日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第42回日本臨床薬理学会学術総会
選択された号の論文の410件中251~300を表示しています
一般演題(ポスター)
  • 神林 隆一, 後藤 愛, 中瀬古(泉) 寛子, 武井 義則, 松本 明郎, 川合 眞一, 熊谷 雄治, 杉山 篤
    セッションID: 42_1-P-D-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】Carotegrast methyl(CGM)のTQT試験を実施し、時点ごとの解析(CT解析)および濃度-反応解析(CR解析)を行い、さらにプラセボ対照群の有無が結果に及ぼす影響を検討した。【方法】日本人健康成人男女(n=48)を対象とした単回投与、無作為化、二重盲検、プラセボ・実薬比較対照、4群(moxifloxacin 400 mg、CGM 480 mg、CGM 960 mgおよびプラセボ)・4期クロスオーバー試験を実施し、QTcFを計測し、時間を一致させた各ベースラインからの変化分(ΔQTcF)を求め、さらに各被験薬群とプラセボ群の差(ΔΔQTcF)を算出した。不整脈予測指標である早期(J-Tpeakc)および後期(Tpeak-Tend)再分極時間を測定し、QTcFと同様に解析した。CTおよびCR解析法を用いて、各指標を分析した。【結果・考察】QTcF:Moxifloxacin群で、両解析においてΔΔQTcFの90%信頼区間(90%CI)下限値が5 msを超え、本TQT試験におけるQT延長リスクの検出感度は十分であることが示された。CGM群で、両解析においてΔΔQTcFの90%CI上限値が10 msを超えず、QT延長リスクを認めなかった。プラセボ群の結果を用いないΔQTcFを評価指標とした際にも同様の結果が得られた。J-Tpeakc:Moxifloxacin群で、両解析においてΔΔJ-Tpeakcの90%CI下限値が0 msを超え、有意な延長が示された。CGM 480 mgは、CT解析でΔΔJ-Tpeakcを延長したが、CGM 960 mgは延長しなかった。CGMはCR解析でΔΔJ-Tpeakcを延長しなかった。ΔJ-Tpeakcを評価指標とした際には、CT解析でのCGM 480 mgによる延長は検出できなかったが、他は同様の結果であった。Tpeak-Tend:Moxifloxacin群で、両解析においてΔΔTpeak-Tendの90%CI下限値が0 msを超え、有意な延長が示された。CGMは、両解析においてΔΔTpeak-Tendを延長しなかった。ΔTpeak-Tendを評価指標とした際には、CR解析におけるmoxifloxacinによる延長を検出できなかったが、他は同様の結果であった。【結論】CT解析およびCR解析はQT延長作用に関して同程度の検出感度を有し、CGM 480および960 mgにはQT延長リスクがないことが示された。また、ΔQTcF評価においてもΔΔQTcFと同様の結果が得られたことから、プラセボ対照群の有無がリスク評価に及ぼす影響は小さいことが示された。一方、CR解析では濃度依存性を示さない変化は検出できない可能性が示唆された。

  • 二木 梓, 福島 恵造, 丸岡 由奈, 杉岡 信幸
    セッションID: 42_1-P-D-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】Cisplatin (CDDP)は副作用として不可逆的な腎毒性 (CDDP-induced nephrotoxicity; CIN)を生じ、これは治療コースを重ねることで増悪することが知られている。CIN増悪の予測はCDDP薬物治療において重要であるが、反復投与によるCINに関する知見は限られており、定量的予測法は確立されていない。そこで本研究では、ラットを用いてCDDP反復投与後のCIN増悪を評価し、定量的予測を可能にするモデルの構築を目的とした。【方法】単回投与実験として、ラットにCDDPを投与し (1-7.5 mg/kg)、21日目まで隔日採血を行った。さらに、反復投与実験として、総投与量9 mg/kgと設定して3サイクル実施し、単回投与実験と同様に採血を行った。ただし、各サイクルの投与量は、1-3-5 mg/kg, 3-3-3 mg/kg, または5-3-1 mg/kgの3群とした。CINの指標として、15-21日目の血漿中クレアチニン濃度 (Cr)を用いた。Cr物質収支は0次生成と1次消失を仮定した準生理学的モデルで記述した。CDDPはCrの消失を阻害するため、この阻害係数をdsCKIとし次式で記述した; dsCKI=Π(1-CDDPiγ/(IC50γ+CDDPiγ)); CDDPi, i番目のCDDP投与量; IC50, 50%最大阻害投与量; γ, Hill係数。パラメータの推定は母集団解析にて行った。【結果・考察】CDDP単回投与後、投与量依存的にCr値は上昇した。さらに、CDDP反復投与後のCr値は、いずれの用量群においてもサイクルを経るごとに上昇する傾向が認められた。単回投与実験におけるCr値はdsCKIにより良好に捕捉され、IC50値は6.68 mg/kg、γ値は1.34と推定された。これら推定値を用いて反復投与実験のCr値を予測したところ、実測値との平均絶対誤差及び平均絶対誤差率はいずれも20%以内であったことから、外的妥当性が示された。以上より、CDDP反復投与時のCIN予測に有用なモデルを構築できたと考えられる。【結論】本研究で構築したdose-response modelにより、CDDP反復投与後の任意のCDDP用量・サイクルにおけるCIN予測が可能になると考えられた。CDDPを用いた抗がん治療の最適化への貢献が期待される。

  • 木村 寿々奈, 河渕 真治, 伊藤 由佳子, 栄田 敏之
    セッションID: 42_1-P-D-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】膵臓癌に対するFOLFIRINOX(FFX)療法施行により、この10年の予後改善効果は顕著であるが、オキサリプラチン(L-OHP)誘発性末梢神経障害による投与中止が未だ解決すべき問題とされている。L-OHPの体内動態が関与していることは認められてきたが、その対策は未確立である。そこで我々は、膵臓癌モデルラットにおけるFFX反復投与後のL-OHPの体内動態と末梢神経障害の発現頻度および程度との関係性についてPK-TDモデルを構築し、モデリング&シミュレーションから用量調節による末梢神経障害発現リスクのマネジメントにおける有用性について検討したので報告する。

    【方法】Wistar系雄性ラットに7,12-ジメチルベンズ[α]アントラセンを用いて膵臓癌モデルラットを作製し、FFX(5-FU点滴静注(50 mg/m2/hr、4時間)、CPT-11静脈内投与(180 mg/kg)、L-OHP静脈内投与(5 mg/kg))を週1回4週間反復投与した。投与開始1、8、22日目に、経時的に血液サンプルを採取した。また、投与2時間後に後根神経節(DRG)も採取した。血漿中とDRG中の白金濃度をLC-MS/MSによって測定した。急性末梢神経障害をアセトンテスト、蓄積性末梢神経障害をvon Freyテストにて、投与開始0日目から39日目まで評価した。PK-TDモデリング&シミュレーションには、Phoenix WinNonlin ver. 8.3ソフトウェアを使用した。

    【結果・考察】投与開始8、22日目の白金のAUC0-∞は、各々、6.0±2.0、 3.9±0.7 μg*h/mLであり、投与開始1日目(5.5±1.3 μg*h/mL)と比べて、22日目で有意に減少した。一方、投与開始8、22日目のDRG中白金濃度は、投与開始1日目と比べて、各々、約1.95倍、約1.98倍有意に増加しており、FFX反復投与によるDRGへの白金の蓄積が認められた。また、急性末梢神経障害の発現は、投与開始4日目から、蓄積性末梢神経障害は投与開始18日目から認められた。血漿中およびDRG中の白金濃度と、アセトンテストおよびvon Freyテストの結果を用いてPK-TDモデルを構築したところ、急性末梢神経障害は血漿中の白金濃度と間接反応モデルを、蓄積性末梢神経障害はDRG中の白金濃度とtransit compartmentモデルを用いることで、各々の末梢神経障害の発現時期および障害の程度を定量的に推定できることがわかった。

    【結論】PK-TDモデリング&シミュレーションは、FFX投与後のL-OHP誘発性末梢神経障害の発現リスクマネジメントにおいて有用なツールとなることが示唆された。

  • 大内 麻由, 徐 仁美, 柳下 薫寛, 吉田 達哉, 大江 裕一郎, 牧野 好倫, 濱田 哲暢
    セッションID: 42_1-P-D-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【背景・目的】母集団薬物動態(PPK)解析は多数の患者から得られた薬物濃度や臨床評価指標を対象に薬物動態パラメータの母集団平均とその変動、パラメータに影響を与える因子を同時解析できる有用な手法である。免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブのPPK解析は国際共同第I-III相試験(KEYNOTE)において収集されたデータより実施され、2-10mg/kg Q3W投与においてベースラインクリアランス(CL)と全生存期間との関連が示唆されている。しかし現在設定されている基本用量(1回200mg Q3W)においてはKEYNOTE-024のみとデータ数が少なく、日本人患者集団に関するデータはさらに少ない。そこで本研究ではペムブロリズマブ200mg Q3W投与の日本人非小細胞肺がん(NSCLC)患者集団のペムブロリズマブ投与前とトラフ値付近の採血ポイント収集によりPPK解析を実施した。【方法】2016年8月-2019年6月にNSCLC診断後ペムブロリズマブ200mg Q3W投与された日本人患者集団を研究対象とした。ペムブロリズマブ血清中濃度は質量分析装置により測定され、PPK解析ソフトウェアはPhoenix NLMEを使用した。【結果・考察】75名の患者から268ポイントのデータが収集された。Stepwise法により体重、血清アルブミン値とリンパ球数が共変量として選択された。本解析において投与後はトラフ付近のデータ採集となったため分布相のデータなしに単純な1コンパートメントを用いてPPK解析を実施した。結果、実測値と仮想データ分布範囲に十分な類似性が認められ、日本人ペムブロリズマブ200mg Q3W投与NSCLC患者集団におけるPPKプロファイルを作成できた。PPKモデルの妥当性は各種診断プロットにより検証し、適確性はVisual Predictive Checkとブートストラップにより評価された。本研究ではペムブロリズマブベースラインCLと全生存期間との関連は見出されなかった。また、定常状態におけるCLの母集団平均値が既存研究で導かれた値より低く、日本人患者への200mg Q3W投与は高暴露となる可能性が示唆された。本薬剤は近年400mg Q6W投与が認可され日本人において過量投与となる可能性がある。そのため本研究のような日本人PPK解析情報の蓄積が必要と考えられる。

  • 森 優子, 李 銀華, 武藤 智恵子, Yu Yanke , Lin Jian
    セッションID: 42_1-P-D-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【Objective】The objective of this presentation is to investigate the predictability of fesoterodine PK in Japanese population using physiologically-based pharmacokinetic (PBPK) model developed based on Western clinical data.

    【Methods】Fesoterodine is a once-daily oral medication at recommended doses of 4 or 8 mg for the treatment of overactive bladder. Fesoterodine is a prodrug which rapidly absorbed in humans and immediately and extensively hydrolyzed by non-specific esterases to the active metabolite 5-hydroxymethyl tolterodine (5-HMT), which is further metabolized to inactive metabolites via CYP2D6 and CYP3A4. PBPK model for fesoterodine was developed and verified using 5-HMT data obtained from Western clinical studies to predict drug-drug interaction with mirabegron which is a moderate time-dependent inhibitor of CYP2D6 and a weak inhibitor of CYP3A.1)

    In this study, we applied the previously developed PBPK model to predict 5-HMT PK in Japanese population following fesoterodine dosing using Simcyp Version 18 (Sheffield, UK). The predicted 5-HMT PK results were compared with the observed data in Japanese subjects (all CYP2D6 EM) to evaluate the performance of PBPK model to predict PK in other ethnic populations.

    【Result・Discussion】The predicted 5-HMT plasma concentrations (mean and the 90% confidence interval) were comparable to those observed individual plasma concentrations in Japanese population. The ratio (predicted/observed) of AUCinf and Cmax values (geometric mean) were all within 1.3. These results suggest the PBPK model for fesoterodine performs well to predict PK in Japanese population.

    【Conclusion】PBPK model for fesoterodine developed and verified based on Western data can reasonably describe the 5-HMT PK in Japanese population.

    【Reference】1) Lin J, Goosen TC, Tse S, et al. Physiologically based pharmacokinetic modeling suggests limited drug-drug interaction for fesoterodine when coadministered with mirabegron. J Clin Pharmacol 2019;59(11):1505-18

  • 李 銀華, 岡山 明史, 萩 敏旭, 武藤 智恵子, 長島 正人
    セッションID: 42_1-P-D-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    [Objective] Benzathine benzylpenicillin (BPG) has been used as a standard treatment for syphilis worldwide with exception of Japan. BPG was nominated by the unapproved and off-label use committee as high medical need in 2017. The current study investigated the pharmacokinetics (PK) and safety of a single intramuscular (IM) injection of 2.4 million units (MU) of BPG in Japanese healthy adult participants. [Method] A total of 8 Japanese healthy participants were enrolled into the study to receive a single IM injection of 2.4 MU of BPG as a pre-filled syringe formulation. PK samples were collected up to 28 days after injection to measure the plasma concentrations of penicillin G (PCG). Non-compartment analysis was conducted to calculate the PK parameters of PCG. [Results・Discussion] Following a single IM injection of BPG, PCG was absorbed slowly from the injection site with a median time for Cmax (Tmax) of 48 hours post-dose. After the achievement of Cmax, PCG concentrations declined slowly in a monophasic fashion with mean terminal half-life of 188.8 hours. The geometric means of AUCinf and Cmax were 50770 ng.h/mL and 259.0 ng/mL, respectively. The median time (range) above the target efficacious concentration (18 ng/mL) for syphilis treatment was 561.0 hours (439-608 hours [18-25 days]). There was only 1 (12.5%) participant reported a non-serious AE of nasopharyngitis of mild intensity which was recovered and considered not related to study treatment. [Conclusion] A single IM injection of 2.4 MU of BPG reached and maintained the target efficacious PCG concentration over the necessary duration of 7 to 10 days for syphilis treatment. Along with the good safety profile in healthy Japanese participants and about 70 years of worldwide syphilis treatment experiences, BPG is considered a valid and essential treatment for Japanese syphilis patients.

