山梨英和短期大学紀要
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29 巻
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  • 石田 千尋
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 1-13
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    『古事記』仁徳天皇記の末尾に置かれている「枯野」の歌謡物語は、仁徳治世を讃える瑞祥譚とされる。本稿は、「枯野」の歌謡と所伝の表現を辿りつつ、当該物語がどのように仁徳讃美を果たしているか、またそれは『記』が形象しようとする仁徳天皇像とどのように結び付いてくるのか、といった点について考察しょうとするものである。その際まず、「琴」という楽器の表象性を明らかにし、「琴」を讃美することが『古事記』にあって、「天下」(あめのした)の統治者たる天皇の威徳の讃美ともなっていることを導き出した。『記』は「枯野」のうたを、<徳>によって「天下」の水系が平らかに治められている様を、直感的・映像的に形象化するものとして定位したのである。さらに、「天下」の水系が平穏を保ってあるというのほ、仁徳代に至って初めて可能になったこと、そうした偉業がほかならぬ父応神の事蹟を受け継ぐものであることを指摘し、『記』が仁徳を、<徳>による統治を成し遂げ、水運の安全確保を果たした天皇として顕揚し讃美する、その一端を担うのが当該物語であるということを以て、結論とした。
  • 白倉 一由
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 15-28
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    近松世話浄瑠璃のこの期の作品の特色は内容の複雑化と人物の性格・思考・行動の現実化である。主人公善人、副主人公悪人の構想ではなく、主人公副主人公共に実存的・現実的になっているのである。この作品は主人公中心でなく、副主人の貞法・由兵衛が重要の人物であり、特に貞法の見解はテーマの構成に大きく関わっている。貞法の考えは個人的な愛より、家を存続させ維持させる事であった。主人としての世俗的の発想であった。二郎兵衛おきさの愛は初めは自己中心的なエロスの愛であった。二郎兵衛のおきさへの愛は男の一分であり、人間として誇りを持って菱屋に居る事であった。このおきさへの愛は貞法の考えと対立するようになっていく。家の存続と維持は大切な事であったが、人間性の立場に立てば、限界があり、全面的に肯定する事は出来なくなる。二郎兵衛おきさの愛は次第に罪の意識と共に献身的な他者への愛に生きるようになり、宗教の発想と共に死の通行となるのである。自己を罪の意識において他者への献身的愛と家の存続と維持のモラルとの葛藤が主題である。
  • 山田 吉郎
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 29-41
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    歌人前田夕暮は明治四十年代に若山牧水とともに自然主義歌人として歌壇に登場するが、この時代に夕暮の歌人としての基本的な短歌観が形成されたと考えられる。それは、「通例人」の生活感情を正直にうたうというものであり、処女歌集『収穫』の「自序」に端的にあらわれてはいる。しかし、時代の影響や同世代の歌人との交渉など、初期夕暮の短歌観を生動する時代潮流の中で跡づけてゆく必要があろう。その際、明治四十四年に創刊する短歌結社誌『詩歌』が重要な資料となる。前田夕暮ほ主宰者として、短歌作品や歌論の発表はもとより、歌壇作品評や結社の新人の指導など、さまざまな活動を通して、自己の自然主義的な短歌観を形成していったと考えられる。本稿ではこのような観点に立ち、『詩歌』第一巻第二巻を対象として、短歌形式そのものに対する夕暮の考え方、同時代歌人の捉え方、『詩歌』内部の新人の指導という三つの面から考察を試みた。
  • 小菅 健一
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 43-57
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿は、「美しい日本の私-その序説」というノーベル文学賞の受賞記念講演を、新しい"小説論"のためのマニフェストとして論じた昨年度の紀要に掲載した「『美しい日本の私-その序説』論- 説論としての読みをめぐって-」をネガとして考えて、実践としてのポジにあたる作品としての「美の存在と発見」というコンセプトで論じていったものである。本来、理論書的なイメージとは、ほど遠いという印象が強い「美の存在と発見」を、作品に内在されている可能性や有効性を好意的に評価して分析を加えたものである。様々な具体例の背景にある論理性の部分を考察した結果、表現者が固定観念や先入観を排除して表現対象と無為自然に向かい合うことによって、そこに既に存在しているもの=<有>の中に内包されている様々な<美>を(再)発見することで、それらを一つの作品=<有>として構成していくことに、新たな創作行為としての意義が十分にあるのだという主張を導き出すことで、既存の<ことば>の持っている潜在的な力を明らかにしている。そして、川端康成の創作意識における「源氏物語」の存在の大きさに言及して、理論書としての限界も明確にしている。
  • 宅間 雅哉
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 204-188
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    This paper aims to investigate the semantic relations among on, in, into, innan, and to, the chief Old English prepositions of space. In order to achieve this purpose, the investigation is made on the basis of the theoretical framework set up by Quirk et al. (1985 ; pp. 673-677). In other words, we examine what type of space, i.e., whether it is zero-dimensional, one-dimensional, two-dimensional, or three-dimensional, is introduced by each of the above-mentioned prepositions by analyzing the dimensional properties of its complement. The present study deals with on-, in-, into-, and innan-phrases implying 'destination,' which I discussed in my previous papers published in 1991, 1992, and 1994, together with to-phrases. It has been revealed that on is distributed most widely and its distribution includes that of in and innan. On the other hand, into and to have its own field of distribution where on does not appear.
