チビサラグモは主にスギ林床に生息し、リター上に造網するクモである。本研究は、個体群と局所という2つの階層レベルで生じているプロセスに注目し、チビサラグモの個体群密度の決定機構を明らかにすることを目的とした。まず、野外の15個体群を対象に、局所レベルでの個体数とその制限要因(造網に必要な
足場
の量、以下
足場
量)との関係性を調査した。その結果、多くの個体群で局所レベルにおける個体数と
足場
量との間に正の関係があったが、
足場量が多い個体群ほど局所レベルでの足場
量当りの個体数が多いことが明らかになった。このシステムでは、以下の2つのプロセスが密度決定に関与していると考えられた。1)
足場
量が多い個体群では、造網場所移動時の死亡率が低くなることで高密度になる、2)それが局所レベルでの
足場
をめぐる競争を強め、密度を低下させる。 これらの仮説を検証するため、まず広範囲での
足場
量を操作したエンクロージャー実験を行った。その結果、
足場
量が多いエンクロージャーほど、クモの死亡率が低くなることが示された。また以下の2つの野外実験から、
足場
量が多い個体群ほど、密度依存的な死亡が高くなることが示された。1つめの実験では自然個体群でクモ除去区を設け、除去区への移入率から移動頻度を推定したところ、
足場
量が多い個体群ほどクモの移動頻度が高いことがわかった。次に、
足場
量を等しくしたエンクロージャーでクモの移動頻度を操作する実験を行ったところ、高い移動頻度は死亡率を高めることがわかった。以上のことから、個体群レベルでの
足場
量増加→移動時の死亡率低下による個体群レベルでの高密度化→局所レベルでの高密度化による
足場
競争の強化→個体群レベルでの密度の低下、という2つの階層間で生じる一連のプロセスにより、個体群密度が決定されていることが示唆された。
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