  • 早坂 幸子, 高野 忠夫, 野津田 泰嗣, 白戸 崇, 島田 宗昭, 大石 久, 後岡 広太郎, 藤井 博司, 大西 詠子, 築地 謙治, ...
    セッションID: 42_1-P-E-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【背景】当院では特定臨床研究の適正実施の管理・監督を行うため、院内監査として「東北大学病院 臨床試験品質保証室監査」(以下、品質監査)の体制を構築し、年4~6研究を抽出して品質監査を実施している。品質監査は、監査従事者3名程度と研究者が同じ会議室で対面形式にて実施してきたが、COVID-19の感染拡大防止のため、WEB会議で実施する事が望ましい。

    【目的】WEB会議システム等を用いる事で、品質監査を対面せず、かつ監査の質を落とさずに実施する事ができるか検討した。

    【方法】

    1.WEB会議化にあたり、監査の質を下げることがないよう、従来からの監査スケジュールは変更しないことにした。

    2.全員の居室を分け、3名の監査従事者の各居室に「WEB会議用のパソコン、スピーカー、電子カルテ、電子カルテ、担当症例の同意書、担当症例のCRF」を設置した。

    3.対面形式の場合は「同意書」や「CRF」等の資料について疑義事項があった場合に、研究者に現物を提示して示すことができるが、WEB会議体制の場合には、現物を提示することができず、研究者が疑義事項の内容を把握できない。そこで、個人情報を付箋でマスキングした上で、資料をパソコンのカメラに映して研究者に疑義事項の説明をすることにした。

    【結果・考察】

    ・2021年5月25日にWEB会議形式で麻酔科研究の品質監査を実施した。

    ・WEB会議形式でも対面形式と同じスケジュールで実施する事ができ、監査の質を落とすことなく品質監査を実施する事ができた。

    ・疑義事項を研究者に正しく伝えることができ問題なくヒアリングを実施できた。

    ・品質監査後に監査従事者と研究者から意見と課題を収集した。

    <意見>

    ・感染対策の有無に関わらず、会議はwebで良いと思っているのでスムーズに参加することができ、やりにくさは感じなかった(研究者)

    ・感染対策としては十分だと思った(監査従事者)

    <課題>

    ・監査従事者と研究者が電子カルテを同じ画面で見れなかったのは、やや不便を感じた(監査従事者)

    ・複雑なプロトコルの場合に質問事項が十分に研究者に伝わるかどうか疑問が残る(監査従事者)

    【考察】今後実施する品質監査についても今回構築した体制で実施する。また、今後はより確実に質問内容を研究者に伝えられるよう、電子カルテの同じ画面を遠隔で共有できる体制の構築を検討する。

  • 船坂 龍善, 堀川 尚嗣, 杉本 修治
    セッションID: 42_1-P-E-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】臨床研究の品質を保つためにはモニタリングの実施が必要であるが、COVID-19問題により医療機関へ訪問しての直接閲覧は制限される場合が多い。実際に当院でも直接閲覧の際には2週間の検温記録、行動記録の提出や来訪時の体調管理等の条件を義務付けて訪問を許可している。しかしながら訪問者がCOVID-19について正しく理解しているかの担保はなく、実際の現場で感染予防対策に十分な行動を実施できるかは不明である。そこで直接閲覧を含めた施設訪問時において、実現場にて感染予防に対応できるような対策について受け入れ施設側としての見解から検討した。【方法】「COVID-19の感染を抑えるためには、個々人が正確・最新の知識を身につけて正しく対策を行うことが何よりも重要」と厚生労働省の見解にもあるように、COVID-19への正しい理解が感染症予防には重要である。当院でも各種制限は設けているが、COVID-19に対する知識・理解度に関する確認は実施していない。そこで直接閲覧者が事前にCOVID-19についての理解度を深め、感染予防対策を実施できる方法について検討した。【結果・考察】COVID-19への理解度を深めるためには、病院外での活動方法を含めた各種の研修を受講する必要があると考えられた。感染症そのものに対する最新の情報源として厚生労働省のホームページ等が挙げられる他、地域の感染状況・対策に関する最新の情報源として石川県ホームページを閲覧することは非常に重要である。直接閲覧者が宿泊したり、食事をしたりする場合には、各ホテルが作成した対策動画や日本ホテル協会の策定した予防ガイドライン、日本フードサービス協会の策定したガイドラインなどを閲覧することも有用である。訪問前にこれらの閲覧を義務付けることにより、感染対策についての理解を担保できると考える。施設訪問前にはたとえば県ホームページに紹介されている地域独自の感染防止対策の情報・動画閲覧を義務付けることで病院訪問前後の行動を研修対象とするにより、さらなる感染予防対策につながるものと考えられた。【結論】施設訪問前に、宿泊施設や飲食店も含めたCOVID-19についての理解を深めるための研修を義務付けることにより、受け入れ側の施設、さらには閲覧者にとっても安心で安全な訪問となることになると考えられるため、新たな感染予防対策の一環として閲覧者が研修を受けた上で訪問可能とするルールを提案したい。

  • 高木 雅恵, 田島 壮一郎, 坂口 裕美, 長谷部 結衣, 田中 智佳, 田中 瑠美, 了戒 百合子, 中屋 純子, 西田 朋子, 戸高 浩 ...
    セッションID: 42_1-P-E-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】近年、治験実施計画書(治験薬の減量・中止・再開基準等)の煩雑化により、処方箋通りの調剤では実施計画書からの逸脱リスクが高いと考えられる。九州大学病院では逸脱防止の取り組みとして、薬剤師が治験実施計画書に基づき、治験薬調剤時に臨床検査値や有害事象等に対する医師見解を確認している。特に注意が必要な治験薬調剤に関しては、毎月1回の治験薬管理委員会を開催し、薬剤師間で情報を共有するとともに逸脱防止に取り組んでいる。本研究では、過去の治験薬管理委員会で共有した情報と、薬剤師の問い合わせ内容から、治験薬調剤時の逸脱防止に向けた取り組みの有用性を検討したので報告する。

    【方法】2018年度から2020年度までの3年間で治験薬管理委員会にて共有された問い合わせ内容を後ろ向きに調査した。また薬剤師の問い合わせ内容を詳細に検討するために2021年5月から6月までの2ヶ月間の問い合わせについて前向きに調査した。

    【結果】2018年度から2020年度までの3年間において、薬剤師間で共有された問い合わせ内容は13件、そのうち抗悪性腫瘍薬の治験は11件であった。また逸脱防止に繋がった問い合わせは6件あり、うち5件が抗悪性腫瘍薬の処方であった。その内容は臨床検査値に応じた休薬基準や治験薬の投与量に関する上限規定等について問い合わせた事例であった。また治験実施計画書の情報だけではなく、治験依頼者からCRCへメールで治験薬再開時の用量が指示されており、このメールに基づき問い合わせが行われ、処方内容が変更された事例もあった。一方、前向きの調査では2021年5月から6月までの2ヶ月間に調剤した件数は323件あり、そのうち問い合わせ事項は25件(7.7%)、処方内容の変更が必要であったものは2件(0.6%)であった。この2件のうち1件は1回服用量に関する問い合わせであり、実施計画書からの逸脱と関連した内容であった。もう1件は服用日数に関する問い合わせであり、逸脱とは関連していなかった。

    【考察】薬剤師が治験薬調剤時に治験実施計画書を確認することは、逸脱防止の観点から有用であり、安全な治験薬投与が実現できると考えられる。また治験実施計画書に加え、治験依頼者からのメール等もCRCと情報共有し、確認することで、より安全な治験の実施に貢献できると考えられる。

  • 山中 陽平, 高嶋 泰之, 堀内 学, 鶴嶋 英夫, 荒川 義弘, 本間 真人
    セッションID: 42_1-P-E-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】GCPガイダンスに基づいて、治験薬を適切に管理するためのTrainingが各試験で実施されている。実施医療機関ではTrainingを実施した証明としてTraining Log(TL)の作成・保管が求められる。TLの必要性は、治験依頼者のSOPや試験内容により異なっているが、資料改訂に関わる軽微な内容(名称変更、誤記修正等)でも求められることもあり、QMSの観点からはTLの形骸化が懸念される。今回、治験薬管理担当薬剤師の参加が求められた資料改訂に関わるTrainingとTLの作成状況の実態を調査した。

    【方法】筑波大学附属病院において2017年9月~2021年2月に、薬剤師の参加が求められたTrainingの148件うち資料改訂に関わる113件について、TLの要否を調査した。またTrainingを求められた資料の種類や項目により、TLの必要性に違いがあるか否かを調べた。

    【結果・考察】対象とした113件のTrainingの内訳は治験薬管理手順書の改訂(41件)、概要書の改訂(33件)、実施計画書の変更(29件)、その他(10件)であった。TLを求められたのは54件(手順書/概要書/実施計画書/その他:18/15/18/3)であり、他の59件(手順書/概要書/実施計画書/その他:23/18/11/7)は不要であった。TLが求められる割合は実施計画書の変更が62.1%と高く、治験実施に影響が大きい内容であった。一方、概要書と手順書の改訂は、TLを求められる割合は低いものの(それぞれ45.5%と43.9%)、治験実施に影響が少ない軽微な内容(定期改訂や記載変更等)でもTLを求められる場合があった。TLを求められた54件のうち、その必要性を依頼者に再確認したところ、5件(9.3%)(安全性・副作用情報の更新、検査項目改訂等)は不要に変更された。逆に、依頼者がTL不要としたが、薬剤師が必要と判断したTraining(治験薬規格等の変更)もあり、依頼者と薬剤師の間で見解の相違がみられた。

    【結論】治験の適切な遂行のために資料改訂の内容を把握し理解することは重要であるが、治験実施に影響しない軽微な内容(TL不要)のTrainingが治験の質の担保に役立っている可能性は低い。今後、QMSの観点から関連団体や規制側の見解も踏まえた、Trainingの標準化について検討することが望ましいと考える。

  • 福田 真弓, 平瀬 佳苗, 山本 晴子, 古賀 政利, 平野 照之, 岡田 靖, 坂井 信幸, 坂井 千秋, 河野 浩之, 土井尻 遼介, ...
    セッションID: 42_1-P-E-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【背景】COVID-19流行下でモニタリング活動が制限される中、人的・物的資源が限られるアカデミアの臨床試験では、参加施設のより主体的な品質管理活動への参画が期待される。一方GCP省令、臨床研究法、倫理指針等遵守すべきルールが複雑化・細分化する中、多忙な臨床業務に並行し、これら規制への対応も迫られる現場では、混乱が生じている。品質目標の達成には、試験運営側と参加施設側の相互理解に基づく効率的な品質管理体制の構築が重要だが、参加施設側に現状どのような課題があり、如何なる整備が必要かは明らかでない。

    【目的】研究者主導多施設共同臨床試験におけるRBM(Risk Based Monitoring)の実践を通じ、参加施設の品質管理活動における具体的な作業内容や課題を調査し、参加施設の負担を軽減し、効率化を図るための方策や必要な整備等を明らかにする。

    【方法】国立循環器病研究センターが運営する脳卒中急性期対象の2つの多施設共同試験(特定臨床研究、先進医療B)とその参加施設合計29施設(全て非臨床研究中核病院)を対象とした。RBMの実践課程で各試験の品質水準を満たすため、参加施設側が担うべき役割を特定し、参加施設の業務を標準化・効率化する方策を検討した。

    【結果・考察】対象試験では、中央データモニタリングと施設モニタリングを組み合わせたRBMを実施する。RBMの各フェーズ(1. 品質目標の設定, 2. リスクの洗い出しと特定, 3. リスク対応策の検討, 4. モニタリング計画策定, 5. 計画に基づくモニタリングの実施, 6. 計画の再評価)のうち、試験準備段階(1-4)において、過去に実施した脳卒中急性期臨床試験の知見を参考に、対象疾患の特殊性にも配慮し、同意取得―盲検化、薬剤管理、必須文書管理、安全性情報の取得・報告等の各領域におけるリスクを同定した。調整機関、研究責任医師、施設実務担当者、研究支援者などの立場から、想定されるリスクへの対応策を検討し、品質管理上参加施設側が担うべき業務を特定した。特定された業務に関して、各担当者の作業プロセスを加えた横断的フローチャート(スイムレーン図)にまとめ、作業の標準化・見える化を行った。

    【結論】臨床試験の試験準備時点で品質管理上参加施設に期待される役割を明らかにし、業務効率化を支援するツールを開発した。今後実際の試験運営を通じ、業務フローの有用性、妥当性について更なる検討を行う。

  • 大山 善昭, 住吉 尚子, 増井 和美, 齋藤 悦子, 久保田 有香, 須賀 宏之, 金 佳虎, 小林 敦, 澤村 守, 柿崎 暁, 大上 ...
    セッションID: 42_1-P-E-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】群馬大学医学部附属病院、国立病院機構高崎総合医療センター、国立病院機構渋川医療センター、前橋赤十字病院、深谷赤十字病院の治験・臨床研究推進部門を中心として、メガホスピタル「前橋・高崎・渋川・深谷コア5治験・臨床研究病院(コア5 治験・臨床研究病院)」を整備し、これまでに企業治験及び医師主導治験を実施し実績を重ねてきた。今回はコア5治験・臨床研究病院で特定臨床研究を実施し、メガホスピタルの研究環境について検証を加えた。【方法】コア5 治験・臨床研究病院では、立ち上げ当初より専用システムを用いたウェブ会議を定期的に実施し、共同IRBの開催とともに治験の実施状況や新たな治験・臨床研究の実施可能性等についての情報共有を行っている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い、群馬大学医学部附属病院は全国に先駆けて特定臨床研究「新型コロナウイルス感染症におけるファビピラビル錠の有効性、安全性を評価する多施設共同非盲検前向き単群試験(ファビピラビル特定臨床研究)」を主導し、コア5 治験・臨床研究病院のネットワークを用いてファビピラビル特定臨床研究を開始した。インターネット回線を用いた専用のEDCシステム(HOPE eACReSS)を使用し、症例登録、データマネジメント及び中央モニタリングを実施した。【結果・考察】ファビピラビル特定臨床研究は、2020年2月27日に開始され、第1症例登録は2020年3月14日に行われた。その後も月1回のウェブ会議で研究の実施状況や新型コロナウイルス感染症の対応を含む各病院の状況等の情報共有を行い、施設間のコミュニケーションを密に図ることを継続した。症例登録は順調に進み、約1年後の2021年4月に目標症例数の100例に達し、登録完了となった。新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症で承認されている低用量ではじめの1例目から50例目まで、新型コロナウイルス感染症で企業治験が行われている高用量で続く51例目から100例までの2用量で登録できた。施設間のコミュニケーションが良好なこともあり、EDCシステムにおけるCRF提出、クエリ対応も適切・迅速に進み、適切なデータマネジメントが実施できた。【結論】メガホスピタルの研究環境を用いることで、コロナ禍においても特定臨床研究を迅速かつ適切に実施し、症例集積性を向上できることが確認できた。メガホスピタルの運用を継続して検討・見直しを行い、さらに進化させることが望まれる。

