ナシ萎縮病を引き起こす担子菌類の
Fomitiporia sp.の交配系は不明であった.よって,その病原菌の交配系を明らかにするために,材質腐朽組織から分離した2菌株から作出した子実体および1菌株の分離源である自然発生した子実体の合計3子実体から単担子胞子分離系統を作出し,対峙培養による交配試験をおこなった.担子胞子,栄養菌糸および単担子胞子分離菌株の菌糸の核数を調査したところ,担子胞子は概ね1核で,栄養菌糸の菌糸細胞は2~6個,単担子胞子分離菌株の菌糸細胞は1~6個を有する多核であった.このことから,一次菌糸と二次菌糸を核の数から区別することは困難であった.交配試験は各系統につき15~25菌株の単担子胞子分離菌株を用いて総当たりで行った.和合性反応はいずれの単担子胞子分離系統内においても数多く確認され,菌叢の接触部付近にタフトが形成された.単担子胞子分離菌株およびタフト分離菌株についてマイクロサテライトを標的とする(GTG)
5プライマーによるDNA多型を検出したところ,タフト分離菌株が二次菌糸であることが明らかとなった.一方,不和合性の反応としては菌叢接触部付近にタフト形成はみられなかった.単担子胞子分離系統内交配パターンは不明瞭であったが,本菌は2極性あるいは4極性と推定された.また,異なる子実体に由来する単担子胞子分離系統間においては,ほとんどの場合で和合性反応を示した.以上のことから,ナシ萎縮病菌である
Fomitiporia sp.はヘテロタリックな交配系を有することが明らかとなった.
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