国際貿易の促進に起因する問題の一つが,農産物の輸出入の規制緩和による国内に及ぼす影響である。1980年代以降の日本における農産物貿易では,関税の引き下げや撤廃等によって輸入が増加し,国内の産地や農業は大きな影響を受けてきた。そこでは食料自給率の低下や農産物の価格競争などが注目されてきたが,長期的には知的財産や知的資産の側面にも注目する必要がある。各産地に問題が発生するプロセスと産地間で連鎖するメカニズム,波及的な影響の可能性をとらえることが求められる。
産地の中には輸出産業の一翼を担っていた農業から,規制緩和を契機に国内市場向けへ集中し,その後に品目や作物を転換した産地が存在する。本研究では,産地組織と農業経営体の生産流通過程に対し,
生産財
(種苗・球根類)の輸入規制緩和がどのように影響を及ぼしてきたのかについて,規制緩和前後の市場,産地,経営の構造変化に着目して明らかにした。
ユリ産業を事例として,球根を
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,切花を消費財と位置づけて,各々の生産流通に関する統計資料をもとに,新品種開発,輸出入動向,産地変動,流通変化を分析した。調査地に奄美群島の沖永良部島(鹿児島県和泊町・知名町)を選定した。
グローバル化の一環である輸入規制緩和の影響は,市場,産地,経営の各側面で地域差をともないながら構造的に変遷し,知的資産(品種開発,栽培知識,栽培技術)の存続にも及んでいる。それは,
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(ユリ球根)産地と消費財(ユリ切花)産地の成立条件によって時間的・空間的に異なる。その中でも自然環境と伝統文化を基盤に長期にわたって成立してきた
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産地ほど社会的損失も大きくなる可能性がある。規制緩和によって農産物輸入を促進する際には,国内産地の成立条件を踏まえた政策展開が求められる。とくに
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産地と品種開発産地に対しては,知的資産を保護する支援策も同時におこなう必要性があることが示唆された。
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