  • 楠 康代, 網野 祥子, 黒田 明子, 堀尾 綾香, 山本 美代子, 川端 美由紀, 笠井 宏委, 星野 伸晃, 池田 香織, 加藤 貴雄, ...
    セッションID: 42_1-P-E-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】2020年1月の厚生労働省からの注意喚起から始まった世界的な新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)のパンデミックは、本邦の治験・臨床研究等の実施に大きく影響した。本院が主導している実施中の医師主導治験・再生医療等臨床研究(以下、医師主導治験・再生医療研究)で経験した対応について報告する。

    【方法】スタディマネジメントユニット(以下、当ユニット)では、2020年4月時点で、7課題の医師主導治験・再生医療研究を実施中であった。本院では、当院職員等の行動方針により外部関係者との面会、対面会議、移動などの制限が講じられた。また、治験・臨床研究等の実施に関する方針も出され、当院で実施する臨床研究(治験を含む)については、方針に従った対応が求められた。当ユニットでは、PMDAから迅速に発出されたQ&Aも参考に、実施中の医師主導治験・再生医療研究において、被験者に対する対応(新規の症例登録、治験薬投与中の被験者、観察中の被験者)、治験関連文書の改訂、治験薬等の調達など、各医師主導治験・再生医療研究の進捗状況に応じてPIや治験関係者と検討して対応した。

    【結果・考察】実施中の7課題の医師主導治験・再生医療研究においては、全課題でCOVID-19感染下における治験実施に関して調整の対応をしていた。治験薬投与中の被験者に対しては、治験薬配送(2課題)、他医療機関連携による検査等の実施(1課題)があった。治験関連文書の対応としては、治験実施計画書の改訂(5課題)、治験計画(再生医療等提供計画)変更届の提出(4課題)、関係企業との契約変更手続き(1課題)、監査手順書の改訂(2課題)を実施していた。また、治験期間延長に伴う治験薬等の期限切れなどが発生したため、治験薬や未承認医療機器の追加製造(1課題)、未承認薬輸入の追加調整(1課題)などが発生していた。その他、研究費への影響としては、COVID-19関連で発生した治験薬配送にかかる追加費用、被験者の検査費用、海外からの未承認薬の輸入費用の増大など、研究費の管理(3課題)に影響していた。さらに、原則、全課題でWeb会議システムに移行した。

    【結論】7課題の医師主導治験・再生医療研究においては、COVID-19の感染拡大により、治験実施期間の延長、治験薬等の製造や調達、治験の研究費管理などに影響はあったが、全課題においてCOVID-19の感染拡大により中止することなく進めることができた。

  • 川口 祐司, 久米田 靖郎, 堀部 昌司, 松田 藍, 伊原 明莉, 柳田 聡子, 末正 洋一, 宮越 一穂
    セッションID: 42_1-P-E-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】治験の電磁記録化が進みeSource、eProが普及しつつある。これは転記作業の工数の軽減とともに、データ発生時に治験依頼者とデータを共有ができる点でもメリットが大きい。しかし、既往・合併症及び併用薬については治験参加以前のデータの収集が必要で、治験ワークシートを活用することが多いのが実情である。治験ワークシートは治験医師がカルテから情報を抽出し転記して作成する必要があるため、多くの工数がかかっている。この度は当院で実施した治験において、電子カルテから一定の条件で病歴と処方薬情報を抽出・出力したデータを活用することにより、治験ワークシート作成の負担軽減策を検討したので報告する。【方法】2020年10月~2021年6月に組み入れられた、循環器内科の1試験5例と透析科の1試験4例を対象として検討した。医療情報部システム管理課にて、各被験者の治験参加時点の病歴と診断日、処方薬(商品名)と処方日の情報を電子カルテからマスターワークシート(仮称)に出力した。検討した9例について、既往合併症、併用薬の手書きのワークシート記載情報と、マスターワークシートの情報の照合を行い、マスターワークシート活用の有用性を検証した。【結果・考察】マスターワークシートの病名は多くの検査病名等が含まれていたため、治験ワークシートの疾患名が網羅できているかを確認した。9例中3例について全ての疾患名がマスターワークシートで確認でき、他の5例については約60~90%が、1例については28.6%の疾患名を確認することが出来た。併用薬に関しては、9例中4例がマスターワークシートで100%の薬剤を確認でき、4症例が約50~80%、1症例は25%の薬剤を確認することができた。治験ワークシートの病名がマスターワークシートに網羅されていない理由として、画像検査の診断名が反映されていないことがあった。また透析では注射薬が処方薬リストに反映されないこと、電子カルテの薬剤名がが商品名のため採用薬の変更により投与開始日の把握が困難となっていることが問題点として挙げられた。【結語】電子カルテから出力したマスターワークシートは、既往合併症、併用薬情報作成には完全ではないが、約70%以上の精度で情報が活用でき、ワークシート作成の工数削減には有用な方法なことが示唆された。

  • 藤居 靖久, 神 啓介, 中嶋 利典, 今西 絵梨, 大橋 美緒, 村上 紀里香, 小澤 義人, 仕子 優樹, 樋掛 民樹, 花岡 英紀, ...
    セッションID: 42_1-P-F-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年、Risk Based Approachの手法を取り入れた治験の他、オンライン診療やバーチャル治験の導入が検討・開始されている。軽症及び無症状COVID-19患者を対象とした医師主導治験(以下、本治験)の実施にあたり、医療機関の病床ひっ迫に伴い、治験期間を通して被験者を入院管理することが難しくなることが予想された。そのため本治験では、入院下で被験者を管理する方法(パターンA)以外にも、必要データの収集が可能であることを前提に、途中退院後、在宅もしくはホテル療養下で管理する方法(パターンB)や、同意取得時のみ来院し、それ以降は在宅等で治験を継続する方法(パターンC)のように、医療機関への入院・来院に依存しない被験者管理を実施している。本治験はまだ実施中だが、前述の3パターンの被験者管理方法と収集されたデータ品質の関係について考察した。【方法】登録された被験者89例を、管理方法毎にパターンA(4例)、パターンB(52例)、パターンC(33例)と分類した。収集されたデータの品質に関して、パターン別の規定来院日からEDC入力までの日数(指標1)、有害事象発生からEDC入力までの日数(指標2)、クエリ発出から施設対応までの日数(指標3)、重要データ項目に対するクエリ数(指標4)、以上4つの指標を検討した。【結果・考察】(指標1)中央値は、3パターンともほぼ同程度だった。(指標2)中央値はパターンBで若干小さいものの、平均値では概ね差がなかった。来院が少ないほどEDC入力に日数を要すると予想していたが、実際には同程度であり、これらの指標は管理方法に影響されないと考えられた。(指標3)中央値をみると、パターンA・Bが同程度、パターンCが短かった。(指標4)パターンA、B、Cでそれぞれ1件、29件、6件であり、症例あたりの数ではパターンCで低値であった。指標1および2から被験者情報が適切に収集されているという結果から、管理方法はクエリ数や対応に影響しないと予想していたが、実際にはパターンにより結果が異なっており、実施施設の実施体制(リソースなど)が要因と考えられた。【結論】本調査の結果より、治験データの品質は被験者の管理方法にさほど影響されないことが確認できた。医療機関への来院に依存しない治験実施により、組み入れ速度の上昇、被験者の来院負担低下のメリットが考えられる。通院が困難だが遠隔で評価可能な疾患では、来院に依存しない治験管理も有用な手段となりうる。

  • 川名 由美, 中谷 英章, 青木 大輔, 佐谷 秀行
    セッションID: 42_1-P-F-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大や緊急事態宣言の発令により、医療機関内では、医療スタッフ内で感染者や濃厚接触者が発生した場合であっても、各部署の業務が滞りなく行えるよう、必要な対策を事前に講じ、患者は安心して治療を継続して受けられる体制を逐次検討している。治験やCRC業務は特殊業務であり、他部署からの応援を受けることが難しい側面があることより、有事に備え、病院および医学部で制定された事業継続計画(BCP)や行動指針を原則とした上で、CRC業務に特化したCOVID-19環境下におけるBCPを整備した結果について報告する。

    【方法】CRC業務をすべて洗い出し、CRC業務環境調整、感染予防行動、被験者対応調整、治験依頼者対応調整の原則手順を整備した上で、COVID-19陽性者が発生もしくは自宅待機等でCRC全員が出勤不能な場合のCRC業務体制手順を2020年4月に整備し、2021年5月に見直しを行った。また、在宅勤務で対応可能な業務、出勤して対応する業務を分類し、必要なITや業務環境等を整理してBCPを整備した。

    【結果・考察】院内ネットワーク内に保管されているファイル等、業務に必要な情報に外部からアクセスできる環境や、リモート電子カルテが使用できる環境があれば、被験者対応業務以外はある程度在宅勤務でも実施可能であることが判明した。前者については、SMO所属のCRCを除いては既に当センター内では整備されており、以前より活用されていた。後者については、条件をクリアしている医師に対しては、使用できる環境ではあったが、その他の業種に対しては、病院として使用できる環境になかったため、病院長に状況を説明し、院内CRCに対してCOVID-19環境下に限って特別に使用許可が下りたことにより、CRCにおいても在宅勤務を取り入れることができ、被験者や医師からの問い合わせ対応やEDC入力等が在宅でも可能になった。

    【結論】BCPを整備したことにより、CRC業務であっても有意義な在宅勤務ができるということが証明でき、2021年7月時点でも一定条件の下継続している。幸いにもCRCの中で業務継続が不能になるような状況は経験していないが、不測の事態に備えて引き続きBCPの見直しを行い、継続的に評価と改善を行っていくことにより、CRC業務の効率化にもつなげていきたい。

  • 岡田 達司, 角山 政之, 木村 優美, 深川 恵美子, 村瀬 哲也, 松尾 裕彰
    セッションID: 42_1-P-F-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】新規治験を受け入れるに当たり、IRB申請までに治験依頼者(以下、依頼者)から選定不可の連絡を受けることがある。企業治験を実施する施設として、選定不可の原因を改善し選定される施設を目指すことは重要である。そこで、これまでに改善した本院の治験実施体制を精査し、選定不可を回避するための今後の課題を検討したので報告する。

    【方法】2014年度から2020年度までの7年間に、依頼者から新規治験の受け入れについて打診があったにもかかわらず、IRB申請までに受け入れが中止となった治験を治験管理システムより抽出し、依頼者と事務局で取り交わしたメールから中止理由を調査、集計した。また、その後中止原因を改善できた治験受入れ・実施体制を事務局職員に聞き取り調査を実施し、今後の課題について検討した。

    【結果・考察】調査期間中に受け入れ中止となった治験は56件で、依頼者からの中止の申出は42件、医師側からの中止の申出は10件、不明4件だった。主な理由は、開発中止(12件)、症例数が見込めない(10件、依頼者8件、医師2件)、本院の受け入れ体制によるもの(10件、依頼者6件、医師4件)だった。本院の受け入れ体制によるものには、a.付随する遺伝子研究が受け入れられないため、b.休日夜間の治験実施体制が整っていないため、c.初期費用が依頼者の設定限度額を超過しているため、d.希望するIRB月で申請ができないため という理由が含まれていた。aは、当時のIRBでは当該薬物とは直接関係しない(旧分類C)遺伝子研究は受け入れ不可という基準で審査していたが、IRBとして受け入れられる条件を協議し、その条件を満たした場合受け入れ可能という審査基準に変更した。cは、変動費の支払いが治験薬投与開始日の一括払いであることが原因であり、マイルストーン制度を導入し分割払いとし、初期費用の引下げが可能となるよう改善した。dは、事務局員を増員し1回のIRBで審査可能な新規治験件数を増加させた。これらの改善以降、付随する遺伝子研究、初期費用、IRB申請月が理由による選定不可を経験していない。bの改善については、CRCや薬剤師の休日夜間の対応や検査部門の休日夜間の検査の実施など、依頼者や治験担当医師の希望に沿った関連部門の受入体制を整備する必要があると考える。

    【結論】選定不可理由を精査し治験実施体制を改善していくことは重要であり、治験の受け入れ数の増加につながることが期待される。

  • 本間 しずか, 臼井 あけ美, 稲葉 恵弥, 市川 光, 木野 房代, 江口 哲世, 河島 恵理子, 井口 桃子, 秋元 美佐枝, 古田 隆 ...
    セッションID: 42_1-P-F-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ICH-E6(R2)の 対応に際して必要となるQuality Management System (QMS) は、Risk Based Approach (RBA)を用いることが明記されている。浜松医科大学医学部附属病院・臨床研究センターでは、QMSに関わる文書整備(2020年本学会学術総会報告)に引き続き、実施体制整備を推進している。今回、CRC業務へのRBA導入を目的とした逸脱管理体制を検討したので報告する。

    【方法】逸脱(インシデントを含む)を「治験薬・検査手順・欠測・併用薬・その他」に分類し、事例ごとに再発防止策を入力して一元管理する「逸脱管理データベース」を作成した。このデータベースを用いて過去2年間に発生した逸脱を調査し、現状の把握と見直しを行った。さらにCRCによる逸脱/再発防止管理チーム(以下、管理チーム)を作り、その活動を検討した。

    【結果・考察】2019年度からの2年間では重大な逸脱はないものの、類似した軽微な逸脱が再発していた。また、再発防止策が十分に共有されていなかった。そこで、逸脱管理手順書に「再発防止策は、全CRCから提案や経験による助言を得ることが望ましい」および「主担当CRCが逸脱内容と再発防止策を逸脱管理データベースに入力する」の手順を追加した。管理チームは業務経験の異なる4名のCRCで構成し、バックアップを含めたデータベース担当者を決めた。管理チームのメンバーは毎年2名ずつ交代し、全CRCが逸脱管理やPDCAサイクルの構築に携わるようにした。管理チームの活動内容は、データベースの管理、定期的なリスク評価と報告、新規のシステムや機器が導入された際にリスクを予測したマニュアル作成や手順書改訂を治験部全体に働きかけること(例えば、電子版・同意説明文書での治験説明や同意取得時のリスクを予見した手順を定める等)とした。実際に活動し、データベース管理や治験部全体への情報の周知・共有は日常業務内での実施が可能であったが、リスク評価については、逸脱が試験結果や被験者に及ぼす影響の程度(軽度/中等度/重度)を判断する基準や指標がないことから、評価方法の標準化が必要と考えられた。

