抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者の亢進した足関節の硬さに対し理学療法ではストレッチが行われてきたが、歩行に対し一定の治療効果を得られていない。この原因の一つとして、近年、片麻痺患者が足関節の硬さを利用し歩行の推進力となり得るプッシュオフを行なっているとの報告があり、必ずしも足関節の硬さが歩行に悪影響を及していない可能性がある。これまで歩行中の足関節の硬さは動作解析装置を用いて立脚期で足関節が背屈する区間で解析が行われてきた。しかし、この区間は性質が異なる両脚支持期と単脚支持期を含み、各位相での歩行中の足関節の硬さについて解析が不十分である。単脚支持期や後半の両脚支持期で足関節の背屈が最終域となる相は足関節底屈パワーが最大発揮される直前の相でもあり、歩行中における足関節の硬さを解析する上で重要な歩行位相と考えられる。本研究では、健常者と脳卒中片麻痺患者を対象に立脚期の足関節が背屈する区間で前半の両脚支持期とそれに続く単脚支持期以降の相における足関節の硬さの違いと各足関節の硬さと歩行パラメーターとの関連を調べることを目的とする。【方法】 脳卒中片麻痺患者12名、健常者10名を対象とし、3次元動作解析装置を用いて7mの歩行の測定を行った。足関節の角度とモーメントの値から両脚支持期と単脚支持期と後半の両脚支持期を含んだ単脚支持期以降の相における歩行中の矢状面における足関節背屈の硬さを解析し、その他に最大足関節パワーとモーメント及び歩行速度、歩行の距離時間因子を求めた。両脚支持期と単脚支持期以降の相、及び片麻痺患者の麻痺側と健常者における足関節の硬さの違いについて反復測定による2元配置分散分析と対応のあるt検定を用い調べた。また、単脚支持期以降の相と両脚支持期における足関節の硬さとその他のパラメーターとの相関について麻痺側下肢、健常者右下肢の各群でPearsonの積率相関係数を用い調べた。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に対し測定前に研究の主旨を説明し同意を得た。本研究計画は東北大学医学部・医学系研究科倫理委員会にて承認され実施された。【結果】 足関節背屈の硬さについて麻痺の有無による主効果を有意に認めた (F 1,20 = 4.41, p < 0.05)。また位相による主効果も有意に認めた(F 1,20 = 5.54, p < 0.05)。更に麻痺の有無と位相の間に交互作用を有意に認めた(F 1,20 = 30.87, p < 0.0001)。単脚支持期以降の相における麻痺側の足関節背屈の硬さ( 30±30 Nmm/degree/kg )は健常者 (80±15 Nmm/degree kg )より有意に低値であった(p < 0.0001)。また健常者の単脚支持期以降の相における足関節背屈の硬さは両脚支持期(33±15 Nmm/degree/kg )より有意に高値であった(p < 0.0001)。 単脚支持期以降の相における麻痺側の足関節背屈の硬さと歩行速度( r = 0.75, p < 0.01 )、ストライド長 ( r = 0.66, p < 0.05 )、最大足関節パワー ( r = 0.80, p < 0.005 )に有意な正の相関を認め、立脚期の時間 ( r = -0.60, p < 0.05 )とは有意な負の相関を認めた。一方で両脚支持期における麻痺側の足関節背屈の硬さと歩行パラメーターの間で有意な相関は認められなかった。【考察】 本研究の結果から歩行中における健常者の足関節背屈の硬さは両脚支持期より単脚支持期以降の相で増加し、単脚支持期以降の相で麻痺側の足関節背屈の硬さは健常者より低下していた。片麻痺患者の場合、健常者と異なり麻痺により立脚期で腓腹筋の筋活動が低下するとされており、足関節底屈筋の筋活動を必要とする単脚支持期以降の相では筋活動が低下する影響を受け、硬さが低下した可能性がある。単脚支持期以降の相における麻痺側の足関節背屈の硬さと歩行の推進力となる最大足関節パワーと歩行速度に有意な正の相関が認められた。これらの結果から麻痺側の足関節背屈の硬さが増加することにより足関節底屈筋に貯蓄された弾性エネルギーの利用効率を高め、足関節パワーを増加させ、歩行速度も増加することが考えられる。一方で両脚支持期における麻痺側の足関節背屈の硬さは歩行パラメーターと関連が認められなかったことから、脳卒中片麻痺患者において両脚支持期の足関節の硬さよりも、低下した、単脚支持期以降の相における足関節背屈の硬さが歩行速度にとって重要な要素になることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から脳卒中片麻痺患者において単純に足関節背屈の硬さを低下させる治療よりも、単脚支持期以降の相で硬さを増加させる治療の方が歩行速度の改善にとって有効である可能性が示唆された。