抄録
【目的】医療,保健及び福祉で対人的にサービスを提供する者をヒューマンサービス提供者と一括するが,彼らは高度の知識や技術を備えた専門職である。彼らの就労意欲は金銭的な報酬だけでなく仕事に対する内発的動機によることが強く,しかも自らの職業上の要請に従って仕事を進めることが出来る自律性を併せ持っている。しかし,近年ヒューマンサービス提供者の中で女性労働者のキャリア志向が高まり各方面で成功を収めている半面,能力の高い女性が昇進,新しい課題を達成することを求められると不安感情や遂行低下を示す成功回避傾向も指摘されている。有能な女性の成功回避傾向が強ければ,組織への所属感が低減し,職場を替えたいとの気持ちが強くなり,離職を促すことにつながる可能性も生じる。これまで,ヒューマンサービスを担う女性労働者(以下,女性労働者)の職場帰属意識と成功回避動機の実態と両者の関係について検討した報告は少ない。今回,女性労働者の職場帰属意識の構造を分析し,それらが成功回避動機にどのように影響しているか検討した。【方法】対象は質問紙調査の趣旨を了承し,回答した3医療機関に勤務する女性労働者72名(看護師20名,理学・作業療法士35名,介護福祉士17名,年齢階級の中央値は30歳台)であった。質問紙調査(留め置き法)時期は2012年6~9月であり,調査票には基本属性,職場帰属意識尺度(関本1987,18項目),成功回避動機尺度(青柳1980,27項目)などで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,職場帰属意識尺度についてプロマックス回転による探索的因子分析を行い,成功回避動機尺度は総点を算出し職種及び年齢階級別比較に多重比較検定(Tukey法)を行った。なお,各々の構成因子の因子得点間でPearson相関係数を算出した。【説明と同意】対象者は本研究の趣旨を了承した者であり,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。 【結果と考察】職場帰属意識尺度では,因子負荷量を.50以上,固有値1以上を項目決定基準とした結果,第1因子には「労働意欲」,第2因子には「残留意識」,第3因子には「功利的帰属意識」と命名される3因子が抽出された(Cronbachα係数:.87~.64)。成功回避動機尺度の職種別得点は看護師72.5±3.7点,理学・作業療法士75.0±5.6点,介護福祉士72.0±5.4点であり,職種による差を認めなかった。また,年齢階級別でも成功回避動機得点に有意な差を認めなった。なお,成功回避動機得点と職場帰属意識尺度の各因子間で有意な相関関係がみられたのは,「労働意欲」(-.25),「残留意識」(-.52),「功利的帰属意識」(.28)であった。本研究では,成功回避動機と職場帰属意識との関係について,成功回避動機が高い女性労働者ほど職場への残留意識や労働意欲が低くなる一方,功利的帰属意識が高くなる傾向が認められた。女性労働者で成功回避動機が高い場合,自分の特性や仕事能力が評価の対象となる時に高い評価を受け得るか確信がもてず,遂行を妨害する不利な条件を自ら作り出す行為を示すことが予想される。このような特性を持つ女性労働者には,課題や仕事に日頃から綿密な計画を立てさせ,組織全体で支援する体制を整え自信を与えれば,職場に充分適応でき得る可能性も示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,成功回避動機が高い女性労働者ほど職場への残留意識や労働意欲が低くなるため,職場の運営や人事考課を考える際には彼らの職場帰属意識を高めるよう,組織的な支援体制を考慮する必要性が示唆された。