【はじめに】
転倒転落予防に関する看護師の日常業務における問題点を定性的に把握することで、病棟での理学療法士と看護師との協働による転倒転落予防の取り組みを提案することを目的に調査を行った。
【方法】
2010年11月に行われた
千葉県看護協会
主催の転倒転落予防研修会に参加した、県内の病院・施設に勤務する看護師145名を対象に行った。研修前に調査票を配付し転倒転落予防に関して日常業務の中での問題点3点を記載してもらった。記載内容を帰納的に分析する為、内容に基づきカード化し、類似するカードのグルーピングを繰り返し、関連性を構造化及び文章化した。尚、調査票結果の利用目的及び分析等について説明し了承を得た場合のみ実施した。また個人が特定されないよう分析することで倫理的配慮を行った。
【結果】
121名から243件の回答が回収された。これらを帰納的に構造化した結果は以下の通りである。看護師の転倒転落予防に関するアセスメント能力が不足しており、その為に患者の歩行や移動などの自立の基準が曖昧になっていることから、病棟での患者の転倒転落が繰り返されている現状がある。また患者自身の転倒転落に係わる危険への認識不足があり、やむを得ず抑制しても、そのままベッドや車椅子から転落してしまう事故も発生している。更に患者自身の危険認識不足に加え、転倒予防に係わる福祉用具の利用方法が適切に周知されず、結果として設置した離床センサーなどの福祉用具が効果的に使用されていない。これらに加え、看護師の人手不足や業務量過多など看護師の労働条件や、薬物の副作用、手術による二次障害等の影響が転倒リスクを高めている。
【考察】
2000年から2010年までの日本理学療法学術大会の抄録集より「転倒予防」をキーワードに検索を行った結果404件が該当した。しかし看護師が日常業務で抱える転倒転落の問題点に言及し、理学療法士と看護師との転倒予防に関する協働についての報告は無い。今回の結果から、看護師自身の転倒転落予防に関するアセスメント能力不足や患者自身の転倒転落に関する危険認識不足が、病棟での転倒予防に大きな障害になっていると考える。理学療法士は患者の身体機能や動作能力を評価し、その視点から転倒転落予防への関わりが可能である。一方、看護師は患者の全身状態や日内変動などの把握からの転倒予防への関わりが可能であろう。従って理学療法士と看護師の協働は、看護師の抱える問題点の解決が効果的な転倒予防の取り組みの一つになると考える。看護師が理学療法士に何を求めているかを把握し、課題解決の為の協働体制を築くことが、病棟で勤務する理学療法士が増加している昨今、その価値をより高めることにつながると考える。
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