理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-14
会議情報

一般口述発表
加齢変化が及ぼす椅子からの立ち上がり動作における筋活動のタイミングと下肢関節モーメントの関係
藤井 貴允石川 博隆戸田 晴貴木藤 伸宏佐々木 久登
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】我々は,第47 回全国理学療法学術大会にて,加齢変化によって一部の高齢者は,若年者と他の高齢者と比較し,椅子からの立ち上がり動作 (Sit-to-Stand, 以下STS) 戦略が異なることを報告した。具体的にはSTS時において,若年者群のすべての被験者は,最大膝関節伸展モーメントよりも最大股関節伸展モーメントが大きかった。しかし高齢者群は,最大股関節伸展モーメントが大きいものと最大膝関節伸展モーメントが大きいものが混在していた。運動力学的データである関節モーメントは,関節を回転させる筋張力を定量的に表すことができ,比較が容易である。しかし,個別の筋の活動とタイミングを分析することができない課題がある。そこで本研究では,STSの個別の筋活動を明らかにするために表面筋電図解析を加えた。本研究は,STSにおける筋活動と下肢関節モーメントとの関係を明らかにすることを目的とした。【方法】被験者は,若年者16 名 (24.0 ± 2.9 歳) と日常生活活動が自立し上肢の力を利用せずSTSが可能な65 歳以上の高齢者16 名 (69.6 ± 4.9 歳) とした。計測肢位は,下腿長の1.2 倍の高さの肘掛けと背もたれのない椅子に着席し,上肢を胸の前で組み,座縁は大腿長の中間位,下腿を鉛直位,両足部は裸足,足幅は自然配置とした。動作スピードは,被験者の快適なスピードとした。運動学的データは,三次元動作解析システムVicon MX (Vicon社製,Oxford),運動力学的データは, 床反力計(AMTI 社製,Watertown)を用いて測定した。マーカーを被験者に合計24 箇所貼付した。得られたデータをBodybuilder (Vicon 社製,Oxford) を使用し,内部股関節・膝関節モーメントを算出した。筋電図学的データの被験筋は,右大殿筋上部線維,右大殿筋下部線維,右中殿筋,右内側ハムストリングス,右外側ハムストリングスとした。得られた活動電位は,無線式筋電図計測装置ノラクソンG2 (NORAXON社製, Arizona) を使用し,パーソルコンピューターに取り込んだ。三次元動作解析装置と床反力計と同期するためにフットスイッチ (計測サポート社製,広島) を使用した。立ち上がり動作開始前に被験者には押して立ち上がり動作を行うように説明した。立ち上がり動作の計測終了後,最大等尺性収縮を3 秒間持続させた時の筋活動を計測した。計測肢位は,腹臥位とし大殿筋上部・下部線維は股関節中間位,膝関節90 度屈曲位,中殿筋は股関節0 度〜5 度外転位,内外側ハムストリングスは,股関節中間位膝関節45 度屈曲位にて計測した。立ち上がり動作時間を10%毎に分割し筋電積分値 (integrated electromyogram ;以下,IEMG) を算出し,立ち上がり動作時のIEMGを最大等尺性収縮時のIEMGで補正し,相対的IEMG (以下,%IEMG) とした。離殿を基準とし最大%IEMGまでの到達ポイントを算出した。統計学的解析には,SPSS12.0J (エス・ピー・エス・エス社製 )を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究の実施に先立ち広島国際大学倫理委員会にて承認を得た。すべての被験者に研究の目的,趣旨を十分に説明し文章による同意を得たうえで実験を行った。【結果】高齢者群は,運動力学的データの結果より最大股関節伸展モーメントが大きいもの (以下,股関節優位群) と最大膝関節伸展モーメントが大きいもの (以下,膝関節優位群) に分類された。膝関節優位群の外側ハムストリングスの最大%IEMG 到達ポイントは,股関節優位群と比較し有意に遅延していた (p < 0.05) 。股関節優位群の大殿筋上部線維の最大%IEMG 到達ポイントは,若年者群と比較し有意に先行していた (p < 0.05) 。大殿筋下部線維の最大%IEMG到達ポイントは,3 群間において有意な差を認めなかった。中殿筋の最大%IEMG到達ポイントは,3 群間において有意な差を認めなかった。内側ハムストリングスの最大%IEMG到達ポイントは,3 群間において有意な差を認めなかった。【考察】膝関節優位群の外側ハムストリングスの活動はSTS周期後半にも持続していることが示された。外側ハムストリングスは二関節筋であり,大きな関節モーメントを発揮する。また,ハムストリングスのモーメントアームは,膝関節よりも股関節で大きいため,股関節屈筋である大腿直筋と同時に働くことで,股関節と膝関節を同時に伸展できる。つまり,膝関節伸展モーメント優位群は,本来膝屈曲筋である外側ハムストリングスを膝関節伸展モーメントの産出に利用して,立ち上がり動作を遂行している可能性が推測される。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,STS中の運動力学的データと筋電図学的データを同期し高齢者のSTSの特性を明らかにしたことである。本研究の結果は,高齢者のSTS改善に向けた運動療法の開発の一助となる意義のある研究である。
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top