日本シミュレーション学会論文誌
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15 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
JSST2022 学生セッション特集
  • 小野 悠李, 水口 朋子, 福山 真央
    2023 年 15 巻 2 号 p. 36-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    油中のマイクロ水滴からナノ水滴への分子輸送を理解するために,内部の水分子数が異なるSpan 80逆ミセルに対して分子動力学シミュレーションを行った.非イオン性界面活性剤Span 80の逆ミセルは,マイクロ水滴中の溶質の選択的濃縮への応用が期待される.我々は,逆ミセル内部の水素結合に着目し,水分子間,界面活性剤間,水と界面活性剤間の水素結合の寿命を計算した.その結果,水の少ない逆ミセルでは,すべての分子ペアで水素結合寿命が長くなることがわかった.水分子間の水素結合寿命が長いと,界面活性剤間の水素結合寿命も長くなり,逆ミセル自体の構造が変化しにくくなる.逆ミセル中の水分子間の水素結合寿命は,バルク水の水素結合寿命よりもはるかに長いので,ナノサイズの逆ミセル内の水環境はバルク水とは大きく異なっていることがわかる.

  • 森田 龍斗, 原 崇
    2023 年 15 巻 2 号 p. 42-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    自動コード推定は,楽曲分析の分野における重要な研究課題である.既存研究において,DCGANを用いた手法が提案されているが,自動コード推定の正解率は73.2%に留まっている.そのため本研究では,DCGANを用いた手法の改良と,CGANを用いた手法を提案した.DCGANを用いた手法では,全結合層と出力層にtanh関数を使用することで,値域の統一を行い,Minibatch Discrimination層とすべての畳み込み層にL2正則化を追加して,Mode Collapseと過学習を抑制するように改良した.実験の結果,自動コード推定の正解率は91.7%となった.また,CGANを用いた手法では,条件の入力にOne-hotベクトルを採用し,MIDIデータの末尾に付加する手法と,MIDIデータの先頭を置換する手法を検証した.実験の結果,2つの手法の自動コード推定の正解率は,それぞれ90.5%,90.9%となった.本研究により,自動コード推定において,DCGANを用いた手法の正解率を向上させることが可能となった.さらに,CGANを用いた手法も,DCGANを用いた手法にはやや劣るものの,高い精度の正解率となることが示された.

通常論文
論文
  • 幸谷 智
    2023 年 15 巻 2 号 p. 51-55
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    無線LAN接続において,認証解除など防御が難しい攻撃手法に対し,アクセスポイント(AP)側のアンテナでフェーズドアレーを構成し,攻撃端末の方向からの電波それ自体を受信しないようにすることで,物理的に回線遮断するシステムを検討した.フェーズドアレーによって通信方向を制御するとき,一般に各素子への励振位相は解析的に求めるが,通信が遮断する方向は1つに制限できないため,特定の方向からの通信のみを遮断し,それ以外の通信は確保するような位相解を得られない場合がある.また実際の運用では移相器の移相範囲には制限があり,制御電圧もD/A変換器を用いるために連続量をとることができないという制限もある.本論文ではシミュレーションで3素子アレーを用いπ[rad]まで,10 bit精度の移相量で制御することで,全周にわたって唯一で任意の通信遮断角度を持つシステムが実現できたので報告する.

  • 中野 博生, 轟木 義一, 多田野 寛人
    2023 年 15 巻 2 号 p. 56-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    ジャーナル フリー

    MPIに基づいて並列化したジョブでプロセス数が多いものを富岳で実行したときの挙動を調べた.特に,ジョブのメモリ消費量の変化に注目する.MPIプロセス数が大きい場合,MPIの初期化の実行で少なくないメモリ消費が発生,増加していく.並列化度がさらに大きくなると,ジョブは最終的にメモリ枯渇に至る.その結果我々は,富岳で全系実行を行う場合でも実現できるMPI並列数は最大で約350万であることを明らかにした.MPIの並列度数は使用する計算ノード数に応じて設定する必要があるが,富岳の大規模ジョブとして実行する場合,ユーザーのコードに明示的に記述して利用できるメモリがかなり制限されることに注意が必要であることも明らかにした.

  • 伊藤 建一, 上島 慶
    2023 年 15 巻 2 号 p. 64-75
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー

    本研究では,卓球ボールの3次元軌跡から運動初期の並進速度及び回転角速度を推定する方法論を開発した.3次元軌跡の計測にはデプスカメラを用いた.計測された3次元軌跡と運動モデルから生成した3次元軌跡の平均二乗誤差を目的関数とし,これを最小化する運動モデルの並進速度と回転角速度を推定値とした.探索には粒子群最適化法を用いた.本研究で提案した方法で,実際の計測データで推定できるか探索実験を行ったところ,比較的安定して高い精度で推定可能であった.

  • 池田 翔, 伊藤 利明
    2023 年 15 巻 2 号 p. 76-86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    脳を理解することが,高次認知機能の神経メカニズムの解明の手助けになるとされており,その解明手段の1つとして脳のシミュレーションがある.近年の多くの研究は,新たなパラメータを加えた神経細胞の膜電位モデルを並列化させた神経細胞群における同期現象の変化に着目している.一方,「神経細胞群の同期現象のモデル化」に関する研究はほとんど行われていない.本研究では,神経細胞の膜電位モデルを用いた神経細胞群の同期現象を再現し,その結果を基にフーリエ級数を用いて「神経細胞群の発火モデル」を構築した.その後,構築したモデルとモデル間の相互作用モデルを用いて,複数の神経細胞群における同期現象の動態シミュレーションを行った.結果,パラメータによって,人の覚醒状態時に現れるα波やてんかん発作で生じる脳波を再現することができた.さらに異なる位相差で同じ同期パターンを持つ2領域とした初期状態では,相互作用の強さと位相差によって,覚醒状態の保持や覚醒状態から睡眠状態へ移る同期パターンが再現できた.

  • 大中 健登, 溝口 奈七子, 村山 敏夫, 後藤 聡太, 武居 周
    2023 年 15 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    本論文では,反復型領域分割法を用いた有限要素法に基づく大規模高周波電磁場シミュレーション手法について述べる.高周波電磁場解析のための定常ベクトル波動方程式を,電場を未知数として解くものである.このソルバは反復型領域分割法(Iterative domain decomposition method: IDDM)とそれに対応する並列分散処理環境を用いて大規模電磁場問題の有限要素解析を詳細かつ高速・効率的に行うことができるが,反復計算の試行回数が多く計算時間がかかるという問題がある.本研究では,十分な精度の解が正しく得られる収束判定値を,ベンチマーク問題による精度検証により見いだし,その上でIDDMにおける部分領域のサイズを変更するパラメータ・スタディにより,計算時間短縮に向けた部分領域サイズの模索をすることで,適切な計算条件を決定する.また,この計算条件のもと,1億~2億の大規模解析を実行することで,手法の有効性を示す.

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