理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-074
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ポスター発表(一般)
距骨下関節回外誘導が歩行時の身体重心位置・床反力各成分に及ぼす影響
吉塚 久記中村 朋博吉住 浩平
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抄録
【目的】
臨床では立位にて下腿外旋・距骨下関節回外(踵骨内反)を伴う症例を多く経験する。その様な症例の歩行では、荷重応答期(LR)に膝関節の衝撃緩和作用を持つ距骨下関節回内が制限され、立脚中期(MS)に移行する段階での重心側方動揺を招き、体幹・骨盤・股関節など個人特有の多様な代償戦略が見受けられる。しかし、距骨下関節回内制限に関する三次元歩行解析の報告はまだ少ない。
そこで、本研究では臨床歩行分析の一助とする事を目的に、距骨下関節回内が制限された状態の歩行では身体重心制御の戦略が上方へ如何に波及するのか、身体重心位置(COG)と床反力(FRF)各成分の変化を分析する事とした。
【方法】
対象は神経学的及び整形外科学的既往の無い健常男子大学生14名(平均年齢20.8±0.7歳、身長169.6±3.7cm、体重61.0±7.2kg)。
計測は臨床歩行分析研究会推奨DIFF15に準拠したマーカを貼付し、三次元動作解析システム(VICON MOTION SYSTEM社製VICON MX・AMTI社製床反力計)をサンプリング周波数100Hzで用い、自由歩行(条件1)・利き足側距骨下関節回外位テーピング固定条件歩行(条件2)を無作為な順序にて各々3回解析した。尚、距骨下関節の人為的位置変化は川野の扇型スパイラル法を改編して使用し、非伸縮性ホワイトテープにて利き足側を回外位で固定した。ただし、距腿関節底背屈には制限を与えないように配慮した。
比較項目は、利き足側立脚期時間、その際のCOG移動量(上下・左右方向)、FRF(鉛直・進行・左右方向成分)ピーク値とピーク時間、積分値及び平均力。FRFの値は体重で除して正規化した。統計学的分析には対応のあるt検定を用い、危険率は5%未満とした。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言を遵守し、14名全ての被検者に研究目的及び計測方法を説明後、紙面にて研究参加に対する同意を得た。
【結果】
立脚期全体の時間に差はみられなかったが、FRF鉛直方向成分のピーク時間で有意差を認めた。2条件共にFRF鉛直成分は一般的な谷により分割された二峰性の波形であり、1つ目の山(F1)・谷(F2)・2つ目の山(F3)を示し、F1時間・F3時間の2項目で有意差がみられた。F1時間はICを、F3時間はF2時間を起点に算出した。F3時間に関してはIC起点の算出では差がみられなかった。F1時間は0.123±0.017秒(条件1)、0.137±0.022秒(条件2)であり回外条件で延長した。またF3時間は、0.199±0.031秒(条件1)、0.179±0.023秒(条件2)であり回外条件で短縮を示した。また、各々の総立脚期時間で除して正規化した値でも、F1時間は20.23±2.22%(条件1)、22.41±2.99%(条件2)、F3時間は32.77±4.90%(条件1)、29.38±3.47%(条件2)であり、共に有意差を認めた。
その他、COG移動量、FRFピーク値・積分値・平均力では有意差はみられなかった。
【考察】
FRF鉛直成分が描く二峰性の平滑線は、F1をLRの峰、F2をMSの谷、F3を立脚終期(TSt)の峰だと解釈できる為、今回の結果にて、IC~LR移行時間が回外誘導にて延長した事、及びMS~TSt移行時間が回外誘導で短縮した事を示唆した。LR移行時間に関しては、田畠らの足底板を用いた先行研究報告と同様の結果であった。
通常歩行立脚期の距骨下関節の運動は、IC~LRに回内、LR~回外し、肢位としては、IC時に軽度回外位、IC直後に回内外中間位、TSt直前までは回内位、TStで再度回内外中間位となり、それ以降は回外位を呈すとされている。今回、回外誘導条件にて、通常回内運動を生じるIC~LRで時間延長、通常回外運動を生じるMS~TStでは時間短縮していた。
LR移行期には踵骨が脛骨軸よりも外側に位置する為、受動的に踵骨外反に伴う距骨の内旋と脛骨の内旋を生じるが、回外誘導条件ではそれらが制限され、可動性のある調節器としての機能が破綻し、前足部への荷重準備が阻害された結果、時間の延長が生じたと考える。
また、TSt移行期ではLR移行期と相反する時間短縮が起きた結果、立脚期全体での時間には有意差を認めず、歩行リズムの整合性を保っていた。これは、回内可動域制限による回外位への移動量削減と、身体上部の個人特有の様々な代償戦略に起因するものと解釈した。
回内制限ではIC時の緩衝作用が破綻し、距骨頭への過負荷も予測したが、膝の衝撃を示すIC直後のFRF進行方向駆動成分、また左右方向内反積分値では差がみられなかった。COG位置変化にも有意差を認めなかった事から、下腿外反外旋に起因する緩衝破綻への代償的戦略は膝関節・股関節・骨盤・体幹など多因子が関与しており、その対応は個人各々である印象を受けた。
【理学療法学研究としての意義】
LR及びTSt移行時間に有意差を認めた事から、下肢筋群仕事量変化の可能性も考えられる。今後、代償戦略の個人特性、特定部位の活動量変化なども視野に入れた追跡研究を検討したい。
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© 2011 日本理学療法士協会
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