抄録
【はじめに、目的】世界保健機構(WHO)の試算では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界の死亡原因第4位であり、我が国でも推定約530万人がCOPO患者及びCOPD予備群であるとされている。本研究の目的は、当院健康管理センター受診者における閉塞性換気障害の有病率を調査することと、更に、生活習慣病の有無と呼吸機能の関連性を検討すること。【方法】対象は、研究参加に同意が得られた受診者で、当院健康管理センターにて呼吸機能検査を実施した1160名中、既に何らかの呼吸器疾患の診断がされている者、気管支喘息との鑑別が明らかに困難な者を除外した1065名(男性725名、女性340名、平均年齢52.3±8.5歳)とした。調査期間は平成23年8月1日から平成24年4月30日までとした。主要調査項目は、呼吸機能検査としてFVC、%FVC、FEV1.0、%FEV1.0、FEV1.0%とし、副次的調査項目は生活習慣病(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心疾患、腎疾患、脳血管疾患)の有無、喫煙の有無、BMI、%IBWとした。統計学的解析は、FEV1.0%<70%の者(閉塞群)と生活習慣病の有無の関係、閉塞群と喫煙の有無の関係をχ²検定で分析した。また、生活習慣病の「有」と「無」による2群間の呼吸機能の比較は、Levenの等分散の検定後、Studentのt検定、またはWelchのt検定にて分析した。統計学的有意水準は5%とし、統計解析ソフトはSPSS version20を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】対象には、研究の概要、方法、参加の任意性、同意の撤回などについて説明し、研究参加に同意が得られた者に対しては自筆署名にて文書で同意を得た。なお、本研究は、佐賀社会保険病院研究倫理審査委員会で研究の倫理性についての審査を受け、承認を得た後に実施した。【結果】閉塞群は1065名中85名であり、有病率は8.0%であった。生活習慣病の罹患者は267名、喫煙者は280名であった。閉塞群と生活習慣病の有無、喫煙の有無の関連についてχ²独立性検定で、ともに有意な関係性を認めた(生活習慣病χ²=5.14, p=0.023、喫煙χ²=10.56 , p=0.001)。次に、生活習慣病の有無での2群間の測定値は、FVC(3.65±0.8L vs 3.41±0.71L ;p<0.001)、%FVC(108.8±13.3% vs 102.7±13.8% ;p<0.001)、FVE1.0(2.83±0.63L vs 2.61±0.58L ;p<0.001)、%FEV1.0(91.7±12.5% vs 87.4±13.1% ;p<0.001)、FEV1.0%(77.6±5.7% vs 76.2±6.1% ;p=0.001)で、生活習慣病有りが有意に低く、BMI(22.9±3.2 vs 24.3±3.6 ;p<0.001)、%IBW(103.9±14.5% vs 110.4± 16.5%;p<0.001)で、生活習慣病有りが有意に高かった。【考察】閉塞性換気障害の代表疾患であるCOPDは、近年「肺の生活習慣病」としてクローズアップされている。今回、閉塞性換気障害の有病率は、福地氏らのNICE Study(2001年発表)8.6%より低値であった。また、閉塞性換気障害と生活習慣病の関係が明らかになりに、生活習慣病の有無による呼吸機能の有意な差の存在から、生活習慣病を有する者に対しては、「閉塞性換気障害を有するリスクがある」ことを配慮する必要性が示唆された。今回の調査ではCOPD未診断の受診者を対象としているため、安易にCOPD予備群として結びつけることは難しいが、生活習慣病罹患者には、呼吸機能、特に閉塞性換気障害に対しても留意する必要が示唆された。【理学療法学研究としての意義】生活習慣病を有する者の呼吸機能、特に閉塞性換気障害に関する詳細が明確となった。COPDの早期発見の一助として、生活習慣病罹患患者に対して、「隠れCOPD患者」であることのリスクを想起する必要性が判明した。COPD早期発見の啓発活動、COPDの予防活動の客観的基礎データを提示することができた有意義な調査となった。