経系を標的としたOAB治療薬は現状存在しない。本講演では中枢神経系による排尿制御機構について概説した後、OABの治療標的となる可能性を有する脳内分子について、演者らの研究成果を交えながら紹介したい。

  • 安部 賀央里
    セッションID: 42_3-S36-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    特異体質性副作用は新薬開発における臨床試験の中止や、市場撤退の主要な原因となる。しかし、発生頻度が稀であり、用量依存性を示さないため、非臨床試験等からの毒性予測は極めて困難である。また、臨床的にも治験の症例数では検出することは難しい。そのため、新薬の開発段階において、特異体質性副作用を引き起こす可能性のある候補物質を予測できれば、臨床試験や市販後の安全性評価の効率化につながる。

    一方、コンピュータの発展により、人工知能技術を用いた高度なデータ解析が可能になり、医療分野においても大規模医療情報と人工知能が活用されている。機械学習は、既知データをコンピュータが学習することで新たなパターンを見つけ出し、未知データの予測を可能にする人工知能技術の一つである。そこで、副作用や毒性発現の既知情報に基づいて、化学物質の化学構造情報を特徴量とした定量的構造活性相関(QSAR)アプローチにより毒性を予測するインシリコ手法が開発されている。特異体質性副作用のインシリコ予測が可能になれば、開発候補物質自体の毒性のみならず、合成段階での不純物やヒト特異的代謝物等の開発段階で生じる多種多様な化学物質の毒性を予測することで、効率的な安全性評価に貢献できる。

    我々は、特異体質性副作用の予測において機械学習と有害事象自発報告データベースに着目した。各国で有害事象の自発報告が制度化されており、症例報告が集積された有害事象自発報告データベースは、市販後の医薬品安全性監視に利用されている。また、データマイニングを用いたシグナル検出により、医薬品と有害事象の関連性をスクリーニングすることが可能である。

    本シンポジウムでは、特異体質性副作用であるスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症等の重症皮膚副作用の予測モデルについて紹介する。PMDAが運用している医薬品副作用データベース(JADER)を利用し、シグナル検出と報告件数から医薬品の重症皮膚副作用の有無を定義した。これらを学習データとして、Deep Learningを用いて医薬品の化学構造情報から重症皮膚副作用を判別するモデルを構築した。本モデルは医薬品の基礎的な情報である化学構造情報から、ヒトの特異体質性副作用を予測することを可能とし、機械学習と副作用データベースの新たな活用方法が示された。さらに、化学構造情報以外の特徴量も取り入れた新たな取り組みについても紹介したい。

  • 樋坂 章博
    セッションID: 42_3-S36-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    従来の薬物動態あるいは薬力学領域でレスポンスの時間変化あるいは用量変化の解析には、モデルの作成が基本的に必要である。機械学習はモデルの作成が不要なので、将来は職人芸のようなモデリングはもはや不要との意見も聞く。これでは先が読めないと悩む母集団薬物動態解析の研究者も多いのではなかろうか。私達はモデリング等の数値解析の専門家と自称し、ここ数年、母集団薬物動態解析とその発展、ベイズ統計に基づくMCMC法、そして様々な機械学習の方法を試してきたので、その経験をこのシンポジウムで共有したい。

    機械学習には、ランダムフォレストなどの二分木に基づく方法、サポートベクターマシン、そして囲碁で有名になったパーセプトロンなどのニューラルネットワークなどがある。いずれも多量の情報を高速に処理し、一定の傾向や重要な特徴量を抽出することができる。また概念を形成するような学習も可能ではある。ただし、そのような学習は一般に数十万以上のデータ量で可能になるもので、なかなか実現しない。ビッグデータの時代なので、その数のデータがないわけではないが、今度はデータが多様すぎて、なかなか解析が難しくなる。私達は経口吸収に対する食事の影響を機械学習で解析し、この場合に使えたデータは500薬程度なので、ランダムフォレストが良い結果であった。その結果、従来のBCSに比べて優れた予測が実現したが、従来に比べて格段の向上したかというと、むしろ従来の解析の妥当性を説明したと言える程度かもしれない。また母集団解析を機械学習におきかえる研究も試したが、計算の高速性は素晴らしかったが、現在の機械学習には個体間誤差と個体内誤差などのように、誤差構造を識別する機能が欠けている。したがって、母集団解析と同等の解析ができたわけではない。