    【結論】逸脱管理データベースの作成および逸脱/再発防止管理チームの創設はRBAに基づくQMSの実践に有用である。今後は、リスクの評価基準の策定が必要である。

  • 松山 琴音, 島世 宏明, 佐藤 裕, 三田 恵子, 花村 伸幸, 南埜 真信, 岡田 俊之, 稲泉 恵一
    セッションID: 42_1-P-F-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】医薬品開発においては、世界同時開発戦略に伴い国際共同治験が増加しており、日本の治験費用においてもFMVの概念のもとに費用の「適正化」と「透明性」の確保が求められているが、日本では「ポイント算出表」に基づいた日本独自の治験費用の算定方法が主流であり、各項目に対する解釈や積算方法の違いから、治験の施設費用は医療機関ごとに大きなばらつきがある。一方で、海外ではFMVの概念に沿った治験費用の算出が一般的であり、治験実施計画書で規定された診察、検査およびデータ入力などの各業務に対する対価の基準値(ベンチマーク)を設定し、被験者のVisit毎に実績ベースで治験費用が支払われている。本研究では日本でのベンチマーク型コストの普及に向け、ベンチマーク型コストの仕組みを調査するとともに、治験依頼者と医療機関における導入時の課題を検討した。

    【方法】グローバルで治験費用のベンチマークデータを提供するのは主にIQVIAサービシーズジャパン株式会社とメディデータ・ソリューションズ株式会社の2社である。今回の調査では、ベンチマークデータの根拠となるコストデータの収集からサービス提供に至るまでの仕組みについて、両社の情報を収集すると共に、ベンチマークデータに基づく治験費用の算出方法について概観する。また、日本でのベンチマーク型コストの導入時の課題を検討し考察を行った。

    【結果・考察】どちらのシステムも治験での診察、検査、その他業務のコストデータをタスクごとに抽出し、データとして蓄積している。多数の治験依頼者から情報を収集し、定期的なデータ更新で各国の物価や人件費の上昇等直近の実勢価格が反映される。一方、日本での導入時の課題としては、FMVの概念の定着、医療機関に各業務の費用のデータがない、保険外併用療養費制度の支給外経費に関連する検査・画像診断の取扱いの違い等があった。

    【結論】ベンチマーク型コストを用いた治験が普及するにつれ、個々の治験業務の対価のもとになるベンチマークデータの信頼性は向上し、治験依頼者は医療機関から提示された治験費用が公正な価格か判断できるようになる。結果として施設間の費用のばらつきは小さくなり、治験費用の適正化と透明化につながる。本研究の結果、日本におけるベンチマーク型コストによる治験の実施が治験依頼者だけでなく医療機関にも受け入れられ、FMVによる均質な治験を実施することが可能になるだろう。

  • ホロウェイ 愛, 武山 ルミ, 安田 育子, 石山 陽子, 枝長 充隆, 渡辺 敦
    セッションID: 42_1-P-F-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】当院では、治験業務に対し、1999年より3名の看護師が院内CRCとして配置された。2012年より治験件数の増加に伴う院内CRCのマンパワー不足を解消し、件数に合わせて柔軟に対応できるようSMO-CRCの採用を開始した。2019年のGCP改訂により業務委託等に関するデータの信頼性を保証する措置を講じることが医療機関の責務として示された。この方針を見据えた対応として、2019年よりSMOへの委託を2社とし、SMO-CRCは企業治験を積極的に担当し、院内CRCは医師主導治験及び治験全体のマネジメントを担うこととなった。当センターにおけるSMO-CRCが増えてきている中、治験業務の管理を見直し、より円滑で効率的な治験の展開が求められている。今回、治験の質の維持向上を目指し、これまでの運用と取り組みを後方視的に振り返り、今後の課題について検討した。

    【方法】調査期間は2020年12月~2021年5月とし、2019年4月から2021年3月までの2年間におけるCRCの人数と治験数・業務の現状などをまとめるとともに、調査期間中にSMO-CRCから当院での治験業務における障害要因について聞き取りを行い今後の方向性と課題を検討した。

    【結果・考察】調査期間中の院内CRCは4名と変化はなかった一方で、SMO-CRCは4名から8名に増加した。企業治験の件数は、院内CRCの担当は41件から19件に減少したが、SMO-CRCの担当分は33件から50件と増加した。現在、院内CRCは、プロトコルを担当する他に、逸脱やインシデント発生時には速やかにCRC全員で情報を共有し再発を防ぐことや、情報共有を円滑にするためCRC全員がアクセスできるホルダーを作成しツールを共有する等、治験業務を実施しやすくするための対応を行っている。また、今回のSMO-CRCへの聞き取りでは、「相談の問い合わせ先を把握するのが大変」「各診療科によって医師への連絡方法や外来の手順などが異なるので困る」が主な障害要因であった。今回の聞き取り調査の結果から、SMO-CRCが業務を行うにあたりシステムが不十分であることが示唆された。今後は治験の質の維持・向上のために院内CRCの役割を明確化し、システム構築を進めることが必要と考えられた。また、SMO-CRCの意見から、当センターに配置されてもすぐに業務を行えるような標準化されたマニュアルの作成が必要と考えた。

    【結論】今回の結果から院内CRCは、SMO-CRCと共に活用できるマニュアルの整備を含めた具体的なシステム構築を行う必要がある。

  • 遠藤 明史, 鈴木 由加利, 高嶋 泰之, 松本 和彦, 森豊 隆志, 長村 文孝, 中澤 美科, 中村 哲也, 花岡 英紀, 田中 基嗣, ...
    セッションID: 42_1-P-F-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】近年のIT技術の進歩の中、日本の臨床試験支援部門においてもIT化を進める事は課題であった。しかしIT化により業務効率化のメリットは期待できるものの、導入コストの問題やセキュリティ対策、行動変容に対する各部門への了解が必要なため、容易には進まない状況であった。このような状況の中、2019年12月からの新型コロナウイルスの流行により、この状況が大きく変わり、各部門でIT化が大きく進んだ。そこで私たちはコロナ禍において、大学病院臨床試験アライアンス各施設の支援部門において、どのようにIT化が進んだか調査した。【方法】アライアンス各施設において、緊急事態宣言1回目時(2020年4月~5月)と緊急事態宣言2回目時(2021年1月~3月)における委員会審査、事前ヒアリング、スタートアップ会議、リモートSDV(RSDV)やeコンセント等のIT化オンライン化対応状況を調査した。本調査結果は、アライアンスのCRC連絡協議会活動、品質管理(大学間相互チェック)活動で得られた調査結果を基にとりまとめた。【結果・考察】WEB会議のツールが導入しやすい委員会審査や事前ヒアリング等の会議は各施設において1回目の宣言時にいち早くオンライン化対応が進んだ。RSDV領域においては1回目の宣言時より2回目の宣言時には対応が進んだ。これはRSDVを行うためには、セキュリティの問題等周辺環境の整備が必要だが、2回目の宣言時までには情報共有が進み周辺環境の整備が進んだためと考察された。緊急事態宣言を契機に、遠隔からカルテ閲覧可能なシステムを有する施設から情報提供を受け、新たにシステム導入を検討された施設もあった。しかしながら、施設毎のセキュリティや患者個人情報への考え方など、リモートモニタリングへのIT導入には依然として課題があることも示唆された。【結論】コロナ禍により委員会審査や会議はオンライン化がいち早く進んだ。一方RSDVは、当初オンライン化が遅れたが、2回目宣言時には対応が増加したことが分かった。RSDVはまだ課題も多いが、各施設で情報共有とともに周辺環境も整備されてくれば、今後も増加されると思われる。

  • 平野 雅, Zhao Sylvia , Rajman Iris
    セッションID: 42_1-P-G-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    Objectives:

    The response of patients to drugs can be affected by intrinsic/extrinsic factors. Genetic diversity is such factor that can lead to a different response. For example, genetic differences in CYP450 may result in different genotypes leading to a range of phenotypes. The frequency distribution of genetic polymorphs may differ between populations, which however, is identified only after a large number of patients have been treated, and may be mitigated with pharmacogenetic (PG) assessment. Nevertheless some Asian regulators require Phase 1 (Ph1) data in Asians before joining global Ph2/3 trials. Here, we discuss inherent limitations of Ph1 ethnic sensitivity studies (ESS) to identify potential interethnic differences.

    Methods:

    Internal data was collected from NDAs submitted/approved in Japan and China between 2010 and 2018.

    Results and discussions:

    There were nearly 25 NDAs submitted in Japan and China. No interethnic differences in safety or PK profiles were found in any of the Ph1 studies conducted in Japanese and/or Chinese subjects for these submissions, apart from eltrombopag. This suggests that the Ph1 ESS data were not of marked value in identifying the need for dose adjustment for NDAs submitted in both Japan and China. Therefore, we propose a new drug development paradigm: if relevant safety, PK, and PG data are available from the original Ph1 study population, it might be possible to extrapolate those data to Asian for their inclusion in Ph2/3 trials without a separate ESS, especially for the following drugs: (1) therapeutic biologics; (2) drugs with no systemic activity; (3) drugs predominantly metabolized by CYP enzymes with known polymorphisms of no functional relevance; (4) drugs predominantly metabolized by functionally polymorphic CYP enzymes with PG collected in Ph2/3 studies; and (5) drugs for an orphan indication.

    Conclusions:

    This proposed approach could help to expedite drug development in Asia while still addressing regulatory requirements.

  • 斎藤 嘉朗, 青木 良子, 佐井 君江, 石井 明子
    セッションID: 42_1-P-G-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】バイオシミラーに関して、日米欧に加え、アジア各国においても、その普及が期待されているが、規制環境情報や民族差に関する知見が少なく、積極的に国際共同治験を推進する環境整備が必要である。本研究は、バイオシミラーに関する各国/機関のガイドライン/ガイダンスにおける臨床試験及び市販後調査に関する記載を調査・比較し、その相違点を明らかにすることを目的とした。【方法】米国、欧州、中国、韓国、WHO、タイ、マレーシア、シンガポール、インド、及び日本のガイドライン/ガイダンスを入手し、記載内容の比較を行った。【結果・考察】概ね、各国/機関の臨床試験及び市販後調査に関するガイドラインの記載内容は同様であった。若干の相違点としては、臨床薬物動態(PK)試験及びPK/薬力学(PD)試験に関して、欧州、タイでは、PK試験、PK/PD試験結果に基づく臨床的有効性試験の免除の可能性に関する記載が、単回、反復投与試験での評価すべきPKパラメータ等について言及するなど、詳しいものであった。臨床的有効性及び安全性評価に関しては、マレーシアで「参照製品の用法・用量を取り入れるため、また異なる投与量を含む可能性のある他の適応症への外挿の可能性を与えるため、有効性試験では非劣性でなく同等性を評価すべき」と記載されていた。なおシンガポール以外では、一定の条件下での非劣性試験実施が容認されていた。臨床試験で対象とした疾患以外への効能・効果の付与(外挿)に関しては、WHOで「比較臨床試験において非劣性で有効性を示した場合、その結果が他の適応疾患でも同様であるという考察は必要」と記載されていた。市販後におけるリスク管理に関しては、WHO、マレーシア、シンガポール、欧州、タイにおいて、トレーサビリティ確保(販売名とロット番号の確認)に関する記述があった。レジストリの活用について言及されていたのは日本、欧州、タイであり、また医薬品安全性監視活動の結果公表に関しては、日本のみ記載がされていた。【結論】各国/機関の臨床試験及び市販後調査に関するバイオシミラーガイドラインの記載内容は、概ね同様であったが、臨床試験における非劣性デザインの扱いや市販後リスク管理における方法について、一部差異があることが明らかとなった。特に非劣性試験の採用に関しては、効能・効果別に考察して提言していくことが重要であると考えられた。

  • 田島 玄太郎, 松丸 直樹, 塚本 桂
    セッションID: 42_1-P-G-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    本邦における医薬品の製造販売承認申請(NDA)のタイミングは通常申請企業が決定するが,マクロの視点では本邦における開発の開始時期や臨床試験の期間により決まる。一方,世界一の医薬品市場である米国(US)での上市を優先することがあり,これが結果的に日本とUSのNDAのタイミングに差(申請ラグ)を生じさせる要因とも言われている。

    USの開発促進制度(EP)は米国において重篤または死亡の恐れのある疾病でUnmet Medical Needsを満たす治療薬が対象であるにも関わらず,希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤では,US-EPであるBreakthrough Therapy(BT)に指定されることが日米の申請ラグを有意に短縮する因子であることが報告されており,各国のEPが他国の開発期間に影響していることが推測される。今回我々はBTを含む5つのタイプのUS-EPが希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤に限らず,申請ラグに影響を与えているとの仮説を立て研究し,申請ラグを減らす提言に向けた知見を得ることを目的とした。

    【方法】

    2012年1月から2019年12月の間に新有効成分含有医薬品として本邦で承認された328品目を研究対象とした。対象品目のうち,1) ワクチン,2) 2020年9月時点で米国にて承認されていないまたは同じ適応症がない,3) 緩和療法,支持療法または診断薬,4) 解析に必要な情報が得られなかった品目,5) 未承認薬・適応外薬検討会議からの要請による承認品目を除外した。2群比較にはマンホイットニーのU検定を用いた。

    【結果・考察】

    解析対象となった168品目における申請ラグの中央値は11.5ヶ月(interquartile range [IQR] : 3.2-39.7)であった。US-EPのうちBTに指定された品目の申請ラグの中央値は7.4ヶ月(IQR: 3.3-16.8)であり,BTに指定されていない品目に比して申請ラグは有意に短縮していた(P=0.025)。それ以外のUS-EPでは有意差は認められなかった。

    【結論】

    本研究結果から,BTに指定されることで,希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤に限らず,ワクチン以外のグローバル開発された医薬品では申請ラグが短縮することが示され,US-EPは申請ラグに影響を及ぼす要因であることが明らかとなった。本邦の先駆け指定制度や欧州のPRIME制度など,自国・他国のEP制度が申請ラグに影響を与える可能性があると考えられることから,相互影響など検討し,今後の開発戦略への提言につなげたい。

