化石研究会会誌
Online ISSN : 2759-159X
Print ISSN : 0387-1924
43 巻, 2 号
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特集「バイオロジカル ミネラル」
巻頭言
特集・総説
特集・講演録
  • 筧 光夫
    2011 年43 巻2 号 p. 80-90
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー

    今回,我々が提唱してきた結晶形成機構をもとに,有害イオン曝露およびエストロゲン欠乏によるエナメル質の結晶構造欠陥の形成過程について報告する.また,軟組織に形成される異所性石灰化機構を理解するために,歯石や石灰化を伴った動脈硬化試料から得られた観察結果をもとに,結晶の微細構造の比較観察することの重要性について述べる.

  • 野川 ちひろ, 西田 卓馬, 大原 勝, 馬場 博子, 日高 祐輔, 佐俣 哲郎
    2011 年43 巻2 号 p. 91-98
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー

    RNA干渉(RNA interference: RNAi)は,二本鎖RNAによって引き起こされる転写後遺伝子サイレンシング機構で,それを応用した発現抑制実験が近年盛んに行われている.RNAiを利用した発現抑制実験は,ターゲットmRNAの配列と,その相補鎖からなる二本鎖RNAを用いるが,長さ約数百bpの二本鎖RNA(double-stranded RNA: dsRNA),あるいは20bp前後の低分子干渉RNA(small interfering RNA: siRNA)のいずれかを選択する.とくに,軟体動物殻体形成遺伝子でのRNA干渉実験では,その結果が殻体の形態に直接反映されることから,解析が容易であり,今後,軟体動物殻体形成過程の解析に有効であると思われる.

    本報告では,予察的にsiRNAを注入した生体での殻体形成の検索を行った.siRNAの殻体形成への影響については,殻体再生実験における再生殻体について確認した.その結果,mRNAの発現量の減少が確認できたこと,および再生殻形成不全が認められたことなどから,アコヤガイ殻体形成遺伝子について,siRNAによるRNA抑制効果が確認できた.本実験に用いたPrismalin-14およびShematrin-2は,従来より共に稜柱層形成への関与が示唆されていたが,本研究から,それを裏付ける結果を得ることができた.

    このような軟体動物殻体形成遺伝子の発現抑制実験へのsiRNAの適用は,その特異性の点からdsRNAの使用が適さないものに対して非常に有用であり,本研究は,軟体動物殻体形成機構解明への一つの新しい手段を示したものと考える.

  • 笹川 一郎
    2011 年43 巻2 号 p. 99-110
    発行日: 2011/01/31
    公開日: 2025/04/30
    ジャーナル フリー

    魚類を例に,歯の結晶形成様式とそこで細胞が果たす役割について検討した.サメ・エイ類では,最初に象牙芽細胞由来のチューブ状小胞の中でエナメロイドの結晶が形成される.さらに小胞中で結晶成長が起こり,周囲にあるコラーゲン線維に添う結晶集積は見られない.後半の結晶成長には,主に歯胚上皮細胞が関与する.一方,硬骨魚類のエナメロイド形成では,象牙芽細胞由来の基質小胞が多数出現し,基質小胞で結晶様構造の形成が起こる.基質小胞に由来すると思われる高電子密度の線維状構造が出現することもある.次いで,プロテオグリカンと考えられる物質が存在する部位で,コラーゲン線維に添う結晶沈着が主要な石灰化として進行する.後半は歯胚上皮細胞により,有機基質は分解・脱却され,結晶成長が促される.消失したコラーゲン線維の配列は結晶配列として維持される.細胞に由来する小胞構造がエナメロイドの主たる結晶形成を担うのは,サメ・エイ類のチューブ状小胞の段階と考えられる.硬骨魚類では最初,結晶様構造は基質小胞,あるいは線維状構造に出現するが,主たる石灰化はコラーゲン線維への結晶沈着であると考えられる.コラーゲン線維への結晶沈着はサメ・エイ類の象牙質から見られ,長い歴史を持つ石灰化様式である.象牙芽細胞は,小胞構造やコラーゲン線維を介して結晶形成を制御し,結晶配列にも関与する.一方,歯胚上皮細胞は,有機基質を分解・脱却し,物質輸送を行うことで結晶周囲の微小環境を制御し,主に結晶成長に関与するといえる.この硬骨魚類の歯胚上皮細胞の機能は哺乳類のエナメル質形成とよく似ているが,それぞれ独自に発達したと考えられる.

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