【はじめに】
バレーボールのスパイクジャンプは、助走による水平方向の推進力を踏切で制動しながら鉛直方向へ加速してゆく動作であり、ジャンプ動作を主体とするバレーボールではジャンパー膝の発生頻度は高い。ジャンパー膝を有する者の中で、踏切時に疼痛が出現する症例では制動動作で軸足(右打ちの場合は右脚)に症状が出現する例を経験する。そこで本研究では、運動方向が変わる踏切時の不十分な荷重移動が制動動作における力学的負担の変化を招くと考え、制動動作の違いによる軸足膝関節への影響を明らかにすることを目的とする。
【対象および方法】
対象はバレーボール経験者の健常男性5名に対して、反射マーカを解剖学的ランドマークに貼付し、3次元動作解析システム(VICON MOTION SYSTEMS社製)と床反力計(KISTLER社製)を用いて計測した。計測動作は3歩助走によるスパイクジャンプとし、踏切時に左右足部の位置を交互に踏切るクロスステップと左右平行に踏切る
パラレルス
テップの2通りで行った。得られたデータより踏切時の荷重量、関節角度、パワー、上下体幹と骨盤の各体節重心の加速度を算出した。重心計算に必要な生体定数はWinter , DAの研究結果を使用した。また腓骨外果座標を原点として膝関節座標の矢状面上における変位量から膝関節の前後方向移動量を算出した。
【結果】
クロスステップでは非軸足の荷重量が軸足より多く、軸足から非軸足への荷重移動が行われていた。それに対し
パラレルス
テップでは非軸足の荷重量が軸足より少なく、非軸足への荷重移動は不十分であった。両足接地後の膝関節前後方向移動量は
パラレルス
テップでは軸足、非軸足共にクロスステップに比べて大きくなる傾向が認められた。また両足接地時の上下体幹と骨盤の各体節重心の減速方向への加速度ピーク値は
パラレルス
テップで大きく、特に上部体幹の加速度が大きかった。軸足膝関節の負のパワーは制動時に発揮され、
パラレルス
テップで大きく発揮していた。
【考察】
パラレルス
テップでは膝関節の前方移動量、軸足膝関節の負のパワーが共に増加していることから、下肢関節の中でも膝関節が制動動作の中心的役割を担うと考えられる。また上部体幹、下部体幹、骨盤といった体幹の各体節重心の減速方向への加速度が大きいことから、
パラレルス
テップでは体幹も制動に大きく関与していると考えられる。同時に身体重心の後方移動が考えられ、ジャンパー膝の症例に特有の姿勢を構築していると考えられた。以上のことからスパイクジャンプの踏切動作では、制動時における荷重移動の制限がジャンパー膝の発生要因として関与していると示唆された。
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