  • 菅野 仁士, 松山 琴音
    セッションID: 42_1-P-G-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】ドラッグ・ラグとは、海外で既に承認されている薬が日本国内で承認されるまでに、長い年月を要することであり、日本で薬が承認されるまでの期間中、日本で受けられる医療レベルがその他の先進国と比べて低下することにも繋がりうる重大な問題である。ドラッグ・ラグを解消するための施策として、新薬の開発から承認申請に至るまで、海外と日本で協力しあって同時に行うことを目的とした国際共同治験の促進、審査期間の短縮を図るために独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査委員の増員がなされてきた。今回、特にがん領域に着目し、ドラッグ・ラグが解消されているか検討した。【方法】2014年4月1日から2021年3月31日までの間に新有効成分含有医薬品(NDA)として日本で承認された抗悪性腫瘍剤72剤を対象とした。PMDAのウェブサイト(http://www.pmda.go.jp/)、FDAのウェブサイト(http://www.fda.gov/)等から、日本及び米国における申請日、審査期間、承認日、希少疾病用医薬品の指定、優先審査の該当、先駆け審査制度の対象及び条件付き早期承認制度の対象の有無について収集した。日米間の承認申請時期の差(開発ラグ)、及び審査期間の差(審査ラグ)を算出した。なお、日本においてのみ承認された抗悪性腫瘍剤について、開発ラグ及び審査ラグはいずれも0日とした。【結果・考察 】日本で承認された抗悪性腫瘍剤72剤のうち、2014年4月~2017年3月(前期)及び2017年4月~2021年3月(後期)に承認された抗悪性腫瘍剤はそれぞれ45剤及び27剤であった。米国で承認された抗悪性腫瘍剤は66剤(前期44剤、後期22剤)であった。開発ラグ(中央値)は前期836日、後期169日(以下、同順)、審査ラグ(中央値)は90日、0日、ドラッグ・ラグ(中央値)は961日、205日であった。また、後期に承認された27剤のうち、先駆け審査制度の対象であった5剤を除いた22剤における開発ラグ(中央値)は324.5日、審査ラグ(中央値)は56日、ドラッグ・ラグ(中央値)は372.5日であった。【結論】先駆け審査制度等の導入により世界初の承認となる抗悪性腫瘍剤が増えることで、抗悪性腫瘍剤のドラッグ・ラグの短縮がみられた。しかしながら、当該制度の対象とならない抗悪性腫瘍剤においては約半年間のドラッグ・ラグが生じている。

  • 浅田 隆太, 清水 忍
    セッションID: 42_1-P-G-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】本邦では、新医薬品が製造販売承認申請された際に、治験が被験者の人権、安全、福祉の向上を図り、GCPや治験実施計画を遵守して実施されていたこと、科学的な質と成績の信頼性が確保されていたことを確認するために、医薬品医療器総合機構(PMDA)が、GCP実地調査を実施し、原資料を確認する。GCP実地調査の結果、「GCPに不適合な事項」、「改善すべき事項」が認められた場合、当該事項は、治験依頼者/申請者及びGCP調査が行われた治験実施医療機関の長に通知される。「GCPに不適合な事項」とは、調査対象承認申請資料がGCPに従って収集、作成されたものであることが確認できず、当該資料の全部又は一部を承認審査の対象から除外するなどの措置が必要と判断した事例であり、「改善すべき事項」は、GCPからの逸脱ではあるものの被験者の安全は保たれており、試験全体の評価に影響しないと判断された事例で、原則として自主的に改善を求める事項である。これらのGCP実地調査の結果は、PMDAが作成する審査報告書に記載され、公開されている。我々は、GCP実地調査の評価結果を基に、治験実施医療機関におけるGCP遵守状況を検討するとともに、指摘された不適合事項の傾向を検討することにより、治験を実施する際に、注意すべき事項を明らかにすることを目的として、治験実施医療機関におけるGCP遵守状況を検討した。【方法】本邦において、2006年から2020年に承認された新医薬品1,634品目を対象に、PMDAのホームページで公開されている審査報告書におけるGCP実地調査の評価結果を調査した。GCP実地調査の結果、「GCPに不適合な事項」、「改善すべき事項」の記載を抽出し、集計した。【結果・考察】「GCPに不適合な事項」が認められた新医薬品は、51品目あった。GCP不適合と判断された原因のうち、「記録の保存」が最も多かった。それ以外では、「被験者の選定」、「治験実施計画書からの逸脱」、「被験者の同意」が多かった。【結論】「記録の保存」及び「被験者の選定」が原因でGCP不適合と判断されることが多いことを踏まえ、医療機関における記録の保管に関する規定の確認、登録された被験者が選択・除外基準を満たしていることを重点的に確認すること等が重要であることが示唆された。

  • 米田 文香
    セッションID: 42_1-P-G-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】抗体-薬物複合体[Antibody-Drug Conjugates(ADC)]は,バイオ医薬品(抗体)と化学合成品(薬物及びリンカー)両方の特性を有するため,承認申請時の評価ポイントは多岐にわたる。そこで本研究では,本邦で承認されたADCについて,主に薬効薬理試験や毒性試験の内容を調査するとともに,得られた知見を臨床試験の立案にどのように繋げいるか検討することを目的とした。

    【方法】2021年3月までに本邦で新有効成分含有医薬品として承認されたADC8品目の審査報告書及び申請資料概要を調査し,非臨床試験に用いられた被験物質,動物種,投与量等について整理するとともに臨床試験の投与量との関係等を調査した。

    【結果・考察】すべての品目でADCを用いてIn vitro及びIn vivoにおける腫瘍増殖抑制効果が検討されており、5/8品目で標的抗原陽性細胞のみならず陰性細胞を用いて効果を比較し、陽性細胞のみで効果があることを確認していた。臨床試験は、セツキシマブ サロタロカン及びポラツズマブ ベドチンを除き標的抗原陽性の患者を対象に実施されていた。また、トラスツズマブ エムタンシンのIn vitro試験では、抗原陽性トラスツズマブ非感受性細胞でも効果を有することが示されており、トラスツズマブ既治療患者を対象とした臨床試験の立案に繋げていた。7/8品目で反復投与毒性試験が実施され、そのうち6品目でラット及びサルが、残りのイブリツモマブ チウキセタンではサルのみが用いられていた。また、セツキシマブ サロタロカンは単回投与毒性試験(ラット及びサル)しか実施されていなかった。FIH試験の初回投与量は、NOAELから設定している品目とサルのHNSTDから設定している品目があった。後者については、ICH S9ガイドラインのQ&Aに記載されている1/6量よりも低用量が設定されている品目が認められた。

    【結論】ADCの臨床試験は標的抗原陽性の患者を対象に実施され、抗体部分のみの前治療歴について規定されている品目もあった。FIH試験の初回投与量は、NOAEL及びサルのHNSTDから設定していたが、必ずしもICH S9ガイドラインのQ&Aの用量が設定されているわけではなかった。

  • 田中 祥子, 正木 寛, 小池 紗綾, 田中 るな, 平野 俊彦
    セッションID: 42_2-P-H-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】骨髄異形成症候群(MDS)は,骨髄中の造血幹細胞異常により生じる無効造血を呈する疾患群であり,高率で急性骨髄性白血病(AML)を発症する.また,MDSから転化したAML(MDS/AML)は通常の白血病と比較して治療成績が不良である.急性骨髄性白血病に適応のある三酸化二ヒ素は融合遺伝子であるPML-RARalfaを分解することによって分化誘導を促進する.一方,As2S2はMDSや白血病細胞において,分化誘導作用を示すという報告があるが,As2S2においてもPMLタンパク質を分解する可能性が考えられる.しかしながら,その作用機序は不明な点が多い.そこで本研究は,PMLタンパク質および分化調節因子に着目し,As2S2の細胞分化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.【方法】MDS/AML細胞株F-36P細胞にAs2S2もしくはアザシチジン(5-aza)で処理し,24,48あるいは72時間培養した.造血幹細胞分化マーカーであるCD34,CD38および赤芽球系分化マーカーであるCD235発現をフローサイトメトリー法で測定した.PML,網膜芽細胞腫タンパク質(Rb),DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)および赤血球の分化を誘導する転写因子GATA1あるいはGATA2タンパク質発現をウエスタンブロット法で測定した. 【結果・考察】F-36P細胞におけるCD34+CD38-幹細胞の割合は,As2S2の濃度依存的に低下した(p<0.01).また,CD34+CD38-細胞におけるPMLタンパク質の発現は,CD34midCD38+細胞に比べて高いことが明らかとなった.As2S2によるPMLタンパク質分解が分化に及ぼす影響を明らかとするため,siRNAを用いてヒ素依存性PMLユビキチン化リガーゼであるRNF4タンパク質をノックダウンし分化誘導作用との関連について検討した. DNMT1,pRbおよびGATA2タンパク質の発現が低下し,CD235タンパク質発現の増加が抑制された.【結論】As2S2はF-36P細胞においてPMLタンパクを分解することによりDNMT1およびpRbタンパク質発現を抑制し,赤芽球へ分化を誘導する可能性が示唆された.

  • 野地 史隆, 吉岡 英樹, 畠山 浩人, 樋坂 章博
    セッションID: 42_2-P-H-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】胃癌術後補助化学療法については、長期予後の改善を目的として様々な術後補助療法が検討されている。アジアで行われたCLASSIC試験(NCT00411229)では、Capecitabine+Oxaliplatinによる術後補助化学療法群と手術単独群が比較された。主要評価項目は3年無病生存期間(DFS)、副次評価項目は生存期間(OS)と安全性であり、主要評価項目である無病生存期間(DFS)の術後補助化学療法群のハザード比は0.56であり術後補助化学療法の優位性が示された(p<0.0001)。本研究では、臨床試験に登録された被験者個別情報を用い各因子の治療効果を検討した。

    【方法】千葉大学薬学部倫理審査委員会の承認のもと、Clinical Study Data Request.com(CSDR)よりCLASSIC試験の個別被験者データを入手した。入手した詳細患者背景、投与後情報、有害事象発現情報を基に、術後補助化学療法群と手術単独群の単独群におけるDFSおよびOSについて、コックス回帰分析によりSAS 9.4を用いて予後規定因子を探索した。

    【結果・考察】補助療法群と手術単独群共通のDFSに関連する予後因子としては胃癌stage、OSに関連する予後因子としては性別、胃癌stage、および食欲不振の発現等が認められた。補助療法群でDFSおよびOSに関連する予後因子としては、癌の深達度、相対投与量あるいは治療サイクル数、好中球数減少の発現等が認められ、手術単独群でDFSおよびOSに関連する予後因子としては、BMIあるいは食欲減退の発現等が認められた。また、全体に性差あるいは性と他因子とのの交互作用が認められた。

    【結論】胃癌に対するCapecitabine+Oxaliplatinの術後補助化学療法においては、本研究から予後因子が示されたため、予後を予測しながら個人ごとの治療を最適化できる可能性が高まったと考えられた。

  • 岡 三佐子
    セッションID: 42_2-P-H-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】IV期非小細胞肺癌患者でゲフィチニブ及びオシメルチニブのEGFR-TKIにて現在(2021年8月)迄91ヶ月服用を継続している症例を報告する。

    【症例】60代男性Aさん、9年前左胸にIII期の肺癌が見つかり術後補助化学療法の治療歴があった。来局にてゲフィチニブ服用開始となったが、その後の聞き取りにより4週間毎4コースの化学療法で末梢神経障害と便秘が現れた事等からIIIA期(T2N2M0)でシスプラチンとビノレルビンによる術後補助化学療法と推察した。

    服用3ヶ月後、他科受診後の来局にて「晩酌で肝機能の数値が少し上がった」と言われ検査値を確認したところ、ASTとALT軽度上昇でGrade1であった。Aさんにはお酒の影響だけではなく薬の副作用の可能性がある事と飲酒は控えて頂く事を伝え、医師にもその旨報告したところウルソデオキシコール酸300mg/日が追加となった。その後肝機能の悪化もなく現在迄服用は継続されている。

    服用69ヶ月後「左鎖骨付近におできが出来たので皮膚科で診てもらう」と言われた。限局的な皮疹であったが副作用の可能性がある事を説明し早めの受診を勧め、医師にも報告した。後日来局時「おできの事を話したら再発の可能性もあると言われて3日後に検査入院になった。」と言われゲフィチニブの処方が中止となった。ゲフィチニブ中止2ヶ月後オシメルチニブに処方変更された事から検査入院にてEGFR T790M変異が確認されたものと考えた。

    オシメルチニブ服用2ヶ月後からゲフィチニブには見られなかった皮膚乾燥と掻痒症が出現しGrade1であった。本人は季節的な事と気に留めておられなかったが、これも副作用の可能性がある事を説明し医師に保湿剤とステロイドの外用剤を処方提案したところヘパリン類似物質ローションとベタメタゾン軟膏が追加となった。そして4ヶ月後には症状も改善し支持療法も中止となった。

    【結果・考察】IPASS試験EGFR陽性患者のゲフィチニブにおけるPFS中央値は9.5ヶ月に対しAさんは69ヶ月、AURA3試験日本人サブグループ解析でオシメルチニブのPFS中央値12.5ヶ月に対し現在迄22ヶ月である。この間Aさんは再就職したり毎日1万歩目標に歩いたりとPSも0を維持しつつ前向きに生活されながらEGFR-TKIとして現在迄91ヶ月長期服用されている。

    【結論】これからも1日でも長く普段の生活を維持できる様に、有害事象を少しでも抑えられる様に、些細な事にも耳を傾けて患者に寄り添っていくつもりである。

  • 木田 圭亮, 土井 駿一, 鈴木 規雄, 太田 有紀, 明石 嘉浩, 松本 直樹
    セッションID: 42_2-P-H-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され、2018年11月に学術集会が開催されるなど、がんと循環器の両者が重なった領域に対し、がん患者における循環器疾患の治療ならびに心毒性に対する最善の医療の確立に向け、注目されている。当院でも腫瘍に関する他科からの依頼に対し、対応した担当医によりその後の管理が異なり統一した診療ができていないこと、フォローする外来がないなどの問題があり、2018年4月に腫瘍循環器外来を新設し、循環器内科の専門外来として、腫瘍に関わる全ての科との連携を行なっている。特に当院では乳腺外科からの依頼件数が多いのが特徴で、外来患者の約半数を占めている。これまでに院内勉強会の開催、院内ルールや検査フローの調整などをして円滑な連携が可能となった。学術面では多施設共同研究にも積極的に参加し、日本からのエビデンスを発信すべく、データを蓄積している。現状の課題としては、薬剤性心筋症において確立したリスク予測因子や予防法がないこと、がん患者に対する心臓リハビリテーション(CORE)、次世代の腫瘍循環器医の育成など山積している。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬をはじめ、新薬が続々と登場しており、これらの心血管系への影響も不明な点が多く、病態解明や治療法の開発など臨床薬理学の役割は大きい。今回は、腫瘍循環器外来開設から3年間で見えてきた新たな役割と課題について報告する。

