抄録
線運動錯視(Illusory line motion)とは,線分を呈示する直前に,線分の左右どちらかの端付近に手がかり刺激を先行呈示すると,線分が手がかり刺激の側から伸びるように見える現象である。Hikosaka, Miyauchi, & Shimojo (1993)は,手がかり刺激の先行呈示によって,その付近の視覚処理が速められることで線運動錯視が生じるとしている。本研究では,手がかり刺激を線分の直後に呈示することで,線運動錯視の知覚が変化するのか否かを調べた。実験の結果,線分の直後に手がかり刺激を呈示することで,線分が手がかり刺激に向かって伸びるように知覚された。すなわち通常とは反対方向の線運動錯視(逆向性線運動錯視)が知覚された。この結果は,手がかり刺激が視覚処理を速めることでは説明できない。本研究では,逆向性線運動錯視の生起要因として注意シフトによる説明を試みる。