瞳沼はサロベツ湿原中央の低地帯にある面積0.7 ha ほどの沼である.小さい沼であるが,泥炭でできた相対的に大きな浮島を浮かべている点が特徴である.本稿では沼の現況の調査・計測結果を報告するとともに,沼と浮島の形成史について考察する.浮島は周辺の泥炭地を農地開発する過程の影響下で,二十世紀のわずか数十年の時間でできたと考えられる.開発のための排水路開削と通水の結果,自然堤防が形成され,それが地下水や地表水の流動環境を変え,水位上昇を招いた.水位上昇に伴ない浮力が増大し沼の周囲を含む低地帯の泥炭が浮上した.その後,浮いた泥炭の一部が周りから切り離され,浮島として漂うようになったと考えられる.このように瞳沼の浮島は人為的行為が原因になって形成されたこと,さらに形成時期をかなり特定できる点など特異な浮島であると言える.またその形成過程も単純ではなく,泥炭堆積層の浮上とその後の切断分離という複合的な過程の結果形成されたということも例が少ない.