【はじめに】
運動イメージは身体運動の計画及び実行の脳内シミュレーション過程である。様々な脳イメージング研究により運動イメージ中の脳活動が明らかにされているが、一次運動野の活動の有無等については一致せず、その要因の1つとして運動イメージの種類が考えられている。運動イメージには視覚的運動イメージ(visual-motor imagery:VMI)と筋感覚的運動イメージ(kinesthetic motor imagery:KMI)がある。これらを比較した報告は少なく、今後の課題であるとされている。経頭蓋磁気刺激を用いた研究では、KMIのみに皮質脊髄路の興奮性増大を認めたことが報告された(Stinear,2006)。運動イメージにおける時間的側面の評価指標として心的時間測定法がある。心的時間が運動実行時間と一致し心的時間においてもFittsの法則が認められる(Decety,1996)が、VMIではFittsの法則を認めないとした報告もある(Stevens,2005)。本研究では、条件を変化させた歩行について、VMIとKMIの心的時間について比較することを目的とした。
【対象及び方法】
対象は若年健常者24名(男性10名、女性14名、平均年齢23.3±1.7歳)とした。なお、12名は理学療法士で12名は看護師等の医療従事者とした。
運動課題は10mの平地自由歩行とし、通常の歩行(通常歩行)と短下肢装具装着下での歩行(装具歩行)を実施した。それぞれ実際の運動実行時間、VMI及びKMIによる心的時間を測定した。
デジタル
ストップウォッチを用い、運動実行時間、心的時間ともに被験者自身で測定した。各々の測定を3回実施しその平均値を採用した。運動実行時間と心的時間の一致度として心的時間/運動実行時間の比率を求めた。統計は二元配置分散分析ならびに多重比較検定を用い、有意水準5%とした。
【結果】
心的時間/運動実行時間の平均は、通常歩行ではVMIで0.87±0.27、KMIで0.89±0.19であった。装具歩行ではVMIで0.94±0.21、KMIで0.93±0.23であった。運動実行時間は装具歩行で有意に遅くなったが、心的時間/運動実行時間は通常歩行と装具歩行、VMIとKMIの比較において全てに有意な差は認めなかった。また、装具歩行へのイメージに影響があると推測される理学療法士とそれ以外の対象にも有意な差は認めなかった。
【考察】
本研究ではStevensらの報告とは異なり、VMIとKMIの違いは認められなかった。比較的自動化されている歩行においてはVMIとKMIの違いに影響されない可能性が示唆された。しかし、通常歩行と装具歩行の差が小さかったこともその要因として考えられ、今後イメージの質的評価も含めてVMIとKMIの違いを明らかにし、運動イメージを用いた歩行への介入効果についても検討する必要がある。
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