日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムB2: 生理活性を有する食品中匂い物質の分析とその興味深い機能特性研究
紅茶に特徴的な香気成分の分析およびHotrienolの機能性探索
*鈴木 萌人
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p. 30-

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抄録

【講演者の紹介】

鈴木萌人(すずきもえと) 所属:三井農林(株) R&D本部 基礎開発部 機能性開発室

略歴:三重大学生物資源学部卒業.2020年 三井農林(株)入社.基礎開発部にて香気成分の分析および機能性研究に従事.

茶はチャノキ(Camellia sinensis)から加工・製造される飲料であり,製法の違いにより緑茶,烏龍茶,紅茶などに分類される.茶に含まれる香気成分は740種類以上が存在し,多種多様な香気成分が複雑に組み合わさることで各種茶の特有の香りは生み出される.中でも紅茶は世界中で広く親しまれているが,香気成分の組成は生産地によって異なり,産地特有の香味を特徴づける要因となっている.紅茶の多様な香気特徴は,単に止渇や栄養摂取の機能以外にも,嗜好品として心理的な充足感をもたらす役割を果たしている.一方,紅茶の香気がもたらす生理機能については,これまで十分に解明されていない.本講演では,紅茶の香気成分であるhotrienolの生理的機能に関する筆者らの研究を紹介する.

 「紅茶のシャンパン」と称されるダージリン紅茶(以下,DT)は高品質な紅茶として知られ,特徴的なマスカテルフレーバーで人気を博している.筆者らは非RCTの臨床試験を行い,DTの香気を経鼻吸入した際の心理・生理的作用を検証した.その結果,心理的作用では抑うつ・不安感が低下し,生理的作用では脳血流低下,瞳孔縮瞳率の増加および末梢皮膚温の上昇が認められた.これらの結果から,DTの香気には中枢神経活動を鎮静化し,副交感神経活動を賦活化させる作用があることが示唆された.また,GCMS(SPME法)によりDTの香気成分を解析した結果,他の産地に比べhotrienolが多く含まれることを見出した.このhotrienolの生理作用を評価するため,紅茶飲用時と同様に,経口摂取によるレトロネーザル経路を介した嗅覚刺激の影響を検証した.DT一杯相当のhotrienol(0.03mg)を含有するタブレット錠を作製し,1日4錠(hotrienol 0.12mg)を2週間継続摂取した際の睡眠への影響を調査するため,睡眠に不満を感じている健常男女44名を対象としたランダム化二重盲検クロスオーバー試験により,主要評価項目:OSA睡眠調査票およびPSQI質問票,副次評価項目:活動量,唾液成分濃度(CgA, オキシトシン,S-IgA,コルチゾール)を測定した.解析適格基準を満たした33名について解析した結果,プラセボ群と比較し被験群では,因子Ⅱ(入眠と睡眠維持)が増加し,PSQI総合得点の減少が認められた.また,活動量データの解析では,睡眠変数のうち入眠潜時,離床潜時および中途覚醒時間が減少し,睡眠効率は増加した.一方,OSA因子Ⅰ(起床時睡眠),Ⅲ(夢見),Ⅳ(疲労回復),Ⅴ(睡眠時間),および睡眠変数の中途覚醒回数,総睡眠時間,姿勢変更回数では変化は認められなかった.これらの結果から,hotrienolの2週間の経口摂取は,睡眠の質を改善するのに役立つ可能性が示唆された.また,ストレスバイオマーカーへの影響も探索的に検証したところ,単回摂取では唾液中のs-IgAおよびオキシトシン濃度が増加し,2週間の長期摂取では高ストレス群(SCL 11-20点)においてコルチゾール濃度が低下した.以上のことから,hotrienolによる睡眠の質を改善する作用は,嗅覚刺激を介した中枢-自律神経系および内分泌系への生理的機能が関係していると考えられた.ただし,今回紹介した臨床研究は症例数が少なく,統計的多重性の限界から結果が限定的である.今後,臨床研究の報告が蓄積されることで,hotrienolの機能性についてさらなる解明が期待される.

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