抄録
【はじめに】理学療法の対象となる関節炎疾患では、温熱療法を中心に種々の物理療法が行われているが、その効果は一時的であるとの見解である。今回は、関節炎に対する温熱刺激の継続的施行効果を調べることを目的に、痛みと浮腫に注目し調べた。
【対象と方法】対象は、SDラット35匹(7週令)で、左後肢足関節内にFreundの完全アジュバントを接種した。接種後、関節炎が実験的に作成できたと判断された時点から温熱刺激を開始し2週間行った(温熱群18匹)。また、温熱刺激を与えなかったラット17匹をコントロール群とした。関節炎発症の判断基準は、アジュバント接種1から2日後に起こる急性炎症の後に、足容積が前日と比べて2日間続けて増加することとした。温熱方法は1日1回20分間、足部を2cmの深さの湯に毎日つけた。湯の温度は文献を参考にして、40±0.5℃とした。温熱刺激効果の評価は、足容積及び機械刺激に対する逃避反応の程度とし、温熱刺激終了から30分、2時間、24時間およびそれ以降毎日2週間行った。足容積はボリュームーターで測定し、機械刺激はVon Frey-Hair Test(触・痛覚刺激)とRandall-Selitto Test(圧刺激)を行い、それぞれ経時的変化を観察した。
【結果】アジュバント接種1から2日後、接種肢には足容積の増加と疼痛閾値の低下がみられた。その後、一時的に回復したものの、7から10日後再び足容積は増加し疼痛閾値は低下した。また、非接種肢においても左後肢ほどではなかったが同様に足容積の増加および疼痛閾値の低下がみられた。接種肢の足容積は温熱刺激30分後も継続期間中も影響を受けなかったが、非接種側では温熱開始7日目から温熱群のほうがコントロール群に比べて有意に減少した(p<0.05)。機械的な刺激に対する疼痛の程度は温熱刺激の影響を受けなかった。
【考察】足容積の増加と疼痛閾値の低下から慢性の関節炎モデルラットが実験的に作成できたと考えられた。また非接種肢でも軽度の浮腫と疼痛閾値の低下が観察されたが、反対側にも影響があることは先行研究結果と同じであった。温熱刺激は接種肢に直接及ぼす影響はすくなかったものの、2次的に引き起こされた反対側の浮腫には長期的な温熱施行で効果がみられた。このことから関節炎疾患に継続的に温熱療法を行うことは浮腫の軽減につながることが期待された。機械的刺激に対する反応は予想に反して温熱刺激に影響されなかった。今回は機械的刺激による反応を皮膚において評価したが、関節炎によって引き起こされる深部痛をどの程度反映しているのかについては今後検討が必要である。また、浮腫軽減のメカニズムやそれに伴う関節可動域への影響について生化学的・形態学的手法を用いて確認していきたい。