【目的】近年,核家族化や食の外部化により地域の料理を作る機会が減少し,親から子へ地域の料理が伝承されにくい現状にある。そこで,聞き書き調査により広島県瀬戸内沿岸地域の伝承料理とその背景や地域性を明らかにすることを目的とした。
【方法】日本調理科学会特別研究の調査ガイドラインに準じて聞き書き調査を実施した。対象地区は,広島県瀬戸内沿岸地域の
広島市南区
・呉市・江田島市・大崎上島町である。地域で生まれ育ち30年以上居住した60代から70代以上の人を対象とした。昭和30~40年ごろまでに定着した家庭料理について,暮らしとともに聞き書きした。
【結果】昭和30~40年代には小イワシ漁が盛んであったため,刺身やなます,煮なます,からあげ,天ぷら,ぬか漬けなどの小イワシ料理が食卓に並んだ。また小イワシはいりこに加工され,味噌汁のだし及び具として活用された。海藻も食され,「いぎす豆腐(大崎上島町)」は現在でも伝承されている。温暖な気候であるため農業も盛んで,野菜は自給自足であった。しかし,米は不足しがちで,麦ごはんやいも入り麦ごはんが日常であった。米食の代用として「茶がゆ(
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)」や「大豆うどん(江田島市)」を食した。日常の食は,麦ごはん・味噌汁・漬物が中心の食事であり,夕食には「野菜の炊いたん」や「ぎざみ味噌(大崎上島町)」や「音戸てんぷら(呉市)」など魚料理を食した。
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は海苔の養殖が盛んで,仕事食として「大河むすび」や「大河まき」があったが,海苔の養殖がほとんどない現在では伝承できない状況となった。一方,呉市の「広カンラン」のように一度は消滅した食材の「カンランキャベツ」を復活する動きもみられた。
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