RNA干渉(RNA interference: RNAi)は,二本鎖RNAによって引き起こされる転写後遺伝子サイレンシング機構で,それを応用した発現抑制実験が近年盛んに行われている.RNAiを利用した発現抑制実験は,ターゲットmRNAの配列と,その相補鎖からなる二本鎖RNAを用いるが,長さ約数百bpの二本鎖RNA(double-stranded RNA: dsRNA),あるいは20bp前後の低分子干渉RNA(small interfering RNA: siRNA)のいずれかを選択する.とくに,軟体動物殻体形成遺伝子でのRNA干渉実験では,その結果が殻体の形態に直接反映されることから,解析が容易であり,今後,軟体動物殻体形成過程の解析に有効であると思われる.
本報告では,予察的にsiRNAを注入した生体での殻体形成の検索を行った.siRNAの殻体形成への影響については,殻体再生実験における再生殻体について確認した.その結果,mRNAの発現量の減少が確認できたこと,および再生殻形成不全が認められたことなどから,アコヤガイ殻体形成遺伝子について,siRNAによるRNA抑制効果が確認できた.本実験に用いたPrismalin-14およびShematrin-2は,従来より共に稜柱層形成への関与が示唆されていたが,本研究から,それを裏付ける結果を得ることができた.
このような軟体動物殻体形成遺伝子の発現抑制実験へのsiRNAの適用は,その特異性の点からdsRNAの使用が適さないものに対して非常に有用であり,本研究は,軟体動物殻体形成機構解明への一つの新しい手段を示したものと考える.
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