  • 小菅 東洋
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 186-171
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    19世紀にイギリスを襲った宗教的真理への疑問と批判は、誠実なる懐疑家たちの魂を不安と絶望に陥れていった。彼らが自己の危機をどう克服して新しい精神の羅針盤を再発見していったかは、今日的な課題をも含んでいる。その方法も多様であった。Alfred Lord Tennyson(1809-92)の場合は、当時の文学者・知識人のひとつの在り方を典型的に示している。彼は、懐疑的な時代思潮に真正面から挑戦し、科学と宗教の相克を自己の生き方の中に主体的に受け止めて戦った。親友Arthur Hallamの死の衝撃を契機に、霊魂の不滅と永生が真理として存在し得るかを問うた。そしてついに自己の悲哀が真実であり、それを詩の中に歌い切ることの可能性の中に霊魂が不滅のものとして交感され、永生が永遠の希望として存在することを確信した。彼は、詩の普遍性を実証し懐疑を超克した詩人といえよう。本論はこの問題をIn Memoriamの中に跡づけようとする。
  • 稲垣 伸一
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 170-158
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    19世紀末アメリカの消費社会では、人々の購買意欲を刺激して消費へと向かわせるさまざまな戦略が登場した。その代表として挙げられるのが、豊富な商品を分類し、効果的に照明をあててショーケースの中に入れたデパート、さらにその展示の場を印刷物に移したカタログ商法である。消費社会の中で商品は必要に迫られて購入されるより、展示の方法や広告によってイメージが増幅させられた結果購入されるものへとその性質が変えられていく。言い換えれば商品はその本質的価値のために実用に供されるのではなく、豊かさや知的満足などへの欲求を充足するものとして流通し、人々の欲望を刺激する記号へと変化した。ヘンリー・ジェイムズの『ポイントンの蒐集品』では、集められた美術品や骨董品がそれ自体の価値よりも、登場人物たちの共通のコードの中で負わされた役割ゆえに争われると考えられる。本稿では、登場人物により意味が変化させられる蒐集品の性質を消費社会という文脈の中で読み、同時にそこに込められた作者ジェイムズのアメリカ消費文化に対する感情についても検討していく。
  • 越沢 浩
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 156-139
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    The Longest Journey(1907)は、その作品としての評価が劣っていることは作者自身認めているのだが、書いたことを最も嬉しく思っている作品であるとも言っている。一つには作者の伝記的要素が非常に多いことがその理由であろう。この作品の英語は現代英語ではあるが、非常に分かりにくく、また、プロットが把握できない程に、人物の心理や情景の描写が詳細である。女性の描写が余りはっきりしないのは、作者のhomosexualityに起因しているかもしれない。とにかく非常に理解しにくい作品である。最初に梗概を述べ、次に主人公のRickieの友達であるAnsellの視点を追ってみた。哲学を専攻しているAnsellがHegelを読み過ぎたために、特別研究員の選考に失敗したことから、彼の物の考え方には当然その影響があると言えよう。「使徒会」の支配的な思想はG.E.Mooreの哲学であって、 MooreがHegelの哲学に反対していたことは当時の常識と思われるので、Ansellに関しての説明は思いつきではないだろう。 Rickieの運命に対するAnsellの見方はその立場から理解すると納得出来ると思う。少なくとも、自分にとって現在考えられる範囲において、この作品の意味が解明できる視点であると言える。
  • 戸田 勉
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 138-129
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    本稿はジェイムズ・ジョイス作『ユリシーズ』第10挿話「さまよえる岩」の視覚的なモチーフについて考察するものである。まずIでこの挿話の特質とこの挿話に関する批評の動向について触れる。IIでは各セクションを統合する原理としての視覚的なモチーフの妥当性を吟味する。IIIでは視覚的なモチーフが実際にどのような形でテクストに編み込まれているのかについて例証する。IVにおいてはこのモチーフと小説全体とのつながりについて考える。特に第3挿話でスティーヴン・ディーダラスが不信を抱いた視覚による認識の問題との関わりについて論じる。
  • 斎藤 信平
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 128-115
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    本論でほ<焦点化>理論の大まかな変遷、物語論者による<焦点化>理論の違いを考察した。トドロフ、ジュネット、パル、リモソ-ケナン、チャットマン、オニールなどを扱い、各々の体系における<焦点化>と<語り手>の問題を取り上げた。一つの尺度としてヘミングウェイの「殺し屋」を取り上げ、各々の理論に当てはめて分析することにより各々の<焦点化>理論における相違点を洗い出すことと、「殺し屋」そのものの<物語言説>についての考察をした。
  • 仲佐 秀雄
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 114-102
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    前号所載の「情報・通信メディアの規制とルール」に引き続き、その各論の一つとして、情報発信の「真実性」確保を採り上げた。この点について新聞では自律的倫理に委ねられているが、放送では「報道は事実をまげないですること」などの法規制があること。過去の誤報事例や最近のオウム報道における捜査中間情報の「確認」のありようなどを通じ、報道組織体の中の「コンプアメーション」のシステムについて検討を行った。
  • 出山 桂吉
    原稿種別: 本文
    1995 年 29 巻 p. 72-62
    発行日: 1995/12/10
    公開日: 2020/07/20
    ジャーナル フリー
    英語試験問題はそれを受ける人の英語力に大きな影響を与えます。私達日本人の受動的性格の英語が、少しでも能動的性格のものになれるよう、紙の上のテストながら工夫してみました。英語を母語とする人達が、子供の頃親しむrhymeを応用したものです。
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