過換気症候群は, 発作的な過換気によって身体, 精神機能異常をきたす機能的疾患であるが, 老年者では比較的稀と報告されている. 我々は, 超高齢者に典型的な過換気症候群を認めたので, 文献的考察を加えて報告した. 症例は, 92歳女性で基礎疾患として高血圧, 緑内障があり, 血圧上昇, 嘔気, 上腹部不快感, 前胸部不快感, 頻呼吸で救急外来を受診した. 収縮期血圧236mmHgであったため, Nifedipine 10mgを舌下して採血などの検査を進めていたところ, 両手のしびれ, 意味不明の大声を発し, 興奮状態となり, 点滴針をはずそうとするため, 鎮静目的に Hydroxyzing 25mgを投与した. この間, 呼吸数が36 (回/分) 前後と多かったため, 過換気症候群を疑い, 動脈血ガス分析を行い, pH 7.590, P
O2 95.1mmHg, P
CO2 24.1mmHgであったため, 紙袋再呼吸を行った結果, 症状は次第に回復し, 40分後には血液ガスもpH 7.469, P
CO2 36.1mmHgへと改善した. その後の検索の結果, 痴呆はなく, 明らかな脳幹の病変もなく, 脳波上も異常はなかった. 過換気テストでは, 今回外来時にみられたような症状は再現されなかったが, その他の検査所見と臨床所見から, 明らかな器質的な病変がないにもかかわらず, 過換気による著しい二酸化炭素分圧の低下とともに多彩な症状を示す典型的な急性の過換気症候群と考えられた.
本症例については誘因, 原因について必ずしも明らかにできなかったが, 90歳を超える超高齢者においても典型的な過換気症候群を認めることがあることから, 老年者の意識障害の鑑別疾患として, 稀ではあるが過換気症候群も念頭に置くべきと考えられた.
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