1.研究背景と研究目的
東日本大
震災
発生後,
震災
の記憶の継承を目的に,津波被害を受けた建築物などの「
震災
遺構」を,保存する機運が高まり,岩手・宮城・福島の3県で33件が保存された(西坂・古谷2018).そして,
震災
遺構を生かしたツーリズムの試みが各地で行われている.しかし,佐々木・山本(2017)は,来訪者は
震災
遺構から意識変化を得る一方で,地域の賑わいや活気を感じておらず,
震災
遺構が観光振興の阻害要因となりうると指摘した.一方,井出(2016)は
震災
遺構の保存により,未来に教訓が残されると主張している.
震災
遺構は従来の観光施設とは異なる性格を持つことが考えられるが,
震災
遺構がツーリズムにもたらす機能や効果に関する研究蓄積は乏しい.そこで,本研究では,宮城県仙台市の
震災
遺構荒浜小学校を事例に,来訪者へのアンケート調査から,
震災
遺構の有する機能や効果を明らかにすることで,新たなツーリズムの課題を検討する.
2.調査方法と調査結果
震災
遺構の有する機能や効果を明らかにするために,荒浜小学校4階廊下で2018年9月に対面式のアンケートを実施した.この結果,73件の有効回答を得た.回答者の性別構成は男性72.6%,女性27.4%で,年齢構成は,男女ともに40歳代が最多で男性の42.5%,女性は45.0%を占めた.回答者の居住地は宮城県が最多の33.3%を占めたが,関東地方各県の合計も37.5%に達した.
震災
遺構を来訪したことへの満足度を5段階で問う質問で,来訪者の94.3%は,「大変満足している」と回答した.また,来訪者の自由記述からは,
震災
遺構の訪問が災害に対する意識変化に結び付いたことが読み取れた.このことは,
震災
遺構が災害や防災に関する「意識変化を得る場」として機能し,従来のツーリズムで重視された気晴らしや楽しみではなく,災害や防災に対する「意識変化」を得る新たなツーリズムの姿を示している.さらに来訪者の91.6%は
震災
遺構の再訪に,80.3%は他の
震災
遺構の訪間に意欲を示した.このことから,
震災
遺構を拠点としたツーリズムには,地域振興や防災教育などの新たな可能性があることが示唆された.
3.
震災
遺構の「ツーリズム化」への課題
しかし,災害で人命が失われた「負の記憶」を持つ
震災
遺構の「ツーリズム化」には,住民からの抵抗や不安という課題に向き合う必要がある.津波や復興事業の進捗により,かつての地域の姿が失われたなかで,住民ガイドの解説や語り部,映像展示などから来訪者が地域に思いを寄せ,地域から防災を学ぶ仕組みの構築が求められる.
文献
井出明2016.
震災
遺構の多面的価値−モノとココロを承継する.建築雑誌131-1689:44-45
佐々木薫子・山本清龍2017.石巻市における東日本大
震災
後のダークツーリズムの実態と課題.第32回日本観光研究学会全国大会学術論文集341-344
西坂涼・古谷勝則2018.東日本大
震災による震災
遺構の保存実態−東北3県沿岸部を対象に−.日本建築学会大会学術梗概集(東北)253-254
抄録全体を表示