日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P104
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発表要旨
沖永良部島中学生へのアンケート調査からみた島立ちと郷土の認識
*永迫 俊郎
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抄録
はじめに  鹿児島大は国立大学法人が掲げる3つの機能のうち地域の拠点を選択し,平成26年度から5年間にわたりCOC事業を行っている.地域を主要な関心事とする地理学の立場から,演者も本学のCOCに加わるなかで,‘島立ち’の重要性に気付いた.ジッキョヌホーと清水の湧水の比較検討をした永迫(2017)では,沖永良部では島を一度離れることで故郷を客観視できてその素晴らしさを実感できるのに対し,川辺では鹿児島市に比べると不便などこにでもあるような田舎としてしか捉えられないことを指摘した.墓正月の調査でお世話になった今井力夫氏(前知名中学校校長;現知名町長)にご協力いただき,2017年3月上旬に中学生対象に「故郷(沖永良部島・校区・字)との関わりについてのアンケート」を行う好機を得た.平成29年度前期の在外研修をはさみ迅速に取りまとめできなかった点ならびにアンケート内容の吟味が不十分であった点を反省しつつも,今後の研究展開の萌芽が幾つも見受けられるため,集計結果と意義をポスターにて報告する.

アンケート調査  「私たちは身近な地域から自治体・国さらに大きく地球や宇宙まで,世界を認識しながら生きています.そうした世界認識の基準となっているのは,自分の故郷ならびにこれまでの経験です.地域や世界像を研究対象とする地理学からのアンケートに,ご協力のほどお願いいたします.」と前置きしたA3用紙1枚を全校生徒に配付してもらい,1年1組18枚,1年2組20枚,2年1組22枚,2年2組23枚,3年1組23枚,3年2組21枚の合計127枚を回収した.
 知名町立中学校には,知名小学校と下平川小学校の校区からなる知名中学校と,田皆小学校・上城小学校・住吉小学校からなる田皆中学校の2校がある.まずアンケートの冒頭で,出身小学校と沖永良部島居住歴を尋ね,選択式9と自由記述4の計13問に回答してもらった.
 出身小の比率:知名小―下平川小は,1年50.0%-44.7%,2年71.1%-22.2%,3年63.6%-27.3%と学年によってかなりの変動がある.誕生以降ずっと島に居住する生徒は,1年65.8%,2年75.6%,3年77.3%と高く,極端に居住歴の浅い生徒は親の転勤に伴うものと解釈可能である.
 どの階層で故郷を捉えているか問うた(1)の回答は,<1>沖永良部島64.6%,<2>鹿児島県10.2%,<3>知名町9.4%,<4>日本8.7%の順で,最も身近な地域である字/集落名は3.1%に過ぎなかった.選択肢から一つを選ぶのではなく,「人による」と明記し,字<知名の人>,知名町<えらぶの人>,沖永良部島<かごしま本土>,鹿児島県<日本人>,日本<外国人>と括弧書きした3年生の答えは正に完璧で度肝を抜かれた.いつ島立ちするかを尋ねた(6)では,<1>大学/専門学校入学の時44.5%,<2>高校入学の時32.7%,<3>就職の時18.1%,<4>島を離れるつもりはない4.7%の順で,実際に平成28年3月卒業の3年生46名中14名が島外に出て,それ以外の生徒は一島一校の県立沖永良部高等学校(沖高)に進学した.
 島へのUターン希望時期(10)は,<1>10-20年後33.1%,<2>仕事を定年退職してから28.3%,<3>Uターンしない22.8%,<4>島で就職できたらすぐに15.7%となった.あなたと島を結びつけているもので最も強力だと思うのはどれかを問うた(11)では,<1>家族53.9%,<2>友だち21.7%,<3>自然16.5%と続き,土地や墓は低調だった.他の項目や学年による差異などはポスターで詳述する.

議論  「あなたにとって故郷はどんな存在ですか?」との自由記述の問題(12)に対して,「ぼくのアイデンティティーを育んでくれた場所であり,家族・友達・地域の人などぼくを支えてくれる人がいるところ,またどうしても帰りたくなるところです」と書いた3年生がいた.自分の中3時代を振り返ってみて,こうした適確な返答ができたはずがない.優秀さの決定的な相違もさることながら,境遇の違いが最大の要因と思われる.島民のほとんどが一度は島立ちしていることや,沖永良部出身者の郷土会である沖洲会などに接してきた経験が,故郷の相対化さらに世界認識の基準となる故郷と自己の関係性への考究に繋がるのであろう.
 沖高だけとはいえ島内で高校進学できる沖永良部島と違って,中学卒業段階で必ず島立ちを迎える甑島のような離島もある.人口減少社会に相応しい地域のあり様や地方創世といった大命題への突破口が,鹿児島県内での比較研究に潜んでいると予見させられた中学生対象アンケート調査であった.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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