猫の左室流出路のカラードプラによるモザイク所見は、肥大型心筋症に由来する左室流出路障害ならびに僧帽弁弁尖、腱索および乳頭筋の変形や肥大などが原因とされる。その一つに僧帽弁前尖の僧帽弁収縮期前方運動 (SAM) による左室流出路の動的障害があるが、SAM の発生機序は明確にされていない。今回、初診時の左室拡張末期の心筋壁は6 mm 以下で心筋肥厚は認められなかったが、左室流出路にモザイク所見を認め、その後第299 病日以降には乳頭筋肥大の顕在化そして第359 病日には心筋肥大を認めた猫に遭遇したので、その推移および経過の概要を報告する。
体外循環離脱後に生じる術後肺高血圧は再灌流後肺障害により発生する。これは肺血流量の低下に伴う虚血性障害と体外循環によって活性化される好中球と補体系による全身性炎症反応により惹起される。今回、我々は術前に軽度の肺高血圧を併発していた犬の僧帽弁修復術を実施し、術後に肺高血圧症の重症化を認めた症例を経験した。第3病日に呼吸数の増加と胸部X 線検査で肺野の不透過性の亢進を認めた。心臓エコー検査では顕著な三尖弁逆流と、重度の肺高血圧症を認めた。シルデナフィル、フロセミド、ピモベンダンの使用により呼吸状態が改善し、退院となったが、その後シルデナフィルとフロセミドの休薬に伴い、呼吸状態の悪化が認められたために、再開し経過観察中である。人でも開心術後肺高血圧症にシルデナフィルは有用であるとの報告がある。本症例も術前に比較して顕著な肺高血圧症の増悪を認めたが、残存した僧帽弁逆流が軽度であったために、人と同様に肺再灌流による内皮細胞障害や低酸素による肺血管攣縮、麻酔覚醒後の交感神経興奮による肺血管収縮などによる肺高血圧症が発生したものと判断した。本症例においては、術後に発症した肺高血圧症に対してはシルデナフィルが有効であったと考えられた。
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