  • 鈴木 敦, 海老原 八重, 湯浅 綾乃, 菊池 規子, 中澤 まゆい, 山田 隆弘, 佐藤 加代子, 小林 浩子, 萩原 誠久
    セッションID: 42_2-P-H-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】近年の心不全治療薬の進展に伴い、SGLT2阻害薬は積極的に使用される薬剤となった。循環器疾患治療中に急激なアシドーシスを来す症例もあり、当院での発現例の有無について検討した。【方法】2016年4月から2021年3月まで東京女子医科大学循環器内科入院中に219例でSGLT2阻害薬が投与されており、同対象例におけるケトアシドーシスを含めた副作用発現の有無を検討した。【結果】上記対象患者のうち、1例でケトアシドーシスの発現を認めた。症例は50歳代女性、X-2年に2型糖尿病を指摘され、HbA1c9.6%であり、ビグアナイド薬、DPP4阻害薬、SU阻害薬、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10mg)が順次開始となった。軽労作での胸部違和感を自覚するようになり、X年に狭心症精査で当科入院となった。入院時HbA1C 7.4 %であった。冠動脈造影検査で、3枝病変であり、冠動脈バイパス術予定となった。術前に抜歯の適応と判断され、抜歯を施行した。その後に低血糖も認めたため、ビグアナイド薬・SU阻害薬は中止し、スライディングスケールで対応した。抜歯1週間後、嘔吐あり、その後頻呼吸、血圧低下傾向となり、血液ガス分析でpH 6.849, HCO3 -2.1, BE -20, Lac 2.4 mmol/lと著明なアシドーシスを認めた。人工呼吸器管理、持続血液濾過透析を開始し、また血圧維持のために大量のカテコラミンを要した。糖尿病性アシドーシスと判断され、エンパグリフロジンを中止した。その後CK上昇、肺水腫、左室収縮能の低下を認め、心原性ショックと判断し、IMPELLA導入下で経皮的冠動脈形成術を行い、VA-ECMOも要した。集学的治療により1週間後にはECPELLAは離脱し、リハビリの後、生存退院となった。【結論】急激な糖尿病性アシドーシスの発症に、SGLT2阻害薬の関与も示唆された1例を経験した。今後循環器領域でSGLT2阻害薬の使用機会が増加することが予測されるが、食事量が低下するsick dayには休薬するなど治療の管理では注意が必要であると思われる。

  • 龍口 万里子, 田中 紫茉子, 秋田 敬太郎, 井上 裕介, 内田 信也, 前川 裕一郎, 乾 直輝, 渡邉 裕司
    セッションID: 42_2-P-H-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    [目的] 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は第4群の肺高血圧症に属する希少疾患である。末梢型CTEPHの治療として、バルーン肺動脈形成術(BPA)と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤リオシグアトによるハイブリッド療法が行われている。外国人において、CTEPH患者は健常人と比較してリオシグアトの全身クリアランス(CL/F)が低下していることが報告されているが、日本人のCTEPH患者におけるリオシグアトの薬物動態は十分に検討されていない。本研究では当院のCTEPH患者2名におけるリオシグアトの薬物動態を評価し、既報の日本人健康成人パラメータと比較した。[方法] BPA施行前のリオシグアト服用中のCTEPH患者2名を対象に、リオシグアト服薬前、1回量服用後0.5、1、2、3、5時間に静脈採血した。LC/MS/MS法によりリオシグアトの血中濃度を測定し、薬物動態学的パラメータ(Cmax、AUC0-5、CL/F)を算出した。[結果] 症例1は46歳男性、リオシグアト3 mg/dayを服用中。直接経口抗凝固薬と利尿剤を併用し労作時に2 L/minで酸素療法を実施中。WHO肺高血圧症機能分類はII度で平均肺動脈圧は34 mmHgであった。リオシグアトの薬物動態パラメータはCmax: 49.05 μg/L、AUC0-5: 203.4 μg・h/L、CL/F: 3.06 L/hで、リオシグアトの有害事象として血圧低下、下痢と倦怠感を認めた。症例2は49歳女性、リオシグアト3 mg/dayを服用中。直接経口抗凝固薬と利尿剤を併用し、終日酸素2 L/minを吸入中。WHO機能分類はII度で平均肺動脈圧は34 mmHgであった。Cmax: 61.76 μg/L、AUC0-5: 249 μg・h/L、CL/F: 2.51 L/h。有害事象として血圧低下と頭痛を認めた。 [結論]上記のCTEPH患者2名においては、リオシグアトの薬物動態は日本人健康成人における報告値と近似していた。

  • 西内 栞, 斎藤 広海, 新村 貴博, 座間味 義人, 合田 光寛, 八木 健太, 相澤 風花, 濱野 裕章, 石澤 有紀, 石澤 啓介
    セッションID: 42_2-P-H-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】

    Doxorubicin (Dox)は累積投与量に依存して重篤な心筋症を発現することが知られている。Doxに関連した心筋症は、生命予後を著しく悪化させることが報告されているが、現在までに有効な対策は確立されておらず、予防薬の開発が喫緊の課題である。そこで、本研究では、大規模医療情報データベースを用いたドラッグリポジショニング研究によってDox誘発心筋症に対する予防薬を探索した。

    【方法】

    はじめに、遺伝子発現データベース(GEO) より得られたマイクロアレイデータの解析を行い、Dox投与後の心筋組織における発現変動遺伝子を抽出した。次に、創薬ツール(LINCS)を用いて、Doxによる遺伝子発現変動を打ち消す既存承認薬を探索した。さらに、有害事象自発報告データベース(FAERS)を解析し、LINCS解析によって抽出した薬剤がDox誘発心筋症の報告数に及ぼす影響を検討した。FAERS解析においても有効性が示唆された薬剤に関して、C57BL6マウスを用いてDox誘発心筋症モデルを作製し、心筋組織の炎症およびアポトーシス関連タンパク質のmRNA発現変化を評価した。

    【結果】

    マイクロアレイデータ解析より見出された発現変動遺伝子を用いて、LINCS解析を行った結果、既存承認薬6剤が候補薬として抽出された。FAERS解析によりこれらのうち3剤でDox誘発心筋症の報告オッズ比が減少する傾向が認められた。in vivoの検討において、Doxの投与によって上昇した心筋組織のIL-1b, IL-6およびBax/Bcl-2 mRNA発現比が予防薬候補の併用によって減少する傾向が認められた。

    【考察】

    異なる2種類のビッグデータ解析により抽出された3種類の既存承認薬は、臨床においてもDox誘発心筋症のリスクを軽減する薬剤となることが示唆される。Dox誘発心筋症モデルマウスを用いた検討結果から、抽出された予防薬候補は、Doxによる心筋組織の炎症反応を抑制することでアポトーシスを抑制する可能性が考えられる。

    【結論】

    本研究の結果から、創薬ツールおよび大規模医療情報データベース解析により見出された既存承認薬がDox誘発心筋症に対する新規予防薬となる可能性が示唆された。

  • 伊藤 智範, 石田 大, 森野 禎浩
    セッションID: 42_2-P-H-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    背景:近年高齢化に伴いPolypharmacyが注目されている。特に高齢者では、合併症の増加や加齢に伴う代謝機能低下が多剤併用の問題点として取り上げられている。また、脳卒中・循環器対策基本法が制定されて、我が国をあげてその課題に取り組む必要性が明確にされた。その中で、危険因子やそのほかの併存症が多岐にわたりやすい急性心筋梗塞(AMI)の予後には、Polypharmacyが影響する可能性も推定される。しかし、これまでPolypharmacyとAMIの予後の関連性に関する本邦での報告はほとんどない。目的:PolypharmacyがAMIの予後に影響するのかを明らかにすること。対象:2012年~2017年に当院へ入院した急性心筋梗塞症連続1140例。方法:後ろ向き観察研究で、対象をポリファーマシー群と非ポリファーマシー群に分けて、臨床的特徴とその予後をカプランマイヤーで比較する。さらに多変量解析により、ポリファーマシーの影響を検討する。結果:総会で提示予定。結語:AMIの予後とpolypharmacyとの関係をより詳細に調査するなどさらなる研究が必要である。

  • 曳野 圭子, 阿部 裕一, 阪下 和美, 大関 健志, 莚田 泰誠
    セッションID: 42_2-P-I-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】日本人小児集団における抗てんかん薬の処方パターンと、抗てんかん薬とアレルギー性副作用との関係を調査すること。

    【方法】国立成育医療研究センターの外来あるいは入院患者を対象とした後方視的コホート観察研究。2011年1月から2019年6月までに、抗てんかん薬で治療された患者を研究対象とした。診療録などのデータを解析し、抗てんかん薬の処方の推移と、抗てんかん薬に関連するアレルギー性副作用について検討した。

    【結果・考察】計14,230人の患者が対象となった。ジアゼパムが最も頻用されていた抗てんかん薬(74.8%)であり、次にフェノバルビタール(14.3%)、バルプロ酸(11.4%)、ホスフェニトイン(10.0%)、カルバマゼピン(7.3%)であった。ほとんどの患者は旧世代の抗てんかん薬で治療されていたが、新世代抗てんかん薬の処方の増加傾向が見られた。32人(0.22%)の患者が抗てんかん薬に関連するアレルギー性副作用を経験し、副作用に最も頻繁に関連する抗てんかん薬は1.4%の割合でカルバマゼピンであった。 3人の患者がスティーヴンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症を発症し、そのうち2人はカルバマゼピンによるものであった。副作用の被疑薬は、芳香族系抗てんかん薬(84.4%)または旧世代の抗てんかん薬(81.3%)が多くを占めていた。

    【結論】本研究は、日本の三次病院で抗てんかん薬とアレルギー性副作用の関係を評価した最初の研究である。ほとんどの患者は旧世代の抗てんかん薬を処方され、ほとんどの副作用イベントはこのカテゴリーの抗てんかん薬の投与に関連していた。副作用を発症するリスクの高い患者を特定する(研究の進みつつある旧世代の抗てんかん薬に対する薬理遺伝学的検査を行うなど)ことは、副作用を予防するために重要と考える。

  • 田崎 みなみ, 古郡 規雄, 久保 一利, 横山 沙安也, 篠崎 將貴, 菅原 典夫, 井上 義政, 下田 和孝
    セッションID: 42_2-P-I-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    背景: アリピプラゾールは、統合失調症治療の第一選択薬とされている。長期のアリピプラゾール投与は、ドーパミン作動薬としての活性に起因すると思われる低プロラクチン血症を引き起こす可能性がある。しかし、低プロラクチン血症と定常状態のアリピプラゾール濃度の関係性に関する情報はほとんどない。方法: 被験者は、アリピプラゾールで治療した統合失調症と診断された男性患者66人と女性患者177人である。アリピプラゾールおよびデヒドロアリピプラゾールの血漿濃度とプロラクチンの血漿濃度は、それぞれ高速液体クロマトグラフィーと酵素免疫測定法を用いて測定した。そして、5 ng/mL未満のプロラクチン濃度を低プロラクチン血症と定義した。結果: 男性患者66人中52人(79%)、女性患者177人中58人(33%)に低プロラクチン血症がみられた。男性の血漿プロラクチン濃度とアリピプラゾールの濃度 (rs=-0.447、p <0.001) および有効成分 (アリピプラゾールとデヒドロアリピプラゾール)濃度(rs = -0.429、p <0.001) の間に有意な逆相関があった。女性では、血漿プロラクチン濃度と血漿アリピプラゾールの濃度 (rs = -0.273、p <0.01) および血漿中の有効成分濃度 (rs = -0.275、p<0.01) との間にも有意な逆相関が見られた。結論: これらの発見は、低プロラクチン血症はアリピプラゾールで治療された統合失調症患者の血漿薬物濃度の濃さと関係していることを示している。

  • 西川 典子, 神山 大樹, 渡邉 和彦, 武井 淳子, 阿部 千尋, 大山 彦光, 波田野 琢, 服部 信孝
    セッションID: 42_2-P-I-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】パーキンソン病(PD)治療の中心はL-dopa製剤によるドパミン補充療法である。Levodopa(L-dopa)は生体内利用率が低く、半減期も短いため、L-dopa代謝酵素阻害剤を併用してより効率よく脳内へL-dopaを届ける工夫をする。2020年に末梢性COMT阻害薬としてOpicapone (OPC) が上市された。COMT阻害薬はL-dopaから3-O -methyldopa(3-OMD)への代謝を阻害することで、L-dopaのAUCが上昇し、代謝産物である3-OMDが低下することが期待される。しかし日本人のPD患者を対象としたOPC併用時のL-dopa薬物動態を検討した研究は少ない。そこで私たちはOPC併用時の合理的な処方設計を実施するために、L-dopa/DCI合剤にOPCを併用したときのL-dopa薬物動態の変化を検討した。【方法】当科入院中のPD患者5例(男性2例、女性3例)を対象とした。L-dopa/benserazide内服時のL-dopaとその代謝物の薬物動態を測定し、それぞれのAUCについてOPC 25mgを併用したときの薬物動態について検討した。L-dopaとその代謝物はHPLCを用いて測定した。【結果・考察】L-dopa/benserazide製剤を内服時にOPCを併用すると、L-dopaのAUCは1.3±0.3倍(mean±SD)に増加し、3-OMDのAUCは0.32±0.13倍に低下した。非日本人を対象とした薬物動態は、OPCを併用するとL-dopaのAUCは約1.5倍となることが示されているが、本研究ではL-dopaのAUCの増加率が既報告を下回る結果であった。COMT阻害剤へのresponderとnon-responderが混在している可能性があり、今後症例数を増やして検討する必要がある。【結論】日本人PD患者を対象としてL-dopa/benserazide製剤内服時にOPCを併用した際のL-dopaとその代謝物の薬物動態について検討した。OPC併用によりL-dopaのAUCは1.3倍に増加し、3-OMDは0.32倍に低下した。

  • 山 佳織, 野口 唯香, 西 瞳, 町田 麻依子, 本間 さと, 本間 研一, 三浦 淳
    セッションID: 42_2-P-I-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】睡眠障害は認知症の危険因子とされている。それらの共通の基盤として脳由来神経栄養因子(BDNF)の低下や酸化ストレスの亢進が報告されている。また、レム睡眠行動障害(RBD)はレビー小体型認知症(DLB)に先行して現れることが多い。レビー小体はリン酸化α-シヌクレイン(α-Syn)が凝集したものであるが、DLBに進展していないRBD患者におけるレビー小体や血漿中α-Synについては報告がない。そこで今回、RBDを含めた睡眠障害患者の血漿中α-Syn量、BDNF量及び酸化ストレス指標として8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-OHdG)量を測定した。

