財政研究
Online ISSN : 2436-3421
9 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
研究論文
  • ―ボックス課税と給付付き税額控除の導入背景
    島村 玲雄
    2013 年 9 巻 p. 191-210
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     オランダにおける2001年税制改革では,3つの所得分類に課税するボックス課税と社会保険料から減免可能な給付付き税額控除を導入した。ボックス3にみなし課税が導入されたことで資本所得の分離課税化が改革の中心として捉えられてきた。しかし,この改革が成立過程においてどのように正当化され成立したのかについては,論じられてこなかった。本稿では,同改革がどのように議論されたのかを政治過程分析から明らかにし,どのような租税制度として結実したのかを制度分析から明らかにすることを試みた。その結果,同改革は労働者に対する租税負担の軽減策こそが改革の主要な課題であり,所得階層ごとへの配慮だけでなく,同時に租税制度の内在的な問題をも克服しようとしたものであることを明らかにする。

  • 朴 寶美
    2013 年 9 巻 p. 211-226
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     勤労貧困層の所得支援と勤労意欲の向上のため2006年度に導入された韓国の勤労奨励税制は,12年現在,支給開始から4年が経過した。12年度改革は,特に所得基準額と最大受給額の拡大はもちろん,扶養子どもの人数などによる最大受給額が異なるようになるなど,最も大きな改革である。勤労奨励税制はその構造設計によって受給対象者と彼らの行動パターンが変化すると思われる。本稿は,このような勤労奨励税制の改革がどの程度の所得再分配効果をもたらすのかを,受給による労働時間の変化を考慮した検証を行っている。その結果,Phase-out区間で労働時間が減少する世帯が多かったものの全体的に労働供給が増え,労働供給を内生化すると更なる格差縮小効果が見られた。しかし,その幅は小さく,また給与所得額や扶養子どもの人数により労働供給の動きが異なるため,所得階級と子ども数ごとの格差縮小効果は全体的に見たときと異なる結果が得られる可能性も考えられる。

  • 竹本 亨
    2013 年 9 巻 p. 227-247
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     本稿は,ロシアの財政調整制度である「Федеральный фонд финансовой поддерЖки субъектов Российской Федерации(連邦構成主体財政支援連邦基金)」と同様のシステムを地方交付税制度に導入した場合をシミュレーションし,都道府県間の財政格差について現状の地方交付税制度と比較した。その結果,1人当たり歳入を指標とした場合にはその格差がより小さくなることがわかった。さらに,使用されている公共サービスの要素価格の相対的な指標を,基準財政需要額を基に本稿で作成した指標に置き換えることで,地方交付税と非常に近い配分額となることがわかった。

  • ―産業連関表を用いた需要項目別の税額計算
    上田 淳二, 筒井 忠
    2013 年 9 巻 p. 248-266
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     日本の消費税について,毎年度の税収対GDP比やVRR(VAT Revenue Ratio)の値をみると,必ずしも一定で推移しているわけではなく,GDPに対する税収弾性値も変動している。本稿では,消費税収の対GDP比が変動してきた要因を明らかにし,将来の消費税収の対GDP比の大きさを考える際に考慮しなければならない要因を検討する。そのために,産業連関表を用いて,非課税取引を考慮した需要項目別の課税ベースの大きさを考えたうえで,毎年度の「理論的税収」の値を計算することによって,GDPに対する民間消費や住宅投資,一般政府総固定資本形成の比率の変化が,消費税収の変動に大きな影響を与えてきたことを示す。さらに,理論的税収と徴収ベースの消費税収の差として,「税制要因」による税収変動の大きさを把握し,2003年度の税制改正における中小事業者への特例措置の変更によって,税制要因の規模が大きく縮小したことを示す。

  • ―企業規模別データに基づく試験研究費税額控除の分析
    前川 聡子
    2013 年 9 巻 p. 267-282
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,研究開発支援政策として,試験研究費に係る税額控除拡大と法人税率引き下げのどちらの方が効果的なのかについて,1980~2009年の資本金階級別のデータを用いて実証分析を行った。その結果,税額控除は期待されるような効果を持たず,税率引き下げの方が研究開発増加に対して有意に影響を及ぼすことが明らかとなった。ただし,資本金100億円以上の巨大企業については,税率も税額控除も研究開発費に対して有意な影響を与えず,むしろ負債比率が研究開発に有意な影響を持っていることが示唆された。

  • 八塩 裕之
    2013 年 9 巻 p. 283-301
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     近年,人口の高齢化により勤労所得から公的年金給付への所得の代替が進んでいる。年金給付の増加は大きく,勤労所得の減少のかなりの部分を賄うが,公的年金等控除の影響などで年金の多くは課税ベースから除かれるため,やはり課税ベースは縮小してしまう。しかし,こうした税制を維持したままでは,今後個人住民税の課税ベース縮小がとどまることなく進む可能性がある。その結果,さらなる税収ロスとともに,地方自治体間の税収調達力格差の拡大が懸念される。こうした問題意識をもとに,本稿では経済低迷による勤労所得減少や税制改革の効果をコントロールしつつ,高齢化が個人住民税の課税ベースに及ぼす影響について計量分析を行う。そのうえで,日本の税制の問題点を検討する。

  • 中村 悦広, 中東 雅樹
    2013 年 9 巻 p. 302-319
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/10/26
    ジャーナル フリー

     本稿では,近年削減の方向で進められてきた社会資本整備が,三大都市圏において地域経済や地域住民の経済厚生にいかなる影響を及ぼしてきたかを分析する。具体的には,首都圏,名古屋圏,関西圏を対象に,市町村別・分野別の社会資本ストックデータを構築したうえで,Roback(1982)の理論モデルに基づいて,1995年度と2005年度の2時点の市町村クロスセクション・データによる社会資本の経済効果をふまえた都市圏の公共投資のあり方を検討した。本稿の分析から得られた主な結論として,道路や都市公園といった生活基盤型社会資本は,すべての圏域で生産力効果と厚生効果があることが示された。他方で,名古屋圏と関西圏で,経済効率的に配置されていない社会資本が存在し,とくに関西圏は,そうした社会資本が多く存在することが明らかになった。

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