(緒言)
令和2年の千葉県における高齢化率は27.0 % であり,歯科診療では医科疾患に罹患し服薬している高齢者の受診が多く,その情報をふまえて安全な歯科治療を行う必要がある.「高齢者の医薬品適正使用指針(各論編 療養環境別,2019年)」では,ポリファーマシーに対する多職種連携における歯科衛生士の役割は「口腔内環境や嚥下機能を確認し,薬剤を内服できるかどうか(剤形,服用方法),また薬物有害事象としての嚥下機能低下等の確認」と示されている.
千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会は,歯科衛生士の人材育成として,令和元年度から
歯科衛生学科
主催で開催している.第3回目の研修会として,医科疾患を有する高齢者の歯科診療補助に携わる歯科衛生士の人材育成を目的に2021年11月から4回開催した.
本研究では,研修会終了後に研修会の評価ならびに今後の希望テーマや要望等を明らかにする目的で質問紙調査を行った.質問紙調査結果から,今回実施した歯科衛生士研修会の振返りと,今後開催する研修会の在り方について検討した.
(研究方法)
研修会は,千葉県歯科衛生士会と千葉県立保健医療大学
歯科衛生学科
同窓会の協力を得て募集し(38名の参加者),計4回の研修会を開催した.研修会の内容は以下のとおりである.
第1回(2021年11月)「高齢者の歯科医療と摂食嚥下機能について」は,歯科医師(障害者歯科専門医)による高齢者歯科医療と高齢者の摂食嚥下機能の特徴についての講義
第2回(2021年12月)「歯科診療と薬剤,嚥下機能と医薬品との関連について」は,管理薬剤師による高齢者におけるポリファーマシーと嚥下機能と薬剤の関連についての講義
第3回(2022年1月)「病院歯科口腔外科における高齢者の歯科治療について ―歯科衛生士の役割―」は,病院歯科勤務歯科衛生士による高齢者に特化した病院歯科口腔外科における歯科診療補助と歯科衛生士の役割についての講義
第4回(2022年2月)「訪問診療における高齢者歯科診療について ―歯科衛生士の役割―」は,訪問診療所勤務歯科衛生士による高齢者の訪問歯科診療における歯科衛生士の役割についての講義
第4回目の研修会終了後に,参加者に対して郵送法による無記名,一部自記式多肢選択式質問紙調査を行った.質問紙調査項目は,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,研修会前後の振返り,今後の研修会で希望するテーマ,研修会に対する要望について調査した.
(結果)
本研修会はWeb 開催で実施し,各研修会の参加者数は23~26名であった.
質問紙調査では16名の回答を得た.本研修会全体の満足度は「とても満足」10名(62.5 %),「やや満足」4名(25.0 %)であった.研修会前後の変化について,「高齢者歯科医療の特徴」「高齢者の嚥下機能の特徴」「嚥下機能を低下する医薬品」「嚥下機能を改善する医薬品」「高齢者の医薬品適正使用に係る歯科衛生士の役割」の項目,特に後者2項目で研修会後の理解度が向上していた.また回答者すべてが次回の研修会への参加を希望していた.
本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2021-22)を得て実施した.
(考察)
医科疾患を有する高齢者は複数の薬剤を服用していることが多い.本研修会では,歯科医師の講演で高齢者の摂食嚥下機能の特徴が述べられ,管理薬剤師から摂食嚥下機能に影響する薬剤について講義があり,高齢者に特化した病院歯科口腔外科部や訪問診療所に勤務の歯科衛生士から高齢者歯科医療の実践について解説された.質問紙調査から,「高齢者の嚥下機能の特徴」「嚥下機能に影響を及ぼす医薬品」の項目で,研修会により理解度が向上し,歯科治療に来院する高齢者の嚥下機能の問題を内服状況からも考えるきっかけとなったことが推察された.本研究の実施で,高齢者の医薬品適正使用に係る歯科衛生士の役割に関する情報を提供できたと考えられた.
(利益相反)
本研究に関連し開示すべき利益相反関係にある企業などははい.
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