1990 年 31 巻 2 号 p. 61-72
これまで、理科の教授・学習において児童・生徒がどのような思考をいかなる根拠に基づいて行なうものなのかについて、個別の内容に対してはかなりの成果が得られてきている。しかし、こうした諸成果を総合的・全体的に考察することはほとんど行われていない。本稿は、内外でこれまでに行われてきた成果を基礎として、児童•生徒の理科における思考の根拠や特徴はいかなるものであるのかを現段階において明らかにした。その結果、児童・生徒の思考の根拠や特徴として次の九点を明らかにした。それは、児童・生徒の思考が、(1)生活的概念により考える、(2)直観に依存する、(3)知覚の焦点を限定する、(4)変化状態に注意を集中する、(5)直線的な因果関係の推論をする、(6)状況に依存する、(7)自己中心的な考え方をする、(8)人間中心的な考え方をする、(9)アニミズムと情動主義的な考え方をする、というものである。また、これを基礎として理科の教授・学習への示唆を次の五点にまとめた。それは、(1) 児童・生徒の思考は早期に獲得・形成され、非科学的、前科学的であることが多い、(2) 児童・生徒は科学の概念や用語に特有の意味を付与して使用する、(3) 児童・生徒の概念や思考はきわめて多様な様相を示す、(4) 児童・生徒の思考はたとえ間違っていたとしても彼らなりの論理的一貫性をもっている、(5) 児童・生徒がいったん形成・獲得した考え方を変えることはきわめて難しい、というものである。