佐賀市北東部のカササギ生息地において,カササギの
電柱営巣の実態と電柱
に対する選好性について調査を行った.
電柱
営巣は最近増加傾向にあり,完成巣に占める
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巣の割合は1991年の41%に対して,1994年は55%であった。この傾向はカササギの分布域の広い範囲でみられている。
1991年と1993年にカササギの営巣場所選択の調査を行った.任意に巣を選び出し,巣を中心に100m以内にある高さ5m以上の樹木と
電柱
や鉄塔などの人工構造物のうち巣に近い方から10ヶ所の営巣可能場所を記録した.選び出した106巣について,記録した営巣可能場所を合計し,
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(20%)と樹木(80%)の割合を求めた.これらの値を両年の全完成巣に乗じた値をランダム営巣を仮定した場合の期待値とした.
電柱巣の割合は巣周辺の営巣可能場所に占める電柱
の割合に応じてランダムに選ばれるという仮定から期待されるよりも有意に大きかった(
電柱
巣 : 樹木巣=47% : 53% ;
X2=204.7,
df=1,
P<0.0001).また,各巣について,周辺の営巣可能場所のうち樹木と
電柱
の両営巣場所タイプのどちらか数の少ない方のタイプに営巣していた場合を,「選好された」と仮定して,各タイプの巣毎に「選好された」場合の比率を計算した.
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の巣では30巣中19巣が「選好」にあたっていたが,樹木巣では76巣中7巣のみであった(
X2=31.18,
df=1,
P<0.001).どちらの結果も,カササギがランダム営巣を仮定した場合よりも
電柱
に営巣する傾向が高いことを示していた.しかし,繁殖に失敗した場合のやり直し営巣では,
電柱
に営巣した番の79%が樹木に転換し,一方,樹木に営巣していた番では28%のみが
電柱
に換わった.その結果,やり直し営巣では
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巣の割合はやり直し巣全体の(67巣)の25%に減少した(1992年~1994年のデータ).この値は利用可能な営巣場所に占める
電柱
の割合に近く,ランダムな営巣場所選択を示唆している.
作りかけのまま放棄される巣は樹木巣(全樹木巣の34%;1992年~1994年のデータ)の方で多く,
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巣(24%)では少なかった(
X2=6.08,
df=1,
P<0,05).これは,樹木を選んだ番は最終的に一つの巣が完成するまでに,いくつかの樹木へ巣材を運ぶのに対して,
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巣では造巣が開始されると他の場所へ巣材を運ぶことが少ないことを示唆している.
少なくとも1個体のヒナを巣立たせ巣の割合は
電柱
巣(284巣中72巣;1992年~1994年のデータ)の方が樹木巣(288巣中38巣)よりも有意に大きかった(
X2=12.84,
df=1,
P<0.001).このことから,
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に営巣した方が繁殖成功が高いといえる.この地域の繁殖失敗の主原因は捕食で,繁殖失敗の80%以上を占める(EGUCHI 1995).
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巣では樹木巣に比べて捕食が少ないことが繁殖成功の違いの理由であると思われる.また,
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巣は樹木巣に比べて非常に目立つことから,巣の隠蔽度が営巣場所の選択や繁殖成功にそれほど影響していないことを示唆している,
電柱
営巣はカササギの分布域の広い範囲で増加傾向にあり,分布域自体も最近では拡大の傾向にある.
電柱
営巣は,樹木の少ない地域や宅地開発のため森林が開かれた地域へのカササギの進出を可能とし,分布域を拡大する原因の一つになったものと考えられる.
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