緒言:宝石がもたらす輝きを「多面体による光路分割」とみなすことで定量的測定が可能であることを、前回までに報告した。(2014年、愛媛大)これは一般的な鑑定で用いられる等方的な光源ではなく直進光を入射させ、1本の光線が散乱・放射される(光路分割された)散乱光パターンを、入射光の角度を変えながら方位・数・角度分布・投影(反射)強度などに応じた画像から間接的に解析する手法である。試料からの散乱光を、放物面スクリーンなどに投影される「輝点」として観測した結果、サイズ分布(分散角としての立体角のヒストグラム分布)の一部に規則性が認められた。(「指数則」N(ω)=A
0exp(-λω),λ›0) 今回はこの「指数則」からの逸脱を議論する。
実験:光源(赤色レーザー光または白色LED光)、試料(
ブリリアントカット
ダイヤモンド)、測定装置(ゴニオメータ上の球面極座標 (φ,θ)を移動する光源、放物面スクリーン)などは前回と同じものを用いた。投影された「輝点」のサイズ分布は撮像画像をオリジナルの解析ソフトウェアによって画像処理し計測した。前回と同じく、強度及び波長分散はカメラ感度の段階的変化(レーザー光)とRGB分解(白色LED光のカラー画像)処理によって評価した。
結果・考察: ファセットカットされた「多面体」宝石試料による光路分割は、入射した直進光がファセット面での反射と屈折を通じて分割され、その結果「輝点」として散乱放射される。ここから有限範囲の検出野(たとえば鑑定士の視野範囲)を散乱光が走査し、通過する確率は、「輝点」の分布傾向(方位・数・サイズ・強度など)を通じて議論することができる。
これは「鑑定士の目に散乱光が入る=輝いて見える)状況」を統計量として評価する考えでもある。「輝点」のサイズが大きい分布状況は、試料や入射光の角度が連続的に変化するときに、一定連続して検出野に信号が入ることを意味する。(ただし「サイズの大きな輝点」は「反射や分割の回数が少ない光路」を示すとも言えるが、全反射などで「分割や反射を経ても光強度の強い輝点」もあり得るので現時点では敢えて「輝点」の光強度の断定的議論はしない。)
先の「指数則」が「輝点」サイズの小さい領域に認められる、ということは「指数則」から逸脱する成分(立体角が大きい分布)の数的評価が、「見る者の視野」や「見る方向」に輝きとして認識される確率や定性を左右することが考えられる。立体角のヒストグラム分布に最小自乗法を逐次的に用いたところ、回帰直線からの偏差に明確なギャップが認められた。
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