市立大町山岳博物館研究紀要
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Print ISSN : 2423-9305
最新号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 鈴木 啓助
    2022 年 7 巻 p. 1-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    気象庁による地域気象観測システム(AMeDAS)が稼働するまでは,気象台や測候所などの気象官署以外にも区内観測所と呼ばれる地点で気象観測がなされていた.区内観測所では気象庁により委託された個人や役場などが人力で観測を行っていた.区内観測所の総数は現在のアメダスの観測地点数よりも多かったが,観測データの精度の均一性や報告速度などに限界があったために,現在のアメダスへと更新されていった.大町市を含む大北地域は豪雪地域として知られていることから,古くから積雪深の観測が行われている.大北地域をはじめとする区内観測所における気象観測記録は,手書きの原簿として保管されている.それを画像データとして収集し,画像からデータを読みとり数値データとして入力しなおし,大北地域におけるアメダス観測以前の積雪深の変動を解析した.大北地域で20年を超えて積雪深の観測が行われた5地点については,それぞれ観測期間が異なるが,いずれの地点でも年最大積雪深の増減傾向は認められない.大町における多雪年の冬期気温は低く,寡雪年の冬期気温は高い.大町における年最大積雪深の変動は,南小谷の年最大積雪深の変動とは相関が良くないが,北城と池田における年最大積雪深との相関は比較的良好である.
  • 栗林 勇太, 石黒 直隆
    2022 年 7 巻 p. 9-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    市立大町山岳博物館に1982(昭和57)年に寄贈されたイヌ科動物の上顎吻端部について記述する.それは「ヤマイヌのキバ」という名称で登録され,現在の長野県大町市周辺で江戸末期から明治初期に採取された後,魔除けとして根付の状態で使用されたものとみられる.この度得られたミトコンドリアDNA配列に基づく分子系統解析の結果をもとに,大町市周辺(旧北安曇郡内)の郷土史などの記録を概観することで,この地域におけるヤマイヌと呼ばれた生き物の実情について考察した.
  • 日本産草本植物の生活史研究プロジェクト報告第13報
    千葉 悟志, 四方 圭一郎, 有川 美保子, 宮澤 陽美, 板橋 和子
    2022 年 7 巻 p. 17-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    コオニユリの種子は風散布で,散布後の発芽は翌春に見られ,気温により発芽が抑制されていることが考えられた.子葉は先端部だけ吸収器として種皮内にあるネギ型で, 2 年目になると葉のみからなる個体および地上茎を有する個体が現われ,成長の早い個体では 3 年目に開花に至ることが明らかになった.この間,直立根茎は認められず子球(木子)が形成されることはなく,子球の形成はより成熟した個体において形成されるものと推測された.また,鱗茎の分球は鱗茎葉の増加の際に隙間ができ,その後,さらに鱗茎葉が増えることで生じることが明らかになった. 花は茎の最下位に位置するつぼみから生じ,開花は暗期から生じていたが葯が裂開する時間帯は明期で,これらは花粉媒介昆虫であるアゲハチョウ類の行動に合わせたものと推測された.撮影した画像をもとにアゲハチョウ類の同定を行ったところ,当地域ではキアゲハおよびミヤマカラスアゲハの 2 種が認められ,花粉を媒介する上で重要な役割を果たしていることが示唆された.
  • 日本産草本植物の生活史研究プロジェクト報告第14報
    千葉 悟志, 尾関 雅章, 宮澤 陽美, 板橋 和子
    2022 年 7 巻 p. 25-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    リュウキンカの発芽は,播種した翌春に生じ,成長の早い個体では 2 年目に開花が生じた. 1 個花あたりの開花は約 11 日であった.開花期間中の天候は安定せず,また気温の変動も激しかったが,花が萎凋することはなく,降雨および降雪により雄しべが濡れても未裂の葯が晴天または曇天時に裂開した.花は同形花型不和合性で受精するには花粉の媒介が必要で,送受粉はハエ目およびハチ目が担っているものと考えられた. 種子は水散布(二次散布)によって流路にそって運ばれ,実験から長期にわたり浮遊が可能であった.また,種子は水中にあっても生存が可能で嫌気発芽能を持つ可能性が示唆された.一方,種子の乾燥は発芽能に影響し,結氷する環境下では実生の初期成長に悪影響を及ぼしていて,流水を伴う水辺の環境はリュウキンカの繁殖・成長において最適かつ重要な場所であると考えられた.
  • 太田 勝一
    2022 年 7 巻 p. 33-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    大町市の高瀬川の上流域には径30 mほどの巨礫が存在し,仙人岩と呼ばれている.仙人岩は花崗閃緑岩の貫入岩であり,大小の岩塊を多量に含んで角礫岩状の見かけを呈し,一部はカタクレーサイト化する.仙人岩付近の地質は黒雲母花崗岩を主とし,対岸斜面に角閃石黒雲母花崗閃緑岩を伴う.対岸斜面には大規模な地すべり地形があり,地すべりの中央部を花崗閃緑岩の岩脈が横断する.花崗閃緑岩の岩脈付近は,熱水変質により軟質化する. 仙人岩の供給源は,対岸の花崗閃緑岩岩脈の可能性が大きい.地すべりによって移動した岩脈の一部が流出したと考えられる.ただし,上流に位置する七倉ダム貯水池に水没した箇所を起源とする可能性も残る.
  • 藤田 達也
    2022 年 7 巻 p. 39-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    大町市では,2000年に旧美麻村地域の動物種をまとめたリスト以降,体系だった野生動物の生息調査が行われていない.そこで,近年の機能の向上が著しく,一般的に野生動物の調査に導入されつつある自動撮影式の赤外線センサーカメラを用いてモニタリングを行った.2020年から2021年にかけて,計56箇所の調査により13種,377個体の中・大型哺乳類の生息を確認した.本調査では,1990年代以降に他地域から移入し始めたと考えられるイノシシ,ニホンジカ,ハクビシンの姿が市内の広範囲で記録されたことから,これらの種が定着していることが示唆される結果が得られた.
  • 栗林 勇太
    2022 年 7 巻 p. 45-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/11/25
    研究報告書・技術報告書 フリー
    ジョウビタキPhoenicurus auroreusは冬鳥として本州に飛来するが,近年県内では八ヶ岳周辺を中心として,夏期の目撃や繁殖事例がみられる.この度,長野県内の2地点において初とみられる観察と,幼鳥が確認されたことから,広く情報を共有することを目的としてここに報告する.
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