【講演者の紹介】
松野 正幸(まつの まさゆき):静岡県工業技術研究所 食品科 上席研究員
略歴:2008年名古屋大学工学研究科博士前期課程修了,同年静岡県に入庁(工業技術研究所). 2015年から現所属.2025年静岡県立大学大学院にて、学位(食品栄養科学)を取得.
研究分野:食品加工学、タンパク質科学.
昨今、世界的なSDGsへの意識の高まりから、動物性タンパク質源に代わる植物性代替タンパク質食品の需要が高まっている。植物性タンパク質源として国内で最も広く普及している大豆は、そのタンパク質含有量の高さや加工用途の広さで注目を浴びている。静岡県においても県内メーカと県農林技術研究所が協力し、ヨーグルト様の発酵豆乳食品を開発・上市するなど、大豆の可能性を広げる取組が行われている。
非加熱豆乳(生豆乳)を凍結融解すると、上清と沈殿に分離し、各層に異なるタンパク質が含まれるといったタンパク質の分画手法が先行研究で報告されている。それぞれの層を凝固させると、上清は滑らかな食感、沈殿は硬い食感を有する1)。この手法を活用した新たな食品の開発には、風味を調整した上で凍結融解した場合の分画能に関する知見が必要になる。また豆乳の製品化においては、加工時の加熱濃縮により凝集・固化しやすいという課題があり、これを制御できる技術開発が求められている。本研究では、豆乳加工技術の向上を目指し、生豆乳の凍結融解による分画現象に与える添加物の影響及び生豆乳濃縮時の凝集・固化現象におけるアミノ酸添加の影響について研究を行った。
凍結融解については、生豆乳のpHや食塩添加濃度の条件を検討し、分画の境界条件を明らかにした。またpHや食塩添加した生豆乳の物性を評価した結果、pHと食塩濃度が異なる条件であっても、ゼータ電位が一定範囲内にあると分画が可能であることが示された。この結果から、生豆乳タンパク質の分画可能領域をゼータ電位というマクロな指標で予測できることが明らかとなり、凍結融解を経ずとも生豆乳の分画能を推定できる技術を開発した2)。
アミノ酸を添加した生豆乳の濃縮については、タンパク質の変性抑制効果が報告されているアルギニンを、生豆乳に添加して濃縮したところ、無添加の生豆乳や他のアミノ酸を添加した生豆乳を濃縮した場合に比べて、粘度上昇を抑制できることを見出した。
本研究で得られた技術及び知見は、分画した上清を使ったプリン様食品や、沈殿を使ったウインナー様食品の開発及び豆乳の濃縮加工技術向上への応用が期待される。また、食品品質サポート社と静岡県農林技術研究所が共同開発した「浜名湖丸ごと発酵大豆グルト」(ヨーグルト様豆乳食品)をはじめ、静岡県内の企業が研究開発を行う豆乳関連食品について支援を行っている。
最後に、本研究は静岡県立大学 下山田真 教授 及び 村上和弥 助教、実践女子大学 守田和弘 准教授と共同で実施した成果であり、この場を借りて感謝を申し上げる。
1)守田和弘ら, 「凍結解凍処理による豆乳中7S・11Sグロブリンの簡易分画技術」, 日本食品科学工学会誌, 58, 8, 392-397 (2011).
2)Masayuki Matsuno et al, "Effect of pH and salt concentration on freeze-thaw fractionation of soymilk protein, Journal of the Science of Food and Agriculture, 104, 7, 4363-4370, (2024)