姉
・弟に蛋白尿を伴つた原発性肝癌の発生をみた1家族を経験した.症例1(
姉
)は15才,女性で,昭和51年11月全身倦怠感を訴え,近医で蛋白尿・糖尿を指摘された.その後2年間肝機能検査は正常であつたが,倦怠感・右肩関節痛を時々訴えていた.昭和53年1月入院.肝臓はγ-MCLで2cm触知. GOT48, GPT10, ChE0.74, LDH350, γ-GTP124, α
1-fetoprotein 15μg/ml, HBs抗原・抗体(-), HBc抗体(-), HBe抗原・抗体(-),補体C
3, C
4正常. BUN,クレアチニン, PSP試験正常, Fishberg濃縮試験, RPF, RBFは低下. 50gOGTTは糖尿病パターン.皮内試験陰性.肝シンチは多発性欠損像を示し,腹腔鏡下肝生検で,肝硬変を伴つた原発性肝癌であつた.症例2 (弟)は10才の男性で,昭和51年全身倦怠感・発熱を認め10月入院.入院時顔面・下肢浮腫,蛋白尿,低補体血症を認めたが,肝腫大はない.急性糸球体腎炎として治療したところ,徐々に肝腫大が現われ, α
1-fetoproteinが100ng/ml以上と高値を示した. HBs抗原・抗体は陰性であつた.昭和52年1月肝動脈結紮術施行し,その際の肝生検では肝硬変を伴つた原発性肝癌であつた。両例とも死亡したが,剖検は許されなかつた. HBs抗原陽性家系に肝癌が多発することはよく知られているが, HBs抗原陰性家族の姉・弟に蛋白尿を伴つた肝癌が発生したことは極めてめずらしい.原発性肝癌の発生を考える上で,大変興味ある症例と考え報告した.
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