抄録
本研究では、熟知性の高い上位2種類、熟知性の低い下位2種類の計4種類を選出し、熟知性の高低によって自伝的記憶の想起時期、想起内容に違いがみられるか、幼少期の記憶想起に着目し検討した。58名を対象に、ニオイ・想起内容の印象評価、ニオイを手がかりとした自伝的記憶の想起を求めた後、ニオイの命名を求めた。その結果、熟知性の高いニオイ刺激では、ニオイの同定がしやすいと、ニオイの印象評価もよく、記憶も、より鮮明で心地よい想起がなされることが明らかになった。一方、熟知性の低いニオイ刺激では、現在なじみがなくてもイベントに特化し、記銘時の符号化が強い刺激の場合、記憶の想起は、熟知性の高いニオイ刺激と同様に想起内容の鮮明さは高く、懐かしいと感じることが明らかになった。これらの結果は、ニオイ手がかりの熟知性が低く、ニオイの命名がなされていないことが幼少期の自伝的記憶想起の促進につながった可能性を示唆している。