口腔病学会雑誌
Online ISSN : 1884-5185
Print ISSN : 0300-9149
86 巻, 3 号
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原著
  • チョー ティン, 五十嵐 公, 川渕 孝一
    2019 年 86 巻 3 号 p. 53-70
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/08/03
    ジャーナル フリー

     ビンロウ (檳榔) の実を嚙む行動はミャンマーを含む東南アジアで文化に根差す広範な習慣だが, 口腔癌などの重大な疾患の原因とされる。また同行動に対する肯定的な信念は同習慣を助長し, その健康障害に関する正しい知識は同習慣を抑制すると思われる。さらに健康関連の信念や知識は, 社会経済的地位ごとに差があることも知られている。そこで本研究では, 同行動に関する信念, 知識および社会経済的地位の関係を解明することを目的とした。2017年8~11月に, ミャンマーのバゴー地域に住む25~64歳の1,492名の成人を対象として, 現在の同行動の有無, ビンロウ習慣に関する信念, 健康障害に関する知識, および富裕度 (社会経済的地位の代表) について質問紙調査を行った。統計解析はビンロウ習慣の有無を目的変数, 肯定的信念, 正確な知識, 富裕度, および当該3変数の相互作用を主要な説明変数とするロジスティック回帰分析である。その結果, 肯定的信念は特に貧困層と富裕層において有意な正の効果を示した。他方, 正確な知識は中間層の一部では有意な負の効果を, 貧困層と富裕層では信念および知識の水準に応じて有意な正の効果を示した。これは, 正確な知識の啓発は中間層の一部ではビンロウ習慣の抑制に効果的だが, 貧困層と富裕層の一部では逆効果となることを意味している。健康教育は社会経済的地位を含めた対象集団への深い理解に基づく必要があることが示唆される。

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