    【方法】対象は、睡眠障害患者20名(23~86歳)と非認知症高齢者29名(50~88歳)とした。睡眠障害群は、RBD患者(筋活動の低下を伴わないレム睡眠[RWA]のみを認めた患者を含む)(RBD群)8名と、睡眠ポリグラフ検査でRBD/RWAがないことが確認された睡眠障害患者(non RBD群)12名からなる。本研究は、北海道科学大学薬学部の研究倫理委員会より承認を得ている(16-02-010、19-01-010)。血漿中α-Syn量及びBDNF量はELISA法により、血漿中8-OHdG量は電気化学検出高速液体クロマトグラフィーにより測定した。

    【結果・考察】血漿中α-Syn量、BDNF量及び8-OHdG量は、非認知症高齢者群と比較して睡眠障害群において有意に高かった(p<0.01)。また、RBD群とnon RBD群に分けても、非認知症高齢者群と比較して有意に高かった(p<0.01)。一方、RBD群とnon RBD群の間に差は認められなかった。これらの結果から、血漿中α-SynやBDNFが睡眠障害の病態や予後に関連している可能性が示唆されたが、詳細な機序は不明である。一方、血漿中8-OHdG量から、睡眠障害患者全般において酸化ストレスが生じている可能性が考えられる。

    【結論】睡眠障害の病態にα-SynやBDNF、酸化ストレスが関与している可能性が示唆されたが、RBDに特異的な知見は得られなかった。本研究は少人数を対象とした検討に留まったため、今後はさらに対象人数を増やすとともに、重症度や治療内容、合併症との関連性や、経時的変化を含めて検討する必要がある。

  • 山田 光彦, 川島 義高, 山田 美佐, 古家 宏樹, 國石 洋, 立花 良之, 野田 隆政
    セッションID: 42_2-P-I-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【背景と目的】 我々は、げっ歯類を用いた行動薬理研究によって、筋萎縮性側索硬化症の治療薬であるRiluzoleが、抗不安様作用を有すること、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用である協調運動障害や学習・記憶障害を示さないことを報告してきた(Sugiyama et al., 2012)。また、Riluzoleは恐怖記憶の消去学習促進作用と再固定化阻害作用を併せ持つことを報告した(Akagi et al., 2018)。このように、Riluzoleはこれまでにない特徴を有する抗不安薬となる可能性がある。一方、精神疾患に対するRiluzole処方は国内外で適応外とされているが、その効果を検討した報告が近年散見されている。そこで本研究では、不安を主症状とする精神疾患に対するRiluzoleの効果についてのエビデンスを集積するためにシステマティックレビューを行った。

    【方法】 電子データベース(PubMed、PsycINFO、CINAHL、EMBASE)を用いて2021年4月までに発刊された論文を検索した。研究プロトコルは、PROSPEROに登録されている(CRD42017077873)。適格基準は、1) 研究対象者が、不安障害、パニック障害、強迫性障害(OCD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症に罹患した者である論文、2) Riluzoleを使用した介入研究とした。除外基準は、総説、解説、レビュー、学会抄録、症例報告とした。

    【結果と考察】 検索の結果、合計745報の論文がヒットした。最終的に、PTSDを対象にした試験が2報(RCT1報、そのサブグループ解析論文1報)、OCDを対象にした試験が6報(RCT3報、Open label試験2報、既存のOpen label試験とRCTのデータを統合して解析した論文1報)、全般性不安障害(GAD)を対象にした試験が4報(小規模のOpen label 試験4報)抽出された。パニック障害、恐怖症を対象にした試験は無かった。PTSDを対象にしたRCTではPTSD症状の改善は示されなかったが、そのサブグループ解析では症状軽減効果が報告されていた。OCDでは、成人を対象にしたRCTで症状軽減効果が示されていた。GADは、小規模のOpen label 試験だけであり、うち3報は生物学的指標の探索であった。

    【結論】 本システマティックレビューで得られたエビデンスは、今後の臨床試験実施に向けた体制構築と研究計画書立案のための必須の情報となる。

  • 宮上 紀之, 細川 裕子, 矢部 勇人
    セッションID: 42_2-P-I-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】パーキンソン病(PD)は患者数が増加している神経変性疾患であり、今後も高齢者人口の増加に伴いさらなる患者数の増加が予想される。新たな治療薬が上市されているが、治験の対象となる患者と実臨床において使用する患者との間には乖離がある。実際のPD患者に関する臨床的特徴について検討することは重要と考えられるが、本邦においてPD患者の疫学研究は十分には行われていない。本研究の目的は、愛媛県の地域中核病院におけるPD患者の臨床像について客観的に把握することである。【方法】2020年10月末の段階で済生会松山病院脳神経内科を定期受診しているPD患者を対象として、患者背景や治療内容に関して後方視的に検討した。【結果・考察】患者数は187名(男性83名、女性104名)、年齢は73.6±9.2歳(男性70.5±9.7歳、女性76.0±8.1歳)、罹病期間は8.9±5.9年であった。罹病期間が長くなるほどPDの重症度の指標であるHoehn&Yahr(HY)stageは上昇し(r=0.52、p<0.01)、また抗PD薬の薬剤数も増加した(r=0.42、p<0.01)。これは、病状の進行に伴い、処方数が多くなり複雑化しているものと考えられる。本研究では抗PD薬のみの集計であり、実際の内服錠数に関しては検討できていない。しかし、高齢の患者では、PD以外の疾患の合併に伴い多剤服用している場合が多く、服薬アドヒアランスを考慮し可能な限り最小限の服薬数で治療を行うことが望ましいと考えられる。一方、Lードパ換算用量(LEDD)は罹病期間とともに増加するが(r=0.42、p<0.01)、20年を超えると減少する傾向にあった。HY stageとLEDDの間には正の相関がみられたが、HY5はHY4よりLEDDは低値であった(p=0.01)。これは、HY stageが増加するにつれて必要な内服量が増加していくものの、活動量が低下するHY5 では必要量が減少した可能性、またはL-ドパ誘発性ジスキネジアや幻覚などの薬剤による副作用のため減量せざるを得えなかった可能性などが考えられる。【結論】本研究により、愛媛県の地域中核病院におけるPD患者の臨床像の一端を把握しえた。今後もさらなる検討が必要である。

  • 小倉 次郎, 小野 慎司, 杉浦 弘樹, 山内 碧, 佐藤 紀宏, 前川 正充, 眞野 成康, 山口 浩明
    セッションID: 42_2-P-I-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】Protein disulfide isomerase (PDI) は、タンパク質のジスルフィド結合の形成、異性化を担い、タンパク質の高次構造形成に重要な役割を果たしている。異常タンパク質の蓄積を特徴として持つアルツハイマー病などの神経変性疾患では、PDIのS-ニトロシル (SNO) 化が起こり、その発症に関わることが示唆されている。一方で、PDIのSNO化をもたらす原因や神経変性疾患の発症機構については、未だ不明な点が多い。本研究では、アルツハイマー病患者の脳内でグルタチオン濃度が低下することに着目し、グルタチオンの枯渇がPDIのSNO化に与える影響を検討した。

    【方法】実験にはグルタチオン合成酵素阻害剤buthionine sulfoximine (BSO) 添加後24時間経過したヒト神経芽腫由来SH-SY5Y細胞を用いた。細胞生存率はMTT assayにより、細胞内活性酸素種 (ROS) 量はDCHF-DAを用いて、細胞内グルタチオン量はEllman's assayにより測定した。また、PDIのSNO化はBiotin-switch assayにより、小胞体ストレスマーカーの活性化はWestern blottingにより評価した。

    【結果・考察】BSOを25, 50, 100 μMで添加し24時間後のSH-SY5Y細胞の細胞生存率に変化は見られなかった。一方、細胞内ROS量は、BSO添加群で濃度依存的に増加した。さらに、BSOを添加したときの細胞内グルタチオン量は、各濃度でコントロールと比較して70‐80%程度低下した。続いて、本条件により誘導されたグルタチオン枯渇により、SH-SY5Y細胞中のPDIにSNO化が生じるかを評価した。その結果、100 μMのBSOを添加し24時間後のSNO化PDI量は増加した。PDIのSNO化は小胞体ストレスマーカーであるIRE1αのリン酸化、PERKのリン酸化、ATF6の切断のうち、特にIRE1αのリン酸化を誘導することが明らかとなっている。そこで、PDIのSNO化が小胞体内に及ぼす影響を調べるために、IRE1αのリン酸化を評価したところ、100 μMのBSO添加後24時間でリン酸化IRE1αの増加が確認された。

    【結論】神経細胞内のグルタチオン合成阻害により細胞内グルタチオンが枯渇し、PDIのSNO化が誘導される。さらに、PDIのSNO化により小胞体ストレスが生じ、IRE1αのリン酸化が亢進する。本研究により、神経細胞内のグルタチオン量の低下がPDIのSNO化の一因となることが明らかとなり、神経変性疾患の発症メカニズムの解明、ひいては新たな治療法の開発につながることが期待される。

  • 原田 龍一, 工藤 幸司, 荒井 啓行, 田代 学, 古本 祥三, 岡村 信行, 谷内 一彦
    セッションID: 42_2-P-I-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】我々は反応性アストロサイトに高発現しているモノアミン酸化酵素B(MAO-B)を標的としたPETプローブ[18F]SMBT-1を開発した(Harada R et al., J Nucl Med. 2021)。PETプローブの特性を理解することは臨床応用し、PET画像を解釈していく上で重要である。本研究では[18F]SMBT-1の代謝特性およびアストロサイトのバイオマーカーになりうるかを明らかにすることを目的とした。【方法】 SMBT-1の光学異性体について代謝特性、結合性を評価した。また、ヒト剖検脳を用いて[18F]SMBT-1の結合性を評価し、アストロサイトのマーカーであるGFAPおよびMAO-Bの量との相関解析を実施した。【結果・考察】[18F]SMBT-1の主要代謝物は硫酸抱合体であり、S体の方がその反応性は高かった。硫酸転移酵素SULT1A1の選択的な阻害剤であるメフェナム酸においてマウスあるいはヒト肝cytosolによるSMBT-1の硫酸化は抑制され、組換え体のヒトSULT1A1についても同様にSMBT-1の硫酸化とメフェナム酸による阻害が確認された。SMBT-1の硫酸化はSULT1A1のSNPs(R213H)の影響はなかった。また、[18F]SMBT-1の結合量はMAO-BおよびGFAPの量と高い相関を示した。【結論】S体である[18F]SMBT-1はR体と比較して優れた結合特性、薬物動態特性、代謝特性を有しおり、[18F]SMBT-1はMAO-Bを発現する反応性アストロサイトを反映することが示された。

  • 高屋敷 奈々, 中村 和代, 柳澤 由紀, 山本 圭祐, 名倉 真理子, 杉上 香織, 北島 真利子, 平野 公美, 石田 紘基, 小野田 ...
    セッションID: 42_2-P-J-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】固形がん患者におけるデノスマブ投与時の腎機能と低カルシウム血症の関連性を明らかにすること。

    【方法】2017年4月から2019年3月に固形がん骨転移による骨病変に対してデノスマブを新規に投与した患者を対象とし、患者背景および臨床検査値、併用薬について診療録調査を行った。対象をクレアチニンクリアランス(Ccr)を用いて4群に分類した。低Ca血症はCTCAEv5.0を用いて評価した。腎機能別の低Ca血症発現率および血清Ca値変化率についてχ2検定およびF検定を用いて検討した。また、低Ca血症予防薬投与の有無による血清Ca値変化率についてT検定を用いて検討した。

    【結果】解析対象は590例であった(年齢68±12歳、男性321例)。腎機能分類は正常(Ccr≧80)176例、 軽度腎障害(50≦Ccr<80)252例、中等度腎障害(30≦Ccr<50)127例、 重度腎障害(Ccr<30)35例であった。低Ca血症予防薬は94%で併用されていた。腎機能分類ごとの低Ca血症発現率(%)は正常群32.4%、軽度腎障害群39.3%、中等度腎障害群31.5%、重度腎障害群62.9%であり、正常群と比較して重度腎障害群で有意に発症率が高かった(p =0.001)。腎機能分類ごとの血清Ca値変化率(%)は正常群-5.5±7.1%、軽度腎障害群-7.2±8.5%(p =0.013)、中等度腎障害群 -9.5±10.8%(p<0.001)、重度腎障害群 -19.9±14.8% (p<0.001)であり、正常群と比較して各群ともに有意に低下を認めた。低Ca血症予防薬の投与がない場合、血清Ca値の変化率は腎機能分類に関わらず予防薬投与群より大きくなり、特に中等度で有意であった(p =0.009)。

    【結論】軽度および中等度腎障害患者では血清Ca値は低下するものの、有害事象と判断される低Ca血症の発症頻度は腎機能正常患者と差が認められなかった。一方、重度腎障害患者においては、有害事象と判断すべき低Ca血症の発症率が高かった。腎機能によらずデノスマブの投与時には血清Ca値をモニタリングすべきであり、特に重度腎障害患者においては高率に低Ca血症を発症することを念頭に置くべきである。また、低Ca血症予防薬の有無による血清Ca値の変化率の差は、サンプル数が少なく有意差は中等度でのみしかみられなかったが、腎機能障害が重度になるほど差が広がる傾向がみられた。デノスマブ導入前に高Ca血症のため予防薬を併用していない症例であっても、頻回なモニタリングを実施し併用を検討する余地がある。

