歯周疾患患者20名 (男7名, 女13名) から歯肉切除手術により得た歯肉組織片および術前に採取した血液について, それらに含まれる各種免疫グロブリン (IgG, IgM, IgA) を定量し, あわせて臨床所見と比較した。
採取した歯肉組織片を厚さ6μに薄切し, 凍結乾燥した。これに, 乾燥重量20mgあたり1m1の0.01Mリン酸緩衝生理食塩水 (pH7.2) を加え, 凍結融解および超音波処理を行った後, 4℃, 8, 000r.p.mで30分間遠沈した。この上清 (Fraction I) と血清に含まれるIgG, IgM, IgAおよびアルブミンを, Single Radial Immunodiffusion法で定量した。前述の操作で得た沈渣を, 0.01Mリン酸緩衝生理食塩水 (pH7.2) に懸濁し, 4℃, 8, 000r.p.m.で30分間遠沈した。この操作を上清の吸光度 (OD
280) が, 0.050以下になるまでくりかえした (最終上清をFraction IIとした) 。さらに, この沈渣を純水で十分洗浄した後, 凍結乾燥した。これを, 乾燥重量20mgあたり1m1の0.2Nグリシン塩酸緩衝液 (pH2.4) で処理した後, 4℃, 8, 000r.p.m.で30分間遠沈した。この上清を1M K
2HPO
4で中和し, さらに0.01Mリン酸緩衝生理食塩水 (pH7.2) で透析後, 容量を調整した (Fraction III) 。このFraction IIIとFraction IIに含まれるIgG, IgMおよびIgAを, Enzyme linked Immunozymoassay法で定量した。
その結果, 血清中の平均値は, IgG: 1873mg/dl, IgM: 119mg/dl, IgA: 379mg/dl, アルブミン: 4860mg/dlであった。また, Fraction I中の平均値は, IgG: 15.5mg/lg dry weight, IgA: 3.1mg/lg dry weight, アルブミン: 26mg/lg dry weightであり, Fraction III中では, IgG: 0.26mg/lg dry weightであった。なお, Fraction I中のIgM, Fraction II中のIgG, IgM, IgAおよびFractionIII中のIgM, IgAは, いずれも測定系の定量下限以下の為, 測定不能であった。
Fraction I中のIgG/アルブミン比, IgA/アルブミン比は, いずれも血清中の同比より高値であった。この結果は, 病的ヒト歯肉組織中に, 血清由来の, あるいは歯肉組織中で産生されたIgG, IgAが存在することを示すものと思われた。また, Fraction II中のIgGがELIZA法の定量下限以下であったことから, Fraction III中のIgGは, 組織に固着した抗原物質あるいは不溶性の抗原抗体複合物から解離された抗体ではないかと考えられた。
Fraction I中のIgG, IgA量, Fraction III中のIgG量, および歯肉組織から抽出した全IgG量 (Fraction I中のIgG量+Fraction III中のIgG量) と, 臨床所見との間には, いずれも有意な相関はみられなかった。また, 血清中のIgG, IgM, IgA量と, 臨床所見との間にも有意な相関はみられなかった。
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