1.はじめに 2013年8月31日から9月4日にかけて九州大学で開催された第8回日韓中地理学会議(以下,第8回会議)は,参加者数144名,発表数87件を数えた。本会議が日本において開催される際の運営システムの特徴に,会議の運営に携わる実行委員の年齢層が大学院生やポスト・ドクターを含むなど比較的若いこと,日本全国および韓国,中国に分散しているという地理的制約があることを指摘できる。こうした特性や制約を活用,克服した過程を,駒木ほか(2011)では,クラウドサービスの利用に視点をおいて示すとともに,その有効性と諸課題について整理した。本発表では,第8回会議で新たに導入したシステムや得られた見地も踏まえながら,国際学会運営における情報共有方法に関する成果と課題について整理,検討する。
2.実行委員の構成と情報共有の方法 第8回会議の実行委員は,第5回会議への参加者が中心となり,個人的なネットワークなどを通じて構成された。この分布を示したものが図1である。会議の規模拡大に応じて,担当部門別に作業することが多くなり,部門内および部門間での実行委員同士の円滑な調整や情報共有の必要性が高まった。しかしながら,実行委員数が第5回会議時の27名から44名と増加するとともに,その空間分布も北海道から九州と広範囲に渡った。そのため状況把握やアイデアなどを議論するために定期的に対面接触を図ることは困難な状況となっていた。
こうした状況を踏まえ,第5回会議に引き続き,第8回会議でもメーリングリストの設置やクラウド上でのドキュメント共有や作成,インターネット会議システムの活用,メッセンジャーの利用,独自ドメインのWebページ設置などを行った。さらに,会議への参加登録やアブストラクトやプロシーディングスの提出についてもWebサイトから受け付けるなど,新たなサービスも利用した。
3.案件による利用サービスの違いとその整理 情報共有においては様々なサービスが利用されたが,扱う内容を踏まえると,次の3種類に整理できよう。すなわち,(1)事案にあわせて構成された部門内での情報共有,(2)実行委員全員の間での情報共有,(3)実行委員会と他の組織,学会参加者との情報共有である。
(1)については,発表登録者の管理や学会賞の選考,学会グッズ作成,アブストラクト集の作成,ポスターやWebページ作成,開催校におけるロジスティクスなどの部門が挙げられる。これらにおいても,比較的少人数で行える部門,情報漏洩に注意すべき部門,常に実行委員全員に情報が行き渡るべき部門などがあり,それぞれに応じて適切な情報共有方法をとる必要があった。
(2)に相当するのは部門における実施状況の報告や実行委員全員の合意形成が必要な場合であり,メーリングリストやクラウド上でのドキュメント共有・作成機能が活用された。また,ポスターやロゴのデザイン作成時のように,実行委員全員に広く意見を募集する際にも活用された。さらに,各部門で作成されたファイルや状況報告については,クラウド上に保存して実行委員が常時確認できるようにするとともに,定期的な報告を行った。
(3)には,Webページ(http://8thcon.geographers.asia/)が相当する。すなわち,第8回会議の公式な情報は,インターネット上のサイトを通じて行った。また,参加者のメールアドレスは把握しているため,必要に応じて学会の窓口となるメールアドレスから情報を提供することもあった。
4.今後の会議運営に向けて
第2回,第5回,第8回と日本での開催回を重ねるにしたがって,課題を解決するべく,新しいサービスなどを利用して情報共有の円滑化に努めてきた。さらに,近年のICTの発達は目覚ましく,今後はソーシャルメディアサービスやスマートフォンの
インスタントメッセンジャー
など,新たな情報交換ツールも利用することになると考えられる。次回(第11回)に向けて,案件に応じて適切な情報共有方法を選択できるよう,整理・検討する必要があろう。
本発表の内容を取りまとめるにあたり,実行委員の皆様からは,各部門における情報共有の状況や課題などについて情報をいただきました。ここに厚くお礼申し上げます。
参考文献駒木伸比古・山本健太・吉田国光2011.学術大会運営におけるクラウドサービスの有効性と課題―第5回日韓中地理学会議での経験から.地理空間4: 149-155.
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