  • 小林 暉英, 大西 絵梨, 有持 潤子, 池村 健治, 山本 智也, 門脇 裕子, 奥田 真弘
    セッションID: 42_2-P-J-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】トレーシングレポート(TR)は、薬局薬剤師が患者から得た情報のうち、緊急性が低いものの、処方医に伝える必要があると薬局薬剤師が判断した場合に、処方医に情報伝達を行う文書を指し、処方医と薬剤師が情報共有を図ることを目的とする。大阪大学医学部附属病院(当院)では、2020年4月よりTRの運用を開始した。今回、受理したTRのうち副作用に関連したTRの内容を調査し、TRに対する病院薬剤師の介入効果について精査した。【方法】2020年4月1日から12月31日まで当院で受理したTR162件のうち副作用に関連した39件のTRを対象とした。副作用報告のうち、病院薬剤師がTR受理時に緊急性が高いと判断して処方医に電話連絡したTR(H群)(22件)と緊急性が低いと判断してカルテに記載などで対応を促したTR(L群)(17件)に分類し、副作用報告を受けた処方医の対応及び副作用情報の入手の起点について調査した。【結果・考察】H群(22件)では、薬剤中止(5件)・用法用量変更(1件)・薬局及び患者に受診勧奨などの対応を指示(8件)の計14件(64%)で副作用報告に対して速やかに処方医の対応が認められたが、L群(17件)では、薬剤中止(1件)・用法用量変更(1件)・薬局及び患者に対応を指示(1件)の計3件(18%)と処方医の対応割合は有意に低かった(P=0.003)。有意差がみられた要因としては、病院薬剤師による処方医への伝達方法の違いが影響していると考えられる。以上の結果から、受理したTRに対して、病院薬剤師が緊急性に応じて処方医に情報提供することにより、処方医が遅滞なく情報を入手することで、対応割合が高かったと考えられる。また、H群ではL群と比較し、患者から直接、薬局薬剤師に副作用の連絡・相談をした割合が高かった(64% vs 23%、P=0.054%)。つまり、薬局薬剤師が適切な服薬指導を実施することで、患者自身が薬識を持ち、また、薬局薬剤師と患者間での良好な関係性が副作用の早期発見に繋がった可能性が考えられる。【結論】受信したTRの緊急性を病院薬剤師が適切に判断して処方医に対応を促したことで服用指示の修正や用法用量の適正化、受診勧奨に繋がった可能性が示唆された。また、TRの活用は、薬局薬剤師・病院薬剤師・処方医間の情報共有に有用と考えられる。

  • 加藤 梨那, 小原 道子, 吉田 智, 松川 泰治
    セッションID: 42_2-P-J-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【背景】新型コロナウイルス感染拡大に伴い、「マスク着用」「手洗い」「口腔ケア」などの衛生習慣が日常となった。特にマスク着用は飛沫感染や接触感染の予防に大変有効な手段であり、一日の大半をマスクとともに過ごす生活が当面は続くと考えられる。

    一方で、長時間のマスク着用による負の影響も明らかになりつつある。例えば、マスク着用下では無意識に口が開き、口呼吸となりがちである。そのため、口腔内の乾燥や唾液分泌量の減少、口腔内細菌叢の変化が生じる。また、長期のマスク着用により口まわりの筋肉を動かす機会が減ったことで、咀嚼力の低下が心配される。このように、マスク着用は口腔衛生環境や口腔機能に深刻な影響をもたらすものと考えられるが、深く追求した報告はない。

    口腔衛生環境改善に着目したアロマ成分複合体DOMAC(ドゥーマック)は、デカン酸や低分子化ライチ由来ポリフェノール、シナモンパウダー、シトラール、サケ由来プロタミン分解物など複数の機能性成分を含む食品原料である。In vitroの系においてCandida albicansの菌糸形発育抑制効果や微生物に対する抗菌効果が報告されている。また、DOMAC含有食品の摂取は口臭や口腔内総菌数、舌苔付着程度の低減効果を示すことが分かっており、マスク着用による口腔衛生環境への悪影響を抑える効果が期待される。

    【目的】マスク着用時と非着用時の口腔衛生環境を比較するとともに、マスク着用時にDOMAC含有食品の摂取することで口腔衛生環境にどのような影響をもたらすか検討した。

    【方法】健常成人を対象に2つの試験を実施した。試験1:指定の不織布マスクを2時間着用し、マスク着用前後の口臭、口腔内総菌数、口腔湿潤度を測定した。試験2:測定の7日前から測定当日までの計8日間、DOMAC含有タブレットを1日1粒摂取した。測定当日は試験1と同様の方法で試験を進めた。

    【結論】本研究は継続してデータ取得を進めており、2021年12月までにすべてのデータが出そろう予定である。本発表では、マスク着用による口腔衛生環境への影響を明らかにするとともに、その影響を抑える手段としてのDOMAC含有食品の可能性について議論したい。

  • 中山 裕一, 飯塚 浩光, 加藤 敏明, 臼杵 憲祐
    セッションID: 42_2-P-J-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】ダサチニブは慢性骨髄性白血病(CML),フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph-ALL)のFront/2nd-line治療薬として用いられるが,投与中の急性腎障害(AKI)を経験する.また,ダサチニブ開始1-6か月後に末梢血リンパ球数が上昇し,胸水/腸炎/肺高血圧症(PH)といった有害事象との関連性が多く報告されている.しかし,AKIと胸水/腸炎/PHとの関連性,AKIと末梢血リンパ球数,大顆粒リンパ球(LGL)との関連は未検討であり,今回,ダサチニブ投与中のAKI発症要因としてそれらが関連するか後ろ向きに検討した.

    【方法】対象は2008-19年の間にダサチニブが開始され,6か月以上投与された症例とし,AKIはダサチニブ開始28日以降に血清クレアチニン値が開始前より0.3mg/dL以上の上昇と定義とした.患者背景,併用薬,既往歴,血液検査値,AKI発症前後の末梢血リンパ球数の推移,胸水/腸炎/PAHの発症の有無を調査した.また,AKI発症の有無で2群に分類し,各項目を単変量解析で評価後,AKI発症を目的変数とする多変量ロジスティック解析を実施し有意項目ついてはROC解析にてcut-off値を算出した.有意水準を5%未満とし,事前に倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:19-380).

    【結果】解析対象は36例,性別(M/F:25/11),年齢47(29-86)[中央値(範囲)]才,診断名;CML33例,ALL3例であり,AKIは7例(19%),胸水/腸炎/PHは22例で認めた(61%).AKI群(n=7)と非AKI群(n=29)の二群間の検討では,年齢[AKI群/非AKI群:70(40-86)/45(29-82)才],高血圧の既往[AKI群/非AKI群:4/2]、開始前のeGFR値[AKI群/非AKI群:61(37-83))/77(55-103)mL/min/1.73],胸水/腸炎/PHの発症[AKI群/非AKI群:7/15]の4項目において有意差を認めた.また,胸水/腸炎/PAHを発症した22例において,胸水/腸炎/PHの発症までの日は[AKI群/非AKI群:55(15-791)日/404(15-2491)日(p=0.047)]とAKI群で有意に短かった。一方、多変量解析では年齢が独立した危険因子とされ(オッズ比;1.10,95%信頼区間;1.02-1.20,p=0.018),ROC解析でのcut-off値は61歳(感度0.86,特異度0.86)を示した.AKI発症前後の末梢血リンパ球数は有意な変化を認めず,AKI発症例でLGLを測定できた3例では2375/μL,3235/μL,1577/μLといずれも高値を示した.

    【考察】ダサチニブ投与中のAKIの発症は,先行する胸水/腸炎/PHの発症に関連する可能性と,60歳以上の患者では投与中のAKI発症のリスクになることが考えられた.

  • 渡部 智文, 金子 未歩, 今 理紗子, 吉野 真花奈, 横山 貴俊, 田中 李歩, 高山 直也, 酒井 寛泰, 亀井 淳三, 五十嵐 信智
    セッションID: 42_2-P-J-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】肺癌や膵臓癌に用いられるエルロチニブは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の一つであり、強力な抗がん活性を有する。その一方で、エルロチニブは皮膚乾燥をはじめとした皮膚に関連する副作用の発現頻度が高く、使用に際して注意を要する。皮膚乾燥は直接生命に影響を及ぼさないため、その治療や対策は軽視されがちであるが、皮膚乾燥が原因でエルロチニブの投与が中止となる場合もあるなど、看過できない。本研究では、エルロチニブによる皮膚乾燥メカニズムを明らかにする目的で、マウスおよび細胞を用いた基礎研究を実施した。

    【方法】抗がん活性を示す投与量のエルロチニブをマウスに14日間連日経口投与し、皮膚角質水分量を測定した。さらに、皮膚における保湿機能調節関連遺伝子[セラミド合成酵素、セラミド分解酵素、ヒアルロン酸合成酵素、ヒアルロン酸分解酵素、コラーゲン、アクアポリン3(AQP3)]の発現量を測定するとともに、リン酸化EGFRおよびリン酸化ERKの発現量を解析した。また、表皮角化細胞株であるHaCaT細胞に、細胞生存率に影響を及ぼさない濃度のエルロチニブを添加し、AQP3、リン酸化EGFRおよびリン酸化ERKの発現量を解析した。

    【結果・考察】エルロチニブ投与群の皮膚角質水分量は、コントロール群と比べて有意に低下していた。さらに、皮膚保湿機能調節関連遺伝子の発現量を調べたところ、エルロチニブ投与群では、水チャネルであるAQP3のみが、コントロール群に比べて有意に低下していることがわかった。また、HaCaT細胞にエルロチニブを添加したところ、AQP3のmRNA発現量およびタンパク質発現量がいずれも低下していた。加えて、HaCaT細胞およびマウス皮膚のいずれにおいても、エルロチニブ処置により、リン酸化EGFRおよびリン酸化ERKの発現量が有意に低下していた。これまで、皮膚におけるAQP3は血管側から角質側への水輸送に関与しており、AQP3ノックアウトマウスでは角質水分量が低下することが報告されている。したがって、エルロチニブによる皮膚乾燥は、AQP3の発現低下により、血管側から角質側への水の移動が制限された結果、引き起こされている可能性が考えられた。また、このAQP3の低下は、エルロチニブによるEGFR活性阻害を介したERKの発現抑制に起因している可能性が示唆された。

    【結論】エルロチニブによる皮膚乾燥に対しては、皮膚におけるAQP3の発現を増加させる物質が有効であると考えられた。

  • 梅田 文人, 伊藤 実, 竹内 真理, 吉田 和子, 潮木 雅代, 笠松 佳芳里, 金原 敦子, 塚本 千佳子
    セッションID: 42_2-P-J-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】昨今の抗がん剤治療に関して、外来での実施も当たり前な時代になってきており、保険薬局においても抗がん剤の取り扱い数が非常に増えてきている。令和2年の診療報酬改定により外来がん化学療法の質向上の為の総合的な取り組みの一つとして保険薬局側には「特定薬剤管理指導加算2」が新設された。レジメンを確認、把握し、抗がん剤及び制吐剤等の支持療法に係る薬剤に関して、電話等により服薬状況、副作用の有無等について患者又はその家族に確認、その情報を医療機関に文書にて提供する事が必要とされている。当薬局でもある条件を満たした抗がん剤使用患者に対して初回投薬後ある一定期間後に電話による状況確認の実施の了承を得て実施している。診察から診察までの間の状況を医療機関へのフィードバックをする事は、その間の患者状況の把握が出来るため、その後の診療、治療においても有効的なものであるのではないかと考えて調査を実施した。【方法】報告書を提出した患者に関して、その後の治療経過などについて来局時に確認した。【結果・考察】該当患者のうち報告書の提出まで至ったケースが21例、重篤な副作用の発見や緊急受診などに至ったケースは無かったものの、次回受診時に報告書を基に医師もしくは病院の担当薬剤師からの面談等がありその後の状況の詳細の聞き取りに繋がり、支持療法薬の追加に至ったケースが2件、また副作用の状況から近医への受診に至ったケースが1件あった。変更などは無いものの不安を話してくる方、それにより落ちついた安心したと声をかけていただける方等、精神的なケアに関しても対応できたケースがあった。【結論】いくら重篤な副作用等が軽減されてきて外来で抗がん剤治療が出来るようになったからと言っても、やはり患者自身はみなそれぞれに治療に対して不安を抱えている。また副作用に関してすぐに病院や薬局などに相談する事が辛くて出来ない場合や、気を使って躊躇する方もいる。そんな時に薬局側から電話をかける事は、患者の負担が減り比較的細かな副作用や抱えている不安などを話していただけるケースがある。今後はもっと範囲を広げて積極的に薬剤投与後の状況を把握する事でより質の高い医療の提供につなげていきたい。

  • 柴田 海斗, 内藤 隆文, 細川 誠二, 前川 真人, 川上 純一
    セッションID: 42_2-P-K-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
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    【目的】抗ヒト上皮成長因子受容体抗体薬のセツキシマブは、頭頸部がんなどに対して優れた抗腫瘍効果を示す。がん悪液質の病態では、炎症性サイトカインの活性化によってタンパク質の異化が亢進しており、セツキシマブの消失はその影響を受ける可能性がある。また、がん悪液質は骨格筋量の減少や精神神経症状を引き起こすことで、セツキシマブに対する忍容性を低下させる可能性がある。本研究では、頭頸部がん患者を対象に悪液質の進行度とその関連マーカーを評価し、血清中セツキシマブ濃度及び臨床症状との関連性について調査した。

    【方法】対象は頭頸部がんに対し、セツキシマブの週1回の静脈内投与を受けている患者49名とした。セツキシマブの投与4回目以降における投与直前に採血し、血清中セツキシマブ、アルブミン、C反応性蛋白及びインターロイキン6(IL-6)濃度を測定した。血清中アルブミン及びC反応性蛋白濃度からGlasgow Prognostic Score(GPS)を算出し、悪液質の進行度を評価した。また、CTCAE ver. 4.0を用いて、セツキシマブ投与中における全身倦怠感及びせん妄の有無とその重症度を評価した。

    【結果・考察】血清中セツキシマブ濃度の四分位範囲は38.7-80.4 μg/mLであり、大きな個人差が確認された。悪液質が進行したGPS 2の患者における血清中セツキシマブ濃度は、GPS 0の患者に比べて有意に低い値を示した。また、GPSの増加とともに、血清中IL-6濃度の上昇が認められ、血清中セツキシマブ濃度はIL-6濃度と負の相関を示し、アルブミン濃度と正の相関を示した。Grade 2以上の全身倦怠感を有する患者では、Grade 1以下の患者に比べて、血清中IL-6濃度が有意に高い値を示し、アルブミン濃度が有意に低い値を示した。一方、血清中セツキシマブ濃度と倦怠感の発現や重症度との間に関連性は認められなかった。また、せん妄において、その発現と血清中IL-6やセツキシマブ濃度とは関連しなかった。

    【結論】がん悪液質の進行とそれに関連する炎症性サイトカイン及び血清アルブミンの挙動は、血清中セツキシマブ濃度の低下に関連していた。また、悪液質の病態における全身性の炎症は、セツキシマブによる倦怠感の重症化に寄与していた。

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