抄録
2002年4月に「『外邦図』の基礎的研究: その集成と地域環境資料としての評価をめざして」と題する科研費(基盤A)が採択され、第2次大戦終結までに日本軍が作製したアジア太平洋地域の地図の本格的研究が開始されて、すでに2年半が経過しようとしている。当初、(1)外邦図の所在確認と主要コレクションの目録作製、(2)残存する外邦図の来歴の究明、(3)外邦図の作製過程へのアプローチ、(4)外邦図の今後の研究への活用、という4つの研究課題を設定した。以下では、これらの達成状況を点検しつつ、今後の課題を考えてみたい。なお、文中の”NL”は上記研究の中間報告書『外邦図研究ニューズレター』を示す。1.所在確認と目録作成 まず、国内の主要コレクションの所在および系統関係の概要をあきらかにすることができた。これには、浅井辰郎先生作製の克明な記録が大きな意義をもった(久武,NL1)。他方国外については、アメリカとイギリスで所在確認をおこない、概要を把握した(今里・久武、長谷川,NL1)。またこの作業の際、米議会図書館で日本軍撮影と考えられる空中写真を発見し、その画像をスキャンしてもちかえった(今里・長澤・久武,NL2)。なお、外邦図は米・英のほか、カナダの大学についても所蔵情報があり、旧ソ連の関係機関にも確実にあると考えられる。 他方目録作製は、作業が進んでいた東北大(渡辺信,NL1)について刊行がおわり(『東北大学所蔵外邦図目録』2003年3月)、京都大総合博物館所蔵分も目録が完成し(山村,NL2)、解説・凡例をつけくわえて刊行する予定である。また国土地理院所蔵の『国外地図目録』・『国外地図一覧図』(長岡,NL2)のPDFファイル化・画像ファイル化を終了している。今後は、作業中のお茶水女子大所蔵分の目録の刊行が期待される。2.来歴の究明 今日国内各大学に所蔵されている外邦図は、終戦直後に参謀本部より持ちだされたもので、その作業に従事した中野尊正都立大名誉教授・三井嘉都夫法政大名誉教授の証言をうかがった(NL2)。渡辺正元参謀によって組織された「兵要地理調査研究会」を契機にできた、地理学者と軍人の関係がこの持ち出しの大きな契機となった(金窪,NL2)。現在、渡辺元参謀の所蔵資料の刊行にむけて編集作業をはじめている。今後は海外所在外邦図の来歴の検討が要請される。3.作製過程 終戦とともに多くの資料が焼却され、困難を極めると予想されたが、海図について概要が判明した (坂戸,NL2) ほか、本シンポジウムの谷屋報告(朝鮮半島)、牛越報告(秘密測量)、田中報告(第2次大戦中の現地部隊の地図作製)によって、他の地図についてもアプローチできる可能性があることが明確となった。また、旧日本軍による中国(民國)製地図の複製に関連して、日本_-_中国間の地図作製技術の移転(渡辺理・小林,NL2)も注目される。4.外邦図の活用 すでに石原(NL1)、田村(NL1)によって利用例が示されているが、米議会図書館所蔵空中写真の標定が一部成功し、衛星写真との比較対照作業に着手できたこと(長澤・今里・渡辺報告)は、この地域の土地利用・土地被覆の変化(Land Use/Cover Changes)研究への貢献の可能性を示唆している。外邦図のなかには、空中写真によって作製された図もすくなからずみとめられ、今後その探索がもとめられている。また外邦図の保存(源,NL2)にくわえ、内外の研究者による閲覧・利用についても検討が必要で、岐阜県立図書館世界分布図センターの役割が大きい。文献外邦図研究グループ(2003)『外邦図研究ニュースレター』1, 大阪大学人文地理学教室, 52p.外邦図研究グループ(2004)『外邦図研究ニューズレター』2, 大阪大学人文地理学教室, 85p.