はじめに-長野県の周産期医療
長野県は都道府県の中で4番目に面積の広い山岳県である。冬季オリンピック開催を契機に高速道路の整備が進み,交通事情は相当に改善したが,天候によっては救急搬送に相当の時間がかかる場合がある。人口は約218万人であり,年間分娩数は約21,000件である。乳児死亡率,新生児死亡率,早期新生児死亡率,周産期死亡率はいずれも全国平均よりも低値を示しているが,妊産婦死亡率は全国平均をかなり上回っている(1996~2000年で全国41位)(表1)。
長野県で出生する児の出生体重の分布の年次推移を表2に示す。1998年以降超低出生体重児,極低出生体重児の出生数が増加しつつある。また低出生体重児の全出生児に占める割合は1995年の6.52%から2000年の8.36%へと単調増加を示している。このような変化は図1に示すわが国全体の低出生体重児の出生の増加と一致しているものと思われ,NICUを含む新生児医療の必要性の増加を示していると考えられる。
長野県では周産期医療システムを構築するにあたって,1993年に開設された県立こども病院に新生児科が設置され,そこに県全体のNICUの50%が集中していたこと,すでに新生児専用救急車を用いた新生児搬送システムが稼働していたことなどが考慮された。その結果,母体救急への対応の問題はあるものの,県立こども病院が総合
周産期母子医療センター
として機能することがもっとも現実的と考えられ,県立こども病院に産科を設置し,2000年9月より総合
周産期母子医療センター
としての診療が開始された。
総合病院としてのinfrastructureを持たない小児専門医療機関である「こども病院」が総合
周産期母子医療センター
として指定されることには以下のような問題点が内在していると考えられる。
①周産期ハイリスク症例・救急症例のうちで受け入れることができる症例が,胎児救急・胎児異常中心に限定される。
②「こども病院」であるために,成人を扱う他科は存在せず,母体・胎児集中治療管理室を整備したとしても,救急母体への集中治療能力には限界がある。
③(院外・院内の)母体救急については成人の救命救急センター機能を有する他の施設に依存せざるをえない。
したがって,搬送依頼に対して自施設に空床があっても他施設を紹介せざるをえない場合や搬送症例を他施設に再搬送することになることもまれではない。
長野県では,このような問題点が存在することは十分理解した上で,地域の特殊性を考慮した結果,「こども病院」型総合
周産期母子医療センター
を含む周産期医療システムを構築した。その後すでに2年以上が経過し,長野県の周産期医療システムの運用実績が明らかとなりつつある。
本稿では,長野県周産期医療システムの実績を紹介するとともに,「こども病院」型総合
周産期母子医療センター
を含む周産期医療システム運用上の問題点と対策について検討する。
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