リポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の低下により高脂血症をきたした多発性筋炎で, LPLの低下が筋病変に基づくと思われた症例を報告する.患者は50才の男性.健診にて,軽度の高トリグリセライド(TG)血症を指摘されていたが,昭和56年11月にTG 1162mg/dl, CPK 3905U/
lと高値を呈し,昭和57年2月頃から下肢の脱力が始まり, 4月には上肢の脱力も加わつてきたために入院となった.身長160cm,体重54kg.四肢近位筋の筋力低下以外には神経所見に異常はなく,肝脾腫や皮疹も認められなかつた.入院後の検査では,血清TG値が472mg/dlと中等度に上昇していたが,コレステロール値は正常であつた. CPK, aldolase, myoglobin, LDH, GOT, GPTの上昇が認められたが,血清電解質は正常,甲状腺機能にも異常は認められなかつた.筋電図上,筋原性の変化が認められ,筋生検の結果,多発性筋炎と診断された.血清脂質分析では, TG-richリポ蛋白の増加を認め,ヘパリン静注後のLPLは2.3μmole FFA/ml-h (6.4±2.1)と著明に低下していた. LPLの低下は, activatorの不足やinhibitorの存在によるものではなく, LPLそのものの低下によると考えられたために,大腿直筋中のLPL活性を直接測定したところ,対照に比して著明に低下していた.これらの結果から,本患者では,筋由来のLPLの低下が,高脂血症の成因に関与していたものと考えられた.脂質代謝に果たす骨格筋組織の役割を示唆する貴重な症例である.
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