【目的】ヒトのバランス保持には身体位置変化についての感覚系からの継続的情報が重要である。バランス能力の評価・トレーニングとしては、支持基底面の状況を判断し、その改善を図る事が必要な要素である。開発された新型バランス機器(共和電業製、PCD-300A)は目標とする前後左右の重心位置を振動で対象者に自覚させる事が可能なシステムを有する。本研究では足底・腰部への振動刺激を用いて、自覚困難な重心位置の変化をリアルタイムで注意を促し、効率的にバランストレーニングを行うための本機器の有益性を検討した。
【対象】対象は脳血管障害後遺症による片麻痺患者で直立位が自立しており、本トレーニングを4週間以上継続可能であった4名(平均年齢63±2.6歳)とした。発症から本トレーニング開始までの平均日数は88±58.9日であった。対象者には実験内容について十分に説明し、同意を得た。
【方法】評価として(1)重心動揺計によるロンベルグ肢位での静止立位20秒間保持(2)重心動揺計によるロンベルグ肢位保持での前後左右への最大重心変位での20秒間直立保持(以下クロステスト:mm)(3)Timed Up and Go test(以下TUG:秒)、以上3項目とした。また(1)の分析項目としては軌跡長(mm)、実効値面積(mm
2)とし評価を週1回実施した。バランストレーニングの内容は(2)により評価した各4方向の最大値以上まで重心移動すると振動が生ずるよう設定し、振動が生じる位置まで各方向に重心移動するトレーニングを1回につき15分間、頻度は週に3回以上実施した。分析項目としては最大重心変位値(mm)とした。更に、バランストレーニングの振動刺激による影響を分析する目的で、最大変位での3秒間保持データ(平均最大変位値)と、検者が設定した最大値への近似性、平均最大変位値の変動係数(CV:%)をそれぞれ振動有無で比較した。
【結果】開始時から訓練4週経過した時点での4名の分析項目平均値は(1)による軌跡長で839.6 mmから801.6 mmへ、実効値面積で173.8 mm
2から140.0 mm
2へ、(2)によるクロステスト合計値では242.5 mmから315.0 mmへ、(3)TUGは11.1秒から10.0秒へと、3分析項目とも改善傾向を認めた。最大変位での3秒間保持での平均最大変位値は振動刺激有りで最大値が大きく、検者が設定した最大値に近似したのは振動刺激を用いて注意喚起した条件であり、その平均最大変位値の変動係数(CV:%)は2~6%と高い精度を維持した。
【考察】本機器による検査から直立位でのバランス能力の改善傾向が確認できた。また、振動刺激による持続的注意喚起を用いることにより自身の重心位置を正確に確認・制御が可能となり、動的条件下での支持基底面を改善するための効率的なバランストレーニング方法の本機器の有用性が示唆された。
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