6ヵ月齢の片側性潜在精巣のビーグル3頭に対して, 下降側精巣の摘出および潜在側精巣の陰嚢内固定手術を実施した. 1年後, これらの犬の精液を採取し, その射出精子の体外培養による運動の活性化(HA)および先体反応(AR)の誘起率を, 正常ビーグル5頭におけるそれらの値と比較検討した. 犬精子の培養は, canine capacitation medium 培地を用いて, 精子濃度30×10
6/ml, 38℃, 5%CO
2条件下で9時間実施した. HAの観察には, 顕微鏡用
ハイ
・
スピード
・ビデオ装置を用いた. 精子のARの判定は, トリプル染色法で行った. その結果, 潜在精巣の陰嚢内固定手術実施犬(CDO)および正常犬(ND)における採取直後の精子の運動性には, 両者間に有意差はみられなかった. しかし, 培養後のCDO精子における運動性の低下は著しく, 培養3時間ではCDOとNDそれぞれ47±12(mean±SD)%, 80±9%であり, 両者間に有意差が認められた(P<0.01). 精子のHA誘起率は, 全期間を通じてCDOとNDの間に有意差はみられず, 培養7時間でそれぞれ58±5%,61±16%のピークを示した. CDO精子のAR誘起率は, 培養6時間以後NDより明らかに低値を示し, 培養8時間ではCDOとNDそれぞれ26±4%, 46±5%であり, 両者間に有意差が認められた(P<0.05). 以上のように, CDO精子において認められた, 培養に伴う運動性の急激な低下とAR誘起率が低いことは, 深く関連するものと推察される.
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