1) 60℃2時間予加熱したり乾燥したりすると, 生だいこんにくらべて, 煮たとき軟化しにくくなった.これらのだいこんのペクチンを希塩酸, 続いて酢酸塩緩衝液で分別抽出したところ, 予加熱することにより希塩酸抽出区分 (A区分) が激減し, 酢酸塩緩衝液抽出区分 (B区分) が増加した.切り干しだいこんは予加熱したときほど顕著ではないが同様の傾向がみられた.
2) ペクチンメチルエステラーゼ (PME) は室温~60℃で乾燥後もある程度活性を維持していた.また, だいこん中にはエキソポリガラクチュロナーゼ (exo-PG) が存在していた, そのため, 予加熱および乾燥によるペクチンの比粘度の低下は, PMEおよびPGの作用によりぺクチンが低分子化したためと思われる.
3) 加熱調理したとき煮汁中に溶出するペクチンは, 生が最も多く, 次いで切り干しだいこん, 予加熱だいこんの順であった.しかし加熱後のだいこん中にはかなりの量のペクチンがカルシウムなどの影響で残っており, それを分別抽出するといずれの場合も, おそらく低分子化のためA区分が増加し, 加熱時間が長くなるに従ってB区分が減少した.A, B区分の比粘度は生を加熱したものが最も低くなりやすかった.
4) 60℃2時間予加熱するとPMEの作用により, かなりの量のメタノールが浸漬液中に遊離し, だいこん中のペクチンのエステル化度は低下した.A区分のエステル化度はB区分のそれより高く, A, B区分とも予加熱や乾燥することにより低下した.
5) チオバルビツール酸反応はA区分のほうがB区分より強い.また, 生だいこんが最も陽性で次いで予加熱, 切り干しの順であった.
以上の結果から, だいこんを60℃で予加熱したり, 室温で風乾したりすると加熱調理したとき軟化しにくくなるのは, PMEの作用によりペクチンのエステル化度が低下し, 加熱調理してもペクチンがβ-脱離による分解を起こしにくくなること, また, エステル化度が低くなるため, カルシウムやマグネシウムなどによりペクチンゲルが強固になることがおもな原因であると考えられる.
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