    一方で私達は母集団薬物動態解析法を拡張して、長期疾患進行を解析するSReFTを発表している。あるいは薬物相互作用の解析にはin vitroとin vivoの情報をすべて統合して解析するためにMCMC法を用いている。さらに臨床試験の個別情報を詳細に解析するためにコックス回帰の精密な適用を行っている。このような解析法は、機械学習を組み合わせることで効率化は可能と考えているが、いずれも機械学習で代替えできるものではない。結論として、機械学習も含めて、情報処理の専門的知識を持ち、それらを自由に使いこなす研究者は今後さらに必要になると考えている。

  • 高松 学
    セッションID: 42_3-S36-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    病理診断のために供される検体は、それぞれが肉眼的な特徴(マクロ)と顕微鏡的な特徴(ミクロ)を有し、それらから得られる情報量は膨大なものである。病理業務に携わる医師や技師は、それらの情報を分析し、検体処理や診断に必要な情報を抽出しているが、人間が行う業務ゆえに技術に熟練を要し、安定した業務遂行のために多くの労力を費やしている。病理業務はその多くが手作業で行われ、マクロ写真の撮影などを通じて記録を取りながら進められるが、時間的制約や能力の限界によってそれらの情報をフルに活用しているとは言い難い現実がある。情報を可能な限りコンピュータにより処理し、業務を効率化できれば、業務負担の軽減に加え、それらのデータの蓄積と解析によって新たな知見が得られ、より良い医療の提供に繋げられるはずである。

    がん研は内閣府のAIホスピタル計画に参画し、病理部門のデジタル化を推し進めている。マクロ写真については、撮影した検体の写真において切り出し位置を正確に記録し、ミクロ画像との対比により病変範囲を推定し業務を支援するAIを開発中である。ミクロ画像については、全症例の約7割にあたるスライドガラスを日々デジタル化し、コンピュータ画面上で病理医が診断を行うことに加え、病変部の組織分類から自動的に病変部領域を推定するAIの開発により、病理医負担軽減を目指している。さらに、これらの情報を活用して予後を予測するAIなど研究分野においても新たな取り組みを進めている。

    既存の病理学にとらわれない、次世代の病理を担うシステムを構築すべく、産学連携を活用し、多くの施設で取り入れられるような汎用性の高いものづくりを目指す、がん研の取り組みを紹介する。

  • 吉門 崇
    セッションID: 42_3-S37-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    肝OATP1Bは、多くのアニオン性薬物の肝取り込みを担う。近年、薬物相互作用(DDI)のリスク評価の観点で、OATP1B内在性基質が注目されている。臨床開発の初期に行われる医薬品候補化合物の用量漸増試験等において、これらはDDI予測のためのバイオマーカーとなり得る。

    我々は、OATP1B内在性基質の一つであるコプロポルフィリンI(CP-I)に着目し、生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いてDDIを定量的に予測する方法論の開発に取り組んできた。自主臨床試験1) において、OATP1B阻害薬のリファンピシン(RIF)300, 600 mgを経口投与した際のCP-I血中濃度推移の変化を説明可能なPBPKモデルを構築した。

    非線形最小二乗法に基づいたフィッティングにより、OATP1Bのin vivo阻害定数 (Ki,u,OATP1B) を含む3種類の未知パラメータが推定された。Ki,u,OATP1Bは約0.1 μMとなったが、in vitroで基質依存性が報告されていたことから2) in vitro阻害定数の比(スタチン vs. CP-I)を用いてin vivo阻害定数を補正し、自主臨床試験においてカセットドーズで投与されたOATPプローブ薬(スタチン)の血中濃度推移を予測することを試みた。結果として、in vitroにおける阻害定数の比を考慮しない場合に比べて、血中濃度推移およびAUCRを良好に再現できた3)

    続いて、パラメータが一意に定まらないことを仮定し、複数のパラメータセットを同時に得ることができるクラスターガウスニュートン法 (CGNM) 4) を用いた解析により、9種類の未知パラメータを推定した。CGNM上で千個のパラメータセットの初期値を発生させたのち、各々について最適化計算し、血中濃度を良好に再現するものを統計学的手法により数百個選択した。推定したパラメータのうち、Ki,u,OATP1B、CP-Iの肝固有クリアランスおよび生合成速度のみが狭い範囲で得られた上、既報3) で得られた値とも近かったことから、CP-IとRIFとの相互作用を説明する上で重要なパラメータと考えられた。

    本研究をもとに、CP-I血中濃度推移のPBPKモデル解析によりDDIのリスクを定量的に予測する方法論を提唱する。今後、必要性の高いDDI試験の計画や候補化合物の選択等に活用可能と考えられる。

    1) Takehara I et al. Pharm Res 2018; 2) Izumi S et al. Drug Metab Dispos 2015; 3) Yoshikado T et al. CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol 2018; 4) Aoki Y et al. Optim Eng 2020

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