本研究の目的は, 障害児を育てる家族の課題を明らかにし, その要因に対する新たな仮説を生成することであった。そのため, 3名の母親に対して構造化面接を実施し, 母親が家族, 主には夫婦関係, 父子関係についてどのように思っているかを調べた。その結果, 「夫婦関係」ではポジティブなことが語られた。一方, 「父子関係」ではネガティブなことが多く語られた。「母子関係」が深まると, それが「父子関係」を疎遠にする要因の一つになると考えられた。次に, フォーカスグループを実施し, 母親が「夫婦関係」「父子関係」「母子関係」についてどのように思っているかを調べた。その結果, 父親と子どもとがともに過ごす時間は乏しく, 「父子関係」が形成され難いことが示された。障害児を育てる家族の改善すべき課題として以下の3つが指摘された。第一に, 父親の機微のなさ, すなわち敏感性の弱さから生じる父子関係の問題と夫婦関係の軋轢, 第二に, ジェンダーによって生じる父親が子どもと関わる時間的制約, 第三に, 父親と母親の発達の時間的ズレである。こうした課題があることにより, 夫婦間で子どものことを共有することが難しくなるという仮説が生成された。
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