【目的】今日超高齢化社会を迎え介護予防とリハビリテーションは要介護高齢者及びその家族,介護担当者にとり重要な課題である.近年,比較的元気な高齢者に対する転倒予防の取り組みは広く施行され,その評価方法も確立されつつあるが、一方歩行困難な高齢者の移動能力の評価方法に関する検討は十分でない.そこで本研究の第一の目的は車椅子操作能力について一定の形式で再現可能な評価方法を提示し,その結果が臨床的妥当性を有するかを検討する事である.第二の目的はこれらの結果が他の身体機能的指標及びADL自立との関係性を検討し,効果的なアプローチの方略を示す事である.
【対象】車椅子操作が可能な脳血管障害を伴う要介護高齢者で施設入所者11名,通所リハ利用者7名(平均年齢78歳)の18名とした.内訳は脳梗塞9例,脳出血8例,その他1例で全例発症から6ヶ月以上経過した症例であった.左片麻痺11例,右片麻痺7例で下肢運動麻痺の程度は中等度から軽度であった.なお,研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た.
【方法】1.車椅子操作能力課題(スラロームテスト)は,4m間隔の2つの目標物を8の字に回り開始点まで戻るテストで,左回り,右回り各々2回ずつ施行し所要時間を計測した.また,VTR撮影を行いすり抜ける際のパターンを記録した.2.身体機能評価課題として座位Functional Reach Test(以下,SFRT),30秒間手すり使用にて立ち上がり反復動作(以下,HSCS30)を施行した.SFRTは車椅子に座り肩関節屈曲90度の位置で指示棒(117cm)を壁面に対して持ち,体幹を前傾させ指示棒が縮んだ距離を5回測定した.また,FIMとエレベータ操作能力を評価した.3.分析は対象者をエレベータ操作能力の自立・非自立に分け,各項目の成績をMann-Whitney検定を行い,更に各因子間の相関分析を施行した.
【結果】1.エレベータ操作自立群(n=9)のスラロームテストの成績は平均39.0秒で,非自立群(n=9)の54.7秒に対して小さい傾向を示した.SFRTでは自立群38.2cm,非自立群34.2cm,HSCS30では自立群9.2回,非自立群9.7回と有意差は認めなかった.2.FIMとの相関分析では,スラロームテスト:-0.31,SFRT:0.23,HSCS30:0.32を示し互いにある程度の関連を示すが大きくはなかった.3.スラロームテストのすり抜けパターンでは,半側無視を呈する症例は患側に回る時に大きく軌道を逸脱する傾向が認められた.
【考察】歩行困難症例の車椅子操作能力を把握する為に一定の走路での評価が必要であるが,座位でのバランスや立ち上がり能力に比べ,スラロームテストの成績が施設内での車椅子自立に必要なエレベータ操作能力と関係があった事は,このテストの妥当性を示している.今後症例を重ね検討していきたい.
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